コリンダー399

こぎつね座の見かけ上の星団
Cr 399から転送)

コリンダー399(Collinder 399)若しくはそれを略してCr 399[2][4]は、こぎつね座の方角、や座との境界の近くに位置する、恒星が密集する領域である。星団とも呼ばれているが、真の星団ではなく、偶然恒星が集合したものとされる。Cr 399の中で明るい恒星は、有名なアステリズムを形成している。

コリンダー399
Collinder 399
こぎつね座にある恒星の密集領域Cr 399
こぎつね座にある恒星の密集領域Cr 399
仮符号・別名 Cr 399
星座 こぎつね座[1]
視等級 (V) 3.6[2]
視直径 ~60'[2]
位置
元期:J2000.0
赤経 (RA, α)  19h 25.4m[3]
赤緯 (Dec, δ) +20° 11.0′[3]
Vulpecula constellation map.svg
Cercle rouge 100%.svg
Cr 399の位置(丸)
別名称
別名称
コートハンガー, ブロッキ星団, アル・スーフィー星団[3]
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歴史・名称編集

Cr 399について史上初めて言及した資料は、ペルシャ人天文学者アル・スーフィー964年頃に著した『星座の書』とされる[5][6]。そのため、Cr 399はアル・スーフィー星団(Al Sufi's Cluster)とも呼ばれる。

アル・スーフィーによる発見は、20世紀まで広く知れ渡ることがなく、独立に再発見した例がいくつか知られている。17世紀イタリアの天文学者、ジョヴァンニ・オディエルナ1654年に発表したカタログに、Cr 399に該当する天体が記載されている[7][6]。1920年代、数多くの変光星観測用星図を作成し、アメリカ変光星観測者協会の副会長を務めたアマチュア天文家ダルミロ・ブロッキ[8][9]は、測光観測の較正用としてCr 399の星図を作成した。そのため、Cr 399はブロッキ星団(Brocchi's Cluster)とも呼ばれている[7][6]

1931年スウェーデンの天文学者ペル・コリンダーは、自身の散開星団カタログにこの天体を収録している[10]。「コリンダー399」という名称は、コリンダーのカタログの399番目に掲載されていることに由来する。

アステリズム編集

 
Cr 399内のアステリズム・コートハンガーを線で結び、主な恒星視等級と、一部には名称を付したもの。

Cr 399に含まれる恒星のうち、視等級が5から7の10個の恒星が、コートハンガー(Coathanger)として知られるアステリズムを形成している。6つの恒星が一列に並び、4つの恒星がその南側に鉤型を作ることで、洋服を掛けるハンガーに形が似ていることから、そう呼ばれる[2]。最も明るい恒星は、こぎつね座4番星英語版で、5.14等級である[11]。Cr 399はその他に、30個程度のより暗い恒星を含んでいる[12]

見つけ方編集

暗い夜空の下では、Cr 399は光のしみとして肉眼でもみえる[7]。「コートハンガー」の形をみるには、双眼鏡や望遠鏡の低倍率が最適である[2][13]

 
Cr 399の見つけ方。や座の西側、アルタイルベガの間にある。

コートハンガーを探す最もわかりやすい方法は、アルタイルからベガへ向かう仮想の直線を描き、その線に沿って天の川をゆっくり渡ってゆくことである。アルタイルからベガまでの角距離の1/3程を進んだ辺りで、はくちょう座以南の天の川に大きな裂け目を作る暗黒帯の中に、コートハンガーをみつけることができる[2][13]。或いは、アルビレオ(はくちょう座β星)から南に、こぎつね座α星を辿っていった先、また、や座の矢じりに当たるや座γ星から西に8進むことでも、見つけることができる[14][2]

コートハンガーは、7月から8月にかけてが最も見頃で、北緯20度以北の地域では、南中時にはハンガーの上下が逆さの形でみえる。南半球では、ハンガーの上がそのまま上にみえる。

特徴編集

 
パロマー天文台スカイサーベイのデジタル化データから作成したCr 399の画像。出典: POSS II / Giuseppe Donatiello

Cr 399がどのような天体かについての理解は、現代天文学が進歩する中で大きく変化した。

20世紀の殆どの期間、Cr 399は星団だと考えられていた。20世紀初頭に、初めてこの天体を目標に研究を行ったハリー・マイヤーも、星団と記している[15][1]。しかし1970年スペクトルエネルギー分布や視線速度固有運動を詳細に調べた結果、Cr 399の一員と思われた恒星の内、明るい6つの恒星以外は星団を形成していないと結論付けられた[12]。この時に、星団の恒星とされたのは、HD 182422、HD 182620、HD 182761、こぎつね座5番星英語版、HD 182955、HD 182972の6つであった。

更に、1997年から公表されているヒッパルコス衛星のデータによって大幅に向上した、年周視差と固有運動の測定値から、1998年以降の複数の研究で、Cr 399は先に挙げられた6つの恒星も含め、全ての恒星が運動を共有しておらず、真の意味での星団とは全く異なる、偶然恒星が集合したものであることが明らかになった[16][17][18]。6つの恒星のうち、距離からして結び付きがある可能性があるのは、HD 182620、HD 182761、HD 182955、HD 182972の4つだけで、その4つの恒星にしても、固有運動から推定される空間速度の差は、星団としての関係性がある場合に比べて遥かに大きい[17]

コートハンガーを形成する10の恒星の一覧
名称 視等級 (V) スペクトル型 距離 (光年)
HD 182293 7.11[11] K3 IVp[11] 354 +21
−17
[19]
HD 182422 6.40[11] B9.5 V[11] 1,240 +1110
−260
[19]
HD 182620 7.16[11] A2 V[11] 583 +74
−51
[19]
HD 182761 6.31[11] A0 V[11] 414 +89
−50
[19]
こぎつね座4番星英語版 5.14[11] K0 III[11] 271.6 ± 7.2[20]
こぎつね座5番星英語版 5.60[11] A0 V[11] 237.7 ± 5.9[20]
HD 182955 5.84[11] M0 III[11] 613 ± 38[20]
HD 182972 6.64[11] A1 V[11] 1,380 +890
−260
[19]
HD 183261 6.88[11] B3 II[11] 2,350 +6460
−650
[19]
こぎつね座7番星英語版 6.34[11] B5 Vn[11] 1,160 +240
−170
[20]

出典編集

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  1. ^ a b Meyer, Harry (1905-03), “Ausmessung eines Sternhaufens in der Vulpecula”, Astronomische Nachrichten 167: 323-334, Bibcode1905AN....167..321M, doi:10.1002/asna.19041672002 
  2. ^ a b c d e f g 浅田英夫 『星雲星団ベストガイド』 地人書館、2009年12月10日、130-131頁。ISBN 978-4-8052-0816-8 
  3. ^ a b c Collinder 399 -- Cluster of Stars”. SIMBAD. CDS. 2017年12月16日閲覧。
  4. ^ 中野繁 『標準星図2000』 地人書館、1995年6月10日、70-73頁。ISBN 978-4-8052-0478-8 
  5. ^ Jones, Kenneth Glyn (1991-04-04), Messier's Nebulae and Star Clusters, Cambridge University Press, p. 1, https://books.google.co.jp/books?id=IuhLR35I9QUC&pg=PA1 
  6. ^ a b c Brocchi's Cluster, Collinder 399”. SEDS. 2017年12月16日閲覧。
  7. ^ a b c O'Meara, Stephen James (2007-04-12), Deep-Sky Companinons: Hidden Treasures, Cambridge University Press, pp. 478-482, ISBN 9781139463737, https://books.google.co.jp/books?id=a6VY0Q1zsJoC&pg=PA480 
  8. ^ Malatesta, Kerriann H.; Scovil, Charles E. (2005-08), “The History of AAVSO Charts, Part I: The 1880s Through the 1950s”, Journal of the American Association of Variable Star Observers 34 (1): 81-101, Bibcode2005JAVSO..34...81M 
  9. ^ Williams, T. R. (2002-12), “The Wizard of Puget Sound: Dalmero Francis Brocchi (1871-1955)”, Bulletin of the American Astronomical Society 34: 1159, Bibcode2002AAS...201.3703W 
  10. ^ Collinder, Per (1931), “On Structural Properties of Open Galactic Clusters and their Spatial Distribution. Catalog of Open Galactic Clusters”, Annals of the Observatory of Lund 2: B1-B46, Bibcode1931AnLun...2....1C 
  11. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u ESA (1997), The HIPPARCOS and TYCHO catalogues. Astrometric and photometric star catalogues derived from the ESA HIPPARCOS Space Astrometry Mission, ESA SP, Noordwijk, Netherland: ESA Publications division, Bibcode1997ESASP1200.....E, ISBN 9290923997 
  12. ^ a b Hall, Douglas S.; van Landingham, Franklin G. (1970-06), “The Nearby Poor Cluster Collinder 399”, Publications of the Astronomical Society of the Pacific 82 (487): 640-652, Bibcode1970PASP...82..640H, doi:10.1086/128941 
  13. ^ a b Joe Rao (2012年8月23日). “Star Cluster Creates Coat Hanger in Night Sky This Week”. Space.com. 2017年12月17日閲覧。
  14. ^ Bruce McClure (2017年7月11日). “Coathanger: Looks like its name”. EarthSky.org. 2017年12月16日閲覧。
  15. ^ Meyer, Harry (1903), “Ausmessung des Sternhaufens bei 4 Vulpeculae”, Astronomische Mitteilungen der Königlichen Universitäts-Sternwarte zu Breslau 2: 49-88, Bibcode1903MiBre...2...49M 
  16. ^ Skiff, Brian A. (1998-01), “Brocchi's Cluster Revealed”, Sky and Telescope 95 (1): 65-67, Bibcode1998S&T....95a..65S 
  17. ^ a b Baumgardt, H. (1998-12), “The nature of some doubtful open clusters as revealed by HIPPARCOS”, Astronomy & Astrophysics 340: 402-414, Bibcode1998A&A...340..402B 
  18. ^ Dias, W. S.; Lépine, J. R. D.; Alessi, B. S. (2001-09), “Proper motions of open clusters within 1 kpc based on the TYCHO2 Catalogue”, Astronomy & Astrophysics 376: 441-447, Bibcode2001A&A...376..441D, doi:10.1051/0004-6361:20011021 
  19. ^ a b c d e f Astraatmadja, Tri L.; Bailer-Jones, Coryn A. L. (2016-12), “Estimating Distances from Parallaxes. III. Distances of Two Million Stars in the Gaia DR1 Catalogue”, Astrophysical Journal 833 (1): 119, Bibcode2016ApJ...833..119A, doi:10.3847/1538-4357/833/1/119 
  20. ^ a b c d van Leeuwen, F. (2007-11), “Validation of the new Hipparcos reduction”, Astronomy & Astrophysics 474 (2): 653-664, Bibcode2007A&A...474..653V, doi:10.1051/0004-6361:20078357 

関連項目編集

外部リンク編集

座標:   19h 25m 24s, +20° 11′ 00″