自動車ナンバー自動読取装置
自動車ナンバー自動読取装置(じどうしゃナンバーじどうよみとりそうち)とは、走行中の自動車のナンバープレートを自動的に読み取ることで、手配車両のナンバーと照合する日本のシステムである[1]。手配車両の追跡に用いられ、犯罪捜査の重大な手がかりとなる。通称は「Nシステム」である。
日本の高速道路のインターチェンジにある車両番号読取装置は「AVIシステム」、渋滞情報など移動時間の取得に使われるものは旅行時間測定システム(Tシステム)という。同様のシステムはイギリスのロンドンなどにもある。
概要
編集増え続ける交通事情に対応するため、科学警察研究所の鳥羽邦夫によるアイデアが発端となり1980年代後半に研究所がNECと合同で開発した。1987年に東京都江戸川区新堀の国道14号に設置されたのが実用第1号。ナンバーの頭文字(Number)を取って、Nシステムと呼ばれるようになった。全国に2015年5月時点で1690台が設置されている[2][3]。1690台の内訳として、警察庁の設置台数は1511台であり、都道府県の設置台数は179台である[2]。
自動車利用の広域犯罪が発生した場合に、交通検問による渋滞等を引き起こすことなく、現場から逃走した被疑車両を速やかに捕捉し、犯人を検挙すること及び重要事件等に使用されるおそれの強い盗難車両を捕捉し、犯人の検挙及び被害車両の回復を図ることなどを目的として整備されているものである[1]。
Nシステムを通過した車両(2輪を除く)を全て自動で記録し、警察の手配車両リストと自動的に照会する。手配車両が通過してナンバープレートがヒット(完全一致)または、ニアヒット(一部一致)した場合、手配車両と推定されると同時に車種・所有者・メーカーなどが自動的に割り出される。手配車両と推定されてから自動処理が完了した後(自動照会してから5~6秒ほど後)にチームナビ(地図表示等)及び警察無線(PSW、APR、IPR、ポリストリプルアイ等)に「N号ヒット(Nヒット)」の一斉指令が関係部署に伝達されることで、ヒットした車両付近の警察官、巡回中のパトカーや捜査車両にも通知され、通信指令室等からの命令に従い、該当する手配車両を追尾し、失尾や放尾等がなければ検挙となる。盗難(自動車盗など)などの手配車両の監視、自動車利用犯罪の被疑者の追跡などで用いられ、重要犯罪等発生時などには不審車両の洗い出しにも使われる。取得されたデータは一定期間(30年間)保存され、データ検索も可能である。
高速道の料金所では、停車位置の前面に特殊な補助照明装置(赤外線ストロボ等)を付けて設置し、車両通過時にナンバー・搭乗者を撮影するものもある。
対象者が路肩走行する場合でも発見するため、全ての車線に加えて路肩にも設置することもある。速度違反自動取締装置の中には、Nシステム同様に道路上方にカメラが設置されるため外観が類似している機種がある。
最近では、小型の同装置[4]を地方道に設置し、裏道走行による追跡失敗(失尾等)の防止や逃走防止をはかっている。
可搬型Nシステム(可搬型初動捜査支援システム)の運用が開始された地域がある[5][6]。可搬型当該装置は、犯罪の発生場所に応じて、設置場所を自由に変えることができる。また、基本的に未設置の可搬型当該装置があれば、依頼に応じてすぐに設置できる。可搬型当該装置は、一定地域で連続的に発生する事件について、該当する事件に関連する種々の事案が重大化しないうちに、できるだけ早期に事件解決が望まれる場合においての活用が想定されている。
1999年発出の「警察庁 丁刑企発第165号 自動車ナンバー読取システムとの接続について」によれば、Tシステムで取得した情報と当該装置の情報とを統合することを明示しており、Tシステムの情報も犯罪捜査に使われる可能性がある。
設置場所
編集捜査に用いられた主な事件
編集- 甲府信金OL誘拐殺人事件 - 1993年8月[7]
- 富士フイルム専務殺害事件 - 1994年2月[7][8]
- 福岡美容師バラバラ殺人事件 - 1994年3月
- つくば妻子殺害事件 - 1994年11月[7][9][10]
- 埼玉愛犬家連続殺人事件 - 1995年1月[11][12]
- オウム真理教事件 - 1995年5月[7]
- 福岡一家4人殺害事件 - 2003年6月[13]
- 大牟田4人殺害事件 - 2004年9月[14]
- 奈良小1女児殺害事件 - 2004年11月[15]
- 姫路2女性殺害事件 - 2005年4月[16]
- 栃木小1女児殺害事件 - 2005年12月[17]
- 島根女子大生死体遺棄事件 - 2009年11月[18][19]
- 田園調布女子中学生誘拐事件 - 2013年11月
- 福岡3億8,400万円強奪事件 - 2017年4月[20]
- 東名高速夫婦死亡事故 - 2017年10月[21][22]
- 渋谷ハロウィンにおける暴力行為等処罰法違反事件 - 2018年10月[23]
問題
編集本システムでは通過する車両を特殊カメラで無差別に撮影し、画像からナンバープレートを判別するが、同時に運転者、同乗者も撮影されるとの憶測があり、プライバシーなどの人権侵害の問題が懸念される。
1999年9月、新潟県中越地方の某警察署課長(当時40歳)が女性警察官との交際を巡り辞職したが、新潟県警察がこの課長の自家用車の動きをNシステムで追跡していた事が、『新潟日報』のスクープで明らかになった。非番者の動向監視に用いられた事で悪用であるとの指摘がされているが、日常的に警察官、あるいは警察職員の動向監視のためにも使用されている[24]。
2006年には、愛媛県警察の捜査員がWinnyを使用した際にAntinnyと思われるコンピュータウイルスに感染し、本システムが設置されている愛媛県・香川県・徳島県の国道及び高速道路を通過した車のナンバープレート情報と通過日時が記録されたファイルが、他の捜査情報と共にインターネット上へ流出した事件も発生している[25]。この際流出した情報は約10日分、車両台数にして10万台超とされている。
高速道路上だけでなく、一般道の県境付近や大規模石油精製施設付近・公官署付近・防衛関連施設・原子力発電所付近などにも設置されている。一部では個人移動監視システムともいわれており、本来の容疑者の追跡のほかに、上記のように警察官の動向を監視するために使われた実績がある。
車両前面のナンバープレートを読み取るように本装置を設置した場合には、対象者がバイクを使用した時は、ナンバープレートを読み取れない[26]。ナンバープレートを読み取りにくくしたり(ナンバープレートを破損・隠蔽する、ナンバープレートを汚す、ナンバープレートをカバーする近赤外線吸収フィルムを装着する、ナンバープレートの文字部の一部又は全部を文字色や背景色などで隠したり塗装する、または文字部の上に実際の車両番号と異なる文字色の文字や背景色の文字を貼付する、あるいはナンバープレート上に多数の文字色や背景色などの文字を追加する等)、偽造ナンバーや他者のナンバーを悪用しながら移動する場合は、対象車両および対象者の発見が困難な場合もある[26]。
装置の特徴
編集新たな地域名表示ナンバープレート(いわゆる「ご当地ナンバー」)が導入されるたびに、それに対応するためのプログラムの改修が必要であり、そのための費用が発生する。
契約の方法は、随意契約である場合が多い。なぜならば、それぞれの製造メーカーが独自のシステムを構築・製造しており、ベンダーロックインで他社のシステム同士に接続することが困難な為である[27]。
現在、赤外光を遮断する特性をもつ遮断部材(赤外線カットナンバープレートカバー等)を装着したような車両であっても高い読取率でナンバープレートを読み取ることができる当該装置が開発され、実用化されている[4][28]。前述の当該装置であれば、赤外線カットナンバープレートカバー等を装着した車両であっても、ほぼ確実にナンバープレートの情報を読み取れる。
自衛隊車両、外交官車両などの一般車以外の形式のナンバーを読み取ることができない機種もある[26]。本装置は小型化されており、歩道橋、電柱、照明柱、標識や情報板の門柱など様々な箇所への設置が可能である[29]。高速道路上でも問題なく読み取る事が出来る程の速度まで観測ができる[26]。約180km/hで通行する車両も判読可能である[26]。一部機種の本装置の記憶媒体には「車両の通過時刻(観測日・時・分・秒)」、「観測車両の走行速度」、「観測車線の交通量(ナンバーが読めなかった車両についても別途カウントした情報)」が一連情報として蓄積される[29]。
また、本システムを速度違反自動取締装置(NHシステム)として利用する構想もあるが、2022年(令和4年)現在も実現には至っていない[30]。
ギャラリー
編集設置例
編集類似の装置
編集-
ETCゲートのナンバー読み取り装置(2010年)
脚注
編集- ^ a b 新潟県情報公開条例第17条第1項の規定に基づく諮問について(答申)(アーカイブ)
- ^ a b “第189回国会 法務委員会 第24号(平成27年6月16日(火曜日))”. 2021年1月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年3月1日閲覧。
- ^ 産経新聞. “栃木女児殺害公判 秘密扱いの「Nシステム」記録 公判での利用は異例”. 2016年3月1日閲覧。
- ^ a b 三菱電機株式会社による特許請求 - ナンバー読取装置(参考情報)
- ^ 鳥取県 - 平成25年第33回公安委員会開催状況
- ^ 三菱重工業株式会社による特許請求 - ポータブル型車両番号認識装置およびポータブル型車両番号認識装置による車両番号認識方法(参考情報)]
- ^ a b c d 『読売新聞』1995年5月20日東京朝刊解説面25頁「走行車記録装置が広域犯罪捜査に一役 オウム事件でフル活用(解説部 杉下恒夫)」(読売新聞東京本社)
- ^ 『日本経済新聞』1994年10月19日東京朝刊2頁「企業テロ撲滅へ一歩前進(社説)」(日本経済新聞東京本社)
- ^ 『読売新聞』1994年11月25日東京朝刊第一社会面35頁「つくばの妻子殺し、N容疑者 聴取18日間、深夜の自供 死体遺棄へ高速通行、読み取り機に車番号」(読売新聞東京本社)
- ^ 『産経新聞』1994年11月25日東京朝刊総合1面「横浜港妻子殺害事件 逮捕の夫、全面自供 以前から殺意抱く」(産経新聞東京本社)
- ^ 『読売新聞』1995年1月6日東京夕刊社会面11頁「埼玉・愛犬家事件 Aさん失跡で偽装工作?知人らが車をウンパ 関越道通行券に指紋 車内に遺体、目撃 熊谷市内で」(読売新聞東京本社)
- ^ 『毎日新聞』1995年1月7日東京朝刊社会面23頁「偽装移動、写ってた Aさんの車、速度違反カメラに――埼玉・愛犬家不明事件」(毎日新聞東京本社)
- ^ 『読売新聞』2003年6月27日西部夕刊社会面13頁「福岡一家殺害1週間 周到、ずさん…動機なぞ 手錠購入19日 浅い所に遺棄」(読売新聞西部本社)
- ^ 鈴木智彦『全員死刑 大牟田4人殺害事件「死刑囚」獄中手記』 す12-1(初版第1刷発行)、小学館〈小学館文庫〉、2017年11月12日、113頁。ISBN 978-4094064759。 NCID BB25145977。国立国会図書館書誌ID:028582927・全国書誌番号:22984380。 - 犯人一家の次男(2011年に死刑確定)による獄中手記で、映画『全員死刑』(監督:小林勇貴)の原作となった。原典『我が一家全員死刑』(2010年に刊行)を映画化に合わせて加筆・修正の上で文庫化したもの。
- ^ 『毎日新聞』2004年11月25日大阪朝刊一面1頁「奈良女児誘拐殺人:Nシステムで車両分析 空白の10時間、広範囲に移動も」(毎日新聞東京本社)
- ^ 『読売新聞』2005年4月12日大阪朝刊三面3頁「兵庫・大阪の2女性殺害自供 無事信じていた…家族ら悲痛、3か月捜し回る」(読売新聞大阪本社)
- ^ 『読売新聞』2014年6月27日東京朝刊栃木県版25頁「[今市女児殺害]氷解の行方(2)状況証拠 積み重ね立証(連載)=栃木 画像と供述 矛盾せず」(読売新聞東京本社)
- ^ 『読売新聞』2016年12月19日大阪朝刊第二社会面32頁「女子大生殺害 不明現場 走行記録なし 島根・浜田 男の車、捜査対象外に」(読売新聞大阪本社)
- ^ 『毎日新聞』2016年12月19日東京朝刊社会面30頁「島根・浜田の女子大生遺棄:男、自宅で女子学生撮影 押収カメラに画像」(毎日新聞東京本社【根岸愛実、東久保逸夫】)
- ^ 『毎日新聞』2017年4月24日西部朝刊社会面25頁「福岡中心部3.8億円強奪:逃走経路、脇道使う 周辺地理、入念に把握か」(毎日新聞西部本社【志村一也、柿崎誠】)
- ^ 『読売新聞』2017年10月25日東京朝刊三面3頁「[社説]あおり運転妨害 「過失」に違和感残る東名事故」(読売新聞東京本社)
- ^ 『朝日新聞』2018年12月13日東京夕刊第一社会面11頁「事故解明へ、4カ月の執念 ドラレコ記録、証言…時間じかんとの戦い 東名あおり運転、あす判決」(朝日新聞東京本社 安藤仙一朗、伊藤和也)
- ^ 『毎日新聞』2018年12月16日東京朝刊社会面29頁「暴力行為等処罰法違反:東京・渋谷のハロウィーン事件 点と点つなぐリレー捜査 防犯カメラ行動追跡 4万人から15人特定」(毎日新聞東京本社【春増翔太、山本佳孝、土江洋範】)
- ^ 愛媛県警の裏金を告発した仙波敏郎巡査部長への不利益取扱等に関する質問主意書 吉井英勝 衆議院
- ^ Winnyで流出、Nシステムが記録した10万台の情報 レスポンス自動車ニュース2006年3月20日
- ^ a b c d e “交通状況の計測・分析”. エイテック. 2016年5月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。 Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。
- ^ 群馬県 平成23年6月6日開催 文教警察常任委員会(警察本部関係)
- ^ 株式会社日立製作所による特許請求 - 車両認識装置(参考情報)
- ^ a b 土木建設技術シンポジウム2004
- ^ コムテック よくあるお問い合わせ【レーダー探知機】より