性的嗜好

広い意味でその人の性に関する嗜好

性的嗜好(せいてきしこう、英語: sexual preference)は、人間の性的行動において、対象や目的について、その人固有の特徴のある方向性や様式を意味する。すなわち、対象や行動目標において特定の好みやこだわりが存在する場合、何らかの性的嗜好を持つと表現できる。[要出典]

性的嗜好は“性癖″と間違えられやすいが、性癖というのは人間の心理・行動上に現出する癖や偏り、傾向、性格、性向のことである。


性的嗜好の類型 編集

 
オフィーリア 美的ネクロフィリア

性的嗜好は、人間のあらゆる特徴や行為、行動が多様で、個人毎に様々な好みや傾向性を持つのと同様に、あまりにも多様であり、本来類型化など不可能である。なぜ或る特徴、或る行為、或る状況に魅惑されるのか、その原因と想定されるものが非常に多種多彩であることも考えれば、類型を想定することに無理があるとも言える。

しかし、それでも或る種の性的嗜好は、その原因に関する説明理論から類型が立てられ、また社会道徳的に「異常」と通説されるものは、その行為や嗜好の特異性あるいは外見の特徴から類型が立てられている。異常とされる類型は、精神医学的に、健全な心理の所産とは考えがたいものは性的倒錯の類型となり、世俗道徳的な偏見における類型は、変態性欲の類型になる。

  • フェティシズム:相手の身体の一部、衣服・装身具などへの好み・こだわり。
    • 身体のパーツに由来するもの(例えばボン・キュッ・ボン体型全体へのこだわり等、複合的な場合もある。)
      • 頭髪へのフェティシズム:主に女性の頭髪へのこだわりで、艶々な黒髪等への好みがある。
      • 乳房へのフェティシズム:バストへのこだわりで、巨乳貧乳思春期前の乳房(つるぺた)、思春期の乳房の発達期などへの好みがある。胸フェチなど。
      • 臀部へのフェティシズム:主に女性の臀部(尻)へのこだわり。タイトスカートのスーツで覆われた臀部に特に興奮する等のような場合もある。このように「身体のパーツに由来するもの」と言っても、後述の「服装に由来するもの」と密接に関わる場合も多い。
      • 足・脚へのフェティシズム:主に女性の足・脚の美しさへのこだわり。足フェチ脚フェチなど。足指、足首、脹脛、腿部などに分類される。また素足生足)を好む他にも網タイツやパンティーストッキングを着用した女性へのフェチ(さらにそれを破いた時、脱装着時、履いた上から糞尿というようにコアな物へと分類される)。
      • 手へのフェティシズム、指へのフェティシズム:男性の手や指へのこだわり。主に女性側からのフェティシズム。手フェチ
      • 筋肉へのフェティシズム:男性の筋肉へのこだわり。主に女性側からのフェティシズム。
    • 服装に由来するもの(身に付けている相手に、即ち相手の身体の一部として興奮する場合のみならず、身体から離れてその物のみに興奮する場合、また、相手に限らず自分自身も身に付ける場合など、様々である。)
      • 靴へのフェティシズム:ハイヒールなどへの性的嗜好。靴フェチブーツフェチなど。
      • 毛皮へのフェティシズム:毛皮を着た対象者への好み。毛皮自体への嗜好。
      • デニム生地へのフェティシズム:デニムの色や着用したときの引き締まりへの性的嗜好。
      • (レザー)へのフェティシズム:レザーの滑らかな光沢や引き締まりへの性的嗜好。
      • ゴム(ラバー)へのフェティシズム:ラバーフェチなど、身体にぴったり密着するゴムの衣装などへの嗜好。
      • 本繻子(サテン)生地へのフェティシズム:サテンの持つテカテカした光沢感への性的嗜好。下記の下着へのフェティシズムと併発する場合が多い。
      • 下着へのフェティシズム:女性のパンティブラジャー、男性のブリーフふんどしなどへのこだわり。
      • 体操服へのフェティシズム:体操着ブルマー紅白帽子鉢巻トレーニングウェア(特にジャージ素材トレーニングパンツまたはハーフパンツ)など。ブルマーに関しては、かつて学校体操服に広く採用されていたが、徐々に盗撮や盗難の被害が相次ぎ[1]、 近年は体操服のデザインがユニセックス化し、その姿を消しつつある[2]
      • 水着へのフェティシズム:水着や水泳帽子、レオタード等へのこだわり。
      • 異性装へのフェティシズム:女装男装など異性装への性的嗜好。
      • 制服へのフェティシズム:制服への性的嗜好で、制服のスカートを短くし、エロティックな太ももを露出させた女子高生(JK)等への好みがある。
      • スーツへのフェティシズム:スーツへの嗜好で、就職活動のためリクルートスーツを着た就活生や、スーツを着たOL等への好みがある。リンクの画像のようにタイトスカートのそれ(スーツ)で覆われた豊かな臀部に特に興奮する等のような場合もある。このように、「服装に由来するもの」と言っても、前述の「身体のパーツに由来するもの」と密接に関わる場合も多い。
      • 着物へのフェティシズム:着物への嗜好で、成人式のため振袖を着た新成人等への好みがある。
  • 窃視症:他者の性的行為などを覗き見する性的嗜好。
  • 露出症:自分の裸体性器などを他者や公衆の前に示して性的興奮等を得る嗜好。
  • 対象の年齢に対するもの
    • ペドフィリア(小児性愛):幼児童に対し性的魅惑を覚える性的嗜好。
    • 少年性愛:思春期の少年に対し性的な魅惑を感じる嗜好。12歳以下だとペドフィリアと重なる。
    • 少女愛:思春期の少女に対し性的な魅惑を感じる嗜好。12歳以下だとペドフィリアと重なる。
    • エフェボフィリア:思春期から青年期の男女に対する性的嗜好。性嗜好の少年愛や少女愛と重なる面がある。
    • 老人性愛老人に対し、性的魅惑を覚える性的嗜好。
  • 女斗美:女性同士の格闘に性的な魅惑を感じる嗜好。
  • 動物性愛ヒツジウマイヌネコなどの動物に性的魅惑を抱く。獣姦ともなる(牧畜社会などでは、独身の男性がヒツジなどを性的対象とすることは珍しいことではなかった)。
  • サディズム:相手に対し(性的な)屈辱などを与える嗜好。
  • マゾヒズム:相手から、または自分自身で屈辱などを受ける嗜好。
  • 母乳に対する嗜好:相手の授乳を見たり、母乳を身体に受けたり、母乳を飲むことが快楽である嗜好。
  • 尿に対する嗜好:相手の排尿を見たり、尿を身体に受けたり、尿を飲むことが快楽である嗜好。
  • 糞便嗜好糞便を食べること、見ること、浣腸、お漏らし、トイレ以外での排泄で性的興奮を得る者や、手などで弄ぶこと、体に糞尿を塗る(塗糞)や顔に糞尿を浴びるなどといった行為で興奮する場合など。
  • 死体愛好ネクロフィリア):死体に対し性的魅惑を感じる嗜好。死姦なども含む。

精神医学における性的嗜好 編集

国連WHOが定めている精神疾患に関する分類『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』(ICD)では以前は「性嗜好障害」という項目があった。しかし、2019年の「ICD-11」からは「性嗜好障害」という言葉を使わずに「パラフィリア症群」という言葉を用い、「フェティシズム」の用語はカテゴリから消えた[3]

  • パラフィリア症群
    1. 露出症
    2. 窃視症
    3. 小児性愛症
    4. 強制的性サディズム症
    5. 窃触症
    6. 同意しない者を対象とする他のパラフィリア症
    7. 単独で行う、または同意する者を対象とするパラフィリア症
    8. パラフィリア症群、特定不能

この「パラフィリア症群」は以下の内容で特徴づけられる[3]

  • 持続的かつ強烈な非典型的性的興奮パターンを有する。
  • そのパターンは、同意能力のないあるいは同意を拒む者を対象とする。
  • もしくは、そのパターンは、自身に著しい苦痛をあたえる。ただし、それはその興奮パターン自体によるものであり、単にその興奮パターンが他者から拒絶されること、または他者から拒絶されるのを恐れることによる二次的なものではない。
  • もしくは、そのパターンは、たとえ相手の同意があったとしても自身か相手に傷害・死亡に至る重大なリスクを生じさせる。

米国におけるAPAが定める『精神障害の診断と統計の手引き』(2000年のDSM-IV-TR)では以下のように扱われている。

  • 「disorder(障害)」として列挙されているもの
    1. 露出症
    2. フェティシズム
    3. 接触性愛
    4. 小児性愛
    5. 性的マゾヒズム
    6. 性的サディズム
    7. 服飾倒錯的フェティシズム
    8. 窃視症
    9. その他の性的倒錯

脚注 編集

  1. ^ 消えたブルマー 中3女子の「はきたくない」に裁判官は [令和:朝日新聞デジタル]”. 株式会社朝日新聞社. 令和5年4月16日閲覧。
  2. ^ 日本の制服・ユニフォーム (体操服)|トンボ学生服・とんぼ体操服の株式会社トンボ”. 株式会社トンボ. 令和5年4月16日閲覧。
  3. ^ a b 太田敏男「パラフィリア症群・作為症群」『精神神経学雑誌』第124巻第1号、2022年、62-66頁、2023年11月8日閲覧 

関連項目 編集

参考書籍 編集

  • メダルト・ボス 『性的倒錯-恋愛の精神病理学』 みすず書房
  • エーリヒ・フロム 『悪について』 紀伊國屋書店
  • エーリヒ・フロム 『正気の社会』 中央公論社