メルセデス・ベンツ・W211

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W211/S211は、メルセデス・ベンツの3代目Eクラスを指すコードネームである。頭文字の“W”はセダン、“S”はステーションワゴンを表す。

概要 編集

メルセデス・ベンツ・Eクラス
 
W211 アバンギャルド
 
概要
販売期間 2002年-2009年
ボディ
ボディタイプ 4ドアセダン
5ドアステーションワゴン
駆動方式 FR/4WD
パワートレイン
最高出力 ガソリン:
120-378kW(163-514PS)
ディーゼル:
90-231kW(125-314PS)
変速機 6速MT/5速AT/7速AT
車両寸法
ホイールベース 2,855mm
全長 セダン:4,820-4,880mm
ワゴン:4,850-4,920mm
全幅 1,820mm
全高 セダン:1,430-1,500mm
ワゴン:1,485-1,510mm
車両重量 セダン:1,650-1,920kg
ワゴン:1,780-2,020kg
その他
最小回転半径 5.3m
系譜
先代 メルセデス・ベンツ・W210
後継 メルセデス・ベンツ・W212
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2002年に登場。先代のデザインを踏襲しつつも大胆に傾斜した楕円形の4灯式ヘッドライトなどを特徴とし、よりエレガントな様相を持っているが、後期型はフロントグリルを中心にスポーティーな印象を強めている。外観はキープコンセプトだが、新プラットフォームの採用により全幅と全高が20mmずつ拡大し、それぞれ1,820mm、1,450mmとなったことで普通車サイズの機械式立体駐車場ではぎりぎりのサイズとなり、入庫できない駐車場がある。Cd値は0.26。

日本での価格帯は約700〜1,400万円だが、北米では51,000〜86,000ドル (約612〜1,032万円/2002年下半期のレート:120円)とやや大衆にも向けた設定である。欧州市場やアジアアフリカ諸国などではE200 コンプレッサーやE220 CDIなどの廉価版も存在するが、日本市場では高級車というイメージを強調するブランド戦略によりE250以上のラインナップとなっている。マイナーチェンジを機にオプションの標準装備化や追加装備が行われ、全体的に販売価格が上昇した。

日本国内ではエレガンス (E300のみ。日本国内では“エレガンス”とは表記されない) とアバンギャルド (黒系の木目の内装で革張り) が存在する。欧州では内装及び装備を簡素化したクラシックも存在するが、日本国内には導入されていない。なお、アバンギャルドは2006年秋のマイナーチェンジによりアバンギャルドSとしてバトンタッチしたものの[1]、その半年後にはE350のFR車に限りアバンギャルドが復活している。E320 CDI、E350 4MATICは従来からアバンギャルドのままとなっている。なお、E350 アバンギャルドSなどでのAMGエアロパーツとE63 AMGなどでのAMGエアロパーツは細部が異なっている。

先進装備として、雨天時などにディスクとブレーキパッドをわずかに接触させ水分の除去を行いながらの走行や、アクセルペダルから足を離すと、ブレーキに備えてディスクとブレーキパッドの間隔を狭める「SBC (Sensotronic Brake Control)」が装備されたが、接触不良やノイズの影響などで警告と共にパワーアシストが切れ、バックアップモードへ移行する問題が多発した。この状態ではブレーキが前輪2輪しか効かない状態となり最大減速力も0.3Gと弱く、その上ゴム球からなる人工反力装置が切り離されず通常に比べて約5倍の踏力を必要としたため、女性など脚力の弱いドライバーでは十分な減速が不可能であった。日本でも大規模なリコールが行われ[2]、2005年8月以降は信頼性が確保されたが、マイナーチェンジで「SBC」は廃止される。

そのほか、多くの電気機器の駆動に通信システムCANが採用されたため、SAMと呼ばれるシステムなどの障害が多発した。このため、総計130万台の個別調査を元に詳細に解析された米国コンシューマーレポーツ年鑑 自動車信頼性調査2006年版で“劣悪”と判断され、米国での販売は激減した。こうしたトラブルに加え、モデル中期では同クラスの日本車がHDDナビゲーションシステムやiPodなどの外部入力への対応を行っていた中、W211がこれらを装備するのは最終モデルでの更新の時であったため、電装系機能の面で不満を訴えるユーザーも多かった。W210で指摘されたコスト削減に伴う品質低下から、元来の「最善か無か」に回帰を試みたが、SBCのトラブルもありマイナーチェンジされるまで信頼性は十分ではなかった。

ステーションワゴンのエンジンはほぼセダンと共通であるが、S211以降荷物積載時の姿勢変化を抑えるためエアサスペンションによるセルフレベリング機構を後輪に採用している。また、カーゴルームのフタとなるトノカバーは、ハッチバックの開閉とともに連動して開口部が開くようになっている。日本国内では5人乗りとともにカーゴルームに2人用座席を格納・設置した7人乗りのモデルも導入された。クーペカブリオレはラグジュアリー性を重視しており、十分なスペースのリアシートとラゲッジルームを備え、大人4人が余裕を持って乗車することを前提としている。EクラスのクーペはCLKに譲ることで一旦廃止となり、2009年に復活したが、基本設計はCLK同様Cクラスベースとなった。一方でクーペスタイルを持つ4ドアとしてCLSが販売されており、かつてのEクラスクーペに相当する価格帯で展開されている。

上記の様に度重なる不具合の発生とリコール[3]によりSBCが2006年度のマイナーチェンジで廃止されたため、前期と後期でそれぞれブレーキ構造が異なる。また、前期の前半と後半ではエンジン(排気量、SOHC→DOHCなど)とトランスミッションが異なる(5速AT→7速AT)など、基本要素が頻繁に変更された。

2008年12月に米国道路安全保険協会から発表された「盗難率の低い車リスト」では、2007年に米国で最も盗難被害に遭う確率が低かった車としてランキングされており、盗難率は1万台あたり6台となっている。このモデル以降Eクラスの販売は好調なCクラスに比べて順調とは言えない状態が続いている。

年表 編集

  • 2002年(平成14年)
    • 6月 セダンがフルモデルチェンジ。E240、E320とE500のアバンギャルドを販売開始。
    • 12月 セダンにAMGモデルE55 AMGを追加。
  • 2003年(平成15年)2004年モデル
    • 8月 セダンより約1年遅れでステーションワゴンがフルモデルチェンジ。E240ステーションワゴン、E320ステーションワゴン アバンギャルド販売開始。
    • 11月 セダンにE320 4マチック アバンギャルドを追加。E500 アバンギャルドがの5速AT→7速AT化。ステーションワゴンにE320 4マチックとE500のアバンギャルド、E55 AMGを追加。
  • 2005年(平成16年)
    • 2005年に発売されたE350は、「2005年モデル」と「2006年モデル」で装備に違いがある。
    • 2月 2005年モデル:E320 アバンギャルドと4マチックに代わり、E350 アバンギャルドと4マチックを設定。E55 AMGのステアリングギヤ比をクイック化。
    • 8月 2006年モデル:E240に代わりE280のを設定。他のEクラスモデルも含め、従来のSBCリコール対応、安定化プリクラッシュセーフティーの強化、パッシブセンサーなど各種オプション装備の追加が行われた。
  • 2006年(平成17年)2007年モデル
    • 8月28日 マイナーチェンジ。
      • 主な変更として、従来のSBCを廃止し通常のブレーキへの変更、プリクラッシュセーフティーの強化、各種オプション装備の標準化が行われた。また日本市場にE320・CDIがクリーンディーゼルとしてディーゼルエンジン車がW124以来久しぶりに復活する。
      • ラインナップが大幅に変更される。E280がE300に変更。他、E300、E320 CDI、E350 4MATIC、E350アバンギャルド、E550アバンギャルドS、E63 AMGがラインナップされた。E500、E55 AMGは廃止された。
  • 2007年(平成18年)
    • 1月 ユーロに対する円安傾向からE300を除くEクラス セダンとステーションワゴンのすべてのグレードで価格改定され平均0.9%引き上げられる。
    • 2月
      • E350アバンギャルドが6か月間の販売休止を経て復活。
        • エンジンやシャーシなどは2006年モデルと同じであるが、2007年モデルのE350では、マイナーバージョン後のエクステリア、インテリア、機能・装備、ブレーキシステム(SBCの廃止対応)となっている。
      • 期間限定モデルE300アバンギャルドリミテッドを発売。
    • 5月 期間限定モデルE320 CDI リミテッドを追加。
    • 8月 E250および期間限定モデルE250デビューパッケージ(セダンのみ)を発売。
    • 11月 E250のモデルを追加。E300 ステーションワゴン アバンギャルドSは廃止された。
  • 2008年(平成19年)
    • 8月 E250に代わり、E250 アバンギャルドを発売。

グレード 編集

グレード一覧
グレード 製造期間 排気量 エンジン 最高出力・最大トルク 変速機 駆動方式
E63 AMG
E63 AMG ステーションワゴン
2006年8月- 6.2リットル V型8気筒DOHC 514PS/64.2kg・m 7速AT FR
E550 アバンギャルドS
E550 ステーションワゴン アバンギャルドS
5.5リットル 387PS/54.0kg・m
E350 アバンギャルドS
E350 ステーションワゴン アバンギャルドS
3.5リットル V型6気筒DOHC 272PS/35.7kg・m
E350 4MATIC アバンギャルド
E350 4MATIC ステーションワゴン アバンギャルド
2005年2月- 5速AT 4WD
E350 アバンギャルド
E350 ステーションワゴン アバンギャルド[4]
2005年2月 - 2006年8月
2007年2月-
7速AT FR
E320 CDI アバンギャルド
E320 CDI ステーションワゴン アバンギャルド
2006年8月- 3.0リットル V型6気筒DOHCディーゼル 211PS/51.1kg・m
E300/E300 アバンギャルドS
E300 ステーションワゴン
V型6気筒DOHC 231PS/30.6kg・m
E250 アバンギャルド
E250 ステーションワゴン アバンギャルド
2008年8月- 2.5リットル 204PS/25.0kg・m
E55 AMG
E55 AMG ステーションワゴン
2002年11月 - 2006年8月 5.4リットル V型8気筒SOHC
スーパーチャージャー
467PS/71.4kg・m 5速AT
E500 アバンギャルド
E500 ステーションワゴン アバンギャルド
2002年11月 - 2006年8月 5.0リットル V型8気筒SOHC 306PS/46.9kg・m 7速AT
E320 アバンギャルド
E320 ステーションワゴン アバンギャルド
2002年6月 - 2005年2月 3.2リットル V型6気筒SOHC 224PS/32.1kg・m 5速AT
E320 4MATIC アバンギャルド
E320 ステーションワゴン
2003年11月 - 2005年2月 4WD
E280/E280 ステーションワゴン 2005年8月 - 2006年8月 3.0リットル V型6気筒DOHC 231PS/30.6kg・m 7速AT FR
E300 ステーションワゴン アバンギャルドS 2006年8月 - 2007年7月
E250/E250 ステーションワゴン 2007年11月 - 2008年8月 2.5リットル 204PS/25.0kg・m
E240/E240 ステーションワゴン 2002年6月 - 2005年8月 2.6リットル V型6気筒SOHC 177PS/24.5kg・m 5速AT

主要諸元 編集

太字=日本での最終販売中のモデル。 ※ドイツ語版より抜粋 ※すべてセダンでのデータ

エンジン出力(kW/PS 最高速度(km/h 0-100 km/h到達時間(秒) 日本導入
E200CDI 90/125 203 12.1 未導入
E200CDI 100/136 214 9.9 未導入
E220CDI 125/170 227 8.4 未導入
E270CDI 130/177 230 9.0 未導入
E280CDI R6 RPF 130/177 228 9.2 未導入
E280CDI V6 140/190 241 8.6 未導入
E320CDI R6 150/204 240 7.7 未導入
E320CDI V6 165/224 250(リミッター動作) 6.8 導入(2006年8月)
E 400 CDI 191/260 250(リミッター動作) 6.9 未導入
E420CDI 231/314 250(リミッター動作) 6.1 未導入
E200NGT 120/163 230 9.6 未導入
E200コンプレッサー 120/163 230 9.6 未導入
E200コンプレッサー 135/184 230 9.1 未導入
E 240 130/177 236 8.9 導入
E 240 4MATIC 130/177 223 10.6 導入
E 250 150/204 - - 導入(2008年8月)
E 280 170/231 250(リミッター動作) 7.3 導入
E 300 170/231 250(リミッター動作) 7.3 導入(2006年8月)
E 320 165/224 245 7.7 導入
E 320 4MATIC 165/ 224 240 8.4 導入
E 350 200/272 250(リミッター動作) 6.9 導入
E 500 225/306 250(リミッター動作) 6.0 導入
E 500 4Matic 225/306 250(リミッター動作) 6.3 導入
E 550 285/388 250(リミッター動作) 5.3 導入
E 55 AMG 350/476 250(リミッター動作) 4.7 導入
E 63 AMG 378/514 250(リミッター動作) 4.5 導入(2006年8月)

日本国内での正規代理店での発売モデルは、最高速度がスピードリミッターによりいずれも210km/hに制限されている。

Eクラスエクスペリエンス パリ-北京 編集

2006年、model2007の発売PRの一環として、Eクラスによるパリ-北京間13,600kmを走破するイベントが、メルセデス・ベンツとして99年ぶりに開催された。33台のE320 CDI、E320 CDI 4MATICにより約1か月間かけて行われ、シベリアの凍土から砂漠、100kmを超える直線など、多い日は1日700km以上を走破した。ドライバーには、パリ・ダカールラリーで1981年、1984年、1986年と総合優勝を果たしたルネ・メッジなども参加した。サポートカーとしてGクラススプリンター (日本未導入) などが用いられている。その他、ドイツの石油販売会社であるARAL (アラール) とミシュランによるサポートが行われた[5][6]

脚注 編集

  1. ^ ドイツ本国などには未設定・AMGデザインのアルミホイールやスポーツシートなどを装備。
  2. ^ “リコールの届出について”. 国土交通省. (2005年4月12日). https://www.mlit.go.jp/jidosha/recall/recall05/04/recall04-126.html 
  3. ^ “リコールの届出について”. 国土交通省. (2005年4月12日). https://www.mlit.go.jp/jidosha/recall/recall05/04/recall04-126.html 
  4. ^ 従来の快適性を望むユーザー向けに2007年2月に復活。マイナーチェンジ前後で唯一販売されているグレードで、年度ごとに細部の機能・装備は異なる。
  5. ^ “特別ではないEクラスの、特別な1万3600kmの旅 (1-7P)”. Hobidas Auto. (2007年5月1日). http://www.hobidas.com/auto/carnews/article/40206.html 
  6. ^ Paris Beijing 2006 (1-9P) .金子浩久. Horizontal.

関連項目 編集

外部リンク 編集