OSI参照モデル
OSI参照モデル(OSIさんしょうモデル、英: OSI reference model)は、OSIにおいて「コンピュータの持つべき」だとされた、通信機能を階層構造に分割したモデルである。国際標準化機構(ISO)によって策定された。2020年4月現在広く使われているインターネットがこれとは大幅に違っているDARPAモデルであるように、一般論としてこれがコンピュータの持つべきモデルというわけではない。OSI基本参照モデル、OSIモデルなどとも呼ばれ、通信機能(通信プロトコル)を7つの階層に分けて定義している。
概要編集
お互いが参照・被参照関係にあるレイヤによるモデルであり、上位層は下位層に対して抽象化されている。
OSI参照モデルは、1977年から1984年にかけて定義されたOSIのために策定されたが、OSI自体は普及せずに、OSI参照モデルだけがネットワークの基本モデルとして広く参照されるようになった。 OSI参照モデルはISO/IEC 7498として規格化され、後にITU-TではX.200、JISではJIS X5003として、同一内容を定義している。
なお、いくつかの教科書や、以下の「#例」の節で「理解を助けるための参考資料」などとして、SNAの7階層や、TCP/IPのDARPAモデルに沿っているプロトコルなどを、このOSIのモデルに対応付けした表などが見られるが、IETFなどがインターネット・プロトコル・スイートと構造の開発はOSIに準拠する意図はないとしているように、そういった対応付けはたいてい公式には存在していないものである。
レイヤー構成編集
国際標準化機構 (ISO) によって制定された、異機種間のデータ通信を実現するためのネットワーク構造の設計方針「開放型システム間相互接続 (Open Systems Interconnection、OSI)」に基づいて通信機能を以下の7階層(レイヤ)に分割する。各層は、「あぷせとねでぶ」と並んでいる。
- 第7層 - アプリケーション層[1]
- 具体的な通信サービス(例えばファイル・メールの転送、遠隔データベースアクセスなど)を提供。HTTPやFTP等の通信サービス。
- 第6層 - プレゼンテーション層
- データの表現方法(例えばEBCDICコードのテキストファイルをASCIIコードのファイルへ変換する)。
- 第5層 - セッション層
- 通信プログラム間の通信の開始から終了までの手順(接続が途切れた場合、接続の回復を試みる)。
- 第4層 - トランスポート層
- ネットワークの端から端までの通信管理(エラー訂正、再送制御等)。
- 第3層 - ネットワーク層
- ネットワークにおける通信経路の選択(ルーティング)。データ中継。
- 第2層 - データリンク層
- 直接的(隣接的)に接続されている通信機器間の信号の受け渡し。
- 第1層 - 物理層
- 物理的な接続。コネクタのピンの数、コネクタ形状の規定等。銅線-光ファイバ間の電気信号の変換等。
例編集
下記は、OSIモデルの各層ごとのプロトコルやサービスの例である。ただし上述のようにOSIモデルはOSI準拠プロトコルのための参照モデルであり、OSIスイート以外はOSIモデルに沿って設計・開発される訳ではない。このため、下の例はあくまで「仮にOSIで言えばどの層に相当すると思われる」ていどの参考である。 実際には、一部のプロトコルやサービスは、OSIモデルのどの層に属するかについて、幾つかの異なる見解が存在する。また複数層に跨っている物もある。図示の例はあくまでも一見解に過ぎない。
層別の例編集
層別・プロトコルスイート別の例編集
歴史編集
1970年代中頃、ネットワーク機器各社独自のネットワークアーキテクチャーが次々に発表され始めた。IBMのSNA、DECのDNA、富士通のFNA、日立製作所のHNA、日本電気のDINA、電電公社のDCNAなどである。機器を一つのメーカー製で揃えられるのであれば問題は無いが現実的には難しく、異なる機種同士を接続するための標準化が急がれていた。
ISO(国際標準化機構)の情報処理システム技術委員会は1977年3月にSC 16を設置、OSIの国際標準化を開始する。
しかし、CCITT(国際電信電話諮問委員会)がOSI参照モデル案を参考として独自の検討を開始。CCITTとSC 16での意見のすり合わせを行い、基本的な意見を合意。1982年にトランスポート層の標準、1983年にセッション層の標準の草稿が完成。
1984年、情報処理システム技術委員会はSC 16からSC 21にOSIの標準化を引き継がせ、1985年に応用層の新プロトコルを標準化項目に追加した。その後現在まで、拡張や新たなプロトコルの制定が続けられている。
TCP/IPとOSI参照モデル編集
TCP/IPの基本仕様は1982年頃にはほぼ固まっており、OSI参照モデルは1984年に完成した。当初の予定ではOSI参照モデルを基に、準拠した通信機器やソフトウェアが開発・製品化していくはずであったが、TCP/IPが1990年代中ごろから急速に普及したため、OSI準拠製品は普及しなかった。
回線速度と通信速度編集
ISDNやADSLやIEEE 802.3等で表記される回線速度は第2層のことであり、例えばファイル転送で計測する通信速度とは異なる。ファイル転送で計測する速度は実アプリケーションから見た速度であって、通常は第3層以上の各種制御情報が付記されるため、回線事業者の謳う回線速度より若干低い値となる。
比喩編集
米国では、OSI参照モデルの7階層モデルを拡張して技術的でないことまで指し示してしまう、というジョークもある。良く知られているのは10階層モデルであり、「第8層ユーザ層」「第9層財務層」「第10層政治層」あるいは「第8層お金層」「第9層政治層」「第10層宗教層」などとなっている。
ネットワーク技術者が「第8層問題だよ」と言っていれば、それは「ネットワーク自体には問題は無くて、エンドユーザに問題があるんだよ」という意味である。同様に、財務層に問題があるとはコストの面で問題があるということ。お金で解決できることは決して少なくない。政治層は、社内政治や導入に関連するSI同士の競合によって導入できる技術仕様に制限がかかる、といった状況を指す。宗教層は「信ずるもの」の意味である。導入責任者の技術志向性や信念等が相当する。
OSIモデルをタコベルモデル(7段重ねのブリートで有名)と比喩することもある。
「第0層土建層」(有線ネットワークを敷設する建物の構造)という比喩もある。
OSIモデルを”あぷせとねでぶ”と頭文字を取って学習することがある。
関連書籍編集
- 『OSIプロトコル絵とき読本』(初版)オーム社(1987年発行) ISBN 4-274-07379-3
- 『OSIプロトコル絵とき読本』(改版)オーム社(1989年発行) ISBN 4-274-07530-3
注釈・出典編集
- ^ (注)OSI参照モデルの第7層における「アプリケーション」とは、あくまでHTTPやFTP等の通信サービスのことであり、いわゆる「アプリケーションソフト」の意味ではない。また "ユーザーが操作するインターフェース" のことでもない これは頻繁に誤解されていることなので注意が必要である。第七層も一般ユーザーには直接には全く見えない形で、メーリングソフトやホームページ作成公開ソフト等のアプリケーションソフトの背後で動作しているものである。
- ^ ITU-T Recommendation Q.1400 (03/1993), Architecture framework for the development of signalling and OA&M protocols using OSI concepts, pp 4, 7.