鮫島事件

日本においてインターネット上でもっともらしく言及される事件

鮫島事件(さめじまじけん)は、匿名掲示板2ちゃんねるなど主に日本インターネット上で時折言及される事件[1][2]。「何らかの理由で真実が日本国政府公安調査庁に隠蔽されており絶対に語ってはならない内容である」という文脈で語られる項目である。

概要 編集

鮫島事件が知られるようになったのは、2001年5月24日に匿名掲示板2ちゃんねるのラウンジ@2ch掲示板(以下ラウンジ板)に立てられた「伝説の「鮫島スレ」について語ろう」というスレッド[3]である。その最初の内容は

ここはラウンジでは半ば伝説となった「鮫島スレ」について語る

スレッドです。知らない方も多いと思いますが、2ちゃんねる歴が
長い方は覚えてる人も多いと思います。
かくいう俺も「鮫島スレ」を見てから2ちゃんねるにはまった
ひとりでして、あれを見たときのショックは今でも覚えています。

誰かあのスレ保存してる人いますか? — 22世紀を目指す名無しさん(ID:yWtu.nZk)

というもので[3]、好奇心を誘う書き方であり、追随した人々が各々、事件の内容やネット上の反応について断片的な書き込みを始めた。その後、このスレッドを発端として鮫島事件に関するスレッドが幾つも立てられ、その流れの中で、「鮫島=タブー」という暗黙のルールが出来上がり、人が死んだ、公安が絡んでいるなどの情報が追加されていった[4]

その後も、ふとしたきっかけから鮫島事件という名前を耳にした人の「鮫島事件とは何か」という書き込みに対して、片や「ネタ(真実を装った悪ふざけの意味)だからやめろ」という否定的な書き込みや、一方「あれは2ちゃんの影の部分だ」「あの事件のことを思い出させるな」などの書き込みがあり、本筋を伴わないまま断片的な情報だけがたくさん追加されていくことで、「本当のところは教えてもらえないけれど何かあるらしい」というイメージが形成され、事件の名称と共に流布されていくことになった、とされている[2][5]

ジョーク説の展開 編集

基本的に「鮫島事件は架空の事件であり、その存在自体が、新参者や本気にした者を釣るためのジョークであった」と解釈される。この事件をジョークと定義する観点からは、鮫島事件とは「ウェブ上のハイパーリアリティ[注 1]の自走に自覚的な人たちが共犯となって、ハイパーリアリティを自分たちで構築していくゲーム」、「リテラシーを共有するためのネタ」、「互いのリテラシーを確認し合い、高め合うゲーム」であると定義される[1]。鮫島事件というジョークが定着した理由に、掲示板という顔の見えない文字だけのコミュニケーションであること、当時の2ちゃんねるは現在よりもアングラ色が強く[2]、更に当時の2ちゃんねるは洒落や酔狂を好む気風が強かったことや、テレホーダイを利用する深夜の利用者が多かったことも、怖い作り話を歓迎する背景に繋がったという意見もある[4]

関連して、2ちゃんねるの初代管理人である西村博之の言葉として、「嘘は嘘であると見抜ける人でないと(掲示板を使うのは)難しい」というものが知られている[7]。「鮫島事件」は実態不明・実在不明の事件であるにもかかわらず、その後も時折思い出したように言及され、「それだけはやばい」という反応が書き込まれる。このことは、2ちゃんねるに書き込まれた情報は、とりあえずは「嘘ではないか?」として疑いの思考を捨ててはならないことと、ことの真偽を読み手自身が検証しなければならないこと、そして、それが不可能な場合は、真偽の判断は保留したままで、ネタをネタとして楽しむこと、これらのいわゆる作法・ネチケットが求められているということを端的に示している。なお虚偽の情報が書き込まれることは2ちゃんねるに限らず、不特定多数が書き込むことができるウェブサイトにおいては(サイトの主旨にもよるが)普通に存在する、と、鮫島事件を虚であると定義した論説で引用されることがある[8]

なお発端となるスレッドが立ち[3]、数千もの発言が交わされてから数日後、ラウンジ板にはそのスレッドを立てた張本人を名乗る者が現れ[9]、鮫島事件について知っている口ぶりで、発端となるスレッドを立てた人物>>1と、同スレッドで鮫島事件について執拗に質問を繰り返すレス番号>>16が同一のID(識別子)であることを指摘し、これは自分が発想したジョークであり、序盤の>>1番から>>30番までの書き込みの多くは自分の自作自演であると説明している[9]

実在説の展開 編集

発端となるスレッドを立てた張本人を名乗る者により、事件がジョークであると宣言された。しかしその後もこの事件の話は収束せず、鮫島事件は語り継がれ[10]、虚偽の情報が追加され続けている。

小説化 編集

  • 第6回メフィスト賞を受賞したミステリー作家の積木鏡介が、作家の英語圏進出プロジェクト「The BBB」で都市伝説刑事シリーズを刊行。2016年8月に発売された『都市伝説刑事 事件4: 鮫島事件』[11]では、鮫島事件が扱われている。なお、本作は日本語版・英語版の電子書籍が発売されている。

映画化 編集

備考 編集

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 現実の事件とは関係なく、あるいはオリジナルとなる事件そのものが存在していないにも関わらず、メディア上で実体に基づかないイメージが語られ暴走した結果、構築された現実感(リアリティ)。ジャン・ボードリヤール湾岸戦争の報道過熱を論じた際に用いた概念[6]

出典 編集

  1. ^ a b 荻上 2007, pp. 208–209
  2. ^ a b c 並木 2009, p. 107
  3. ^ a b c 22世紀を目指す名無しさん(ID:yWtu.nZk) (2001年5月24日). “伝説の「鮫島スレ」について語ろう”. ラウンジ板. 2ちゃんねる. 2009年6月18日閲覧。
  4. ^ a b c “「せっかく忘れてたのに」 2ちゃんねる「鮫島事件」が映画化”. J-CASTニュース (ジェイ・キャスト). (2011年6月28日). https://www.j-cast.com/2011/06/28099759.html?p=all 2011年6月29日閲覧。 
  5. ^ 金田一 2009, p. 27
  6. ^ 荻上 2007, p. 118
  7. ^ 熊山准; 四家正紀; 山崎一幸 (2008年11月19日). “ネットの常識・非常識 第1回 ネットのクチコミって信じていいの? 後編”. R25.jp. リクルート. 2009年3月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年9月19日閲覧。
  8. ^ 熊山准; 四家正紀; 山崎一幸 (2008年11月19日). “ネットの常識・非常識 第1回 ネットのクチコミって信じていいの? 前編”. R25.jp. リクルート. 2009年3月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年9月19日閲覧。
  9. ^ a b ドリー(ID:U8rBM4nk) (2001年5月29日). “「鮫島スレ」の真相”. ラウンジ板. 2ちゃんねる. 2009年8月26日閲覧。
  10. ^ 並木 2009, p. 108
  11. ^ 『都市伝説刑事 事件4: 鮫島事件』
  12. ^ 「アイドリング!!!」尾島知佳、映画初主演で「鮫島事件」真相に迫る : 映画ニュース - 映画.com 2011年6月27日 06:09
  13. ^ 2ちゃんねるの呪い 劇場版”. KADOKAWA. 2014年5月25日閲覧。
  14. ^ エミューエンタテイメント 公式サイト - ウェイバックマシン(2011年4月23日アーカイブ分)
  15. ^ 【デジタル応募】映画『鮫島事件』出演者募集 - エントリー詳細 - Deview-デビュー”. 株式会社oricon ME. 2019年8月18日閲覧。
  16. ^ “2ちゃんねるの都市伝説「鮫島事件」がホラー映画化、主演は武田玲奈(動画あり / コメントあり)”. 映画ナタリー (ナターシャ). (2020年10月7日). https://natalie.mu/eiga/news/399436 2020年10月7日閲覧。 
  17. ^ “最恐のネット都市伝説を題材に映画化『真・鮫島事件』公開決定 主演は武田玲奈”. クランクイン! (ブロードメディア). (2020年10月7日). オリジナルの2020年10月8日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20201008204325/https://www.crank-in.net/news/81653/1 2020年10月7日閲覧。 
  18. ^ “武田玲奈主演映画『真・鮫島事件』11月27日公開へ 悲鳴と怒号が飛び交う特報映像も”. リアルサウンド (blueprint). (2020年10月7日). https://www.cinematoday.jp/news/N0119032 2020年10月7日閲覧。 

参考文献 編集

  • 荻上チキ『ウェブ炎上 - ネット群衆の暴走と可能性』筑摩書房〈ちくま新書〉、2007年7月。ISBN 978-4-480-06391-5 
  • 金田一「乙」彦(編) 編『オタク語事典』(第1版)美術出版社、2009年5月、27頁頁。ISBN 978-4-568-22132-9 
  • 並木伸一郎『最強の都市伝説』 3巻(初版)、経済界、2009年6月、106-108頁頁。ISBN 978-4-7667-8450-3 

関連項目 編集