パレスベラ海盆

四国海盆の南方に形成された背弧海盆

パレスベラ海盆(パレスベラ かいぼん、Parece Vela Basin) または 沖ノ鳥島海盆(おきのとりしま かいぼん)は、フィリピン海プレートの一部をなし、1500万年前までに四国海盆の南方に形成された背弧海盆である[1]

パレスベラ海盆の位置(100x100内)
日本海盆
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パレスベラ
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概要 編集

パレスベラ海盆は四国海盆とともに約3000万 - 1500万年前に形成されたと考えられる。その拡大の中心はパレスベラリフトと称され、水深は場所によって6500メートルにもおよぶ深い凹地が雁行状に配列している[1]。この雁行配列は古くから注目されており、上部マントル由来と考えられるかんらん岩も採取され、その拡大はかねてより非マグマ的なものではないかとの議論がなされてきた[1]。パレスベラリフトは2001年平成13年)、日本政府の大陸棚調査によって低速拡大海嶺の典型的な構造を有していることが再確認され、当時、その特異な構造は「ジャイアントメガムリオン」と命名された[1]

1500万年前までに、四国海盆ならびにパレスベラ海盆が形成されたことにより、伊豆・小笠原・マリアナ島弧九州・パラオ海嶺が分断された [2]

パレスベラ海盆の形成については、東経138度を境にして海盆の東西で著しく地形の線構造が変化していることが注目される[1]。これは、1900万年前の地磁気異常の時期に海盆の拡大方向が変化したことを示すものであり、当該期を境としてパレスベラ海盆の発達史を2期に大別することができる[1]。すなわち、19Ma以前(前期)が東西拡大のステージであり、19Ma以降(後期)が拡大軸が反時計周りに回転して北東・南西方向に拡大したステージとなる[1]。後期において北東・南西軸に拡大が生じた理由としては、マリアナ海溝へ沈み込んだと推定される太平洋プレートの斜め沈み込みが主因と考えられる[1]

当初「ジャイアントメガムリオン」と命名された「メガムリオン地形」(「畝つき亀の甲」地形)は、地下のマントルが露出して固まったものと考えられる岩塊がドーム状をなしている地形で、海洋コアコンプレックス英語版とも称され、表面に海底の拡大方向にコルゲーションと呼ばれる平行な畝(うね)構造をともなう[3]。メガムリオンないしムリオン地形は、張力場のもとで、低角の(水平に近い)正断層が大規模に発達することによって、通常は地表に現れない、断層下側の地殻の深部やマントルの一部が露出することによって形成されたのではないかと考えられ、かんらん岩や斑れい岩などから構成される[3][4][注釈 1]

2001年、沖ノ鳥島と北マリアナ諸島のほぼ中間で発見されたジャイアントメガムリオンはのちに、怪獣ゴジラにちなみ、「ゴジラ・メガムリオン」と名づけられ、2022年1月、国際承認を受けた[6]。その大きさは縦125キロメートル、幅55キロメートル、最深部との高低差4キロメートルであり、マントルが露出したドーム状の岩塊としては世界最大である[6][7][8]。パレスベラ海盆の中央部には長辺35キロメートル以下の普通サイズのムリオンが他にも見つかっている[3]

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ メガムリオン(megamullion)は「巨大なムリオン("Mullion"=「方立」)を意味する言葉であり、ムリオンまたはマリオンとは、本来は「方立」およびその意匠を意味する建築用語で、窓を縦方向に支える構造物のことである[5]

出典 編集

  1. ^ a b c d e f g h パレスベラ海盆の特異な地形”. 海上保安庁水路部. 2022年1月7日閲覧。
  2. ^ 「用語解説」2013年8月”. 日本政府 地震調査研究推進本部. 2022年1月7日閲覧。
  3. ^ a b c 「しんかい 6500」 潜航記 (PDF) - 自然科学のとびら Vol.15, No.3 Sept., 2009 通巻58号(神奈川県立生命の星・地球博物館 広報誌)
  4. ^ 小原泰彦ほか (2013年3月14日). “ゴジラメガムリオンにおける高密度サンプリングが明らかにしたこと:背弧海盆の発達史に関する試論”. 海洋研究開発機構. 2022年1月7日閲覧。
  5. ^ マリオン/建築用語”. 建築情報.net. 2014年1月13日閲覧。
  6. ^ a b 日本提案の海底地形名が国際会議で承認”. 日本政府 海上保安庁. 2022年1月16日閲覧。
  7. ^ パレスベラ海盆の非マグマ的拡大”. 東京大学大気海洋研究所 横山祐典研究室. 2014年1月13日閲覧。
  8. ^ 「マントル「のぞき窓」沖ノ鳥島沖に 命名「ゴジラ」 地球内部 解明に期待」『読売新聞』読売新聞(読売新聞)、東京、2014年1月11日、夕刊14頁。2022年1月16日閲覧。

関連項目 編集