ムーヴィング・ウェイヴス

フォーカスのアルバム

ムーヴィング・ウェイヴス』(Moving Waves)は、オランダプログレッシブ・ロックバンドフォーカス1971年10月に発表した2作目のスタジオ・アルバム。オランダ盤オリジナルLPは『フォーカスII』(Focus II) というタイトルで発売されたが[1]、インターナショナル盤は改題された[2]。本作は好意的な批評に迎えられ、イギリスアメリカ合衆国、オランダでトップ10入りを果たした。

ムーヴィング・ウェイヴス(フォーカスII)
フォーカススタジオ・アルバム
リリース
録音 1971年4月13日 - 5月14日
Sound TechniquesMorgan Studios
イングランドの旗 ロンドン
ジャンル プログレッシブ・ロックジャズ・フュージョンハードロックインストゥルメンタル・ロック英語版
時間
レーベル インペリアル・レコード
プロデュース マイク・ヴァーノン英語版
フォーカス アルバム 年表
フォーカス・プレイズ・フォーカス
(イン・アンド・アウト・オブ・フォーカス)
(1970)
フォーカスII
(ムーヴィング・ウェイヴス)
(1971)
フォーカスIII
(1972)
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解説 編集

経緯 編集

1969年の秋、タイス・ファン・レール(キーボードフルートボーカル)、ハンス・クルフェール(ドラムス)、マーティン・ドレスデン(ベース・ギター)の「トリオ・タイス・ファン・レール」に、元ブレインボックスヤン・アッカーマン(ギター)が合流して「フォーカス」が誕生した。彼らは翌1970年にデビュー・アルバムFocus Plays Focusを発表し、続いてアッカーマン作の新曲「ハウス・オブ・ザ・キング[3]を録音した。しかしアッカーマンはファン・レールとそりが合わず、同年フォーカスを脱退することを決心した。

アッカーマンは、共にブレインボックスを結成したピエール・ファン・デル・リンデン(ドラムス) とブレインボックスの結成時に知り合ったシリル・ハフェルマンス〈ベース・ギター、ボーカル)の二人を誘って新しいバンドを結成しようとした。しかし「ハウス・オブ・ザ・キング」のシングルを発表する直前だった[注釈 1]レコード会社は、アッカーマンとファン・レールの両者に一緒に活動を続けるように哀願した。アッカーマンは、その条件にファン・デル・リンデンとハフェルマンスをメンバーに迎えることをあげ、それを飲んだファン・レールはクルフェールとドレスデンに別れを告げてアッカーマン達に合流した。新しいフォーカスは1970年12月19日にアムステルダムで初舞台を踏んだ[4]

内容 編集

本作は、60年代に数多くのイギリスのブルース・ロック・ミュージシャンの作品の制作に関わったマイク・ヴァーノン[5]をプロデューサーに迎えて、1971年4月と5月にロンドンで制作された。

ヒット曲「悪魔の呪文」(Hocus Pocus)や、オリジナルLPの片面を占める23分の組曲「イラプション」(Eruption)が収録されている。フォーカスの作品は本作からインストゥルメンタル曲が主体になり、前作のデビュー・アルバムには7曲中5曲だったボーカル曲は、本作ではインターナショナル盤のタイトル曲である「ムーヴィング・ウェイヴス」のみであった。この曲はインド出身でロンドンで活動した音楽家、教師のイナヤット・カーン(1882-1927)の詩にファン・レールが曲をつけたものである[6][注釈 2]

「イラプション」はオルペウスエウリュディケーの物語を取り上げたヤコポ・ペーリオペラエウリディーチェ』(Euridiceを翻案した作品で、1971年と1972年のコンサートでは40分間にも及ぶ演奏が披露された[注釈 3]。この組曲はファン・レールが作曲した小品を中心に構成されているが、「トミー」(Tommy)は、オランダのプログレッシブ・ロックバンドソリューションが1972年に発表したアルバムDivergenceに収録されたアルバム・タイトル曲の改作である。この曲の主題はソリューションのメンバーでファン・レールの旧知のサクソフォ―ン奏者であったメンバーのTom Barlageによってサクソフォ―ン・ソロとして書かれ、このソロをBarlageから聴かされたファン・レールが気に入って、Barlageの名前をとってTom Barlage作の'Tommy'と名付け、ギター曲として「イラプション」に取り入れた[注釈 4][7]。「エウリディーチェ」(Euridice)の共作者であるEelco Nobelは、ファン・レールが1968年2月から約一年間参加した、オランダの人気歌手のラムゼス・シャフィのバッキング・ボーカル・グループのメンバーであった[8]

反響・評価 編集

専門評論家によるレビュー
レビュー・スコア
出典評価
Allmusic     [9]
MelodicMusic     

『フォーカスII』は、1971年10月にリリースされ、オランダの「アルバム・トップ100」では10月16日に初登場8位となって、同年のうちに4位に達した[10]。インターナショナル盤の『ムーヴィング・ウェイヴス』は、イギリスでは1972年11月11日付の全英アルバムチャートで初登場を果たし[11]、1973年3月には2位を記録した[12]。また、1973年にはアメリカ合衆国のBillboard 200でも8位に達し[13]、日本盤は1973年6月に発売され、オリコンLPチャートで79位に達した[14]

シングル「悪魔の呪文」は、Billboard Hot 100で最高9位となった[15]

『ムーヴィング・ウェイヴス』は、『Q』誌と『モジョ』誌が選んだ「コズミック・ロック・アルバム40 (40 Cosmic Rock Albums)」の企画で24位に挙げられた[16]

収録曲 編集

1面
#タイトル作詞・作曲時間
1.悪魔の呪文 (Hocus Pocus)」タイス・ファン・レールヤン・アッカーマン
2.「ル・クロシャール (Le Clochard)」アッカーマン
3.「ジャニス (Janis)」アッカーマン
4.「ムーヴィング・ウェイヴス (Moving Waves)」ファン・レール、イナヤット・カーン (Inayat Khan)
5.「フォーカス II (Focus II)」ファン・レール
2面
#タイトル作詞作曲・編曲時間
6.「イラプション (Eruption)"
  • "Orfeus" (ファン・レール)
  • "Answer" (ファン・レール)
  • "Orfeus" (ファン・レール)
  • "Answer" (ファン・レール)
  • "Pupilla" (ファン・レール)
  • "Tommy" (トム・バーラーゲ (Tom Barlage))
  • "Pupilla" (ファン・レール)
  • "Answer" (ファン・レール)
  • "The Bridge" (アッカーマン)
  • "Euridice" (ファン・レール、エールコ・ノーベル (Eelko Nobel))
  • "Dayglow" (ファン・レール)
  • "Endless Road" (ピエール・ファン・デル・リンデン)
  • "Answer" (ファン・レール)
  • "Orfeus" (ファン・レール)
  • "Euridice" (ファン・レール、ノーベル)
  

パーソネル 編集

脚注 編集

出典 編集

  1. ^ Focus (2) - Focus II (Vinyl, LP, Album) at Discogs
  2. ^ Counting Out Of Time: Focus - Moving Waves”. Dutch Progressive Rock Page. 2016年4月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年12月19日閲覧。
  3. ^ Johnson (2015), pp. 37–39.
  4. ^ Johnson (2015), pp. 40–44.
  5. ^ Johnson (2015), pp. 48–49.
  6. ^ Johnson (2015), pp. 24, 54–55.
  7. ^ Johnson (2015), pp. 57–58.
  8. ^ Johnson (2015), pp. 12–13, 58.
  9. ^ Focus - Moving Waves - オールミュージック
  10. ^ Focus - Focus II”. dutchcharts.nl. 2015年12月12日閲覧。
  11. ^ FOCUS | full Official Chart History”. Official Charts Company. 2015年12月12日閲覧。 - 「Albums」をクリックすれば表示される
  12. ^ Official Albums Chart Top 50 - 11 March 1973-17 March 1973 | Official Charts Company
  13. ^ Focus | Awards”. AllMusic. 2016年3月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年1月25日閲覧。
  14. ^ 『オリコンチャート・ブックLP編(昭和45年‐平成1年)』(オリジナルコンフィデンス/1990年/ISBN 4-87131-025-6)p.255
  15. ^ Focus”. Billbiard. 2015年12月11日閲覧。
  16. ^ Q Classic: Pink Floyd & The Story of Prog Rock, 2005.

注釈 編集

  1. ^ 翌1971年早々に、オランダのシングルチャートのトップ10を記録したほか、ヨーロッパ諸国でヒットした。
  2. ^ ファン・レールの母親は1950年代にスーフィズムに強い興味を持ち、20世紀に初めにスーフィズムを西洋に広める"The Sufi Order in the West"という活動を始めたカーンの著書を読んでいた。ファン・レールは16歳の時に、「ムーヴィング・ウェイヴス」をはじめとしてカーンの幾つかの詩に曲をつけた。
  3. ^ 2020年に発売されたFocus 50 Years: Anthology 1970-1976に、1971年10月29日にロッテルダムデ・ドゥーレンで開かれた第7回ニューポート・ジャズ・フェスティバルで録音された47分間近い演奏が収録された。
  4. ^ アッカーマンは、フォーカス脱退後のソロ活動においても、この曲をしばしば取り上げてきた。

参考文献 編集

  • Johnson, Peet (2015), Hocus Pocus: The Strife and Times of Rock's Dutch Masters, Tweed Press, ISBN 978-0-646-59727-0 

外部リンク 編集