UH-2
UH-2(英語: Utility Helicopter-2、ユーエイチツー、ユーエイチに)は、陸上自衛隊の多用途ヘリコプターである。陸上自衛隊の次期多用途ヘリコプター導入計画、UH-X(英語: Utility Helicopter-X、ユーエイチエックス)での検討を経て、2015年(平成27年)7月17日、富士重工業(現・SUBARU)とベル・ヘリコプターがベル 412EPIをベースとして共同開発した412EPXが選定され[1]、2021年(令和3年)6月24日にUH-1Jの後継機たる、UH-2として正式に部隊使用承認がなされた[2][3]。ヘリコプター映像伝送装置または赤外線監視装置を搭載する[4]。2021年度より部隊配備を開始した。
概要
編集UH-Xは陸上自衛隊が採用しているUH-1HおよびJの後継ヘリコプター開発計画で、UH-1Hは、ベル・エアクラフトが開発した多用途ヘリコプターで、2014年現在運用中のUH-1JはUH-1Hを富士重工業が独自に改良したものである。しかし、単発であるUH-1H・Jでは洋上などを飛行する際の安定性が不十分であり、航続距離も不足していることからUH-60Jとの併用を前提とした新しい双発多用途ヘリの導入が検討された。その結果、以下の要求が盛り込まれた。
- 高温・高標高領域での超低空飛行性能
- 長距離洋上飛行時の安定性
- (UH-1H・Jと比較して)速度および航続距離性能の大幅な向上
- UH-1Jと同等以下の価格(1機当たり12億円程度を想定)[5]
既存の多用途ヘリに該当する機種がないことから防衛省は国産開発を決定し、以下の案が候補として挙がった。
- 国産のOH-1をベースとした改造機
- UH-1J双発型
両者の比較検討の結果、OH-1改造案の採用が決定され、2012年3月に防衛省は、OH-1をベースに「新多用途ヘリコプター」を開発することを正式に決定し川崎重工業に発注した[6]。開発費用は7年間で280億円、140機生産の場合1機約10億円を見込んでいた[7][8]。
白紙化
編集しかし2012年9月、防衛省と関連企業は次期多用途ヘリコプターの開発・納入計画を巡る談合が行われていた疑いが強まったとして、東京地方検察庁特別捜査部の家宅捜索を受けた[9]ことが判明した。その後、防衛省は同談合疑惑に関与した佐官級幹部に対する告発状を同地検特捜部に提出した[10]。
特捜部はその後の調べで容疑に関与した幹部自衛官が川崎重工に対し競争相手(富士重工業)の内部資料を漏洩させるなどの事実をつきとめ、容疑者も任意の事情聴取に対しこれらの事実を認めたことから、官製談合防止法違反罪で刑事処分するとしていたが[11]、最終的に2名は略式起訴に留まった[12]。今回の事件と自由民主党への政権交代の影響を受けて開発計画そのものの白紙化も含めた再検討が行われ[13]、2013年1月11日にUH-X開発計画の白紙化と川崎重工との契約解除が決定された[14]。
防衛省は2013年7月30日、同談合に関与した職員に対する懲戒処分[15]を行うとともに、翌日には川崎重工に対する2ヶ月間の指名停止措置を行うことを発表した[16]。
国際共同開発
編集2014年4月29日、防衛省は、UH-Xとして民間機の転用を検討していることが報じられた[17]。これは2014年4月1日に武器輸出三原則に代わって制定された防衛装備移転三原則の影響もあるとされている。
2014年6月11日には、UH-Xに3つの国際企業連合が名乗りを上げていることが明らかになった。防衛省が主導する計画ながら、輸出を含め自衛隊以外の用途を視野に開発する初のケースとなる[5]。防衛省は、自衛隊専用に開発した場合に比べ、量産効果で価格を抑えることが可能になるとしており、関係者の1人は「基本的に民間に市場があるものを軍用機にカスタマイズする。売れ筋であれば価格も安定する」と話している[5]。
提案企業と機種は以下のとおり。
- 川崎重工業/エアバス・ヘリコプターズ
- 富士重工業 /ベル・ヘリコプター
- ベル412EPIをベースに陸自向けに仕様変更。
当初三井物産はアグスタ・ウェストランドと組みAW169を輸入し富士重工業が陸自向けに仕様変更する形での提案を検討したが、最終的に防衛省への提案は行われなかった。
候補機の比較
編集X9
編集- 機体
- エアバスが計画している4.5トンヘリコプターX9をベースとする。X9は2012年8月にユーロコプター社のルッツ・ベルトリンクCEOにより発表されたBK117やEC145の後継となる機体で初飛行は2019年、運用開始は2022年を予定している[21]。X9はBK117のコンセプトを踏襲して、胴体後部にクラムシェルドアを備え、規模を拡大した形の機体になると見られており、開発コストは10億ユーロと見積もられ[22]、X9をベースとした武装・偵察型の開発も行われる。
- メリット
- 新型機であるため性能旧式化の可能性が少ない。
- デメリット
- 原型とするX9はまだ初飛行していない。
ベル 412EPI
編集- 機体
- ベル 412はベル 205(UH-1D/Hの民生機)を双発化したベル 212をベースにエンジンをPT6T-3Dに換装し、メインローターの枚数を4枚に増やした改良型であり、EPIはその最新モデルである。
- メリット
- デメリット
- 基本設計が古く将来の発展性に疑問が残る。
機種決定
編集防衛省では、2015年(平成27年)度予算案にUH-Xの開発費として10億円を計上して業者選定を進め、2015年2月25日に、企画競争参加希望者募集要項を公示した。提案書は6月2日までに締め切られた[23]。
2015年7月15日、防衛省は「ベル412EPI改造開発機(のちのSUBARU ベル412EPX)」が選定されたと発表[24]、理由としては、選定基準で重視された国際共同開発の管理体制の面が影響しているとされている[1]。この決定に関して、エアバスが防衛省に説明を求める考えを明らかとし、防衛省を相手取った訴訟を視野に入れているとフィナンシャル・タイムズ紙が報道したが、エアバスの広報担当者は、そうした段階にはまだ至っていないと回答[25]、実際に訴訟は行われなかった。その後、防衛省は9月2日に開発プロジェクト立ち上げ事業について、富士重工と試作請負契約を締結したことを発表した[23]。尚、ベル412EPI改造開発機が選定されたことにより、武装・偵察型は白紙化となった。供試機(プロトタイプ)は、2019年2月28日、XUH-2として防衛装備庁に納入され[26]、3月8日に陸上自衛隊航空学校のある明野駐屯地に搬入された[27]。
運用開始
編集2021年6月24日、防衛省はUH-Xの開発試験が終了し、UH-2多用途ヘリコプターとして運用を開始することを発表した[3][28]。
UH-1のB型やH型の愛称である「ひよどり」や、J型の愛称ではなくコールサインから倣って、UH-2のコールサインは「ハヤブサ」となった。因みに操縦教育での学生機のコールサインは「ハリアー」とされている。
オプションとして機体には、ミサイル警報装置、拡声器、機体内部設置型の増槽、チャフ・ディスペンサー等が取り付けられる(機体番号45151にはミサイル警報装置とチャフ・ディスペンサーが取り付けられている)。
2022年5月19日、量産初号機の初飛行を実施し、6月30日に納入された。年内に6機の配備を予定し、以降も順次納入を計画している[29][30]。
配備
編集自衛隊向けのUH-2に関しては2021年から20年かけて1機12億円で150機を調達する予定[1]。
令和元年〜令和5年の中期防衛力整備計画では1機約18億円[注 1]で34機調達する[32]。
2024年3月末時点の保有機数は9機[33]。
調達数
編集予算計上年度 | 調達数 | 予算額
括弧は初度費(外数) |
---|---|---|
平成31年度(2019年) | 6機 | 110億円(53億円) |
令和2年度(2020年) | 0機 | - |
令和3年度(2021年) | 7機+13機[注 2] | 125億円+254億円 |
令和4年度(2022年) | 0機 | - |
令和5年度(2023年) | 13機 | 363億円 |
令和6年度(2024年) | 16機 | 462億円 |
合計 | 55機 | 1,314億円(53億円) |
配備部隊・機関
編集配備
性能諸元
編集- 乗員:1名
- 乗客:14名
- 全長:17.13 m(胴体長 12.91 m)
- ローター直径:14.02 m
- 全高:4.54 m
- エンジン:プラット・アンド・ホイットニー・カナダ PT6T-9ターボシャフトエンジン(ツインパック)
- 空虚重量:3,091 kg
- 最大離陸重量:5,534 kg(機内搭載時)、5,897 kg(機外吊り下げ時)
- 航続距離:669 km(離陸重量:5,534 kg時)
- 最大速度:259 km/h=M0.21
- 巡航速度:228 km/h=M0.19(離陸重量:5,534 kg時)
- 実用上昇限度:4,791 m(離陸重量:5,534 kg時)
登場作品
編集脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ a b c “防衛省、陸自の次期ヘリ開発に富士重と米ベルを選定”. ロイター. (2015年7月17日)
- ^ 防衛省・自衛隊 [@ModJapan_jp] (2021年2月25日). "【平和をまもる✨】UH-2". X(旧Twitter)より2021年9月18日閲覧。
- ^ a b 『新多用途ヘリコプター(UH-2)の開発完了について』(PDF)(プレスリリース)防衛省、2021年6月24日 。2021年9月18日閲覧。
- ^ J-Wings. イカロス出版株式会社. (2015年10月号). p. 6-7
- ^ a b c “自衛隊の次期ヘリ開発、川重・エアバスなど3連合が名乗り=関係筋”. ロイター. (2014年6月11日)
- ^ “新多用途ヘリコプター(UH-X)を受注”. 川崎重工公式サイト. (2012年3月28日)
- ^ “多用途ヘリ 川重に決定 防衛省”. 東京新聞. (2012年3月7日). オリジナルの2014年10月10日時点におけるアーカイブ。
- ^ “川崎重工、防衛省から陸上自衛隊向けの新多用途ヘリコプター(UH-X)を受注”. 日経プレスリリース. (2012年3月28日). オリジナルの2012年5月11日時点におけるアーカイブ。
- ^ “佐官級幹部が漏洩か、川崎重工などに入札情報”. MSN産経. (2012年9月6日). オリジナルの2012年12月6日時点におけるアーカイブ。
- ^ “防衛省が告発状提出、次期多用途ヘリコプター開発不正疑惑”. MSN産経. (2012年10月2日). オリジナルの2013年1月4日時点におけるアーカイブ。
- ^ “富士重工の内部資料手渡す、防衛省幹部来週にも刑事処分”. MSN産経. (2012年12月15日). オリジナルの2013年1月3日時点におけるアーカイブ。
- ^ “2等陸佐2人を略式起訴 防衛ヘリ談合で東京地検 「利益供与なく悪質性低い」”. MSN産経. (2012年12月20日). オリジナルの2012年12月20日時点におけるアーカイブ。
- ^ “次世代ヘリ白紙化も、尖閣防衛に影響”. MSN産経. (2012年12月21日). オリジナルの2013年1月1日時点におけるアーカイブ。
- ^ “陸自ヘリ開発「白紙」 官製談合事件で小野寺防衛相”. MSN産経. (2013年1月11日). オリジナルの2013年1月11日時点におけるアーカイブ。
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- ^ “防衛省、UH-X新規国内開発を断念か?”. FlyTeam. (2014年4月29日)
- ^ Jウイング 2015年 4月号 p.95-96
- ^ “Airbus Offers X4 For Japanese Army UH-X”
- ^ “Airbus Pitched All-New ‘UH-X’ for Japan, and Hasn’t Given Up” (英語). ROTOR&WING INTERNATIONAL. (2015年9月21日)
- ^ “Eurocopter Developing a Number of New Helicopters” (英語). AINonline. (2013年3月3日)
- ^ “Eurocopter plant neuen Hubschrauber” (英語). Handelsblatt. (2012年8月3日)
- ^ a b “防衛省、陸自UH-X提案募集要項を公示”. FlyTeam. (2015年2月26日)
- ^ 『陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-X)の開発事業者決定について』(プレスリリース)防衛省、2015年7月17日。オリジナルの2015年8月1日時点におけるアーカイブ 。
- ^ “エアバス、陸自ヘリ受注失敗で防衛省に説明要求”. ロイター. (2015年8月26日). オリジナルの2015年8月26日時点におけるアーカイブ。
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- ^ 陸上自衛隊航空学校・明野駐屯地. “明野写真館”. 2019年12月25日閲覧。
- ^ 乗りものニュース編集部 (2021年6月25日). “自衛隊 新多用途ヘリコプター「UH-2」開発完了し運用スタート 防衛省”. 乗りものニュース (株式会社メディア・ヴァーグ) 2021年10月14日閲覧。
- ^ “スバルの陸自向けヘリ、量産初号機が初飛行 今年度に6機を納入”. 産経新聞 (2022年5月20日). 2022年5月21日閲覧。
- ^ a b “愛称「ハヤブサ」に 陸自最新ヘリUH-2教育スタート アナログ操縦おさらば 災害救助が変わる?”. 乗りものニュース. (2022年7月13日) 2022年7月24日閲覧。
- ^ “防衛力強化加速パッケージ -令和3年度補正予算の概要-”. 防衛省 (2021年11月26日). 2021年12月17日閲覧。
- ^ “第3節 中期防衛力整備計画(令和元年度~令和5年度)の概要”. 防衛省. 2019年12月25日閲覧。
- ^ “令和6年度防衛白書 P.52 資料6 主要航空機の保有数・性能諸元”. 防衛省. 2024年7月16日閲覧。
- ^ “防衛省・自衛隊:予算の概要”. 防衛省. 2023年3月30日閲覧。
- ^ 武若雅哉(軍事フォトライター) (2022年7月1日). “これぞ令和の陸自ヘリ 待望の新型「UH-2」スバルから引渡し UH-1から格段進化 フレア撒けます”. 乗りものニュース (株式会社メディア・ヴァーグ): p. 3 2022年7月9日閲覧。
- ^ 陸上自衛隊霞ヶ浦駐屯地@公式 [@CampKasumigaura] (2022年9月22日). "航空学校霞ヶ浦校は、航空機整備の教育を担任する機関として新多用途ヘリコプターUH-2を受け入れました。". X(旧Twitter)より2022年10月21日閲覧。
- ^ 陸上自衛隊 八尾駐屯地【公式】 [@JGSDF_YAO] (2024年4月24日). "【UH-2部隊配備】". X(旧Twitter)より2024年6月18日閲覧。
- ^ “自衛隊の最新ヘリ「UH-2」九州に配備スタート! 早速イベントで公開の予定 どこで見られる?”. 乗りものニュース (2024年7月13日). 2024年7月14日閲覧。
- ^ “SUBARU BELL 412EXP SPECIFICATIONS”. ベル・ヘリコプター社. 2022年6月5日閲覧。
- ^ “SUBARU BELL 412EPX”. 株式会社SUBARU. 2022年6月5日閲覧。
参考文献
編集- 小野, 正春「ふたたび俎上にのった陸自新多用途ヘリコプター導入問題 UH-X選定の行方を占う」『航空ファン』第63巻第9号、文林堂、2014年9月、70-73頁、NAID 40020158717。
- 吉岡, 秀之「何度も見送られた陸幕要求のOH-1ベースの国産案 一転してベル412EPIベースの国際共同開発に決定 陸自UH-Xの逆転劇は何故起きたのか!?」『軍事研究』第51巻第4号、ジャパン・ミリタリー・レビュー、2016年4月、40-49頁、NAID 40020754629。