TAJIMA号事件(たじまごうじけん)とは、2002年4月7日[1]ペルシャ湾から姫路港に向け台湾沖の公海上を航行中のタンカーTAJIMA号上で発生した殺人事件である[2]

概要 編集

TAJIMA号は、日本郵船が全額出資してパナマ国内に設立したウェルマウス・プロプリエタリィ社が所有し、日本の共栄タンカーが運航するパナマ船籍のタンカーであった[3]2002年4月7日台湾沖の公海上を航行中の同船から日本人二等航海士行方不明になったと第十一管区海上保安本部に通報があった。海上保安本部の巡視船と台湾当局が協力して捜索にあたったものの二等航海士は発見できなかった。その後日本人船長宛に、フィリピン人乗組員が同人を殺害し海中へ投げ込むのを目撃したとの乗組員の密告があったため、船長は警察権を行使し容疑者二名を船内で拘束するとともに[4]、海上保安本部へ援助要請を行った[5]4月12日に同船は姫路港へ入港し、パナマ側の要請により海上保安官による現場検証が行われた[5]。 しかしながら当時の日本国刑法には公海上の外国籍船内で外国人により日本人が殺害された場合の処罰規定が設けられていなかったため、旗国であるパナマが唯一刑事裁判管轄権を持つ事になり[6]日本政府はパナマの要請がない限り一切介入できないが、同国から被疑者の収監・送還の要請があれば直ちに対応するという立場をとった[4]

パナマ政府英語版翻訳や本国での検討のため返答が遅れたが[4]、37日後の5月14日に日本政府へ仮拘禁を請求し、これに基づき海上保安庁がフィリピン人乗組員の身柄を拘束した。その後パナマ政府は犯罪人引渡し請求を行い、日本政府は9月6日になりパナマ政府へ両名を引き渡した[3]

2005年5月18日に始まった公判で、パナマの第二高等裁判所は二名の乗組員に無罪を言い渡した[7][8]

影響 編集

内水にある外国船に対する沿岸国の刑事管轄権について国連海洋法条約に明確な規定はない[4]。このため、旗国からの要請なく日本国が自ら管轄権を行使し犯罪行為者の拘束等を行う国内法的根拠を設ける必要性が議論され、2003年の第156回通常国会において国民以外の者の国外犯規定である刑法第3条の2が追加された。

参考文献 編集

  1. ^ 「タジマ」事件/被疑者2人を拘束・下船。船協、法制整備など要請へ”. 日本海事新聞社. p. 1面 (2002年5月16日). 2013年5月4日閲覧。
  2. ^ 「TAJIMA」号事件、解決の行方は?~公海航行中のパナマ船で日本人船員行方不明~”. 海洋政策研究財団 (2002年5月20日). 2013年5月4日閲覧。
  3. ^ a b 第156回国会 法務委員会 第12号”. 国立国会図書館 (2003年5月13日). 2013年5月4日閲覧。
  4. ^ a b c d 林 司宣 (2002年8月20日). “タンカー「タジマ」船内の船員殺害事件への対応は適切であったか”. 海洋政策研究財団. 2013年5月4日閲覧。
  5. ^ a b 海洋白書 2004創刊号 日本の動き 世界の動き”. 海洋政策研究財団. 2013年5月4日閲覧。
  6. ^ 海上保安レポート”. 海上保安庁. 2013年5月4日閲覧。
  7. ^ 用語解説”. 全日本海員組合. 2013年5月4日閲覧。
  8. ^ 吉田 晶子 (2007年7月). “国際海事条約における 外国船舶に対する管轄権枠組の変遷に関する研究”. 国土交通省 国土交通政策研究所. p. 87. 2013年5月4日閲覧。