Domain Name System
Domain Name System(ドメイン・ネーム・システム、DNS)とは、コンピュータネットワーク上のホスト名や電子メールのアドレスに使われるドメイン名と、IPアドレスとの対応づけ(正引き、逆引き)を管理するために使用されているシステムである。後述の通りインターネットのシステムとして開発されているが、インターネットに限定したシステムではなく、それ以外のネットワークでも応用できる。
1983年に、インターネットを使った階層的な分散型データベースシステムとして、Information Sciences Institute(ISI)のポール・モカペトリスとジョン・ポステルにより開発された[1]。
インターネットに接続されているすべてのコンピュータは、固有のIPアドレスを持っている。インターネット上のコンピュータにアクセスするためには、そのコンピュータの IPアドレスを知る必要がある。しかし、IPアドレスは0から255までの数値を4つ組み合わせ(IPv4の場合)で表現されるため、人間には記憶しにくい。そのため、IPアドレスを文字列で扱うことができるような機構として、インターネットドメイン名が考案された。そして、ドメイン名からIPアドレスを引き出す機能(正引き)が、DNSの代表的な機能である。このほか、ドメイン名に関連するメールサーバ情報なども取り扱っている。
動作
編集DNSは、ホスト名(たとえばja.wikipedia.org
)の入力に対して、DNSサーバと呼ばれるコンピュータを参照し、そのホストが持つIP アドレス(たとえば130.94.122.197
)を検索するシステムである。喩えるならば、DNSは氏名から電話番号を自動で調べる電話帳のようなものである。
たとえば、ウェブブラウザにURIを入力してネットワークにアクセスする際、ブラウザはURIを解析して、アクセスすべきWebサーバのホスト名を取り出し、後述のリゾルバAPIに渡す。リゾルバAPI(通常はOS内部での働き)は、Webサーバのホスト名をDNSサーバに問い合わせて返ってきたIPアドレスにより、ホスト名をIPアドレスに変換してブラウザに返す。ブラウザは、得られたIPアドレスを使用して、Webサーバとの通信を開始する。このようにしてブラウザはインターネットにアクセスする。
ホスト名から、そのホストにアクセスするためのIPアドレスを得ることを、ホスト名の「解決」(resolve)と呼び、これを行うためのクライアント側のしくみやプログラムを「リゾルバ」(resolver)または「ネームリゾルバ」という。
DNSに格納されている情報を「レコード」(DNSレコード、リソースレコード)と呼ぶ。レコードは格納する情報によって種類が分類分けされている。レコードの種類は「DNSレコードタイプの一覧」を参照。
ただし現実の電話帳との違いは、この情報がインターネット上のいくつものコンピュータ(DNSサーバ)に分散して格納されているところにある。インターネットには莫大な数のコンピュータが接続されており、これらのホスト名と IPアドレスは日々更新されつづけているため、インターネット上のすべてのホスト名を一台のコンピュータで集中管理することは現実的ではなかった。そのためインターネット上のコンピュータをある単位で区分けして、それぞれのグループがもつデータをグループごとのコンピュータに別々に管理させるようにした。これが DNS の基本的なアイデアである。このグループをドメインと呼ぶ。各グループには英数字とハイフン( -
)からなるラベル(ドメイン名)がつけられており、異なるドメインの情報は異なるコンピュータに格納される。
今でこそDNSはホスト名とIPアドレスの対応づけに使用されるのがほとんどだが、もともとは電子メールの配送方法やコンピュータの機種名を登録するなどといった用途も考えられていた。
ドメイン名は階層的な構造をもっている。たとえばja.wikipedia.org
というホスト名はja
、wikipedia
、org
という3つの階層に区切ることができる。ja.wikipedia.org
というホストはwikipedia.org
ドメインに所属しており、このドメインはさらにorg
ドメインに所属している。ドメイン名は一個の巨大な木構造をなしており、この構造をドメイン名前空間(Domain Name Space)と呼ぶ。ドメイン名前空間は頂点に.
(ルート)ノードを持ち、そこから.com
、.org
、.jp
などの各トップレベルドメイン(TLD)が分かれている。
各ドメインはゾーンと呼ばれる管轄に分けて管理されている。ゾーンはドメイン名前空間上のある一部分に相当し、それぞれのゾーンは独立したDNSコンテンツサーバと呼ばれるコンピュータによって管理されている(ドメイン名の委譲)。DNSコンテンツサーバは、管理しているゾーンのホスト名とIPアドレスの組を記述したデータベースを持っており、クライアントマシン(あるいはDNSキャッシュサーバ)からの要求に応じて、あるホスト名に対応するIPアドレスを返す。DNSクライアントはルートサーバからいくつものDNSサーバをたどっていき、最終的なホスト名のIPアドレスを得る(DNSの再帰検索)。
DNSサーバの役割
編集具体的な例として、ja.wikipedia.org
というホスト名の IPアドレスを検索することを考えると、再帰検索は、トップレベルドメインをルートサーバに問い合わせることからはじまる。ja.wikipedia.org
というホスト名はwikipedia.org
ドメインに属し、またwikipedia.org
ドメインはorg
ドメインに属するため、クライアントは最初にorg
ドメインのDNSサーバ(ネームサーバ)のIPアドレスを得なければならない。
まず、クライアントは適当なルートサーバをひとつ選ぶ。ここでは A.ROOT-SERVERS.NET
(198.41.0.4
)とする。現在[いつ?]、ルートサーバに登録されているorg
ドメインのネームサーバは9つあり、そのうちのひとつはa7.nstld.com
(192.5.6.36
)である。
つぎにクライアントは、このネームサーバにwikipedia.org
ドメインのネームサーバの IPアドレスを問い合わせる。するとそのネームサーバのホスト名はdns34.register.com
(216.21.226.87
)であることがわかる。
最後に、このネームサーバにja.wikipedia.org
のIPアドレスを問い合わせる。するとこのサーバは最終的な答130.94.122.197
を返す。こうして目的とするホスト名のIPアドレスを検索できる。
権威サーバとキャッシュサーバ
編集DNSはデータを分散して保持する多数の権威DNSサーバと、キャッシュサーバからなる。authoritativeネームサーバ(「権威DNSサーバ」[2]、「権威あるDNS」[3]とも)は自らが担当する一定の範囲のドメイン名の名前解決を内部のデータベースを使って行い、その結果のIPアドレスを送り返す[2]。キャッシュDNSサーバは権威DNSサーバの回答結果を一定期間保存して代わりに回答する機能を持ち、権威DNSサーバの負荷を分散する[4]。
DNS over HTTPS (DoH) / DNS over TLS (DoT)
編集DNS over HTTPS (DoH)は、リゾルバとのDNSクエリのやり取りをHTTPS上で行う[注 1]ことで、セキュリティとプライバシーを向上させる。これは RFC 8484 で定義され、MIMEタイプとしてapplication/dns-message
を使う。
DNS over TLS(DoT)は、TLSプロトコルを介してリゾルバとのDNSクエリをやり取りする。効果はDoHと同様である。
存在意義
編集DNSは、ほとんどのインターネット利用者が普段意識していない透過的なシステムだが、その役割は非常に重要である。あるドメインを管理しているDNSサーバが停止してしまうと、そのドメイン内のホストを示すURLやメールアドレスの名前解決などができなくなり、ネットワークが利用者とつながっていてもそのドメイン内のサーバ類には事実上アクセスできなくなる。そのため、重要なDNSサーバは二重化されていることが多い。
またDNS偽装を行うと、情報を容易に盗聴・偽装することができてしまう。情報レコードの不正な書き換えを防止するため、コンテンツサーバのマスタ(プライマリ)はインターネット(外部)から隠匿し、インターネットには特定のマスタのコピー(ゾーン転送)を受け取るスレーブ(セカンダリ)を公開するなどの構成を組んで、防衛手段を講じる。
関連語句
編集- DNSサーバ
- Dynamic Domain Name System(ダイナミックDNS、DDNS)
- リゾルバ
- djbdns - DNSサーバ用ソフトウェア。
- BIND
- unbound - オープンソースのDNSキャッシュサーバ
- DNSルートゾーン
- DNSゾーン転送
- DNSレコードタイプの一覧
- DNSBL(DNSブラックリスト)
- DNSラウンドロビン
- EDNS0 (extension mechanisms for DNS version 0)
- ドメイン名
- トップレベルドメイン (TLD)
- 国際化ドメイン名
- Fully Qualified Domain Name(FQDN)
- 地域インターネットレジストリ
- TCP/IP
- 名前解決
- ディレクトリ・サービス
- DNS偽装
- 誕生日攻撃
- DNS-Pinning (DNSリバインディング (DNS rebinding) )
- DNS Security Extensions (DNSSEC)
- エニーキャスト
関連プロトコル
編集- STD0013
- RFC 8310: Usage Profiles for DNS over TLS and DNS over DTLS - TLS(TCPを使用)およびDTLS(UDPを使用)上でDNSメッセージのやり取りを行うプロトコルの規定。セキュリティやプライバシー保護の向上を意図している。
- RFC 8484: DNS Queries over HTTPS - HTTPS上でDNSメッセージのやり取りを行うプロトコルの規定。使用するHTTPのバージョンとしてはHTTP/2が推奨されている。こちらも、セキュリティやプライバシー保護の向上を意図している。
- マルチキャストDNS - mDNS とも表現される
- LLMNR - Link Local Multicast Name Resolution
脚注
編集注釈
編集- ^ つまり、ポート53を使わずにポート443を使う。
出典
編集- ^ “ISI Marks 20th Anniversary of Domain Name System”. Information Sciences Institute (2003年6月26日). 2022年11月6日閲覧。
- ^ a b “インターネット用語1分解説~権威DNSサーバ(authoritative name server)とは~”. JPNIC (2012年9月18日). 2022年11月6日閲覧。
- ^ “第7回 DNSの仕組みについて”. Linux技術者認定機関 LPI-Japan [エルピーアイジャパン]. 2022年11月6日閲覧。
- ^ “重要技術 DNSの仕組み”. 国民のための情報セキュリティサイト. 2022年11月6日閲覧。