アダルト・ウルフガイ・シリーズ」は、平井和正連作で発表した、『狼男だよ』に始まるSFハードボイルド小説の総称。同作者の大河小説『ウルフガイ』とは別作品。

概要 編集

本作の主人公・犬神明の初登場は、1969年(昭和44年)3月『プレイコミック』に掲載された「夜と月と狼」(プロトタイプ版)。同年5月「狼は死なず」(プロトタイプ版)の『ボーイズライフ』掲載を経て、同年11月『狼男だよ』が書籍として刊行される。以降『小説推理』『小説宝石』『宝石』『問題小説』『GORO』と多くの雑誌を渡り歩いて発表された。なお、外伝的な「ウルフガイ・イン・ソドム」は『奇想天外』、「若き狼の肖像」は『SFアドベンチャー』への掲載を経て書籍化されている。

書籍は掲載雑誌の出版社とは関係なく、立風書房から『狼男だよ』を出版した後は、すでに「ウルフガイ・シリーズ」で人気を得ていたハヤカワSF文庫から「ウルフガイ別巻シリーズ」として4冊を刊行した。その後、早川書房SFマガジン」編集長であった森優の退社を期にシリーズ全作品の刊行を祥伝社ノン・ノベルに移籍し「アダルト・ウルフガイ・シリーズ」と称されるようになる。

1979年(昭和54年)6月まで『GORO』に連載された『人狼天使 第III部 魔王の使者』を最後に以降新作は発表されず、平井が2015年(平成27年)に死去したため本シリーズは未完となった。書籍はノン・ノベルの後、角川文庫ハルキ文庫からも出版された。

小説 編集

同作者のほぼ同名の作品『ウルフガイ』(少年ウルフガイ)シリーズとは、主人公の名前(犬神明)と基本設定(主人公=狼男)の図式のみ同じだが、世界観などが大きく異なる。

  • 一人称小説である(少年ウルフガイは三人称)。
  • ウルフガイは、アダルト・ウルフガイを元にしている[1]
  • ウルフガイの犬神明(登場時、中学生)と区別するため、便宜上「アダルト犬神明」と呼称される。
  • アダルト犬神明は大人(30代)である。性格も、アダルトな雰囲気とシニカルさを醸し出すものである。
  • 作者いわく、犬神明の外見は「ジャン=ポール・ベルモンドを痩せぎすにした感じ」とのことで、「アウシュビッツ帰りのジャン=ポール・ベルモンド」と表現されたこともある[2]
  • 本作の犬神明は、少年ウルフガイに登場する神明(じん あきら)と、ほぼ同じ性格[3]
  • 愛車は本人曰く「ドブネズミ色」の510型ブルーバードSSS。

作品一覧 編集

タイトル 立風書房版 ハヤカワSF文庫版 祥伝社ノン・ノベル版 角川文庫版
ハルキ文庫版
ルナテック版
(電子書籍)
夜と月と狼 狼男だよ 狼男だよ 狼男だよ 狼男だよ 狼男だよ
狼は死なず
狼狩り
地底の狼男(ウルフ・ガイ) 狼よ、故郷を見よ 狼のバラード 狼よ、故郷を見よ 狼よ、故郷を見よ
狼(ウルフ)よ、故郷を見よ
人狼、暁に死す リオの狼男[4] 人狼、暁に死す 人狼、暁に死す
リオの狼男[4] 魔境の狼男 人狼地獄 リオの狼男
ライオン・ヘッド[4]
竜の玉座 人狼地獄篇
スルククの檻
復讐行
竜(ドラゴ)の基地
虎よ! 虎よ! 狼は泣かず 人狼、暁に死す 人狼、暁に死す
黒い画像 人狼戦線 人狼戦線 人狼戦線
超小型核弾
JCIA
ひびわれた月
人狼戦争
閃光の彼方
コーサ・ノストラ
砕けた月
原爆ジャック
狼は泣かず 狼は泣かず ウルフガイ 不死の血脈[5] 人狼白書
凶眼の女[5] 人狼白書
祟り神の村[5]
悪霊の壁 ウルフガイ 凶霊の罠
ブロンドの救援者
心霊治療
凶霊の罠
暗黒世界の対決
ウルフガイ・イン・ソドム 人狼天使 第1部 ウルフガイ イン・ソドム 人狼天使 第I部 憑霊都市
人狼天使(ウルフ・エンジェル) 第1部 憑霊都市
人狼天使(ウルフ・エンジェル) 第2部 魔天楼 人狼天使 第2部 ウルフガイ 魔天楼 人狼天使 第II部 魔天楼
人狼天使(ウルフ・エンジェル) 第3部 魔王の使者 人狼天使 第3部 魔王の使者 ウルフガイ 魔界天使
若き狼の肖像 若き狼の肖像 ウルフガイ 若き狼の肖像 若き狼の肖像
  • 祥伝社ノン・ノベル版の『魔境の狼男』は、ハヤカワSF文庫版『リオの狼男』収録「リオの狼男」と『人狼地獄篇』を合わせて本来の長編に再構成したもの(章分け以外に異同はない)[4]
  • 角川文庫版とハルキ文庫版の『ウルフガイ 不死の血脈』は、祥伝社ノン・ノベル版の『狼は泣かず』収録「狼は泣かず」と『人狼白書』から「凶眼の女」「祟り神の村」の2章(「闇のストレンジャー」へ改題)を収録したもの(章分け以外に異同はない)[5]

漫画化作品 編集

狼男だよ
作画:ケン月影。全3巻(講談社コミックノベルス9~11。1984年)。
同名作品のコミック化(「夜と月と狼」「狼は死なず」「狼狩り」を収録)。
ケン月影のアレンジ(作風)により、原作よりも成人向け描写が増えている(『狼のバラード』も同様)。
ラストが少し加筆されている。
狼のバラード
作画:ケン月影。全1巻(講談社KCスペシャル341。1987年)。
同名作品のコミック化(「地底の狼男」「狼よ、故郷を見よ」を収録)。
帯には「俺はウルフガイシリーズの主人公」と明記されている(表紙には、タイトルの上部に「Adult Wolf Guyシリーズ」と書かれている)。
解説(佐々木君紀)には、「このコミック版は、犬神明の『黄金の心』を、小説に忠実に表現しているとは言えない部分がある」と書かれている。
Wolf Guy
作画:かどたひろし。全4巻(ぶんか社)。
『ヤングテイオー』1995年№3~4、1996年№1~10、№13~1997年№4、及び『コミックまぁるまん』1997年5月号~1998年3月号にて連載。
小説版のコミック化(「夜と月と狼」「狼は死なず」「人狼、暁に死す」)。内容はアレンジされている。成人向け描写も増えている(掲載誌の関係と思われる)。

映画化作品 編集

ウルフガイ 燃えろ狼男

関連作品 編集

スパイダーマン
平井は、池上遼一作画版の漫画にストーリーを提供しているが、「スパイダーマンの影」は「人狼、暁に死す」に、「虎を飼う女」は「虎よ! 虎よ!」に、それぞれ転用されている。いずれも原型は『8マン』までさかのぼることができる。なお、「人狼、暁に死す」はかどたひろし作画の『Wolf Guy』で(再)漫画化されており、さらにリメイク版漫画『ウルフガイ』にもモチーフが取り入れられている。
背後の虎
短編。「虎よ! 虎よ!」と同じアイディア。
8マン
「サイボーグPV1号」のストーリーは、登場人物(大滝雷太)の名前とともに「狼は泣かず」に転用された。
サイボーグ・ブルース
『8マン』の設定を使用した小説(一人称小説)。本作を経て(アダルト)ウルフガイ・シリーズが誕生する(『ウルフランド』収録のエッセイ「8マン→サイボーグ・ブルース→ウルフガイ」より)。
悪徳学園
短編小説。犬神明は中学生だが、この時は一人称小説でもあり、性格はアダルト犬神明と相似(アダルト・ウルフガイ、ウルフガイの犬神明とは別人)。この短編を経て、『ウルフガイ』が誕生する。
ウルフガイ
週刊ぼくらマガジン』連載。同誌の休刊により中断。主人公の名前こそ同じだが、アダルト・ウルフガイ・シリーズとは異なる世界観。
ウルフガイ・シリーズ(小説)
上記の漫画の小説化作品。『狼の紋章』、『狼の怨歌』までが漫画版に該当し、『狼のレクイエム』以降は小説オリジナル。2007年より、ヤングチャンピオンにて、同小説の再コミカライズ版が『ウルフガイ』のタイトルで連載開始。
ウルフランド
奇想天外』誌に連載されたウルフガイ番外編。スペシャル・ウルフガイ劇場と銘打たれた遊び心あふれる短編7編とエッセイを収録。
新幻魔大戦
江戸時代を舞台に犬神一族出身の忍者「月影」が登場。『人狼白書』によると、アダルト犬神明の前世の名も「つきかげ」。
真幻魔大戦
第二部では「月影」やその前世「小石」が登場。犬神の里の存在理由が明らかに。さらに第三部では獣人世界が舞台となる。
女神變生
アダルト犬神明(月影)や石崎郷子らが登場している。
月光魔術團
バイオテクノロジーによって作り出された人造不死身人間「犬神メイ」が活躍する。全12巻。
ウルフガイDNA
月光魔術團第2部。前作の「犬神メイ」の大親友「鷹垣人美」が主人公となる。全12巻。
幻魔大戦DNA
月光魔術團第3部。全37巻におよぶ書き下ろしシリーズの完結編13巻。作品内に犬神明を始めとする「ウルフガイ・シリーズ」の登場人物たちが登場し実質「ウルフガイ・シリーズ」の直接の続編。「アダルト・ウルフガイ・シリーズ」との関連は不明。
幻魔大戦deep トルテック
「ロボさん」の愛称で呼ばれる人物が犬神明と名乗る。『人狼白書』に登場した雛子と同名の女性が出る。

『狼男だよ』改竄事件 編集

1969年11月に出版された『狼男だよ』(ウルフガイ第1作)の初版は、著者の平井和正に無断で、立風書房の編集者によって786か所にわたり原稿に手を入れられていた。無断改稿の事実を知った平井が抗議し、立風書房のみならず親会社の学習研究社とも揉めることとなった。7か月間の当事者同士の話し合いでは解決に至らず、1970年5月に平井が弁護士に任せたことで決着し、1970年8月に正本が出版された。この事件によりしばらくの間、平井は大手出版社で小説の執筆・発表ができなくなった(リム出版『夜にかかる虹 上』より。ただし当該書は通常の「慰謝料」を「慰籍料」と記述している)。

脚注 編集

  1. ^ 『狼男だよ』改竄事件でアダルト・ウルフガイが頓挫した影響で、漫画媒体で少年ウルフガイが誕生することになった。
  2. ^ 寺沢武一の漫画『コブラ』の主人公コブラもジャン=ポール・ベルモンドをモデルにしており、本作の犬神明と比較されることがある。[誰によって?]
  3. ^ 『ウルフランド』では、両者が顔を合わせるシーンがある
  4. ^ a b c d ハヤカワSF文庫版は「人狼、暁に死す」「リオの狼男」の2部構成としている。以後の版と異なり「リオの狼男」「ライオン・ヘッド」の2章に分割されず、「リオの狼男」のタイトルでこれらが一括されている。
  5. ^ a b c d 角川文庫版とハルキ文庫版は「狼は泣かず」「闇のストレンジャー」の2部構成としている。「凶眼の女」「祟り神の村」の2章には分割されず、「闇のストレンジャー」のタイトルで一括されている。このタイトルは、雑誌連載時のタイトルでもあった。

関連項目 編集

外部リンク 編集