ミルタザピン

抗うつ薬の一つ

ミルタザピン(Mirtazapine)は、オランダオルガノン社(前シェリング・プラウ社、現メルク社)が創製した四環系抗うつ薬[9][10]ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬 (NaSSA) というカテゴリに分類される。SSRISNRIとは異なる作用機序であり、短時間で効果が発現し、効果は持続的である[11]

ミルタザピン
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
胎児危険度分類
  • C
法的規制
投与経路 経口[3]
薬物動態データ
生物学的利用能49.7%[4]
代謝肝臓 (CYP1A2,CYP2D6,CYP3A4)[5]
半減期23~33時間
排泄代謝物として:尿中75%、糞中15%[6]
識別
CAS番号
61337-67-5
ATCコード N06AX11 (WHO)
PubChem CID: 4205
DrugBank DB00370
ChemSpider 4060
KEGG D00563
化学的データ
化学式C17H19N3[1]
分子量265.35 g/mol[1]
物理的データ
融点114 - 116 °C (237 - 241 °F)
水への溶解量メタノールエタノールに溶ける[7] mg/mL (20 °C)
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ミルタザピン(リフレックス錠)15mg[8]

2009年3月現在、93カ国で承認され、日本においては、2009年7月に、医薬品医療機器総合機構から製造販売が承認され[12]MSD(旧シェリング・プラウ)からレメロンMeiji Seika ファルマからリフレックスという商品名で販売されている[9]

適応症 編集

適応外使用として慢性瘙痒に対して有効なことがある[13]神経伝達物質を阻害することにより、痒み刺激を遮断すると考えられている。

作用機序 編集

  • NaSSAのSSRIやSNRIとの決定的な違いは、神経伝達物質受容体に対する親和性の高さである。
  • 既存のSSRIやSNRIは各神経伝達物質受容体に対しての親和性が低く、モノアミン再取り込みポンプの阻害によりその薬理作用を発現させていた。
  • ミルタザピンは、シナプス前膜にあるα2受容体(自己受容体とヘテロ受容体)に対してアンタゴニストとして作用し、ノルアドレナリンセロトニン(5-HT)の神経伝達を増強する。また、5-HT2受容体と5-HT3受容体を遮断する作用があるため、抗うつ作用に関連する5-HT1A受容体のみを特異的に活性化することによって抗うつ効果を発揮する[9][11][12]。このため、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA:Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressant)と呼ばれる[11]。ミルタザピンは、日本で初めてプラセボ対照比較試験においてプラセボに対する優越性を検証した抗うつ薬である[12]
  • 作用機序が違うため難治性うつ病に対しSNRI、もしくはSSRIと併用するカリフォルニア・ロケットという投薬がされる場合がある。

副作用 編集

5-HT2受容体と5-HT3受容体の遮断作用を持つため、SSRIと比較して嘔気・嘔吐、性機能障害などの副作用が少ない[14]。一方、H1受容体遮断作用が強いため鎮静系の副作用が目立つ。

主な副作用 編集

  • 日本での臨床試験における主な副作用は以下のとおり[15][16]
    • 傾眠:50.0%、口渇:20.6%、倦怠感:15.2%、便秘12.7%、アラニン・アミノトランスフェラーゼ(ALT)増加12.4%

終了時 編集

ミルタザピンとその他の抗うつ薬は終了時に離脱症状を起こす[17][18][19]。離脱症状は多くの向精神薬に共通していることに注意すべきであるが、それはいくつかのベンゾジアゼピンよりは重篤ではない[20]。離脱症状を最小化するために、徐々にゆっくりとした減薬が推奨される[21]。ミルタザピン治療の突然の中断の影響は、抑うつ・不安・パニック発作・めまい・落ち着きのなさ・短気・食欲減退・不眠・下痢・吐き気・嘔吐・アレルギーや瘙痒などのインフルエンザ様症状・頭痛・時に軽躁病/躁病がある[17][18][22][23][24]

性差 編集

日本での臨床試験において、男女いずれかで5%以上かつ男女差が2倍以上発現した副作用事象を抽出したところ、要因は明確になっていないが、体重増加・食欲亢進、便秘について女性における発現率が高く、それ以外の事象については明らかな差異は認められなかった。

ミルタザピン長期投与群(n = 男性58 vs 女性51)で、体重増加の副作用発現は男性4(6.9%) vs 女性11(21.6%)、食欲亢進の副作用発現は男性0(0%) vs 女性4(7.8%)[25]

重大な副作用 編集

重大な副作用は以下のとおり(頻度不明)[26]

禁忌 編集

  • ミルタザピンに対して過敏症の既往歴のある患者
  • MAO阻害剤を投与中あるいは投与中止後2週間以内の患者[27]

薬物相互作用 編集

ミルタザピンのシトクロムP450の阻害能は最小限であり[28]、薬物相互作用は比較的少ないとされる。

併用禁忌 編集

併用注意 編集

毒性 編集

単回投与毒性 編集

単回投与毒性試験[30]
動物種 投与経路 概略の致死量(mg/kg)
マウス 経口 雄500,雌550
ラット 経口 雄400,雌281

反復投与毒性 編集

反復投与毒性試験[30]
動物種 投与期間 投与経路 投与量(mg/kg/日) 無毒性量(mg/kg/日)
ラット 13週 経口 10,40,120 40
ラット 52週 経口 2.5,20,120 20
イヌ 13週 経口 5,20,80 80
イヌ 52週 経口 2.5,15,80 80

販売名 編集

ミルタザピンは、日本においてリフレックスReflexMeiji Seika ファルマ)、レメロンRemeronシェリング・プラウ)の商標で販売されている[9]。国外では、レメロン、ミルタザピンなどの商品名が多い[31]

後発医薬品はミルタザピン錠「製薬会社名」の名称で複数の製薬会社が製造・販売している[32]

出典 編集

  1. ^ a b c シェリング・プラウ、p3。
  2. ^ シェリング・プラウ、p58。
  3. ^ a b シェリング・プラウ、p8。
  4. ^ シェリング・プラウ、p27。
  5. ^ Timmer,C.J.,et al.,"Clinical pharmacokinetics of mirtazapine",Clin Pharmacokinet,38,(6),pp461-474,2000.
  6. ^ シェリング・プラウ、p31。
  7. ^ シェリング・プラウ、p4。
  8. ^ パッケージは、Meiji Seika ファルマの前身である明治製菓時代のもの。
  9. ^ a b c d 「抗うつ薬『ミルタザピン』シェリング・プラウ、明治製菓」薬事日報、2009年9月14日配信(2009年10月10日閲覧)。
  10. ^ リフレックス錠 医薬品インタビューフォーム独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 医薬品医療機器情報提供ホームページ
  11. ^ a b c 北村正樹「SSRI、SNRIに続く新規抗うつ薬『NaSSA』登場」日経メディカルオンライン、2009年7月27日配信、(2009年10月10日閲覧)、
    北村正樹「リフレックス錠15mg、レメロンSSRI錠15mg:7月7日承認、9月7日発売:SNRIに続く新規抗うつ薬『NaSSA』」『日経ドラッグインフォメーション』、2009年10月号、114号、p11、ISSN 1347-491X
  12. ^ a b c シェリング・プラウ、p1。
  13. ^ G Yoshipovitch, et al. Chronic Pruritus. N Engl J Med 2013; 368:1625-1634.
  14. ^ 野村健介、渡邊衡一郎「特集抗うつ薬:ミルタザピン」『最新精神医学』第13巻第5号、2008年9月、p.p.451-455、ISSN 13424300 
  15. ^ シェリング・プラウ、p2。
  16. ^ シェリング・プラウ、p47-48。
  17. ^ a b Benazzi F (June 1998). “Mirtazapine withdrawal symptoms”. Canadian Journal of Psychiatry 43 (5): 525. PMID 9653542. 
  18. ^ a b Berigan TR (June 2001). “Mirtazapine-Associated Withdrawal Symptoms: A Case Report”. Primary Care Companion to the Journal of Clinical Psychiatry 3 (3): 143. PMC 181176. PMID 15014614. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC181176/. 
  19. ^ Blier P (2001). “Pharmacology of rapid-onset antidepressant treatment strategies”. The Journal of Clinical Psychiatry 62 Suppl 15: 12?7. PMID 11444761. 
  20. ^ van Broekhoven F, Kan CC, Zitman FG (June 2002). “Dependence potential of antidepressants compared to benzodiazepines”. Progress in Neuro-psychopharmacology & Biological Psychiatry 26 (5): 939?43. doi:10.1016/S0278-5846(02)00209-9. PMID 12369270. http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0278-5846(02)00209-9. 
  21. ^ Vlaminck JJ, van Vliet IM, Zitman FG (March 2005). “[Withdrawal symptoms of antidepressants]” (Dutch; Flemish). Nederlands Tijdschrift Voor Geneeskunde 149 (13): 698?701. PMID 15819135. 
  22. ^ Klesmer J, Sarcevic A, Fomari V (August 2000). “Panic attacks during discontinuation of mirtazepine”. Canadian Journal of Psychiatry 45 (6): 570?1. PMID 10986577. 
  23. ^ MacCall C, Callender J (October 1999). “Mirtazapine withdrawal causing hypomania”. The British Journal of Psychiatry : the Journal of Mental Science 175: 390. doi:10.1192/bjp.175.4.390a. PMID 10789310. 
  24. ^ Ali S, Milev R (May 2003). “Switch to mania upon discontinuation of antidepressants in patients with mood disorders: a review of the literature”. Canadian Journal of Psychiatry 48 (4): 258?64. PMID 12776393. 
  25. ^ シェリング・プラウ、p50。
  26. ^ シェリング・プラウ、p44。
  27. ^ シェリング・プラウ、p32。
  28. ^ Stahl, Stephen M. (2000). Stahl's Essential Psychopharmacology Neuroscientific Basis and Practical Applications 3rd Edition. Cambridge University Press. ISBN 0521646154 
  29. ^ a b 明治製菓 『リフレックス錠15mg』 2009年9月作成(第3版)、明治製菓公式サイト(2009年10月13日閲覧)。
  30. ^ a b シェリング・プラウ、p56。
  31. ^ シェリング・プラウ、p61。
  32. ^ ミルタザピン”. www.pmda.go.jp. 2020年10月20日閲覧。

参考文献 編集