EBMASエブマス)は、欧米を始め世界40ヶ国に生徒を擁する詠春拳の団体。中国の伝統武術である詠春拳を、現代の格闘技術に対応する拳法、自衛術として習得する体系を完成させた。常に最新の格闘技術への対応を考え発展させている詠春拳の継承団体である。

Emin Boztepe Martial Arts System
エブマス
競技形式 詠春拳
使用武器 Eskrima(バストン)
発生国 ドイツの旗 ドイツ
発生年 西暦2001年
創始者 Emin Boztepe
源流 Wing Chun
流派 梁挺派(Wing tsun)
主要技術 詠春拳の全ての技術、Eskrima
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概要 編集

1978年葉問から詠春拳(Wing Tsun)の全伝を受けた最後の弟子である梁挺(Leung Ting)氏が、ドイツを中心とするヨーロッパで普及させた。その時の高弟が、ドイツ在住のトルコ人エミン・ボツテペハンガリー語: Emin_Boztepeである。

エミン氏は1976年から武術修行を開始し、ボクシングムエタイ空手トルコ相撲などを多くを学んだ後、国際詠春總會(International WingTsun™Association) に所属し、詠春拳を習得。90年代を通じて伝統の技術に立脚しながら現代格闘技的な各種ムーブ (ボクシング的なパンチやタックル・寝技) などに対応し得る体系を構築し、2001年に独立。秘匿されがちな伝統の技術を包み隠さず教授し、現代のフォーマットに対応した新たな詠春拳の在り方を世に提示した。これを世に広めるべく創立されたのがEBMAS (=Emin Boztepe Martial Arts System)である。

一部ではエブマスについて「詠春拳をベースに様々な格闘技を融合させて作った総合格闘技である」と称する記述があるが、それは全くの誤りである。

設立経緯 編集

詠春拳の指導者は葉問が始めた科学的教授方法に反して、秘伝と称し正式弟子へ秘密裏に技術伝承を行い、更に習得には20年以上の年月と高価な費用が必要という姿勢を採っていたが、エミン・ボツテペはそんな現状を嘆き、詠春拳以外に学び体験した現代格闘技に対応し得る体系を構築し、技法の全てを公開する「NO Secret」の団体「EBMAS(エブマス、Emin Boztepe Martial Arts System)」を立ち上げた。欧米の多くの詠春拳修業者がエミンに共感しEBMASに参加するようになった。

立ち上げから10年以上経った現在、世界中に多くのインストラクターを輩出している。

経歴 編集

エミン・ボツテペ英語: Emin_Boztepe(ドイツ生まれの在米トルコ人[1])は、トルコ訛りが原因でドイツで人種差別を受け、ドイツで生活していくためには武道、格闘技が必要だと強く感じ、300回以上のストリート·ファイトを経験した。

余談だが、2005年にエミン氏をオーストラリア支部に招いてセミナーを開催した際、一緒にサウナに入った現·EBMAS JAPANチーフ·インストラクターのヨーシュ·ロバート氏は、エミン氏の体のあちこちに残る、ナイフや銃弾による傷痕を見たと、証言している。(月刊秘伝2017年6月号参照)バウンサーをやっていた時に受けた傷だという。数々の修羅場を切り抜けてきたエミン氏が自身の経験を踏まえて創設したのが、EBMASである。

1976年(14歳)から様々な格闘技(柔道松濤館流空手、ムエタイボクシングレスリング)の訓練を受けアマチュアボクサーとして活躍した。

1980年EWTOドイツ語: Europäische Wing-Tsun-Organisationのデモンストレーションを見て衝撃を受け、詠春拳に興味を持ち、キース・ケルンスペクト英語: Keith_R._Kernspecht[注釈 1]に師事する。

1982年、詠春拳を極めるために葉問の弟子梁挺[注釈 2]に師事した。

1986年梁挺の命令によりブルース・リーの兄弟子であった張 卓慶英語: William Cheung(ウイリアム・チャン)をセミナー中に襲撃して破った経緯を持つ。

1990年グレイシー柔術ホイス・グレイシーに挑戦状を送ったが、試合は実現しなかった。

2000年詠春拳の伝統技術をベースに様々な格闘技術及びストリート·ファイトに対応できるように技術をアップデートさせて、René Latosaと共に新たなる詠春拳技術団体「EBMAS」を完成させた。

概念 編集

EBMAS Wing tzunの概念は襲撃者の身体の大きさ、強さ、戦闘スタイルに即座に適応できるようにする積極的な自衛システム。

基本的には非常に簡潔な内容だが、熟練したインストラクターと一緒に、型を実行して練習し、特定の状況で術理を理解するための訓練となる。

練習ではできるだけ緊張しないようにリラックスしてパンチ及び基本的な詠春拳の技を体得できるようにする練習を心がける。

第二に、襲撃者の強さに応じて相手の力を利用できるようにするために、数え切れないほどの時間を費やしている。最後に、パンチングと打撃力を高めるためにEBMAS特有の強度トレーニングを行う。

  • 寝技

伝統詠春拳とは異なるEBMASの特徴の1つに寝技訓練がある。総合格闘技の寝技とは異なり[注釈 3]、詠春拳の理論や技術をそのまま用い、詠春拳の原則で寝技を行うので理解しやすい。

カリキュラムの一部 編集

  • 運動とスタイルの基礎、小念頭の始まり。
  • 長距離戦、腕橋について、小念頭のすべて。
  • 長距離攻撃から中距離攻撃への移行。
  • 尋橋の始まり、中距離攻撃から短距離攻撃への移行。
  • 範囲は移動と移行。
  • 短距離攻撃、両手での戦闘を同時に行う。
  • プーンサオ、チーサオ
  • チーサオ 1st攻撃
  • チーサオ キックに対するスタイルの適用。
  • 単一の攻撃者に対して。
  • 複数の攻撃者に対して。
  • 武器を持つ単一の攻撃者に対して。
  • 複数の武器を持つ攻撃者に対して。
  • 木人椿
  • 標指
  • 八斬刀、六点半棍

日本におけるEBMASの普及 編集

  • 2008年:ヨーシュ・ロバート氏がEBMAS東京を設立。
  • 2010年:EBMAS東京はEBMAS JAPANと改称する。
  • 2010年:エミン・ボツテペ氏の初来日セミナーが開催される。
  • 2013年10月 : EBMAS JAPAN設立後、初の支部EBMAS 名古屋発足。
  • 2020年6月:EBMAS 岡崎[1]支部発足。

メディア 編集

DVD/ストリーミング 編集

発売日 タイトル 規格品番
JAN/ASIN EAN
1 1999年12月24日 Combat Martial Arts 3 DVD Set with Emin Boztepe vol.1 Punching Techniques 0808424915449/B018MPYX8Y
2 2000年3月25日 Combat Martial Arts 3 DVD Set with Emin Boztepe vol.2 Kicks & Defense 0808424916378/B01BNWMEP2
3 2000年4月22日 Combat Martial Arts 3 DVD Set with Emin Boztepe vol.3 Counter Grappling B018JA6RB8
4 2016年8月26日 Topfighter Ebmas Wing Tzun 4260161811792

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ キース・ケルンスペクトはヨーロッパ詠春拳の父と呼ばれる。ドイツでプロレスラーとして活躍し、ドイツのパワーリフティング界を牽引した人でもあった。東洋の武術に興味を持ち、1965年に初めてヨーロッパに梁挺を招待した。1969年European WingTsun Organization(EWTO)設立し、現在EWTOの会長である。
  2. ^ 葉問の長男葉準は他の弟子たちと一緒に梁挺が葉問の直弟子ではないと異議を唱えてきた。葉準の非難に応えて、梁挺は2010年5月に香港で公開記者会見を行い、葉問との直接の関係を写真で証明した。既存の写真の証拠は、梁挺が葉問が過去に行った唯一の2回のインタビュー、プライベートレッスン、梁挺の結婚式、そして公的武道のデモンストレーション。梁挺は、告発や告発の撤回が受けられなかった場合、葉準に対する名誉毀損の主張を開始すると公然に脅した。その後、葉準や他の弟子達はこの問題について静かになった。 他の証拠では、唯一の2人のインタビューで、葉問は、1972年の新しい武道ヒーロー誌の56頁の31頁2段落5行目で、教師梁挺係其一位封門弟子" (梁挺は私の内弟子の一人です)。インタビューの写真は梁挺がその時に葉問と一緒にいることを示している。
  3. ^ 総合格闘技の立ち技はムエタイまたはキックボクシング、タックルはレスリングまたは柔道、寝技はブラジリアン柔術の技術を用いるが、技術体系も成り立ちも違う格闘技の技術をそのまま借りて取り組むため、矛盾が生じている部分が多くある。例えばムエタイは左足を前に構えるスタイルに対して、レスリングは右足を前にして構えるスタイルを取るため、立ち技からタックルへ移行する際にはわざわざ右足を前にするサウスポースタイルになりタックルを行う等、戦況が変わる場面においてスムーズに移行・対応できない問題がある。

出典 編集

  1. ^ 月刊秘伝 2017年6月号、発行年:2017年5月13日発行、発行所名:BABジャパン、ASIN B06XWG6ZQY、27頁より引用

参考文献 編集

関連項目 編集

外部リンク 編集