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PhyloCode (ファイロコード) は、正式名称を International Code of Phylogenetic Nomenclature (系統学の学名命名法の国際規則)といい、系統学の学名命名規則を規定する公式な規則の草案である。最新版では、名の管理を既存の階級主体の命名規則 (ICN,ICZN,ICNB,ICTV)の精度を維持しながらも、特別にクレードの命名を規定できるようにしている。

PhyloCodeは、ISPNの管理下にある[1]

分岐学の観点を重視した命名規則編集

PhyloCodeは、ホモニム[2]またはシノニム[3]そしてシノニムまたはホモニムの一組といったもので承認されることが見込まれるもの(一般に最初に登録されたもの)といった制定検討中である学名とその定義についてどのように決定するかのルールを提供することによって、系統学上の命名規定を提案するものである[4] 。PhyloCodeは、側系統群多系統群から由来するタクソン名ではなく、単系統群クレードのタクソン名のみを適正なものとし[5]標本・種・共有派生形質といった分岐学の観点からのみを公式の学名の基準と見做す[6]。ただし、PhyloCodeは、既存の学名を置き換えるものではなく、あくまでその補完をするものである[7][8]

系統学上の命名規則編集

階級主体の命名規則 (ICN,ICZN,ICNB,ICTV)とは異なり、PhyloCodeは階級の使用を必要としていないが、補足的なものとしての使用は出来る[9][10]。階級主体の命名規則は、(などの)階級を使用してのタクソンを定義し、多くの場合においてタイプ標本またはタイプのサブタクソン(学名におけるタクソン識別情報の補足部分[11])を定義している。タイプ以外のタクソンの正確な内容は、階級主体の命名規則では明記されていない。

対照的に、系統学上の命名規則においては、タクソンの内容は系統学(すなわち祖先および子孫)に基づいた定義を用いて区切られ、実際の生物を指定する為に、種・標本・共有派生形質といった観点を使用する。定義の公式は共通の祖先かどうかを基準とする。定義された分類群は、その祖先とその子孫の全てを範疇とする。それゆえ、系統学的に定義された分類群の内容は、系統発生仮説に依存している。

系統発生の定義のタイプの例を下記に示す(太字は指定基準を表わす):[12]

  • 分岐点(ノード)主体型: 「AとBの最も近い共通祖先に由来するクレード」または「AとBを含む最も包括的なクレード」。
  • 枝(ブランチ)主体型: 「AとZよりもAの最も近い共通祖先を共有するすべての生物または種からなるクレード」または「Aを含むがZは含まない最も包括的なクレード」。別名は ステム主体型 である。
  • 共有派生形質(アポモルフィー)主体型: 「Aが遺伝する共有派生形質Mを有する最も近い共通祖先の生物または種に由来するクレード」。

生物の系統発生学的関係や類型学だけでなく、関連する生物が今も存在しているかどうかを考慮して、他の種類の定義も可能である。

以下の表は、階級を持つ従来の命名規則でもクレードの系統学上の定義の例を示す。 以下の哺乳動物の定義のように、ノード主体型の定義におけるすべての指定基準が現存する標本または種である場合、 クラウン生物群が定義される。(哺乳動物の伝統的な定義は、クラウン生物群の外側にあるいくつかの化石で発見された生物グループを含めて、それほど限定されたものではない[13]。)

学名 階級 タイプ 可能な系統発生の定義
ティラノサウルス科
Tyrannosauridae
ティラノサウルス
Tyrannosaurus

Osborn 1905年
Tyrannosaurus rex Osborn 1905年」 ,「Gorgosaurus libratus Lambe 1914年」 ,「Albertosaurus sarcophagus Osborn 1905年」 を含む最小限のクレード
哺乳類
Mammalia
クラス N/A ヒトの最も近い共通の祖先である「Homo sapiens Linnaeus 1758年」からカモノハシの最も近い共通の祖先である「Ornithorhynchus anatinus Shaw 1799年」 までを含むクレード
齧歯目
Rodentia
N/A トウブワタオウサギの最も近い共通の祖先である「Sylvilagus floridanus Allen 1890年」を含む最も包括的なクレードではなく、ハツカネズミの最も近い共通の祖先である「Mus musculus Linnaeus 1758年」しか含まないクレード
鳥類
Neornithes
(現代の鳥類)
サブクラス N/A イエスズメの最も近い共通の祖先である 「Passer domesticus Linnaeus 1758年」 を含む包括的なクレードであるが、恐竜ステゴサウルス である「Stegosaurus armatus Marsh 1887年」までは包括しない
四肢動物
Tetrapoda
スーパークラス N/A Homo sapiens Linnaeus 1758年」 などの、指または足指の付いた)を受け継いだ最も初期の祖先に由来するクレード

バージョン編集

PhyloCodeの草案は何回かの改訂を経ている。 古いバージョンはすべてWebサイトに残してある。 2018年11月時点でのバージョンは4cである。

構成編集

他の命名規則と同様に、PhyloCodeの規則は条項として構成され、次に章として構成されている。各条項には、注釈、例、および推薦状も含まれている。

目次編集

登録データベース編集

一度実装されると、 PhyloCodeは "RegNum" と呼ばれる登録データベースに関連付けられ、承認されることが想定される全てのクレード名と定義が保存される[14]。クレード名を定義に関連づける為のパブリックで利用可能なツールが提供され、(TreeBASEなどの) 系統樹データベースを介して、サブタクソンや標本などのセットと関連づけられることが期待されている。

しかしながら、現在計画されているように、 "RegNum" の最重要な使用目的は、保存の場合を除けば、最少の登録番号を持つシノニムまたはホモニムの内のどのデータのものを選択するかの決定である。

歴史編集

(Condensed from the PhyloCode'の序文[15]の要約)

PhyloCodeは、1998年8月にハーバード大学でワークショップを開き 、その範囲と内容について決められた。ワークショップ参加者の多くは、後でプロジェクトに加わった他の数人の人々とともに、諮問グループとして働いた。 2000年4月、ウェブ上で草案が公開され、科学者コミュニティからコメントが求められた。

2002年7月にイェール大学で第2回ワークショップが開催され、PhyloCodeの規則と推薦にいくつかの変更が加えられた。 他の改訂も時折実施されている。

2004年7月6日から2004年7月9日までフランスパリで開催された第1回国際系統学命名会議には、11ヶ国からおよそ70名の体系学者進化生物学者が参加した[16]。これは、系統学的な命名規則に全面的に焦点を当てた最初の公開された複数日開催の会議であり、ISPNの発足の場を提供するものになった。ISPNの会員は、PhyloCodeのコンセプト作りの初期段階を監督した諮問グループの役割を引き継いだ系統学的命名委員会(CPN)を選出した。

2006年6月28日から2006年7月2日まで、米国コネチカット州ニューヘイブンにあるイェール大学で第2回国際系統発生学会が開催された[17]

第3回国際系統学命名会議は、2008年7月21日から2008年7月22日までカナダノバスコシア州ハリファックスにあるダルハウジー大学でで開催された。

影響編集

PhyloCodeの理論的基盤は、系統樹の一部を参照することでタクソン名を定義することができたという初期の示唆によって始まりとなる[18]デ・ケイロスゴーティエによる一連の論文で創られた[19][20][21]

可能な限り、 PhyloCodeの命名者は、モデルとして階級主体のアプローチを単一の規則に統一しようとしたBioCodeの草案を使用した[22]。それゆえ、PhyloCodeの構成、その専門用語のいくつかと特定の規則の表現はBioCodeに由来する。他の規則では、特に植物学[23][24][25]動物学[26][27]で階級主体の規則が1つかそれ以上は由来している。しかしながら、PhyloCodeの多くのルールは、代替となるような体系の定義基盤の根本的な相違の為に、分類学上の階級に基づく規則には対応しない。

将来編集

PhyloCodeは議論の余地があり、何人かの分類学者からかなりの批判を受けた[28]。10年以上前に発足したが、PhyloCodeの普及を促進する支持者の数は依然として少ない。2018年の時点で、規則が実施されたとしても、実際にどれほど広範に実施されるようになるかは不透明である。一部の支持者は、少なくとも最初は、関連する登録データベース "RegNum" に付随する一連の規則としてのみ実装すべきだと考えており、科学者らのコミュニティによる受け入れは、クレード名とその定義を見つけるためのユーティリティとしての "RegNum" の利用普及への段階に移れるかもしれない。

PhyloCodeの公開された批評のリストは、反論のリストと同様に、ISPNのウェブサイトで見ることが出来る。

脚注編集

  1. ^ International Society for Phylogenetic Nomenclature (website)”. Phylonames.org. 2010年7月7日閲覧。
  2. ^ International Code of Phylogenetic Nomenclature, Version 4b - Article 13: Homonymy”. ohiou.edu. 2010年7月7日閲覧。
  3. ^ International Code of Phylogenetic Nomenclature Version 4b, Article 14: Synonymy”. Ohiou.edu. 2010年7月7日閲覧。
  4. ^ International Code of Phylogenetic Nomenclature, Version 4b - Chapter II. Publication”. Ohiou.edu. 2010年7月7日閲覧。
  5. ^ International Code of Phylogenetic Nomenclature, Version 4b - Rule 1.1”. Ohiou.edu. 2010年7月7日閲覧。
  6. ^ International Code of Phylogenetic Nomenclature, Version 4b - Article 11. Specifiers and Qualifying Clauses”. Ohiou.edu. 2010年7月7日閲覧。
  7. ^ The PhyloCode”. オハイオ大学. 2018年11月27日閲覧。
  8. ^ SDictionary (2015年4月15日). “PhyloCode Meaning”. YouTube. 2018年11月27日閲覧。
  9. ^ International Code of Phylogenetic Nomenclature, Version 4b - Article 3. Hierarchy and Rank”. Ohiou.edu. 2010年7月7日閲覧。
  10. ^ Although note that the PhyloCode does not permit a taxon's name to change when its rank changes, while the rank-based codes require this for at least some names.
  11. ^ Definition of 'subtaxon'”. Collins. 2018年11月27日閲覧。
  12. ^ International Code of Phylogenetic Nomenclature, Version 4b - Article 9. General Requirements for Establishment of Clade Names”. Ohiou.edu. 2010年7月7日閲覧。
  13. ^ Anderson, Jason S. (2002). “Use of Well-Known Names in Phylogenetic Nomenclature: A Reply to Laurin”. Systematic Biology 51 (5): 822–827. doi:10.1080/10635150290102447. PMID 12396594. http://sysbio.oxfordjournals.org/content/51/5/822.full.pdf 2011年12月28日閲覧。. 
  14. ^ http://www.ohio.edu/phylocode/art8.html
  15. ^ International Code of Phylogenetic Nomenclature, Version 4b - Preface”. Ohiou.edu. 2010年7月7日閲覧。
  16. ^ Laurin, M.; P. D. Cantino (2004). “First international phylogenetic nomenclature meeting: a report”. Zool. Scr. 33 (5): 475–479. doi:10.1111/j.0300-3256.2004.00176.x. 
  17. ^ Laurin, M.; P. D. Cantino (2007). “Second meeting of the International Society for Phylogenetic Nomenclature: a report”. Zool. Scr. 36: 109–117. doi:10.1111/j.1463-6409.2006.00268.x. 
  18. ^ Ghiselin, M. T. (1984). “"Definition," "character," and other equivocal terms”. Syst. Zool. (Society of Systematic Biologists) 33 (1): 104–110. doi:10.2307/2413135. JSTOR 2413135. 
  19. ^ de Queiroz, K.; J. Gauthier (1990). “Phylogeny as a central principle in taxonomy: Phylogenetic definitions of taxon names”. Syst. Zool. (Society of Systematic Biologists) 39 (4): 307–322. doi:10.2307/2992353. JSTOR 2992353. 
  20. ^ de Queiroz, K.; J. Gauthier (1992). “Phylogenetic taxonomy”. Annu. Rev. Ecol. Syst. 23: 449–480. doi:10.1146/annurev.es.23.110192.002313. 
  21. ^ de Queiroz, K.; J. Gauthier (1994). “Toward a phylogenetic system of biological nomenclature”. Trends Ecol. Evol. 9 (1): 27–31. doi:10.1016/0169-5347(94)90231-3. PMID 21236760. 
  22. ^ Greuter, W.; D. L. Hawksworth; J. McNeill; A. Mayo; A. Minelli; P. H. A. Sneath; B. J. Tindall; P. Trehane et al. (1998). “Draft BioCode (1997): the prospective international rules for the scientific names of organisms”. Taxon (International Association for Plant Taxonomy (IAPT)) 47 (1): 127–150. doi:10.2307/1224030. JSTOR 1224030. 
  23. ^ Greuter, W.; F. R. Barrie; H. M. Burdet; W. G. Chaloner; V. Demoulin; D. L. Hawksworth; P. M. Jørgensen; J. McNeill et al. (1994). International Code of Botanical Nomenclature (Tokyo Code). Koeltz Scientific Books, Königstein, Germany. ISBN 1-878762-66-4. 
  24. ^ Greuter, W.; F. R. Barrie; H. M. Burdet; V. Demoulin; T. S. Filgueiras; D. L. Hawksworth; J. McNeill; D. H. Nicolson et al. (2000). International Code of Botanical Nomenclature (Saint Louis Code). Koeltz Scientific Books, Königstein, Germany. 
  25. ^ McNeill, J.; F. R. Barrie; H. M. Burdet; V. Demoulin; D. L. Hawksworth; K. Marhold; D. H. Nicolson; J. Prado et al. (2006). International Code of Botanical Nomenclature (Vienna Code). Gantner, Ruggell, Liechtenstein. ISBN 3-906166-48-1. 
  26. ^ International Commission on Zoological Nomenclature (1985). International Code of Zoological Nomenclature (3rd ed.). International Trust for Zoological Nomenclature. ISBN 0-85301-006-4. 
  27. ^ International Commission on Zoological Nomenclature (1999). International Code of Zoological Nomenclature (4th ed.). International Trust for Zoological Nomenclature. ISBN 0-85301-006-4. 
  28. ^ Nixon, K.C., Carpenter, J.M. & Stevenson, D.W. (2003): The PhyloCode Is Fatally Flawed, and the "Linnaean" System Can Easily Be Fixed. The Botanical Review no 69(1): pp111-–120 article

文献編集

外部リンク編集