三つのオレンジへの恋』(みっつのオレンジへのこい、イタリア語L'amore delle tre melarance)は、カルロ・ゴッツィによって書かれた寓話劇。1761年に初演。1921年セルゲイ・プロコフィエフによってオペラ化された。

プロコフィエフによるオペラ 編集

作曲の経緯と初演 編集

1918年ソヴィエト政権が樹立したロシアから逃れ、アメリカへ亡命したプロコフィエフは、その途上で、イタリアの劇作家カルロ・ゴッツィの同名の童話によるオペラを構想する[1]ニューヨークに到着した後、台本の草稿を仕上げたプロコフィエフは、当時シカゴ歌劇場(シカゴ・オペラ協会)の指揮者を務めていたクレオフォンテ・カンパニーニCleofonte Campanini 1860-1919)[2]と出会い、彼が新作オペラを委嘱したため、1919年の1月から作曲を開始し、半年を経た10月1日に総譜を完成されている。なお本来は前作の『賭博師』を上演することをカンパニーニは希望していたが、『賭博師』の総譜は革命下のロシアにあり、必要な資料を得ることが叶わなかったため、急遽プロコフィエフに新作を委嘱したのである。

しかし完成に差し掛かった直前にカンパニーニが急死し、これが廉でプロコフィエフは契約を巡って劇場側と対立し[3]、果てに表面化したため、初演は延期という事態になってしまう。2年後の1921年12月30日にシカゴ歌劇場(オーディトリアム)で、プロコフィエフ自身の指揮によって行われ、大成功を収めた[4]。これに続いて1925年3月14日ドイツケルンにおけるヨーロッパ初演、1926年2月18日のレニングラード(現サンクトペテルブルク)におけるソ連初演がそれぞれ行われている。

なおプロコフィエフは、レニングラードでの初演の舞台[5]を絶賛し、「私の故国で、この作品が最も素晴らしく上演されたことはとても幸せです」と語っている。

組曲 作品33bis 編集

プロコフィエフはオペラから6曲を選び抜き、組曲として1919年に編曲した。演奏時間は約16分。組曲版は今日演奏会で取り上げられることが多く、またその中の行進曲スケルツォ(第3曲と第4曲)は単独でも演奏されることもあり、後にプロコフィエフ自身によってピアノ用に編曲されている(作品33ter)。

  • 第1曲 変わり者たち
  • 第2曲 カルタ遊びをする魔法使いチェリオとファタ・モルガーナ(地獄の場面)
  • 第3曲 行進曲
  • 第4曲 スケルツォ
  • 第5曲 王子と王女
  • 第6曲 逃亡

原作と台本(リブレット) 編集

配役 編集

人物名 声域
トゥレーフ バス 架空の国の国王
王子 テノール 国王トゥレーフの息子
王女クラリーチェ アルト 国王トゥレーフの姪
レアンドル バリトン 宰相、スペードの女王の服
トゥルファルディーノ テノール 道化師
パンタロン バリトン 国王の腹心
チェリオ(チェーリイ) バス 魔術師、王の守護者
ファタ・モルガーナ ソプラノ 魔女、レアンドルの保護者
リネッタ アルト オレンジの中の王女
ニコレッタ メゾソプラノ オレンジの中の王女
ニネッタ ソプラノ オレンジの中の王女
クレオンタ バス 料理人
ファルファレロ バス 悪魔
スメラルディナ メゾソプラノ 黒人の女奴隷
式部官 テノール
伝令使 バス
ラッパ吹き バストロンボーン奏者)

演奏時間 編集

約1時間50分(2時間)/内訳…第1幕:約30分、第2幕:約25分、第3幕:約42分、第4幕:約13分 (110 ~ 120mins)

楽器編成 編集

3管編成による

原書のあらすじ 編集

ハートの王は極度のうつ病にかかった王子のことで悩んでいる。家臣のパンタローネは王子を笑うことによって治すために道化師トルファルディーノを呼び寄せることを提案する。王子の病気が治ると王位をとることができなくなってしまう姪のクラリーチェと大臣のレアンドロはこの計画に反対する。レアンドロは魔女モルガーナに相談する。そして、宴会の日が来るがトルファルディーノは王子を笑わせることが出来ない。ところが王子は邪悪な魔女ファタ・モルガーナが転んだのを見て笑い、怒ったモルガーナに三つのオレンジに恋をするという呪いをかけられてしまう。王子はトルファルディーノをつれて三つのオレンジがあるクレオンタの城へ旅に出る。

砂漠では王子の味方の魔法使いのチェリオが悪魔ファルファレッロからモルガーナの呪いについて聞き出す。二人がクレオンタの城の近くにたどり着いたときにチェリオが現れ、数々の危険が待っていることを伝える。それは、錆だらけになった門、おなかをすかせた犬、湿気で腐りかけたスープ、箒がないために炉を乳房で掃いているパン焼き女だとチェリオが言う。そして、それぞれの危険を回避するための道具を二人に与え、オレンジを手に入れたらすぐに逃げること、泉の近くに行くまではオレンジを切ってはいけないと忠告する。

王宮についた二人はチェリオの指示通りにしてオレンジを城から持ち出すことに成功する。しかし、帰る道の途中でオレンジはどんどん大きくなっていき、トルファルディーノは喉が渇いてしまう。王子が寝ている隙に二個のオレンジを切るとそれぞれから王女が出くるが、水を求めながら喉の渇きを訴えて死んでしまう。王子が目覚めて湖の近くまで行って最後のオレンジを切ると中からニネッタ王女が現れ、水を求める。王女と王子は相思相愛となり、結婚を誓う。王女の服がみすぼらしかったので王子は着替えを取りに王女を残して王宮に戻る。王女が待っているときに、モルガーナが使わした黒人女スメラルディーナが王女を鳩に変えてしまう。王子が王と家臣を連れて帰ってくるとスメラルディーナが王子と結婚することになっていると主張する。王は約束は守るべきだといって、王子はしぶしぶ承諾する。

王宮ではチェリオとモルガーナが戦うが決着がつかない。台所でトルファルディーノが料理をしていると窓辺に鳩が来てトルファルディーノに話しかけ、彼は眠り込んでしまい、料理を三回も焦がしてしまう。王が料理はまだかと怒っていると、パンタローネがくる。トルファルディーノとパンタローネは鳩を捕まえ、刺さった針を抜くと鳩はニネッタ王女にもどる。ニネッタは今までの経緯をみんなに説明し、王はスメラルディーナを火あぶりの刑に処することを命じる。チェリオが現れてレアンドロやクラリーチェの陰謀を暴き、彼らは国外追放される。王子と王女は結ばれる。

脚注 編集

  1. ^ 亡命する以前に、当時親交を深めていた劇作家のフセヴォロド・メイエルホリドから、彼によって創刊された雑誌『三つのオレンジへの恋、またはダペルトゥット博士の雑誌』の創刊号(中身はカルロ・ゴッツィの原作をロシア語に翻訳したもの)を寄贈され、メイエルホリドにオペラ化を勧められていた(『作曲家別名曲解説ライブラリー』)。
  2. ^ カンパニーニは同時に同歌劇場の総支配人でもあった。
  3. ^ プロコフィエフが契約履行の遅延による補償を求めていたため、劇場側はこれを理不尽な要求として拒み、対立に至ったため。結果的にスコットランド出身のソプラノ歌手でカンパニーニの後釜として新しく支配人(1919/20)に就任したメアリー・ガーデンの尽力によって解決している(『作曲家別名曲解説ライブラリー』)。
  4. ^ ただしフランス語訳の台本によって上演された。
  5. ^ イヴァン・エルショーフ(ドゥラニシュニコフ)の指揮、ラドゥロフの演出、ドミトリエフの舞台による。

録音 編集

CD及びDVD(BD含む)は5種類ほど確認できる。

指揮者 管弦楽団・合唱団 配役 録音年 レーベル 備考
ジェマル・ダルガート モスクワ放送交響楽団
モスクワ放送合唱団
ニーナ・ポリアコワ
タチアナ・カリストラトワ
タマーラ・メドヴェージェワ
リュドミラ・ラフコヴェツ
タチアナ・エロフェーエワ
ウラジーミル・マーホフ
ユーリー・エルニコフ
ボリス・ドブリン
イワン・ブドリン
ヴィクトル・リビンスキー
ゲンナジー・トロイツキー
1961 メロディヤ
ケント・ナガノ リヨン国立歌劇場管弦楽団・合唱団 ガブリエル・バキエ
ジャン・リュック・ヴィアラ
エレーヌ・ペラガン
Vincent Le Texier
ジョルジュ・ゴーティエ
Didier Henry
Gregory Reinhart
Michèle Lagrange
ジュール・バスタン
1989 EMI
(ヴァージン)
仏語歌唱版
DVD盤あり
ヴァレリー・ゲルギエフ キーロフ歌劇場管弦楽団・合唱団 ミハイール・キット
エヴゲーニー・アキーモフ
ラリッサ・デャチコーヴァ
アレクサンドル・モローゾフ
コンスタンチン・プルージニコフ
ヴァシーリイ・ゲレッロ
ウラディーミル・ヴァネーエフ
ラリッサ・シェフチェンコ
ズラータ・ブルィチョーヴァ
リア・シェフツォーヴァ
アンナ・ネトレプコ
グリゴーリイ・カラショーフ
フョードル・クズネツォーフ
オーリガ・コルジェンスカヤ
フョードル・クズネツォーフ
1997/98 デッカ
(旧フィリップス)
ライヴ盤
トゥガン・ソヒエフ マーラー・チェンバー・オーケストラ
ヨーロッパ合唱アカデミー
アレクセイ・タノヴィツキー
アンドレイ・イリュシュニコフ
ナジェジュダ・セルヂュク
エドゥアルド・ツァンガ
パヴェル・シュムレヴィッチ
エカテリーナ・シマノヴィッチ
2004 Bel Air 映像盤
ロシア語歌唱版
リチャード・ヒコックス オーストラリア・オペラ管弦楽団・合唱団 ブルース・マーティン
ジョン・マクマスター
Deborah Humble
Teddy Tahu Rhodes
William Ferguson
Warwick Fyfe
Jud Arthur
Elizabeth Whitehouse
2005 シャンドス 英語歌唱版

参考資料 編集

  • 『最新名曲解説全集20 歌劇3』(音楽之友社
  • 『作曲家別名曲解説ライブラリー20 プロコフィエフ』(音楽之友社)
  • 『新グローヴ オペラ事典』(白水社、スタンリー・セイデイ著)

外部リンク 編集