エネファーム(ENE・FARM) とは、家庭用燃料電池コジェネレーションシステムの愛称である。2008年平成20年)6月25日燃料電池実用化推進協議会 (FCCJ) が家庭用燃料電池の認知向上を推進する取り組みとして、企業に関係なく統一名称を決定した。

エネファームは、家庭で電気とお湯を同時につくり出す家庭用燃料電池として、「エネルギー」と「ファーム=農場」を組み合わせて名付けられた。

また シンボルマークとして『人に地球にたくさんの実りをもたらす新エネルギーを表現した木』を採用。その木の実は、家庭用燃料電池がもたらす「電気」「お湯」「快適」「環境」「先進」「未来」など、さまざまな価値を表現している。家庭からのCO2排出削減に貢献し、未来の低炭素社会のエネルギーシステムの柱として普及することを目指している。

概要 編集

都市ガスLPガスから、改質器を用いて燃料となる水素を取り出し、空気中の酸素と反応させて発電する。発電時の排熱は給湯に利用し、エネルギーを有効活用するので、省エネルギーとなる。なお発電の際には、水素を用いるため二酸化炭素が発生しないが、改質で水素を取り出す過程では、二酸化炭素が排出される。

出力は発電出力700W(アイシンパナソニック)、400W(京セラ)。固体高分子形燃料電池(PEFC)と固体酸化物形燃料電池(SOFC)の2種類がある(長府製作所等ではSOFC型を「エネファームtype S」と呼称)。

災害による停電時でも発電できる機能を有しているため、新型コロナウイルス感染症での在宅避難の必要性から、エネファームのレジリエンス性が高く評価されている。

メリットとデメリット 編集

メリット 編集

  • 発電で発生した排熱を直接利用できるため、排熱を利用しないタイプの火力発電原子力発電と比べて、発電時のエネルギー利用効率が高い[1]コジェネレーションも参照のこと。
  • 自宅で発電をするため、送電ロスが無い。
  • ガス会社によっては、エネファーム専用料金プランを用意しており、ガス料金の割引を受けられる。
  • 給湯時の発電により、家庭で使用する4 - 6割程度の電力量をまかなえるため、電気料金が安くなる。
  • 補助熱源機を組み合わせて使用するため、湯切れの心配がない。
  • 設置時に補助金が支給される。
  • 停電時でも発電が可能。
  • 災害時には在宅避難が可能なため、レジリエンス性が極めて高い。
  • 発電の様子がリモコンの画面で確認できるので、電気に対する意識が高まり、省エネルギーにつながる。
  • 発電の際に発生する熱を捨てずに、お湯を作り給湯に利用するので、エネルギーをフルに活用できるシステムになる。
  • 売電契約をしていれば、余剰電力はガス会社に売れる(SOFC機)。

デメリット 編集

  • 発電時の排熱で貯湯タンク内のお湯を温めるシステムであるため、貯湯タンクを設置するためのスペースが必要になる。小型の場合エアコンの室外機ほどのスペースが必要である[2]
  • ガス給湯器と比べると、補助金制度はあるものの初期費用が高い。1機あたり100万円前後(前者は80万円以下)[3]
  • PEFC機は、貯湯タンクのお湯が沸ききると発電を止める仕組みのため、発電量がお湯の使用量に左右される。
  • 長時間にわたって低周波音を発生し、近隣住民とトラブルになるケースが報告されており、設置場所の検討は近隣への特段の配慮が必要とされる。(後述)
  • 発電所からのロスがないため、火力発電より効率は高いが、エコキュートと比べると熱効率は低い。ガスから水素へ改質する際に、二酸化炭素窒素化合物を排出する。
  • 2016年4月1日から電力自由化により、余剰電力の売電が可能となったが、買取価格が太陽光発電のように10年間固定ではない。

仕組み 編集

エネファームは大きく分けて下記のような6つの装置から構成される[4]

改質器
燃料(都市ガス・LPガス)を水蒸気改質し、水素ガスを得る
固体高分子形燃料電池スタック
改質器からの水素と空気中の酸素を反応させ、直流電力を発生させる(同時に熱も発生する)
インバータ
直流から交流への変換、系統連系に関する諸機能を司る
熱回収装置
改質器と燃料電池スタックから熱を回収し、温水を作る
貯湯槽
温水を貯めておく
バックアップ熱源
貯湯槽の温水が不足になった場合に温水を供給する

これにより、電力と熱の両方を得る。燃料の持つエネルギーの70 - 80%を利用可能とされる[5]

普及の動き 編集

  • 2001年3月燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)設立。日本における燃料電池の実用化と普及に向けた課題解決、政策提言を行い、日本における燃料電池の普及と実用化を目的として設立。
  • 2008年12月燃料電池普及促進協会(FCA)設立。燃料電池の関連業界等が、一体となって燃料電池の普及促進を図るとともに、CO2の削減に寄与することにより、日本における環境負荷軽減に資することを目的として設立。
  • 2008年にモニター試験が行われた。この際はライフエル (lifuel) 呼ばれた[6]
  • 2009年1月「家庭用燃料電池『エネファーム』普及に向け「エネファームで環境立国ニッポンへ」の共同宣言を実施。アストモスエネルギー株式会社、ENEOS株式会社、大阪ガス株式会社、西部ガス株式会社、東京ガス株式会社、東邦ガス株式会社、の6社が参加。
  • 2009年よりエネファームの名称にて販売が開始[4]。住宅メーカーなどで太陽光発電などとセットで採用される例もみられる[7]
  • 民生用燃料電池導入支援補助金制度が開始、燃料電池普及促進協会により2009年5月22日からの受付開始[8]。制度開始時の補助金額は上限140万円であるが、年々減少方向にある[要出典]。本制度は2020年まで継続的に実施。
  • 東京ガス東邦ガスではパナソニックから、また大阪ガスでは、東芝燃料電池システムENEOSセルテックから、製品の供給を受けている(いずれも長府製作所からのOEM)。
  • 2011年9月、コジェネ財団内にエネファームの全国普及促進を推進する事務局として『FCサポートネットワーク』を設立、エネファームの導入が進んでいる事業者やメーカーの支援を受けて全国的な普及促進活動を推進。
  • 2011年10月、JX日鉱日石エネルギー(現・ENEOS)が市販機としては世界で初めてSOFC型エネファームを発売(長府とダイニチ工業との共同開発品)[9]
  • 2012年7月、大阪ガスは東芝燃料電池システム、長府製作所と共同で開発した自立運転機能付きのエネファームを発売した。
  • 2013年4月、東京ガスはパナソニックと共同開発したエネファームの新製品を発売した[10]
  • 2013年5月、エネファームパートナーズ設立。エネファームの関連業界・団体が一堂に会し、住宅における省エネルギーおよびCO2削減を推進すべく設立。

キャッチコピー 編集

東京ガスでは、「エネルギーをつかう家からつくる家へ」というキャッチコピーを使っている[11]。実際には、無からエネルギーを生産するわけではなく、化学エネルギーから電気や熱を生み出すエネルギー変換である。

低周波騒音問題 編集

エネファームに限らず多くの家庭用コジェネレーションシステム、及びヒートポンプ給湯装置は、運転時にファンを駆動させるため低周波音が発生する。2017年12月、消費者庁の事故調査委員会から、エネファームの発する運転音と健康被害の関連を指摘する報告があった。主な健康被害は、頭痛、不眠、胸の圧迫感である。被害の個人差が大きく、エネファームから20メートル離れた寝室でも、運転音が伝わり不眠を訴えるという報告もあった。[12]

低周波音自体はエアコンの室外機や自動車のエンジンからも発生するものではあるが、エネファームの場合他の発生源に比べ音量が大きく、その作動原理上長時間かつ夜間にも発生するため問題となる。設置場所に対する構造上の制限が少ないことから、所有者の寝室よりも隣家の寝室の近くに設置される事態も起こり得、隣家が不眠を訴えても所有者は被害が実感できず、トラブルになる場合がある。前述の通り発症の個人差が大きいため、被害を訴えるのが一人だけであり、他の家族や所有者は聞こえない、感じないというケースもあり、被害の深刻さが理解されにくい面もある。

解決策として、機器の移設、ANC装置、マスキング音、防音エンクロージャー[12]が考えられ、一定の効果が見られる場合もある。大阪ガスが株式会社ササクラと協力してANC(Active Noise Control)装置「スポットサイレンサー」をエネファーム向けに開発した。費用は70万円であるが、2018年2月現在、使用実績がないため確実な効果があるかは不明。

製造メーカー 編集

かつて製造していたメーカー 編集

  • 東芝燃料電池システム
  • ENEOS(長府製作所からのOEM)[13]
  • 荏原製作所(製品化する事なく事業から撤退)

脚注 編集

関連項目 編集

外部リンク 編集