ハマジンチョウ

ゴマノハグサ科の植物種

ハマジンチョウ(浜沈丁)、学名 Myoporum bontioidesゴマノハグサ科に分類される植物の一種。南日本から中国南部、インドシナ半島に分布する常緑低木であり、塩沼マングローブに自生する塩生植物でもある。別名はモクベンケイキンギョシバ。和名「ハマジンチョウ」は、海岸に生えていることと形態がジンチョウゲに似ることに由来するが、ジンチョウゲとの類縁は遠く、全く別のグループである[1][2]

ハマジンチョウ
ハマジンチョウの花
ハマジンチョウの花。熊本県苓北町(植栽個体)
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
: シソ目 Lamiales
: ゴマノハグサ科 Scrophulariaceae
: ハマジンチョウ属 Myoporum
: ハマジンチョウ M. bontioides
学名
Myoporum bontioides (Sieb. et Zucc.) A. Gray
長崎県天然記念物「荒川のハマジンチョウ」。内湾・礫浜の波打ち際に群生し、枝を茂らせて地表を覆う

形態 編集

成長しても高さ1-2mほどの低木だが、枝はよく分かれて繁茂する。葉は長さ6-12cm・幅2-3.5cmとやや細長く、厚い。鮮やかな緑色で光沢があり、枝に互生する。

花期は1-3月で、花は葉のわきに1-3個まとまって開く。直径2-3cmほどで薄紫色、花弁は漏斗状で先端が5裂する。雄蕊4本と雌蕊1本がある。花弁の内側に紫色の小さな斑点が散在する。花にはメジロがやって来る。果実は先が尖った球形で、数個の種子がある。果皮はコルク質で水に浮き易く、海流を介して分布を広げる[1][2][3][4]

分布・生育環境 編集

インドシナ半島、中国南部、台湾、南日本に分布する。日本では三重県長崎県熊本県鹿児島県沖縄県の5県で自生地が知られ、このうち三重県と熊本県では21世紀初頭の時点で自生地が各1ヶ所しか知られていない。長崎県は北限にあたるが五島列島九十九島に僅かに自生している。

内湾・河口・海跡湖等の波静かな海岸の波打ち際に自生し、満潮時に根元が海水に浸る高さにも生える。同様の生態を示すハマボウハマナツメとともに「半マングローブ植物」とも呼ばれる。南西諸島の群生地ではメヒルギ等とマングローブを構成するが、マングローブが発達しない九州西岸と三重県にも自生する[1][2][3][4]

人との関係 編集

もともと南方系の植物であり、日本では群落がそれほど多くなかったが、海岸部の埋立等でさらに生息地が減少している。日本では当時の環境庁がまとめた1997年版レッドリストから絶滅危惧II類(VU)として掲載され、環境省レッドリストでも2012年版まで引き継がれているが[5][6]、自生地がある5県はそれに先んじて各県条例で天然記念物として保護していた。環境庁によるレッドリスト指定後には各県でも絶滅危惧種として掲載された。特に利用されてはいなかったが、希少植物として注目されてからは保護も兼ねて海岸部や公園の緑化の為に植栽されるようにもなった[3][7]

天然記念物指定 編集

  • 三重県「獅子島の樹叢」(1955年)- 南伊勢町五ヶ所浦獅子島。本州唯一の自生地。五ヶ所浦にも植栽されている[7][8]
  • 長崎県
  • 熊本県「ハマジンチョウ群落」(1982年) - 苓北町富岡巴崎。熊本県唯一の自生地。ほど近い「頼山陽公園」にも植栽されている[11][12]
  • 鹿児島県「ハマジンチョウ」(1953年) - 阿久根市波留ほか[13]
  • 沖縄県「ハマジンチョウ群落」(1961年) - 南城市佐敷字冨祖崎[14]

絶滅危惧種指定 編集

脚注 編集

  1. ^ a b c 牧野富太郎, 2008. ハマジンチョウ, 新牧野日本植物図鑑. 北隆館 ISBN 9784832610002
  2. ^ a b c 中西弘樹, 1985. GEOBOTANICAL AND ECOLOGICAL STUDIES ON THREE SEMI-MANGROVE PLANTS IN JAPAN(半マングローブ植物3種の分布と生態). 日本生態学会誌 35(1), 85-92, 1985-03-30. 2014.2.28閲覧
  3. ^ a b c d 沖縄県環境生活部自然保護課, 2006. 改訂版 レッドデータおきなわ植物編169p. 2014.2.28閲覧
  4. ^ a b 海洋博公園, 2009. 海洋博花だより ハマジンチョウ2014.2.28閲覧
  5. ^ 環境庁自然保護局野生生物課, 1997. 植物版レッドリスト, 植物I:レッドリスト■絶滅危惧II類2014.2.28閲覧
  6. ^ 環境省自然環境局野生生物課, 2012. 平成24年8月28日 第4次レッドリストの公表, (別添資料7-8)植物I(維管束植物)のレッドリスト2014.2.28閲覧
  7. ^ a b 南伊勢町役場, まちかど風景写真-獅子島のハマジンチョウ2014.2.28閲覧
  8. ^ 三重県教育委員会 社会教育・文化財保護課, 2009. 獅子島の樹叢2014.2.28閲覧
  9. ^ 長崎県教育庁学芸文化課, 荒川のハマジンチョウ. 2014.2.28閲覧
  10. ^ 長崎県教育庁学芸文化課, 奈留島皺ノ浦のハマジンチョウ群落. 2014.2.28閲覧
  11. ^ a b 熊本県環境生活部自然保護課, 2009. ハマジンチョウ, レッドデータブックくまもと2009, 植物(維管束)その188p.2014.2.28閲覧
  12. ^ 熊本県文化企画課, 2013. ハマジンチョウ群落. 2014.2.28閲覧
  13. ^ 鹿児島県教育委員会・鹿児島県立博物館, 2012. ハマジンチョウ, 県指定天然記念物. 2014.2.28閲覧
  14. ^ 南城市まちづくり推進課, 2014. 海岸のハマジンチョウ群落. 2014.2.28閲覧
  15. ^ 日本のレッドデータ検索システム - ハマジンチョウ. 2014.2.28閲覧
  16. ^ 三重県環境森林部自然環境室, 2005. ハマジンチョウ, 三重県レッドデータブック2005. 2014.2.28閲覧
  17. ^ 鹿児島県環境林務部自然保護課, 2012.鹿児島県レッドデータブック, 植物絶滅危惧Ⅰ類(490種). 2014.2.28閲覧
  18. ^ 長崎県環境部自然保護課, 2011. 長崎県レッドリスト2011, 維管束植物(23.6.30修正版)17p. 2014.2.28閲覧