U規格(ユーきかく)とは、世界初の民生用(家庭用)カセット式VTRの規格。

U規格カセットテープ
ソニー U規格VTR BVU-800

1969年10月29日ソニー(現:ソニーグループ)、松下電器産業(現:パナソニックホールディングス)日本ビクター(現:JVCケンウッド)等が発表し、1971年10月10日にソニーが「Uマチック」という商標で発売した。1972年1月には松下が「Uビジョン」、同年4月にビクターが「U-VCR」の商標で発売したが、ソニーの製品が有名なことから、他社製品でも「Uマチック」と呼ばれることもある。テープが非常に巨大であったことから、「ドカベンカセット」などの通称もあった。

概要 編集

それまでのVTRはオープンリール方式がほとんどだったが、U規格は民生用としての使いやすさを考慮し、19mm(3/4インチ)テープを使ったカセット方式が採用された。

記録はヘリカルスキャン方式で、名称はそのローディングの形がUの字に似ていることからつけられたと言われる。

通称の「シブサン」(3/4インチからの命名)は、業務用として放送局に普及する頃に名づけられたもの。

民生用として発売され、落語などが収録されたパッケージソフトも発売されたものの、カラーテレビが普及し始めた当時、まだ高価だったVTRが一般家庭に受け入れられることは無く、ほとんど普及しなかった。一般家庭へのVTRの普及は、ソニーのBetamax規格やビクターのVHS規格の登場を待つこととなる。ただし、両規格とも画質ではU規格に及ばなかったため、それ以前にU規格のビデオデッキを購入したマニア層のほか、学校や企業研修施設などの業務ユーザーは、その後も長くU規格のビデオデッキを使い続けることとなった。

ポータブル型が登場してからは放送業務用途として、従来のフィルム取材に代わり小型化されたビデオカメラと共に用いられ、電子ニュース取材(ENG)方式の普及に大きく寄与した。当初、日本国内においてはその大きさと画質の点からフィルム取材が続けられたが、アメリカにおいて重大イベントや事件・事故の際にフィルムと違い現像が要らず、すぐに送出できる速報性が認められ、さらにポータブルタイプの3/4インチS(スモールカセット)が開発されてバッテリー駆動のポータブルビデオと、軽量小型化されたカラーカメラも開発されたため、1974年ごろからCBS・NBCなどの大量採用があって急速に普及し、日本国内でもこの方式が普及することとなった。

またソニーでは、更なる高画質化のため、ハイバンド化したUマチックSPも開発・発売した。ただし3/4インチテープを使用するためにどうしてもカセットが大きくなり、カムコーダー(ビデオ一体型カメラ)の実現が不可能のため、1980年代に入ると1/2インチテープを使った放送用の後継フォーマットの開発が行われた。1981年には松下電器からVHSをもとにM規格が、翌1982年にはソニーからベータマックスをもとにベータカムが発売され、放送用・業務用の現場において徐々に交代していった。

2000年6月にU規格のVTRの生産が終了し、規格制定から数えて31年の歴史に幕を下ろした。

PCM音声記録用途 編集

1980年代に音声をデジタル化して映像信号として記録することができるPCMプロセッサーが登場。プロ(大手レコード会社)の音楽製作においてはCD-RPMCDDDP)の信頼性が高まるまでの間、プレス工場へ搬入するマスターメディアのデファクトスタンダードとして用いられることとなった[1]

とりわけ、ソニー・ミュージックエンタテインメントでは2001年前半まで盛んに使用され[2]、同社市ヶ谷スタジオにはアーカイブス再生用途に再生機材を配置している[3]

諸元 編集

  • 外形寸法:186mm×123mm×32mm
  • テープ幅:19mm(3/4インチ)
  • 走行速度:9.53cm/s
  • 収録時間:60分

脚注 編集

  1. ^ 井口啓三のサウンドblog 2009年1月17日 - レコーディングディレクターの個人ブログ記事
  2. ^ HIT&RUN 宮ちゃん教えて!! Q94 - ソニー・ミュージックアーティスツのマスタリングエンジニアの回答
  3. ^ ソニー・ミュージックスタジオ アーカイブ

関連項目 編集