ヒマンタンドラ科(ヒマンタンドラか、学名: Himantandraceae)は被子植物モクレン目に属するの1つである。常緑性高木であり、葉など植物体表面に特徴的な楯状の鱗毛をもつ。花被を欠くが、らせん状についた多数の仮雄しべ(生殖能を欠く雄しべ)が花被のように見える(図1)。複数の雌しべが融合し、1個の核果状の果実を形成する。ニューギニア島からオーストラリア北東部に分布する。

ヒマンタンドラ科
1. ガルブリミマ・ベルグラウェアナ
(Galbulimima belgraveana)
保全状況評価[1][注 1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : モクレン類 magnoliids
: モクレン目 Magnoliales
: ヒマンタンドラ科[2][3][4][5] Himantandraceae
学名
Himantandraceae
Diels (1917)[6][7]
タイプ属
Himantandra F.Muell. ex Diels (1912)[8]
= Galbulimima F.M.Bailey (1894)
下位分類

ヒマンタンドラ科は、ガルブリミマ属Galbulimima)のみを含む単型科である。ガルブリミマ属は2–3種に分けられることもあるが[9][11]、2022年現在、ガルブリミマ・ベルグラウェアナGalbulimima belgraveana)1種のみが認められることが多い[6][7]。本種はさまざまなアルカロイドを含み、樹皮が幻覚剤、向精神薬として利用される[2][12](→#利用)。

特徴

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高さ30メートル (m) に達する常緑性高木である[13]樹皮は灰色から灰褐色[2]。植物体に楯状の鱗毛をもつ[13][11][14]。節は3葉隙[13]道管は階段穿孔または単穿孔をもつ[11]師管タンパク質顆粒を含む[11]精油を含み、強い芳香がある[13][3]。30種以上のアルカロイドを有する[13][11][12][3]

は2列互生し、単葉全縁、表面に光沢があり、油点をもち、葉脈は羽状、葉柄が存在し、托葉を欠く[3][2][13][14][11](下図2a)。

2a. G. belgraveana の葉は互生し、光沢がある
2b. G. belgraveana の花芽(つぼみ)はカリプトラで覆われる

は両性、放射相称、直径2–4センチメートル (cm)、単生または花序を形成し、葉腋につく[13][14]。2枚の(萼片とする説もある[13])が花芽を包むキャップ状のカリプトラを形成し、開花時にはカリプトラがとれる[11][14](上図2b)。雄しべは多数、らせん状につき、生殖能をもつ雄しべ群の外側と内側に葯を欠く仮雄しべが多数ついている[11][13][14](下図2c)。仮雄しべは細長い花弁状、白色から黄色[14]。ただし外側の仮雄しべ群を花弁とする説もある[13]は外向する[13]花粉は微小突起型、単溝粒[11][13]雌しべは離生心皮、6–30個、子房上位胚珠は1心皮あたり1–2個、倒生胚珠、頂生または縁辺胎座[11][13][14]

2c. G. belgraveana の花
2d. G. belgraveana の果実

雌しべは成熟すると互いに癒合し、1個の果実を形成する[11][13]。果実は核果状、複数の核を含み[11]、熟すと赤色、直径 1.5–3 cm になる[2][14](上図2d)。種子は扁平[11]、胚乳は油性[13]染色体基本数 x = 7[11]

分布

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ニューギニア島ビスマルク諸島ソロモン諸島オーストラリア北東部(クイーンズランド州)に分布する[11]

人間との関わり

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利用

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ニューギニア島の先住民は、ガルブリミマ・ベルグラウェア(Galbulimima belgraveana)の樹皮を、Homalomena belgraveana(現地名はエレリバ ereriba; サトイモ科)の葉、および Zingiber zerumbetショウガ科)の根茎と共に煮て、幻覚剤とする[15][16]。この際にシビレタケ属キノコを併用することがある[16]。また戦いの前や占いの際に精神を高揚させるために、ガルブリミマ・ベルグラウェアの樹皮や葉が利用されることがある[16]。樹皮などを鎮痛剤など薬用として用いることもある[16]

諸言語における呼称

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系統と分類

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古典的な被子植物の分類体系である新エングラー体系クロンキスト体系では、ヒマンタンドラ科はモクレン目に分類されていた[18][4][19][20]。その後一般的となったAPG分類体系でも、ヒマンタンドラ科はモクレン目に分類される。モクレン目の中では、デゲネリア科姉妹群であると考えられている[11]

ヒマンタンドラ科は、ただ1属ガルブリミマ属(Galbulimima)のみを含む[6][7][11]。ガルブリミマ属に属する種は2–3種に細分されることもあるが[9][11]、2022年現在では単一種、ガルブリミマ・ベルグラウェアナ(Galbulimima belgraveana)のみを認めることが多い[6][7][14](下表1)。

表1. ヒマンタンドラ科の分類体系の一例[6][7]

脚注

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注釈

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  1. ^ 本科の唯一の種とされることが多いガルブリミマ・ベルグラウェアナ(Galbulimima belgraveana)に対する評価である。

出典

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  1. ^ a b GBIF Secretariat (2021年). “Galbulimima belgraveana (F.Muell.) Sprague”. GBIF Backbone Taxonomy. 2022年4月8日閲覧。
  2. ^ a b c d e 熱帯植物研究会 (1996).
  3. ^ a b c d e f シュルテスら (2007:43).
  4. ^ a b 井上浩, 岩槻邦男, 柏谷博之, 田村道夫, 堀田満, 三浦宏一郎 & 山岸高旺 (1983). “モクレン目”. 植物系統分類の基礎. 北隆館. pp. 219–222 
  5. ^ 巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編) (2013). “生物分類表”. 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. p. 1645. ISBN 978-4000803144 
  6. ^ a b c d e Himantandraceae”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2022年4月2日閲覧。
  7. ^ a b c d e GBIF Secretariat (2021年). “Himantandraceae”. GBIF Backbone Taxonomy. 2022年4月2日閲覧。
  8. ^ Himantandraceae Diels”. Tropicos.org. Missouri Botanical Garden. 2022年4月8日閲覧。
  9. ^ a b c d 植田邦彦 (1997). “ヒマンタンドラ科”. 週刊朝日百科 植物の世界 9. pp. 122–123. ISBN 9784023800106 
  10. ^ 大場秀章 (2009). 植物分類表. アボック社. p. 23. ISBN 978-4900358614 
  11. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r Stevens, P. F. (2001 onwards). “HIMANTANDRACEAE”. Angiosperm Phylogeny Website. 2022年4月5日閲覧。
  12. ^ a b Chaudhary, N. K., Taylor, W. C., Mander, L. N. & Karuso, P. (2021). “Isolation and structure elucidation of additional alkaloids from the tropical rainforest tree Galbulimima baccata”. Journal of Natural Products 84 (9): 2525-2535. doi:10.1021/acs.jnatprod.1c00537. 
  13. ^ a b c d e f g h i j k l m n o Watson, L. & Dallwitz, M. J. (1992 onwards). “Himantandraceae Diels”. The families of flowering plants: descriptions, illustrations, identification, and information retrieval.. 2022年4月2日閲覧。
  14. ^ a b c d e f g h i Byng, J. W. (2014). “19. HIMANTANDRACEAE”. The Flowering Plants Handbook: A practical guide to families and genera of the world. Plant Gateway Ltd. p. 24 
  15. ^ シュルテスら (2007:43,44).
  16. ^ a b c d Cleversley, K.. “Galbulimima belgraveana – Agara”. Entheology.com. 2022年4月9日閲覧。
  17. ^ Gajdusek (1976:272).
  18. ^ 加藤雅啓 (編) (1997). “分類表”. バイオディバーシティ・シリーズ (2) 植物の多様性と系統. 裳華房. p. 270. ISBN 978-4-7853-5825-9 
  19. ^ Melchior, H. (1964). A. Engler's Syllabus der Pflanzenfamilien mit besonderer Berücksichtigung der Nutzpflanzen nebst einer Übersicht über die Florenreiche und Florengebiete der Erde. I. Band: Allgemeiner Teil. Bakterien bis Gymnospermen 
  20. ^ Cronquist, A. (1981). An integrated system of classification of flowering plants. Columbia University Press. ISBN 9780231038805 

参考文献

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英語:

日本語:

外部リンク

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