R.A.V.対セントポール市事件

R.A.V.対セントポール市事件(アールエーブイたいセントポールしじけん、R.A.V. v. City of St. Paul)505 U.S. 377 (1992)[1]は、アメリカ合衆国連邦最高裁判所が全会一致でセントポールヘイトスピーチ禁止条例はアメリカ合衆国憲法修正第1条が規定する表現の自由条項に反しているとして違憲判決を出し、 アフリカ系アメリカ人の住宅の敷地で十字架を焼却したため罪に問われたR.A.V.と呼ばれる10代の被告人の有罪判決を取り消した裁判。

R.A.V.対セントポール市事件
弁論:1991年12月4日
判決:1992年6月22日
事件名: R.A.V., Petitioner v. City of St. Paul, Minnesota
裁判記録番号: 90-7675
前史 Statute upheld as constitutional and charges reinstated, 464 N.W.2d 507 (Minn. 1991)
弁論 口頭弁論
裁判要旨
セントポール市のヘイトスピーチ禁止条例は表現の「特定の主題」の「内容」を規制基準としており、「喧嘩言葉」と保護された表現の両方を過度広範に禁止しているため違憲である。ミネソタ州最高裁判所の判決を取り消した。
裁判官
意見
多数意見 スカリア
賛同者:レンキスト、ケネディ、スーター、トーマス
同意意見 ホワイト
賛同者:ブラックマン、オコナー、スティーブンス(一部)
同意意見 ブラックマン
同意意見 スティーブンス
賛同者:ホワイト、ブラックマン(一部)
参照法条
アメリカ合衆国憲法修正第1条; St. Paul, Minn., Legis. Code § 292.02 (1990)

判決の内容 編集

この事件においては、条例を違憲とした結論は9人の判事全員が一致した所であったが、アントニン・スカリアが執筆し、ウィリアム・レンキストアンソニー・ケネディデイヴィッド・スータークラレンス・トーマスの5人が同調した多数意見と、その他の4人の判事が支持した同意意見は大きく内容を異にするものであった。

4人の少数派の判事が支持した同意意見は、「喧嘩言葉」である場合にはヘイトスピーチを処罰することを容認していた。一方、スカリアをはじめとする多数意見を支持した判事たちは、本条例が表現の自由における見解中立原則に反することを問題視した。見解中立原則とは、国家が特定の立場に与するような表現規制を行うことを禁じる原則であり、例えばリベラルな表現は容認し、保守的な表現は規制するという対応を取ることは絶対的に禁じられる。

多数派の判事らは、セントポール市のヘイトスピーチ禁止条例は、レイシストが酷く罵られることを容認している一方で、レイシストがそれに対して黒人やユダヤ人に対して罵り返す権利を不当に奪っていると考えた。スカリアは、この状況を「論争の片方の陣営にクインズベリー・ルールの順守を義務付ける一方で、片方の陣営にはフリースタイルで戦う許可を与える権限を、セントポール市は持っていない」と批判し、セントポール市の条例はヘイトスピーチを狙い撃ちしていることこそが問題の本質であるとされ、違憲無効とされた[2]

影響 編集

この判決を先例として、スタンフォード大学のヘイトスピーチ規制に違憲判決(コリー対スタンフォード大学事件、1995年)が出た。また、自治体や大学は独自に設けていたヘイトスピーチ規制を廃止する動きを見せた[3]

参考文献 編集

  1. ^ R.A.V. v. City of St. Paul, 505 U.S. 379 (1992).
  2. ^ エリック・ブライシュ『ヘイトスピーチ 表現の自由はどこまで認められるか』明石書店、2014年、138-140頁。ISBN 9784750339504 
  3. ^ 『アメリカ憲法判例の物語』小谷順子成文堂、2014年)150ページ ISBN 978-4792305604

関連項目 編集

外部リンク 編集