FN ブローニング・ハイパワー
FN ブローニング・ハイパワー(英:FN Browning Hi-Power)は、ベルギーのFNハースタル社製の自動拳銃。
![]() ノルウェー軍が所有するFN ブローニング・ハイパワー | |
概要 | |
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種類 | 自動拳銃 |
製造国 |
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設計・製造 | FNハースタル |
性能 | |
口径 |
9mm .40(10.16mm) |
銃身長 | 118mm |
ライフリング | 6条 |
使用弾薬 |
9x19mmパラベラム弾 .40S&W弾(ハイパワーMk.Ⅲのみ) |
装弾数 |
13発(標準弾倉) 20発(延長弾倉) |
作動方式 |
シングルアクション ティルトバレル式ショートリコイル |
全長 | 200mm |
重量 |
810g(銃本体のみ) 986g(弾丸装填時) |
銃口初速 | 360m/s |
有効射程 | 50m |
特徴編集
正式名称は「ピストル・オートマティック・ブローニング・モデル・ア・グラン・ビザンス(ブローニング・オートマティック・ピストル・モデル・ハイパワー)」であり、アメリカの発明家であるジョン・M・ブローニングが1926年に死去する前に設計した最後の作品である。ブローニングの他界後、FN社のデュードネ・ヨセフ・サイーブ(FN FALの設計者)が改良し、1934年に完成した。
量産された実用拳銃として初めて複列弾倉(シングルフィードダブルカラムマガジン)を採用した拳銃で、当時このようなマガジンは軽機関銃・短機関銃・拳銃では、トリガー前に弾倉を持つモーゼルC96以外にはほとんどなく、その装弾数の多さから「ハイパワー」と名づけられた。コルト・M1911やブローニングM2をはじめ、数々の傑作銃を設計したブローニングの技術の集大成ともいえる自動拳銃である。
複列弾倉を採用しているが、ハイパワー以後に設計された複列弾倉の拳銃に比べればグリップ(ウォールナット製)は細く、握りやすい形状となっている。リングハンマー、初期のM1911の様な小さなリアサイト、フロントサイトを備える。セーフティは右手親指で操作するサムセーフティ、マガジンが挿入されていなければコックしたハンマーが起立しないトリガー材質セーフティである。材質はブルーイング仕上げのスチール製である。
設計は非常にシンプルで部品点数も少なく合理的な設計であり、カム溝を用いた改良ブローニング式のショートリコイル機構は、以降に製品化された多くの自動拳銃で模倣されている。
高い信頼性と実用性から世界50か国以上の軍隊・警察で制式採用され、ドイツ軍用であった9x19mmパラベラム弾が世界の軍用拳銃の標準的な弾種となる一因となった。軍用拳銃にダブルアクションやポリマーフレームが広く採用される現在でも一定の需要を保っている。映画『ダイ・ハード』の原作『Nothing lasts forever』では、「プロの使う拳銃」と書かれている。
FEG社、ARCUS社[1]などの多数の会社がハイパワーのコピー商品を販売している。
BHP | P220 ( 9mm) |
Cz75 | M92F | P226 | グロック17 | P99 | GSh-18 | |
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画像 | ||||||||
使用弾薬 | 9x19mm | |||||||
装弾数 | 13+1発 | 9+1発 | 15+1発 | 17+1発 | 16+1発 | 18+1発 | ||
銃身長 | 118mm | 112mm | 120mm | 125mm | 112mm | 114mm | 102mm | 103mm |
全長 | 200mm | 198mm (206mm) |
206mm | 217mm | 196mm | 186mm | 180mm | 184mm |
重量 | 810g | 830g | 1,000g | 970g | 964g | 703g | 750g | 590g |
作動方式 | 反動利用 シングルアクション |
反動利用 シングルアクションおよびダブルアクション |
反動利用 ダブルアクション |
ダブルアクション ティルトバレル式 ショートリコイル |
ロータリングバレル ショートリコイル |
派生型編集
ハイパワー ミリタリーモデル編集
- サイトはリア前方にタンジェントサイト、フロントはダブテイルとなっており、グリップ後部にはホルスターを兼ねる木製ショルダーストックを装着することも可能。
ハイパワーDA編集
- 作動方式がシングルアクションオンリーのため、スライドを引いてハンマーをコッキングしておかなければ初弾を撃てないブローニング・ハイパワーを近代化するべく、ダブルアクション機構を採用し、1983年に発表された自動拳銃。機種名に追加された「DA」は、 "Double Action" の略である。フィンランド国防軍に制式採用された。
- 外見のデザインはブローニング・ハイパワーに似ているが内部機構は異なっており、左右両側から操作できるアンビセーフティー、撃発位置にある撃鉄を安全にリリースできるデコッカー、インターナルセーフティーなどを備えている。FN社がベレッタ社と販売提携をしたことで1987年に一時的に製造を中止したが、1990年の提携解消によって生産が再開された。しかし、当時の市場にはすでにベレッタ 92やSIG SAUER P220など強力なライバルが存在していたこともあり、やがて生産中止に追い込まれた。
- バリエーションとしては、短縮化を図ったコンパクトモデル、警察用として製造されたダブルアクションオンリーモデル、変則ダブルアクション機構を持つファストアクションモデルがある。
ハイパワーMk.II編集
- 1982年から1988年にかけて短期間製造されていたモデル。スライドトップにリブが追加され、グリップは大型のサムレストが左右に備えられたプラスチックグリップとなった。ハイパワーDA同様のアンビ仕様のセーフティを備える。
ハイパワーMk.III編集
- 1989年に更新、発売されたモデルでMk.IIからいくつか仕様が変更されており、サイトはリア、フロント共にホワイトラインが入った大型のものになり、マガジンはマガジンハウジング内に引っかかることがないようにマウストラップというスプリングが備えられ、これによりマガジンキャッチを押すと強制的に脱落するようになっている。また、不用意なファイアリングピンの前進を防ぐオートマチックファイアリングピンセーフティも組み込まれている。仕上げはハーフマットの黒のペンキ仕上げである。1994年には当時人気の高かった.40S&W弾を使用するモデルも登場した(現在は生産中止)。
タッシーカスタムハイパワー編集
- カスタムガンメーカーのテリー・タッシーがMk.IIIをベースに製作したカスタムモデル。
- ロングスライドモデル
- サイトはリアがミレット製のアジャスタブルサイト、フロントが背の高いパートリッジタイプのものを備え、トリガーメカニズムは各パーツがシリンダー&スライド社製のカスタムパーツに変更されたトリガーチューンに加え、ハードクローム仕上げの7インチのロングスライド等、総合的に命中精度が高い。
- ショートスライドモデル
- ノバック社製のサイトを備え、トリガーメカニズムは、同じくシリンダー&スライド社のハンマーとセーフティが連動しており、セーフティを解除するとハンマーが自動でコックされるFSFトリガーシステムを内蔵した軽量なアルミ製フレームにショートスライドを組み合わせたコマンダーサイズモデル。
年表編集
以下、本節ではHPと略。
- 1921年 - FN社の依頼により、ジョン・ブローニングがブローバックモデルの試作品を完成。
- 1922年 - ティルトダウンのショートリコイルに改良されたM1922が完成。フランス軍のトライアルでテストされる。
- 1923年 - ストライカー方式をハンマー露出型に改良されたM1923が完成。このモデルからサイーブの設計である。
- 1928年 - M1928試作。
- 1929年 - M1929試作。
- 1933年 - M1933試作。
- 1934年 - 量産タイプ完成。これがHPの完成形である。タンジェントサイトつき。
- 1935年 - ベルギー政府に納入開始。リトアニア軍・ペルー陸軍で制式採用。
- 1940年 - 第二次世界大戦。ドイツ軍によるベルギー侵攻。以後ドイツ軍に接収され、ドイツ軍向け生産開始。固定リアサイト並列生産。
- 1944年 - 連合軍によるベルギー解放。カナダのジョン・イングルスCo.でカナダ製HP生産開始。供給先は中国・カナダ・イギリスなど。
- 1947年 - FN社でHP生産再開(以後固定リアサイト)。デンマーク陸軍とインドネシア国軍で制式採用。
- 1952年 - アメリカ軍トライアルにダブルアクションモデルを試作するも不採用。
- 1954年 - アメリカ民間販売開始。
- 1950年 - イギリス軍で採用開始。
- 1958年 - カナダで民間販売開始。
- 1965年 - イギリス軍で制式採用。
- 1973年 - リングハンマーをスパーハンマーに変更。
- 1976年 - アメリカ次期制式ピストルトライアルにHP・DAを出品するも不採用。
- 1977年 - アルゼンチン陸軍・警察で制式採用。
登場作品編集
脚注編集
- ^ ARCUS 94 Semi-Automatic Pistol, Cal. 9 x 19 mm - ARCUS Co.