スリランカ連続爆破テロ事件
スリランカ連続爆破テロ事件（スリランカれんぞくばくはテロじけん）とは、2019年4月21日にスリランカの最大都市コロンボを始めとした国内の8か所で、連続的に発生した爆弾テロ事件の総称である[3]。当日はキリスト教の復活祭であり、教会や高級ホテルが狙われ、259人が死亡する惨事となった。
| スリランカ連続爆破テロ事件 | |
|---|---|
|
| |
|
連続爆破テロの分布図 （  : 教会、 : 宿泊施設） | |
| 場所 |
 スリランカ コロンボ |
| 日付 |
2019年4月21日 8:25 – 14:15 (スリランカ標準時) |
| 標的 |
教会 聖アンソニー教会（コロンボ） 聖セバスティアン教会（ニゴンボ） シオン教会（バッティカロア） 宿泊施設 シャングリ・ラ・ホテル（コロンボ） シナモン・グランド・ホテル（コロンボ） ザ・キングスバリー・ホテル（コロンボ） トロピカルイン（デヒワラ） 集合住宅 デマタゴダの団地（コロンボ） |
| 攻撃手段 | 爆発物による無差別攻撃 |
| 死亡者 | 259人[1][2] |
| 負傷者 | 500人[1] |
| 犯人 | ナショナル・タウヒード・ジャマア (NTJ) |
| 攻撃側人数 | 9人（実行犯） |
.jpg)
概要 編集
2019年4月21日の復活祭の日曜日、スリランカの3つのキリスト教の教会、ならびに最大都市コロンボの3つの高級ホテルが、連続して自爆テロの標的となった。さらに同日にデマタゴダの集合住宅とデヒワラのゲストハウスでも小規模な爆発があった。259人が死亡[1][2]（うち45名は外国人[4]）、負傷者も500人以上（警察官3名を含む）に上った[5][6][7][8][9]。ニゴンボ、バッティカロア、コロンボの各教会へのテロは、復活祭のミサの最中を狙って行われた。ホテルはシャングリ・ラ・コロンボ、シナモン・グランド、キングスバリーそれにトロピカルインが攻撃された[10][11][12][13]。スリランカの情報機関の調査によれば、第二波の攻撃も計画されていたが、政府の反撃により未然に阻止された[14]。
スリランカ政府の捜査の結果、自爆テロを行った9名の実行犯はいずれもスリランカ国民で、国外組織との繋がりも疑われる地元のイスラム過激派団体ナショナル・タウヒード・ジャマア (NTJ) の関係者であった。NTJは仏教徒やスーフィーへの攻撃で知られていた[15][16]。国防担当国務大臣のルワン・ウィジェワルダナは事件直後の4月23日、政府はこの事件をムスリムを狙った2019年3月15日のクライストチャーチモスク銃乱射事件の報復であると考えていると述べた[17][18][19][20]。しかし、両事件の直接の関連については、ニュージーランド政府や一部の専門家から疑問視されている。NTJは少なくとも2019年1月から爆発物を準備していた[21][22][23]。
2019年4月23日、ISIL系のメディアであるアマーク通信は「連合国の市民とスリランカのキリスト教徒を標的とした攻撃を実行したのは、ISの戦士だった」と報じた[24][25]。しかしながら、テロの被害者の大半はスリランカ人で、スリランカは反ISIL有志連合の一員ではなかった[26]。ISILの指導者と推測されているアブー・バクル・アル＝バグダーディーは、18分間のビデオの中でこの攻撃を褒め称えた[27]。しかしスリランカの犯罪捜査部は、事件へのISILの直接の関与を示す証拠は無く、犯行グループは独自に攻撃を行ったと分析している[28]。
攻撃 編集
スリランカ各地の教会やホテルが爆破された時刻は、キリスト教徒たちの復活祭のミサの最中であった。国内の礼拝中のキリスト教徒と、首都の海辺の高級ホテルで朝食中の観光客を狙い、爆発の順序と条件は最大の破壊を引き起こすために計画された。教会とホテルを狙った最初の6件の爆発は、全て自爆テロによって行われた[29]。
最初の爆発は、コロンボの歴史あるカトリック教会である聖アンソニー教会の聖堂で起こり、50人以上が死亡した。2件目の爆発は、コロンボの北に位置するキリスト教徒が多数を占める都市ニゴンボの聖セバスティアン教会で起こり[30]、100人以上が死亡した[31]。聖セバスティアン教会は、スリランカの主要空港でセキュリティレベルが高いバンダラナイケ国際空港にも近接している[29]。
さらに15分後に、スリランカ東海岸のバッティカロアで、プロテスタント福音派のシオン教会で3件目の爆発があり、30人が死亡した[32]。
スリランカのメディアは、コロンボの聖アンソニー教会とホテルでの爆発で、少なくとも40人が死亡したと報じた[33][5]。
| 時刻 (UTC+5:30) | 場所[35][36] |
|---|---|
| 8:25 AM | |
| 8:45 AM | ニゴンボ: 聖セバスティアン教会 |
| 9:05 AM | バッティカロア: シオン教会 |
| 9.15 – 9.20 AM | |
| 2:00 PM | デヒワラ: トロピカルイン |
| 2:15 PM | デマタゴダ: 集合住宅 |
犠牲者 編集
| 国籍 | 死者数 |
|---|---|
 スリランカ
|
215 |
 インド[37]
|
11 |
 イギリス[38]
|
8 |
 中国[39]
|
6 |
 デンマーク[40]
|
3 |
 オランダ[41]
|
3[注釈 1] |
 アメリカ[42][4]
|
3 |
 オーストラリア[43]
|
2 |
 サウジアラビア[44][45]
|
2 |
 スペイン[46]
|
2 |
 トルコ[47]
|
2 |
 バングラデシュ[48]
|
1 |
 日本[49]
|
1 |
 ポルトガル[50]
|
1 |
 スイス[51]
|
1 |
| 合計 | 259[注釈 2] |
一連の爆発による死者は259人、負傷者数は500人以上に上った[1][2]。事件当初、死者は359人とも伝えられたが、スリランカ保健省はDNA検査の結果、犠牲者の重複が多く見つかったとして100人近くを訂正した[52]。死者の大半はスリランカ人だが、45人の外国人も含まれている[4]。
犠牲者には以下のような著名人も含まれる。
- シャンター・マーヤードゥンネー: スリランカTV番組のシェフ。彼女の娘も同じく犠牲となっている。[53]
- デンマークのアパレル企業ベストセラー社のCEOアナス・ホルシュ・ポールセンは、4人の子供のうち3人が犠牲となった[54][55]。
- バングラデシュの政治家シェイク・セリムも孫が犠牲となっている[48]。
死者の中には、少なくとも45人の子供が含まれており、そのうち9人は外国人であった[56][51][57]。4月23日には、聖セバスティアン教会にて犠牲者の最初の合同葬儀が執り行われた[58]。
犯人 編集
教会とホテルで自爆した8人の他、警察の捜査中に自爆した1人の合わせて9人の実行犯が確認されており、いずれも死亡している。実行犯はいずれもスリランカ人で、スリランカ政府は国内の過激派イスラム組織ナショナル・タウヒード・ジャマア (NTJ) の犯行との見方を示した[59]。シャングリ・ラ・コロンボで自爆したNTJ創設者のザハラン・ハシムが、事件の首謀者と目されている[60]。一方で、ISIL系のメディアであるアマーク通信は「連合国の市民とスリランカのキリスト教徒を標的とした攻撃を実行したのは、ISの戦士だった」との声明を出したが[24]、事件へのISILの直接の関与を示す証拠は見つかっていない[28]。
スリランカ警察当局は、事件3日後の4月24日までに、NTJの関係者を60人逮捕した[61]。実行犯9人の身元は5月1日までに全員特定されたが[62]、そのほとんどは富裕層の出身であった[61]。
2021年8月12日、司法当局は殺人などの罪で25人を起訴した[63]。
脚注 編集
注釈 編集
出典 編集
- ^ a b c d “Easter Sunday attacks SC grants Leave to proceed 12 FR Petitions”. Daily Mirror Online (2019年10月3日). 2019年12月17日閲覧。
- ^ a b c “Sri Lanka intel chief sacked over Easter attacks”. Asia Times (2019年12月9日). 2019年12月17日閲覧。
- ^ “スリランカで連続爆発、死者290人に 日本人も1人死亡”. BBC (2019年4月22日). 2020年10月2日閲覧。
- ^ a b c “US Official, Injured in Sri Lanka Suicide Attack, Dies in Hospital”. NDTV.com. 2019年12月11日閲覧。
- ^ a b Bastians, Dharisha; Gettleman, Jeffrey; Schultz, Kai (2019年4月21日). “Blasts Targeting Christians Kill Hundreds in Sri Lanka”. The New York Times 2019年4月21日閲覧。
- ^ “156 Dead in Blasts at Two Sri Lanka Churches During Easter Mass: Report”. NDTV (2019年4月22日). 2019年4月24日閲覧。
- ^ “Sri Lanka Easter bombings live: Blasts during church services in Colombo”. The National. 2019年4月22日閲覧。
- ^ Sirilal, Ranga; Aneez, Shihar (2019年4月21日). “Bombs kill more than 200 in Sri Lankan churches, hotels on Easter Sunday”. Reuters 2019年4月22日閲覧。
- ^ Pokharel, Sugam; McKirdy, Euan (2019年4月21日). “Sri Lanka blasts: At least 138 dead and more than 400 injured in multiple church and hotel explosions”. CNN 2019年4月21日閲覧。
- ^ “Sri Lanka attacks: More than 200 killed as churches and hotels targeted”. BBC News. (2019年4月21日) 2019年4月22日閲覧。
- ^ “Sri Lanka Easter bombings: Mass casualties in churches and hotels”. Al Jazeera (2019年4月21日). 2019年4月22日閲覧。
- ^ Burke, Jason; Parkin, Benjamin (2019年4月21日). “Sri Lanka blasts: hundreds injured in church and hotel explosions”. The Guardian 2019年4月20日閲覧。
- ^ “Seventh bomb explosion heard at Sri Lanka Tropical Inn as Easter Sunday attacks continue”. (2019年4月21日) 2019年4月21日閲覧。
- ^ “Failure of NTJ's second spate of orchestrated attacks”. 2019年7月3日閲覧。
- ^ “The Latest: UN Security Council condemns Sri Lanka attack”. San Francisco Chronicle. (2019年4月22日). オリジナルの2019年4月22日時点におけるアーカイブ。 2019年4月22日閲覧。
- ^ “Sri Lanka bombers' mentor is dead, but his memory still stokes fear” (英語). CNN. 2019年4月30日閲覧。
- ^ “Bombings were response to Christchurch shooting – State Minister”. Ada derana. DeranaTV. 2019年4月23日閲覧。
- ^ “State Defense Minister: Bombings were retaliation for Christchurch killings”. CNN. (2019年4月23日) 2019年4月23日閲覧。
- ^ Wade, Matt (2019年4月23日). “Sri Lankan attacks 'retaliation for Christchurch': minister”. The Sydney Morning Herald. 2019年12月11日閲覧。
- ^ “Sri Lanka blasts were in retaliation for New Zealand mosque shootings, official says”. Washington Post. (2019年4月23日) 2019年4月23日閲覧。
- ^ “New Zealand PM says no intelligence linking Sri Lanka attacks to Christchurch”. Reuters. (2019年4月24日)
- ^ “Sri Lanka: Nearly 300 dead, Kiwi security expert says attacks unlikely to be linked to Christchurch”. NZ Herald. (2019年4月23日)
- ^ “ISIS fanatics celebrate SL attacks”. Daily mirror. 2019年4月23日閲覧。
- ^ a b “スリランカ爆弾テロ、「イスラム国」が犯行声明－捜査は拡大”. ブルームバーグ (2019年4月24日). 2019年12月10日閲覧。
- ^ “Sri Lanka bombings: Isis claims responsibility for deadly church and hotel attacks on Easter Sunday”. The Independent. (2019年4月23日)
- ^ “Easter bombings victims identified”. News (2019年4月22日). 2019年4月24日閲覧。
- ^ “Abu Bakr al Baghdadi: Video emerges of 'Islamic State leader alive'”. Sky News. 2019年4月30日閲覧。
- ^ a b “No evidence that IS was behind Easter attacks – Senior DIG Ravi Seneviratne” 2019年8月20日閲覧。
- ^ a b Burke, Jason (2019年4月21日). “Sri Lanka death toll expected to rise as leaders condemn killings”. The Guardian. 2019年4月21日閲覧。
- ^ “Who is behind the Sri Lanka bombings? - Current News Times”. www.currentnewstimes.com. 2019年4月22日閲覧。
- ^ "Sri Lanka Attacks: What We Know And Don't Know"; New York Times:April 24. 2019
- ^ "Sri Lanka Attacks: What We Know And Don't Know"; New York Times, April 24, 2019
- ^ Irugalbandara, Ramesh (2019年4月21日). “LIVE: Death toll in Easter Sunday explosions crosses 160”. News First 2019年4月21日閲覧。
- ^ “Easter Sunday massacres: Where do we go from here?”. 2019年12月16日閲覧。
- ^ Malone, Theresa; Levett, Cath (2019年4月22日). “Sri Lanka bombings – a timeline and visual guide” (英語). The Guardian. ISSN 0261-3077 2019年4月23日閲覧。
- ^ “Easter Sunday Explosions in Sri Lanka: An Evolving Timeline of Events”. Roar Media. 2019年4月22日閲覧。
- ^ “Sri Lanka blasts: 11 Indians dead, bodies of 7 JDS members to reach Karnataka” 2019年4月23日閲覧。
- ^ “Sri Lanka attacks: Eight Britons killed in explosions” 2019年4月22日閲覧。
- ^ “痛心！斯里兰卡爆炸共致6名中国人遇难”. 人民日报 2019年5月1日閲覧。
- ^ “Three children of Danish billionaire killed in Sri Lanka attacks” 2019年4月22日閲覧。
- ^ “Nog twee Nederlandse slachtoffers onder doden Sri Lanka”. Volkskrant. Volkskrant. 2019年4月23日閲覧。
- ^ “A billionaire's children, a D.C. fifth-grader, a celebrity chef: the victims in Sri Lanka” 2019年4月24日閲覧。
- ^ “Two Australians confirmed dead in Sri Lanka Easter Sunday terror attacks” 2019年4月22日閲覧。
- ^ “2 Saudis among Victims of Sri Lanka Bombings”. Asharq Al-Awsat. (2019年4月23日) 2019年4月23日閲覧。
- ^ “Saudi Arabian Airlines Statement”. Twitter. (2019年4月23日) 2019年4月23日閲覧。
- ^ “Una pareja de españoles, entre las víctimas mortales de los atentados de Sri Lanka”. El País. (2019年4月22日) 2019年4月22日閲覧。
- ^ “2 Turkish engineers among dead in Sri Lanka bombings” 2019年4月22日閲覧。
- ^ a b “Sheikh Selim's minor grandson dies in Sri Lanka bombings”. bdnews24.com. (2019年4月22日) 2019年4月22日閲覧。
- ^ “One Japanese national killed, four others injured as Sri Lanka attacks rock expat community” 2019年4月22日閲覧。
- ^ “Rui Lucas morreu às mãos dos terroristas no Sri Lanka. Português de 31 anos estava em lua de mel” 2019年4月22日閲覧。
- ^ a b “Sri Lanka attacks: tributes paid as two more victims named – live news”. The Guardian (2019年4月22日). 2019年4月22日閲覧。
- ^ “スリランカ連続爆発の死者、約100人減の253人に訂正”. AFP通信. (2019年4月25日) 2019年12月18日閲覧。
- ^ Corr, Kapila Somaratne Panadura Group. “Shantha Mayadunne, daughter among Shangri-La victims”. Daily News. 2019年4月29日閲覧。
- ^ “デンマーク富豪、スリランカ連続爆発で子ども3人を失う 国際アパレルチェーン所有”. BBCニュース. (2019年4月23日) 2019年4月23日閲覧。
- ^ Goodley, Simon (2019年4月22日). “Three children of Asos billionaire killed in Sri Lanka attacks”. The Guardian. The Guardian 2019年4月22日閲覧。
- ^ “Sri Lanka attacks: Who are the victims?”. BBC (2019年4月22日). 2019年4月22日閲覧。
- ^ “Australian man recalls horror of finding wife and daughter dead in Sri Lanka attack”. The Guardian (2019年4月22日). 2019年4月23日閲覧。
- ^ “Sri Lanka attacks: Mass funeral on day of mourning”. (2019年4月23日) 2019年4月23日閲覧。
- ^ “イスラム過激派の犯行か＝２４人拘束、外国組織の支援も－スリランカ連続爆弾テロ”. www.afpbb.com (2019年4月22日). 2019年4月23日閲覧。
- ^ “スリランカ”. 海外安全ホームページ: テロ・誘拐情勢. 外務省 (2019年5月8日). 2019年12月19日閲覧。
- ^ a b “新たに爆発物発見＝６０人逮捕、死者３５９人に－スリランカ連続テロ”. 時事ドットコムニュース (時事通信社). (2019年4月24日). オリジナルの2019年4月24日時点におけるアーカイブ。 2019年4月24日閲覧。
- ^ “Identities of Easter Sunday Suicide bombers revealed for the first time”. News 1st (2019年5月1日). 2019年12月19日閲覧。
- ^ “スリランカテロで２５人起訴 日本人含む２５０人超死亡”. sankei.com. 2021年8月12日閲覧。