フィロズルチン(phyllodulcin)は、化学構造上はジヒドロイソクマリン類に分類される有機化合物の1つである。フィロズルチンをヒトが官能試験すると甘味を感じられるものの、かつて人工甘味料として用いられていたズルチン(4-エトキシフェニル尿素)とは別の物質である。

フィロズルチン
Chemical structure of hyllodulcin
識別情報
CAS登録番号 21499-23-0
PubChem 146694
特性
化学式 C16H14O5
モル質量 286.27 g/mol
精密質量 286.084124 u
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

光学活性 編集

フィロズルチンはキラル中心を1つ有する。それは3位の炭素である[注釈 1]。天然物のフィロズルチンは、この部分の絶対配置がR体であり、光学活性を示す。

所在 編集

フィロズルチンは、アマチャHydrangea macrophylla Seringe var. thunbergii)の葉に配糖体の形で含まれる。具体的には、フィロズルチンの8位の水酸基[注釈 2]グルコースエーテル結合した、フィロズルチン-8-O-グルコシドの形である[1]

甘味料 編集

この配糖体の形では甘味は感じられない。加水分解されてアグリコンの形、すなわち、フィロズルチンが遊離されるとヒトは甘味を感ずる。これを利用して、食品添加物の天然甘味料として、アマチャ抽出物を用いる場合がある[2]

なおフィロズルチンの甘さは、天然の甘味料として知られるスクロースの400あるいは600 - 800倍とされる[3][4]。参考までに、人工甘味料のサッカリンの甘さと比べても、約2倍フィロズルチンの方が甘い[5]

甘茶 編集

アマチャの乾燥させた若葉を湯で抽出した飲料を甘茶と呼ぶ。この甘茶の甘味成分の1つが、フィロズルチンであり、甘茶の他の甘味成分としてイソフィロズルチン英語版が知られる。

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ フィロズルチンのイソクマリン環に、ベンゼン環が結合している炭素である。
  2. ^ フィロズルチンのイソクマリン環の側に付いている水酸基が、8位の水酸基である。

出典 編集

  1. ^ Matsuda, Hisashi; Simoda, Hiroshi; Yamahara, Johji; Yoshikawa, Masayuki (1999). “Effects of phyllodulcin, hydrangenol, and their 8-O-glucosides, and thunberginols A and F from Hydrangea macrophylla Seringe var. thunbergii Makino on passive cutaneous anaphylaxis reaction in rats.”. Biological & Pharmaceutical Bulletin 22 (8): 870-872. doi:10.1248/bpb.22.870. PMID 10480329. INIST:1959604. 
  2. ^ 谷村 顕雄 (1992年4月16日). 食品添加物の実際知識 (第4版 ed.). 東洋経済新報社. p. 231. ISBN 4-492-08349-9 
  3. ^ 瀬口 正晴、多田 洋、小関 佐貴代、衣笠 治子、道家 晶子、八田 一 著、瀬口 正晴、八田 一(編) 編『食品学各論』化学同人、176頁。ISBN 978-4-7598-0473-7 
  4. ^ Kinghorn, A. Douglas; Compadre, Cesar, M. (2011). “Less Common High-Potency Sweeteners”. In O'Brien-Nabors, Lyn. Alternative Sweeteners (4th ed.). Boca Raton: CRC Press. p. 228. ISBN 978-1-4398-4614-8 
  5. ^ アマチャ” (html). 東邦大学 薬用植物園. 2012年5月27日閲覧。