デッドモール

稼働率が極端に低い状態で営業しているショッピングモール

デッドモール (dead mall) とは、入居テナントの相次ぐ撤退により、稼働率が極端に低い状態で営業を継続するショッピングモールを指す。閉鎖によって廃墟化した状態で建物が放置されている場合も含むことがある[1]。別名「廃虚モール」と呼ばれることもある[2]

アメリカ・ペンシルバニア州ピッツバーグ近郊のウェストミフリンにある「センチュリーIIIモール」

概要 編集

デッドモールの問題は主に、ECサイトの台頭とスマートフォンの普及、独身化や少子高齢化によるライフスタイルの変化、都心回帰現象に加え、若者の車離れ高齢化により自家用車を運転しない(できない)者が増加することによるロードサイド店舗の衰退、消費者価値観の変化、店舗乱立によるオーバーストアの発生などが要因とされている[3]

小売業の低迷が続くアメリカではこの問題が顕在化しており[3]、同国の1人当たりの小売面積は約2.2平方メートルにも及び、需要の2倍および3倍にのぼるとされている[4]

日本では、1980年代後半から1990年代前半のバブル時代に大型再開発が続き、2000年規制緩和による大店法改正で全国各地にショッピングモールの建設が相次いだ。こうして開業したショッピングモールの多くは郊外立地で、無料駐車場が完備され、ひとつの施設内に複数の物販店や飲食店、ゲームセンターなどの娯楽施設や旅行代理店などの各種サービス施設が入居していることから、公共交通機関が未発達な地方部においては既存の商店街百貨店を凌ぐ顧客吸引力を武器に成長していった。しかし、2010年代以降は長引く不況もあって客足が遠のき、テナントの多くが撤退し稼働率が極端に低い状態に陥るショッピングモールが全国に出現している[3][5]

世界各国での事例 編集

アメリカ合衆国 編集

  • ランドーバー・モール(Landover Mall) - メリーランド州ランドーバー
    • 1972年に小売大手のシアーズなど4つの核テナントを引っ提げオープン。開業当初はモールの名を歌詞に入れた洒落たBGMの流れるアニメCMが放映されていた。中央に3つの噴水を配し、地下に6つの映画館1991年に閉鎖)を完備するなど華やかなものであったが、1990年代から主要テナントが相次いで撤退、2002年にシアーズを除き閉店、2006年には解体が始まった。唯一営業を続けていたシアーズも2014年に閉店した。閉店の背景には、立地が犯罪多発地帯であったことも密接に関係している。
  • リンカーン・モール(Lincoln Mall)- イリノイ州マッテソン
    • 1973年に大手百貨店のJ.C.ペニーなどを核テナントにオープン。2015年に閉鎖された。
  • リージェンシー・スクエア(Regency Square)- バージニア州リッチモンド
    • 1975年にシアーズやJ.C.ペニーなどを核テナントにオープン。核テナントであったシアーズは2017年夏に撤退し[6]、2018年現在はわずかなテナントのみを残しかろうじて営業している状態である[7]

中華人民共和国 編集

 
新華南モールの店内
  • 新華南モール - 広東省東莞市
    • 2005年にオープン。約46万平方メートルのショッピングエリアに2350店もの店舗が入居可能で、完成当時は世界最大のショッピングモールと称された。しかし商圏住民の多くが経済的に余裕のない労働者であるという立地条件の悪さなどから、大半が空き区画で購買客もほとんどおらず、事実上の機能停止状態に陥っている。原因は合理的な事業計画のない投機的な不動産投資であると指摘されている[8]
  • ヒマラヤズセンター - 上海市浦東新区
    • 2015年にオープン。上海浦東、地下鉄7号線の「花木路」駅エリアにあるランドマーク的存在。総面積10万平方m。建物内には、5つ星ホテル、グルメモール、美術館、シアター、映画館などがある。世界的に有名な建築家・磯崎新氏がデザインを手掛けた。

日本での事例 編集

  • ピエリ守山 - 滋賀県守山市
    • 大和ハウス工業グループの大和システムとオウミ都市開発の共同開発により、守山市の琵琶湖畔エリアに商業施設面積約55,000平方平方メートル、約200のテナントのモールとして2008年にオープンしたが、開業前後に発生したリーマン・ショックによる景況悪化や、その後に商圏内へ多数の大型商業施設が開業し競合が激化した影響により、次第に店舗数が減少し2013年末にはわずか3店舗を残すのみとなり「生ける廃墟」「明るい廃墟」「ネオ廃墟」とインターネット上で話題になった[9]。大和システムはモレラ岐阜なども運営していたが、2010年に経営破綻し民事再生法を申請。その後、ピエリ守山は大和システムからkodo.ccに売却され、施設改装が計画されるものの実現には至らなかったが、マイルストーンターンアラウンドマネジメントが運営会社の株式を取得し2014年にリニューアルが実施され、デッドモール状態は解消された
  • LCワールド本巣 - 岐阜県本巣市
    • 1992年11月3日に当時の本巣郡真正町に開店したが、利便性の悪さや競合店舗の増加によって衰退した。2015年12月31日をもって本館専門店すべてが閉店。さらに、それ以降も営業を続けていた核店舗であったトミダヤも2016年4月20日に営業規模を大幅に縮小し、タマネギの無人販売のみとなった。
    • 同年10月25日付でトミダヤ(実態はタマネギの無人販売所)も撤退し、本館は閉鎖され解体。2018年には以前のようなモール型ではないものの、跡地に別の店舗が営業開始した上で、LCワールド本巣(2代目)として再始動している。
    • 主な競合店舗は、モレラ岐阜カラフルタウン岐阜マーサ21イオンモール大垣イオンタウン大垣イオンモール各務原
  • イオンモール名古屋みなと - 愛知県名古屋市港区
    • 1999年に「ベイシティ品川」としてオープンした。2004年には名古屋臨海高速鉄道あおなみ線が営業開始、荒子川公園駅が徒歩3分の場所に設置。開業からしばらくの間周辺に大型ショッピングセンターは無く順調であったが後にららぽーと名古屋みなとアクルス(2018年開業)やイオンモール名古屋茶屋(2014年開業)など大型ショッピングセンターが相次いで開業し密集する激戦区となった。また、専門店街の屋根はテントを張った気密性の低い構造になっており、隙間風が吹き込むため冬は異常なほど寒く、エアコンの風が外へ逃げ夏は異常なほど暑いというのも問題であった。専門店街は4階建てであるが、晩年には2階以上のほとんどのテナントが撤退し、空きテナント部分には壁面アートや小学校で習う漢字一覧などが掲載された。
    • 以上のような理由でイオンモール名古屋みなとは2021年2月28日に閉店した[10]。ただしイオンモールイオンリテール連名の2020年10月7日付プレスリリース「イオンモール名古屋みなと 閉店のお知らせ」では、「今後の新たな再開発計画を鑑み、一旦営業を終了いたします」「なお、今後のスケジュールや詳細等、決定次第改めてご案内させていただきます」とされており、完全撤退ではないことを匂わせている[11][12]。併設していたシネマコンプレックスTOHOシネマズ名古屋ベイシティは2020年11月30日に閉館した。
  • グランモール - 福岡県遠賀郡水巻町
    • 元々は1990年代に「生活城塞都市メルカート」として着工されたもので、当時の出店予定テナントの経営破綻や複雑な道路構造などのため、同地は10年以上に渡り放置されていたものの、取付道路を新設するなどの対策を施して開発を再開し、その後、2011年7月に全館オープンを果たした。
    • しかし、周辺の複数の競合店に敗れテナントが徐々に減少し、2021年2月以降は営業している商業テナントは、食品ディスカウントスーパーラ・ムー1店舗のみとなり、デッドモールと化した。
    • その後は前述のラ・ムーが営業継続しながら、空き区画の一部にて水巻町と隣接する市である北九州市新型コロナワクチン接種会場として利用されたり、またバナナ畑として活用されていた[13]が、後に空きスペースに北九州イノベーションセンターが新たに開設され、うち2施設が2023年11月に先行して第1期開業を迎えた[14]
  • レインボープラザ西大和 - 奈良県北葛城郡上牧町
    • 1986年11月に、ダイエー西大和店を核店舗としたショッピングセンターとして開業したのが始まりだった。しかし2002年5月31日をもってダイエーは閉店し、その後、新たな核店舗としてスーパーマーケットのKINSHOが同年9月28日に1階部分に開店したがこれもは2014年8月31日をもって閉店し、その後他の専門店の撤退も相次ぎ、最終的にはダイソーの1店舗のみが営業していたが、これも2022年12月18日に休業し完全に閉鎖状態になった。
  • レインボー小倉 - 京都府宇治市
    • 元々は1975年3月にオープンした西友宇治店が始まりで、時期不明だが西友が閉店しその建物を改装し、2001年4月20日にレインボー小倉がオープンし核店舗にKINSHOが入居した。その後2018年8月26日をもってKINSHOが閉店し、同時期辺りに全てのテナントでは無いものの、その他のテナントも少しずつながらも閉店していき、2019年8月以降はカット専門店のみ残ったがそれも2021年5月30日に閉店したため全てのテナントが退去した事になり以降は破産管財人による管理となり、許可を受けた者以外は一切の立入禁止となった。
  • ファミリオ - 兵庫県神戸市中央区
    • 元々は1992年9月の神戸ハーバーランドの街開きと共に「神戸西武」として全館に入居して開業したが、1994年12月に売上不振で閉店し空きビルとなり、1996年4月に「神戸ハーバーサーカス」として再開業したが、テナントの流出が続いたため、2004年3月末に閉館し、運営会社を変更して2004年12月3日に「ビーズキス」として改めて開業したものの2008年1月のトイザらスなどの主力テナントの撤退が相次いぎ同年4月25日に「ファミリオ」に改めて新装開店したが、2011年1月31日にも衣料品などのテナント14店が一斉に閉店し、以降は1階のファミリーマートや地下1階のサイゼリヤなどわずか4店舗のみになり、また3階以上のフロアは店舗がなくなり閉鎖されることになったため一時期デッドモールと化した。その後2014年7月15日に商業施設の新名称「ハーバーセンター」と発表し、同年7月17日には2階のほぼ全域にしまむらが展開する4ブランドの店舗を一斉に出店し、同年8月1日にも診療所が開業するなど、「地域生活密着」を新たなコンセプトとして施策を進めている。
  • コトノハコ神戸 - 兵庫県神戸市中央区
  • 神戸ファッションプラザ Rink(現・ROKKO i PARK)- 兵庫県神戸市東灘区

脚注 編集

  1. ^ “「廃虚モール」米で急増 ネット勢に敗れ4分の1消滅へ”. 日本経済新聞. https://www.nikkei.com/article/DGXMZO41925270R00C19A3EA1000/ 
  2. ^ 廃虚モールが中国で急増 新型コロナと商業施設乱立が影響?!【あさチャン!】”. TBS NEWS DIG POWERED BY JNN. TBS (2021年6月3日). 2023年9月5日閲覧。
  3. ^ a b c ショッピングセンターの「廃墟化」が加速しそうな理由”. ダイヤモンド・オンライン. ダイヤモンド社 (2017年12月19日). 2021年3月13日閲覧。
  4. ^ “アマゾンではなかった…… アメリカの小売業を低迷させた2つの元凶”. BUSINESS INSIDER JAPAN. (2017年7月26日). https://www.businessinsider.jp/post-100448 
  5. ^ “ショッピングモールが死んでいく”. INSIGHT NOW!. (2015年11月30日). オリジナルの2015年12月5日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20151205063023/www.insightnow.jp/article/8882 
  6. ^ “Regency Square's owners on Sears closing: 'It’s a positive step'” (英語). richmondo.com. (2017年6月7日). http://www.richmond.com/business/local/regency-square-s-owners-on-sears-closing-it-s-a/article_f0351203-a503-5cd2-8df0-7db91481e410.html 
  7. ^ “閉店が続くアメリカ小売業「最期の日々」”. BUSINESS INSIDER JAPAN. (2018年6月7日). https://www.businessinsider.jp/post-1440 
  8. ^ “「世界最大の商店街」は今やゴーストタウン、不動産バブルのツケ 中国”. CNN.co.jp. (2013年3月10日). https://www.cnn.co.jp/world/35029208-2.html 
  9. ^ “30年後、日本は「明るい廃墟モール」だらけ!? ピエリ守山に学ぶ、失敗するモール・成功するモール”. 東洋経済オンライン. (2014年7月31日). https://toyokeizai.net/articles/-/43733 
  10. ^ “イオンモール名古屋みなと/2月28日営業終了”. 流通ニュース. (2020年12月28日). https://www.ryutsuu.biz/store/m122904.html 
  11. ^ 「イオンモール名古屋みなと」閉店のお知らせ (PDF) イオンモール株式会社・イオンリテール株式会社、2020年10月7日
  12. ^ 「イオンモール名古屋みなと」閉店のお知らせ (PDF) イオンモール株式会社・イオンリテール株式会社、2020年10月7日
  13. ^ “グランモール水巻、2021年2月以降は商業テナント「1店」のみに-核テナントは「バナナ畑」”. 都商研ニュース. (2021年3月31日). https://toshoken.com/news/21879 
  14. ^ 北九州イノベーションセンターとは”. 北九州イノベーションセンター. 2024年1月21日閲覧。

関連項目 編集