サージング

圧縮機内での空気の逆流現象

サージング (Surging) とは、ジェットエンジンなどの圧縮機を有する機器が圧縮機失速、後段の圧縮空気が前段に逆流するなどによって正常に機能しなくなる現象である。圧縮機失速を誘発することがある。

サージングを起こしたSu-57

概要 編集

閉じた部屋の中に空気を圧縮して詰め込む際、この部屋のドアを開けたら空気はドアから外に出ようとする。軸流式圧縮機では、動翼と静翼を交互に空気が通過することによって圧力を上げていくため、圧縮された空気は動翼間や静翼間など、いわば「ドアが開いた」部屋に「閉じ込められて」いると言える。圧縮された空気が隙間から漏れるのを防ぐためには、隙間(ドア)が開いている時間を極力短くしなければならない。低回転時はドアが長く開いていることになり、最も圧力が高くなる最後段から前段に向かって逆流するように空気が部屋の外に出ていく。これがサージングと呼ばれる圧縮機内の空気の逆流現象であり、エンジンスタート時などの低回転時に起こりやすい。

離陸時にも、対気速度とエンジン回転数のバランスが崩れるなどの理由によって発生する。また、上空では音速付近で発生しやすい。軸流式圧縮機において比較的発生しやすく、遠心式圧縮機においては比較的発生しにくいが、皆無ではない。発生すると燃焼室への空気供給が滞るため、出力が急激に低下する。サージング特有の轟音も発生するため、搭乗者も気付きやすい。

対策として、軸流式の場合はステーターの角度を可変式にする、圧縮機駆動軸を多軸化する、抽気を行なうといった方法がある。可変式ステーターは単軸式圧縮機が多かった時代にはよく見られたが、現在では多軸化などで設計が改良され、限界内で制御するFADECの採用によって減りつつある。一方、多軸式圧縮機はエンジンの要求性能や技術面での向上などから、現在に至るまで主流となっている。抽気は単軸時代から存在する方法で、圧縮機の途中に空気が出入り可能な構造を用意し、ここから圧縮機内部の様子に応じて給気もしくは排気することで気流を安定させ、失速を防ぐ。多軸と単軸のどちらにも対応可能な方法であり、現在でもこの仕組みを搭載したエンジンがある。

事例 編集

サザン航空242便墜落事故ではパイロットが急激なスロットルレバー操作をして圧縮機のサージングを誘発し、これがエンジンに損傷を与えて不時着の一因となった。

サージングはコンプレッサーブレードが何らかの原因で失速状態に陥り、揚力の急減・抗力の急増によって圧縮機の性能が著しく損われる。原因はいくつかあるが、多くの場合は圧縮機の負荷の状態や設計に起因する。要因として、以下の例がある。

ブレードのような部材に損傷を受ける
民間機で損傷を受ける最も多い事例はバードストライク(離陸時、地上での移動時、着陸時にを吸い込むこと)である。しばしば重大な損傷を与える。
圧縮機部材の磨耗や汚染
この場合、回転翼の侵食、ブリード弁やシール錆びに起因する。
圧縮機部材の誤組み立て
この場合、圧縮機の案内翼が正常に作動しないことに起因する。

上記のほか、以下の原因も含まれる。

  • 航空機の設計運用域を超えた運用を行なった場合
  • エンジンの設計仕様を超えた運用を行なった場合
  • エンジンに渦流や高温の空気が流れ込んだ場合

関連項目 編集

  • F-14 (戦闘機) - エンジン換装前のA型機はしばしばコンプレッサーストールを起こした。
  • トップガン (映画) - 訓練中や戦闘中にコンプレッサーストールを起こすシーンがある。
  • コアロック - サージングによりコンプレッサーストールが発生した際に、エンジン内部のタービン軸受部等が過度の熱膨張により張り付き、再始動が困難になる現象。