AMD Software

グラフィックドライバ

AMD Software(エーエムディー ソフトウェア)は、AMDが開発しているGPUドライバおよびユーティリティソフトウェア。同社のRadeon GPUと、Radeon GPUを搭載したRyzenプロセッサに対応している。以前は「AMD Radeon Software」という名称だった[3]

AMD Software
開発元 AMD
初版 15.11[1] / 2015年11月24日 (8年前) (2015-11-24)
最新版
24.3.1[2] ウィキデータを編集 / 2024年3月20日 (8日前)
対応OS
前身 AMD Catalyst
公式サイト www.amd.com/ja/technologies/software
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概要 編集

グラフィックス設定やディスプレイ設定の変更はもちろん、GPU・VRAMやファンのチューニング、録画・配信やドライバ更新といった機能を備える。ユーザーインターフェースは「ホーム」、「ゲーム」、「録画およびストリーム」、「パフォーマンス」の4つのタブで構成されており、ゲームプレイ中でも、「Alt」+「R」のショートカットキーでソフトウェアをオーバーレイ表示できる[4]

機能 編集

グラフィックス設定 編集

AMD Radeon Anti-Lag
CPUの処理タイミングを調整することで、ゲームプレイ時の操作遅延を低減させる機能。AMDのリッチー・コーパスは、「60~90fps程度のゲーム」や、「GPUがボトルネックになるゲームのほうが、Anti-Lagの効果は出やすい」と語っている[5]Polaris世代以降のGPUが対応している[6]。Radeon BoostやRadeon Chillとの併用は不可。
AMD Radeon Boost
レンダリング解像度を動的に上下させることで、フレームレートを向上させる機能。キャラクターの移動中や、マウスを振った動作など、ユーザーが違いを認識しにくいタイミングで解像度を低下させる[7]。2022年7月時点で、サポートするゲームは21タイトルに限られている[8]。Radeon Anti-LagやRadeon Chillとの併用は不可。
AMD Radeon Chill
フレームレートを調整することで、ゲーム中の電力消費や発熱を抑える機能。fpsの上限と下限を設定することで、画面の動きが激しい場面ではfps上限までゲームを実行し、画面に動きがない場面ではfpsを下限まで抑える[9]。上限と下限に同じ値を設定した場合、後述するAMD Frame Rate Target Controlと同様に動作する。UWPゲームでは動作せず、Radeon Anti-LagやRadeon Boostとの併用もできない[10]
AMD Radeon Image Sharpening
グラフィックスの陰影を鮮鋭化する機能。AMDが提供するオープンソースの画質ツールキット「AMD FidelityFX」に内包される、「FidelityFX Contrast Adaptive Sharpening」と同様のアルゴリズムを利用する。NVIDIAでポストプロセス型アンチエイリアシング技術「FXAA」を発明したティモシー・ロッテスによって開発された[11]。Polaris世代以降のGPUが対応している[12]
AMD Radeon Super Resolution
「AMD FidelityFX」に内包される、「FidelityFX Super Resolution」と同様のアルゴリズムを利用する超解像技術。ゲーム内の解像度を落として負荷を下げつつ、画面解像度に合ったアップスケーリング処理を行うことでパフォーマンスが向上する。FSRはゲーム側の対応が必要であるが、RSRはゲーム側の対応を問わずにAMD Softwareから有効化できる[3]。フルスクリーンモードで動作するゲームにおいて、RDNA世代以降のGPUが対応している[13]
AMD Enhanced Sync
レイテンシーを低減し、テアリングやスタッタリングを抑えるディスプレイ同期技術。「ラストレンダードバッファ」を新設し、レンダリングをVSyncと非同期に実行する[14]。DX9、DX11、DX12とVulkanベースのゲームにて、Polaris世代以降のGPUが対応している。AMD Eyefinity環境でも使用できる。
垂直リフレッシュを待機
垂直同期を「常にオフ」、「アプリケーションで指定しない限りオフ」、「アプリケーションで指定しない限りオン」、「常にオン」から設定できる[15]
AMD Frame Rate Target Control
フレームレートの上限を設定する機能。フルスクリーンモードで実行されるDX9、DX10、DX11、DX12、およびVulkanのタイトルで動作する[16]。Radeon Anti-LagやRadeon Boostとの併用が可能。

ディスプレイ設定 編集

AMD FreeSync
DisplayPortおよびHDMI接続を介して利用できるディスプレイ同期技術。可変リフレッシュレート技術により、レイテンシを削減し、スタッタリングを排除する。
AMD Eyefinity
複数のディスプレイを1枚のディスプレイとして扱える機能[4]
AMD Virtual Super Resolution
高品質なアンチエイリアシングに対応していないゲームなどで、スーパーサンプリングアンチエイリアシングをシミュレートする機能[17]
AMD Integer Scaling
低解像度のドット絵を高解像度ディスプレイで表示した際に、ドットがぼやけないようにする機能[4]
カスタムカラー
色温度、明るさ、色調コントラスト彩度をカスタマイズできる[18]
色覚異常補正
色覚異常を持つ人でも色を区別しやすいよう、色調を補正する機能[19]

オーディオおよびビデオ 編集

ビデオプロファイル
動画コンテンツに最も適したプロファイルを、「デフォルト」、「シネマクラシック」、「拡張」、「ホームビデオ」、「アウトドア」、「スポーツ」、「ビビッド」から選択できる。また、明るさ設定を +100% ~ -100% の範囲で調整できるカスタムプロファイルも作成可能[20]
AMD Noise Suppression
ディープラーニングアルゴリズムを利用したノイズキャンセリング機能。入力デバイスと出力デバイスの両方で機能し、ゲームやアプリケーションの入出力設定で「AMD Streaming Audio Device」を選択することで使用できる。Ryzen 5000シリーズ以降のシステム、およびRadeon RX 6000シリーズ以降のGPUで使用可能[21]

録画およびストリーム 編集

旧称「Radeon ReLive」。スクリーンショットの作成や画面録画のほか、最大20分前の映像を保存できる「インスタントリプレイ」、最大30秒前の映像をGIFアニメーションとして保存できる「インスタントGIF」、直前のゲームプレイを再生できる「ゲーム内リプレイ」といった機能を備える。

動画配信機能はYoutubeTwitchといった配信プラットフォームに対応しており、接続したWebカメラの映像をゲーム画面にワイプとして表示することも可能である[22]

AMD Link 編集

「AMD Radeon Software Adrenalin Edition」にて追加されたスマートフォン連携機能。後のアップデートでゲームストリーム機能やマルチプレイゲームのリモートプレイ機能が追加された。現在はiOSAndroidtvOSAndroid TV、Windowsで利用できる。

歴史 編集

AMD Radeon Software Crimson Edition 編集

2015年11月24日に公開。AMD Catalystに代わる新たなソフトウェアとして、ユーザーインタフェースはQtを用いて1から開発された。AMDは、起動時間の従来比10倍への高速化、12個の新機能もしくは機能拡張、最大20%の性能向上、最大1.8倍の省電力性向上を謳っている[1]。2016年3月9日に公開された16.3では、Vulkanに正式対応した[23]

「Radeon Software」という名称は、当時のRadeon Technologies Group担当上級副社長兼チーフアーキテクトであるラジャ・コドゥリによって考案された[24]

AMD Radeon Software Crimson ReLive Edition 編集

2016年12月8日に公開。「Radeon ReLive」や、「Radeon Chill」が追加された。また、VP9デコーダの性能向上、Skypeの最適化、FreeSyncの改善、DisplayPort 1.3 HBR3への対応、ドルビー・ビジョンのサポート、HDMIケーブルの不良検出機能の追加、Wattmanの対応GPU拡大、インストーラの刷新、フィードバックおよびアンケート機能の追加などが図られている[25]

2017年7月27日に公開された17.7.2では、「Enhanced Sync」が追加。ReLiveのビットレート引き上げやRadeon ChillのDirectX 12およびVulkan対応、FRTCのDirectX 12対応、WattManの機能追加も行われた[14]

AMD Radeon Software Adrenalin Edition 編集

2017年12月12日に公開。オーバーレイ機能の「Radeon Overlay」や、「AMD Link」が追加。Radeon ReLiveはストリーミング時のコメントのオーバーレイ表示やサウンドの別トラック化、ボーダーレスキャプチャ、クロマキー撮影、ソーシャルアカウント連携が追加され、Vulkanに対応。Radeon Chillは全ゲームタイトルに対応し、WattManにはプロファイル書き込み/読み出し機能が追加。Enhanced SyncはVulkanやノートPC向けGPU、マルチGPU構成、Eyefinity環境に対応。FRTCはVulkanをサポートした。AMDはCrimson ReLive Editionがリリースされた約1年前と比べて、多くのタイトルで10%以上の性能向上を実現したと謳っている[26]

32bit版OSのサポートは、2018年9月26日に公開された18.9.3を最後に終了した[27]

AMD Radeon Software Adrenalin 2019 Edition 編集

2018年12月13日に公開。AMD Linkのリモートプレイ機能や、「Radeon ReLive for VR」が追加。Radeon ReLiveには「インスタントGIF」や「ゲーム内リプレイ」が追加。WattManにはワンクリックオーバークロック機能やグラフィックボードのファンコントロール機能が追加された。Radeon Chillも省電力機能が改良されたほか、ゲームタイトルごとにEnhanced SyncやFreeSyncのオン・オフを設定できるようになった[28]

2019年7月7日に公開された19.7.1では、「Radeon Image Sharpening」と「Radeon Anti-Lag」が追加。また、設定のスナップショットをインポート/エクスポートする機能が追加された[29]

AMD Radeon Software Adrenalin 2020 Edition 編集

2019年12月10日に公開。ユーザーインタフェースの大幅な刷新が特徴。「Radeon Boost」や「AMD Integer Scaling」が追加され、AMD LinkがAndroid TVやtvOSに対応。Radeon Anti-LagはRDNA世代以前のGPUにもDirectX 9サポートが追加された。Radeon Image SharpeningはDirectX 11に対応したほか、シャープニングエフェクトの強度を調整できるようになった。インストーラも刷新され、AMDはインストール時間が34%以上短縮されたと謳っている[7]

2020年7月9日に公開された20.7.1では、「AMD Bug Report Tool」が追加された[30]

AMD Radeon Software Adrenalin 編集

2021年4月20日に公開。AMD LinkのWindows版クライアントが追加され、パフォーマンスタブではRyzenプロセッサのステータス表示に対応した。また、ドライバのインストール時に3種類の追加オプションが用意され、インストールする機能を絞り込むことが可能になった[19]

2021年6月21日、AMDはWindows 7のサポート終了を発表。同日公開の21.6.1からはサポートしていない[31]

2021年9月13日に公開された21.9.1にて、Windows 11に正式対応した[32]

AMD Software Adrenalin Edition 編集

2022年3月17日に公開。AMDは、「CPUとGPUのより緊密な連携が求められているため、名称から『Radeon』を外した」としている。「Radeon Super Resolution」が追加されたほか、AMD LinkのWindows版クライアントが他社製GPUに対応した。また、Radeon Image Sharpningがゲーム以外でも利用可能になった[3]

2022年7月26日に公開された22.7.1では、「AMD Noise Suppression」が追加され、Radeon Boostが新たに3タイトルをサポートした。また、OpenGLを利用するゲームが最適化され、Minecraftではパフォーマンスが最大92%向上すると謳っている[21]

内包するコンポーネント 編集

  • UI
  • Driver
  • 2D Driver
  • Direct3D Driver
  • OpenGL Driver
  • AMD Windows Driver
  • AMD Audio Driver
  • Vulkan API Driver

AMD Software PRO Edition 編集

AMD Software PRO Edition
 
開発元 AMD
最新版
23.Q3.1[33] / 2023年9月12日 (6か月前) (2023-09-12)
対応OS
前身 AMD Catalyst Pro
公式サイト www.amd.com/ja/technologies/software-pro
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AMD Radeon PROシリーズを対象としたソフトウェアパッケージ。以前は「AMD Radeon Pro Software」という名称だった[34]

ユーザーインターフェースはRadeon PROのイメージカラーである青色を基調とし、ドライバは四半期ごとに更新される。ワークステーションクラスの性能や機能、およびアプリケーション認定は得られないものの、Radeon GPUにもインストール可能である。反対に、Radeon Pro GPUもAdrenalin Editionをインストールできる[35]

脚注 編集

  1. ^ a b 「Radeon Software Crimson Edition 15.11」の更新内容まとめ。一部に謎が残るも,文句なしに大規模アップデートだ”. 4gamer.net (2015年11月25日). 2022年10月6日閲覧。
  2. ^ https://www.amd.com/en/support/kb/release-notes/rn-rad-win-24-3-1; 作品または名前の言語: 英語.
  3. ^ a b c AMD、RSRをサポートした「AMD Software: Adrenalin」新バージョン発表&FSR 2.0も投入予告”. ASCII.jp (2022年3月17日). 2022年7月14日閲覧。
  4. ^ a b c Radeonを使いこなす究極ツール「Radeon Software Adrenalin 2020 Edition」徹底解説”. エルミタージュ秋葉原 (2020年2月27日). 2022年7月14日閲覧。
  5. ^ 「Radeon Anti-Lag」のポイントや「Navi」の将来について,訪日中のAMDメンバーに聞いてみた”. 4gamer.net (2019年9月19日). 2022年7月14日閲覧。
  6. ^ AMD Radeon™ Anti-Lag”. AMD. 2022年7月14日閲覧。
  7. ^ a b AMD,Radeon Softwareの大規模アップデート「Adrenalin 2020」を発表。新機能「Radeon Boost」で対応ゲームのフレームレートが向上”. 4gamer.net (2019年12月10日). 2022年7月14日閲覧。
  8. ^ AMD Radeon™ Boostテクノロジー”. AMD. 2022年7月14日閲覧。
  9. ^ 新要素盛りだくさんの最新ドライバ「Radeon Software Crimson ReLive Edition」を試す”. PC Watch (2016年12月8日). 2022年7月14日閲覧。
  10. ^ AMD Radeon™ Chill”. AMD. 2023年6月3日閲覧。
  11. ^ 西川善司の3DGE:次世代GPU「Navi」の詳細とRadeon Softwareの新機能をレポート。操作遅延を低減する「Anti-Lag」は本当に効くのか?”. 4gamer.net (2019年6月13日). 2022年7月14日閲覧。
  12. ^ AMD Software Radeon™ Image Sharpening”. AMD. 2022年7月14日閲覧。
  13. ^ AMD Radeon™ Super Resolution”. AMD. 2022年7月14日閲覧。
  14. ^ a b 「Radeon Software Crimson ReLive Edition 17.7.2」リリース。遅延削減やReLive&Chill強化など盛りだくさんのビッグマイナーチェンジに”. 4gamer.net (2017年7月27日). 2022年7月14日閲覧。
  15. ^ Customize Graphics Settings with AMD Software: Adrenalin Edition” (英語). AMD. 2022年7月14日閲覧。
  16. ^ AMD FRTC(フレームレート・ターゲット・コントロール)”. AMD. 2022年7月14日閲覧。
  17. ^ AMD仮想超高解像度”. AMD. 2022年7月14日閲覧。
  18. ^ Configure Custom Color Settings with AMD Software: Adrenalin Edition” (英語). AMD. 2022年7月28日閲覧。
  19. ^ a b 「Windows版のAMD Linkも登場!大幅に機能がアップしたRadeonの新ドライバー21.4.1の変更点とは”. ASCII.jp (2021年4月20日). 2022年7月28日閲覧。
  20. ^ Enhance Video Viewing Experience with AMD Software Video Profiles” (英語). AMD. 2022年7月27日閲覧。
  21. ^ a b 「AMD Software Adrenalin Edition 22.7.1」がリリース。マイクのノイズキャンセリング機能が利用可能に”. 4gamer.net (2022年7月27日). 2022年7月27日閲覧。
  22. ^ 大幅進化したGPUドライバ「Radeon Software Adrenalin 2020 Edition」、具体的に何が変わった? (1/2)”. AMD HEROES (2020年4月14日). 2022年7月14日閲覧。
  23. ^ 「Radeon Software Crimson Edition 16.3 Hotfix」登場。外付けGPU対応やRadeon Settingsの拡張が入った大規模アップデートに”. 4gamer.net (2016年3月10日). 2022年7月14日閲覧。
  24. ^ 「Radeon Software」ついに公開。新世代グラフィックスドライバで何が変わるのか,AMDの担当者が語る”. 4gamer.net (2015年11月24日). 2022年7月14日閲覧。
  25. ^ その名は「Crimson ReLive」。AMD,ゲームの録画&配信機能が追加となった新世代Radeon Softwareを発表”. 4gamer.net (2016年12月8日). 2022年7月14日閲覧。
  26. ^ AMDが「Radeon Software」のメジャーアップデート「Adrenalin Edition」を正式発表。さらなる利便性向上を図る”. 4gamer.net (2017年12月12日). 2022年7月14日閲覧。
  27. ^ AMD,Radeon Softwareによる32bit版OSのサポートを終了”. 4gamer.net (2018年10月18日). 2022年7月14日閲覧。
  28. ^ AMD,「Radeon Software」の大規模アップデート「Adrenalin 2019」を発表。PCゲームをスマートフォンでリモートプレイ可能に”. 4gamer.net (2018年12月13日). 2022年7月14日閲覧。
  29. ^ RX 5700シリーズ対応や新機能を実装した「Radeon Software 19.7.1」が登場”. 4gamer.net (2019年7月8日). 2022年7月14日閲覧。
  30. ^ 「Radeon Software Adrenalin 2020 Edition 20.7.1」が登場。Disintegrationへの対応とバグレポートツールの刷新がポイント”. 4gamer.net (2020年7月10日). 2022年7月14日閲覧。
  31. ^ AMDもWindows 7サポートを終了 ~NVIDIAに続く”. 窓の杜 (2021年6月24日). 2022年7月14日閲覧。
  32. ^ Radeon Softwareが「Adrenalin 21.9.1」でWindows 11に対応”. 4gamer.net (2021年9月14日). 2022年7月14日閲覧。
  33. ^ AMD Software: PRO Edition 23.Q3.1 for Windows Release Notes” (英語). AMD (2023年9月12日). 2023年10月18日閲覧。
  34. ^ AMD、Radeon用ドライバにクリエイティブ向けの「PRO Edition」”. マイナビニュース (2022年6月16日). 2022年7月14日閲覧。
  35. ^ プロ向けの「Radeon Pro Software for Enterprise」が一般向けのRadeonを“逆サポート””. PC Watch (2019年2月12日). 2022年7月14日閲覧。

関連項目 編集

外部リンク 編集