三次元球面

3次元球面から転送)
立体射影した超球面上の緯線 (赤), 経線 (青), 陪経線 (緑). 立体射影は等角写像であるから, これら直線は四次元空間において直交する (交点 (黄)).
三次元球面を三次元空間に直交射影したもの。表面を格子で覆うことで、断面として、三次元空間内の二次元球面の構造が見えているはずである。

数学における三次元(超)球面(さんじげんきゅうめん、: 3-sphere; 3-球面)あるいはグローム (glome[1]) [注釈 1]は、通常の球面の高次元版である超球面の特別の場合である。四次元ユークリッド空間内の三次元球面は、固定された一点を「中心」として等距離にある点全体の成す点集合として定義することができる。通常の球面(つまり、二次元球面)が三次元の立体である球体境界を成すのと同様、三次元球面は四次元の立体である四次元球体の境界となる三次元の幾何学的対象である。三次元球面は、三次元多様体の一つの例を与える。

目次

定義編集

四次元の直交座標系を用いるならば、中心 (C0, C1, C2, C3) および半径 r を持つ三次元球面とは、四次元実座標空間 4 において

 
を満たす点 (x0, x1, x2, x3) 全体の成す集合に等しい。原点を中心とする半径 1 の三次元球面を三次元単位球面 (unit 3-sphere) と呼び、ふつう S3 で表す。式で書けば:
 

実四次元座標空間 4 を複素二次元座標空間 2 や一次元の四元数座標空間 と見なすことはしばしば有用である。それぞれの場合に三次元球面は

 
あるいは
 
と書くことができる。

最後の、三次元球面を「ノルム 1」の四元数全体として表す記法では、三次元球面は四元数におけるベルソル英語版(単位四元数)全体の成す集合として同定されている。平面極座標において単位円が重要であるのとまったく同じに、四元数の乗法の構造を入れた四次元空間内の極表示において三次元球面は重要な役割を果たす。 三次元球面をこのように見る立場は、Georges Lemaître による楕円型空間の研究の基礎である[2]

性質編集

位相球面としての構成法編集

三次元球面の構成法はよく知られたものがいくつか存在する。ここではふたつの三次元球体の張り合わせによる方法と三次元ユークリッド空間の一点コンパクト化としての構成法に関して述べる。

貼り合わせ編集

三次元球面は、位相的には、通常の三次元球体二つを、それらの境界張り合わせることによって得られる。三次元球体の境界は通常の二次元球面であるから、この構成は二つの二次元球面を同一視するということである。(位相的には大きさは関係ないから)同じ大きさの三次元球体を思い浮かべよう、そしてそれらの境界となる二次元球面を併せるように重ね合わせれば、二次元球面上のたがいに対応する点の全体は恒等的に一致させられる。二次元球面を二次元円板の(境界となる円周での)張り合わせで作る場合のアナロジーで、この貼り合わせる二次元球面を「赤道球面」(equatorial sphere) と呼ぶ。

上記の重ね合わせでは、三次元球体の「内部」は貼り合わせてはいけないことに注意しなければならない。四次元で考えるための一つの方策として、三次元球体の各点の三次元座標にそのうえの連続な実数値函数の値を第四の座標として付け加える—たとえば球体の各点での「温度」を考えればよい—という方法が挙げられる。いま、貼り合わせる赤道球面での「温度」が零度であるものとし、一方の三次元球体は「高温」、他方は「低温」の球体と思う。高温のほうを「上半球面」、低温のほうを「下半球面」とする三次元球面が得られており、各三次元球体の中心で最高温度/最低温度をとるものとすれば、それら中心がそれぞれ三次元球面の北極/南極になる。

この構成は、(一つ次元を落とした対応物としての)二次元球面の構成を考えると見通しが立つかもしれない。すなわち、二枚の円板(二次元球体)を境界となる円周(一次元球面)で張り合わせることを考える。二つの円板は直径を同じにしておき、二つの円板を重ね合わせて、境界上の点を貼り合わせる。ここで第三の座標として同様に温度を考えてもよいが、いまは空間座標がもう一つあるから、第三の方向へ膨らませれば、それぞれの円板を北半球と南半球とし貼り合わせた円周が赤道となる二次元球面の姿を見るのは容易であろう。

一点コンパクト化編集

二次元球面から一点を取り除いたものはユークリッド平面に同相であることを思い出そう。同様にして、三次元球面から一点を取り除いたものは三次元ユークリッド空間に同相である。このことを確かめる極めて有効な方法は立体射影によるものである。先に二次元球面の場合について確認しよう。通常の意味での立体射影は、単位二次元球面を三次元空間内の xy-平面の原点に南極 S が載るように置く。北極 N を除く二次元球面上の任意の点 P を、NP を結ぶ直線 NPxy-平面との交点へ写すものであった。三次元球面に関する立体射影も、同様の仕方で北極を除く三次元きゅめん上の角店を xyz-空間上の点へ写す。(立体射影は等角射影英語版であるから、球面は球面または平面に写されることに注意。)

指数写像を用いて一点コンパクト化を考えることもできる。ふたたび、二次元球面をユークリッド平面に置いた例で考えれば、平面上の原点を始点とする測地線は球面上の南極を始点とする同じ長さの測地線に写される。このとき、半径 π の円上の点はすべて北極に写るが、開単位円板はユークリッド平面に同相であったから、これもやはり一点コンパクト化であったことがわかる。三次元球面に対する指数写像も同様に構成される。この議論は、三次元球面が単位四元数の成すリー群であるという事実を用いてもできる。

座標系編集

群構造編集

単位四元数全体の成す集合と見なすとき、S3 は重要な構造として、四元数の乗法構造を持つことにる。単位四元数の全体は乗法のもとで閉じている積閉集合である)から、S3 自身にの構造が入ることになる。さらに言えば、四元数の乗法は連続、さらに滑らかであるから、S3位相群、さらに実リー群となる: S3 は三次元の非可換英語版コンパクトリー群である。リー群としての S3 はしばしば 斜交群 Sp(1) やユニタリ群 U(1, H) などと書かれる。

このようにリー群の構造を入れることのできる超球面は、単位円 S1—単位複素数全体の成す集合と見て—および S3—単位四元数の全体として—のみであることがわかる。同様の議論により、たとえば S7 を単位八元数全体の成す集合と見てリー群とすることができそうにも思われるが、これは八元数の乗法が結合性を持たないために正しい主張とはならない。八元数構造から S7 に入る重要な性質としては平行化可能性英語版があり、平行化可能な超球面は S1, S3, S7 に限られる。

四元数の行列表現を用いれば、S3 も行列表現することができるが、そのような表現の一つにパウリ行列を用いた表現

 
がある。この写像は、四元数体 から 2 × 2 行列環 M(2; ) への単射多元環準同型を与える。この行列表現では四元数 q絶対値 || q ||q の表現行列の行列式平方根に等しいという性質がある。したがってこの行列表現から、単位四元数全体の成す集合は行列式 1 の表現行列全体として得ることができるが、それはちょうど特殊ユニタリ群 SU(2) であるから、リー群としての S3SU(2) に同型となることがわかる。ホップ座標系 (η, ξ1, ξ2) を用いるならば、SU(2) の任意の元を
 
の形に書くことができる。同じ結果は、SU(2) の各元の行列表現をパウリ行列の線型結合として表す方法でも得られる。任意の元 U ∈ SU(2)  の形に書けることがわかるが、U の行列式が +1 という条件は、この式の係数列 (αi) が三次元球面上にあるという制約を含意する。

関連項目編集

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注釈編集

  1. ^ しばしば、周辺構造として埋め込まれる空間の次元が n であること(あるいはそれが囲む領域としての超球体が n-次元であること)を以って「n-次元-」と番号付けする文献があるので注意。この流儀ではたとえば「グローム」は「四次元超球」となる。

出典編集

  1. ^ Weisstein, Eric W. "Glome". MathWorld(英語). 
  2. ^ Georges Lemaître (1948) "Quaternions et espace elliptique", Acta Pontifical Academy of Sciences 12:57–78

参考文献編集

  • David W. Henderson, Experiencing Geometry: In Euclidean, Spherical, and Hyperbolic Spaces, second edition, 2001, [1] (Chapter 20: 3-spheres and hyperbolic 3-spaces.)
  • Jeffrey R. Weeks, The Shape of Space: How to Visualize Surfaces and Three-dimensional Manifolds, 1985, ([2]) (Chapter 14: The Hypersphere) (Says: A Warning on terminology: Our two-sphere is defined in three-dimensional space, where it is the boundary of a three-dimensional ball. This terminology is standard among mathematicians, but not among physicists. So don't be surprised if you find people calling the two-sphere a three-sphere.)

外部リンク編集

  • Weisstein, Eric W. "Hypersphere". MathWorld(英語).  Note: This article uses the alternate naming scheme for spheres in which a sphere in n-dimensional space is termed an n-sphere.