半神』(はんしん)は、萩尾望都による短編漫画作品、および本作品を表題作とする短編集。『プチフラワー』(小学館1984年1月号に掲載された。

結合双生児を題材とした話を、16ページの短編で描いている。

野田秀樹が主宰する夢の遊眠社により戯曲化・舞台化されている。

あらすじ 編集

少女ユージーユーシーは、腰の辺りで身体が繋がった結合双生児である。妹のユーシーは知的障害があって話すこともできないが、美しい容姿を持ち、天衣無縫な笑顔を振りまいて、周りからは天使のようだと可愛がられた。しかし姉のユージーはまったく正反対だった。高い知能を持って健常者と同じように話すことができ、運動機能も問題がないものの、妹の身体に栄養のほとんどを吸われて醜く痩せ細り、髪もろくに生えない。おまけに妹の世話を両親から任され、自由に動きまわることもままならず、唯一の楽しみである勉強ですら妹に邪魔されてしまう。しかもそのあいだ、妹の美しさへの称賛をずっと聞かされ続けなければいけない。ユージーにとって妹は決して離れることができない疫病神であり、自身のコンプレックスの象徴であった。

やがて双子は13歳になり、成長した二人の身体は限界を迎えていた。栄養を作り出せるのはユージーだけだが、彼女の身体は二人分の負担に耐えきれずに衰弱し、もはや歩くこともできなくなっていた。医師より「このままでは二人とも長く生きていられない」「切り離す手術をすれば、君だけは助けることができる」と告げられ、ユージーはついに妹から解き放たれ、自由になることができる機会を得たことを知る。手術後、一人だけの身体になり体力も戻ったユージーは妹に面会する。病室のベッドに横たわったユーシーの姿にかつての美しさは見る影もなく、醜く痩せこけ、まるでこれまでの自分自身のように見えた。妹の身体は自分で栄養を作り出すことができないため、程なく命を終えようとしていたのだ。

そして年月が過ぎ、ユージーは16歳の健康で美しい少女に成長した。前向きでエネルギッシュな彼女は、自分の手で多くの幸せを形にしていた。しかしそんな満たされた毎日の中で、ふとしたとき鏡の中の自分にかつて嫌っていた妹の姿を見つける。あのとき死んでいったのは自分の方だったのか。ユージーは妹への憎しみと愛をかみしめ、失った半身[注釈 1]の大きさに涙を流す。

単行本・文庫本 編集

  • 萩尾望都作品集 第2期 第9巻『半神』 小学館 プチコミックス 1985年3月20日初版発行 ISBN 4-09-178029-6
収録作品 「半神」、「ラーギニー」、「スロー・ダウン」、「酔夢」、「花埋み」、「紅茶の話」、「追憶」、「パリ便り」、「ハーバル・ビューティ」、「遊び玉」、「マリーン」
収録作品 「半神」、「ラーギニー」、「スロー・ダウン」、「酔夢」、「ハーバル・ビューティ」、「偽王」、「温室」、「左ききのイザン」、「真夏の夜の惑星」、「金曜の夜の集会」
  • 萩尾望都Perfect Selection 9(フラワーコミックススペシャル)『半神』 2008年2月26日初版発行 ISBN 4-09-131224-1
収録作品 「半神」、「イグアナの娘」、「天使の擬態」、「学校へ行くクスリ」、「午後の日差し」、「偽王」、「温室」、「マリーン」、「カタルシス」、「帰ってくる子」、「小夜の縫うゆかた」、「友人K」

舞台劇 編集

原作者・萩尾と劇作家・野田秀樹の共同脚本の下、1986年、野田が主宰する夢の遊眠社により戯曲化・舞台化された。1988年1990年(ともに夢の遊眠社公演)に再演され、1990年にはエディンバラ国際芸術祭で上演された。その後、1999年(NODA・MAP公演)、2014年(日韓の国際共同制作事業作)、2015年(劇団アトリエ公演)、2017年(クラアク芸術堂公演)、さらに2018年7月に再演された[2]。『半神』の他、同作者による漫画『霧笛』の要素も取り入れられており、現実と虚構が入れ子構造となった特異な作品となっている。

あらすじ(舞台版) 編集

岬に立つ銀の塔に両親と暮らすシャムの双生児、醜いが賢いシュラと白痴だが美しいマリア。2人のもとにある日家庭教師(先生)がやってくる。シュラは「4次元から5次元へと至る、らせん方程式の解」を見つけ出そうとしているが、実は先生の祖父である老数学者は、かつてその方程式を解くことで「世界の六つ目の「果て」」を解き明かし、「この世のものとは思われぬ音」を聞こうとしていた。

一方、スフィンクスユニコーンガブリエルハーピーマーメイドの化け物たちが双子の様子を窺っている。彼らは双子を自分たちの世界に引き込もうとしている。「人の世界にそのままいても人に愛されることはないし、身体に無理がきて死んでしまう」とシュラに語りかける化け物たち。その言葉通り、そのうち2人の心臓が不整脈を打ち始める。成長していくにつれ、内臓が2人分の身体を支えることができなくなってきたのだ。主治医の老ドクターは2人の分離手術を提案するが、心臓は1つ。シュラかマリア、どちらを生かすかの選択を迫られる。

夢の遊眠社 第32回公演(1986年〔初演〕) 編集

1986年2月、本多劇場にて公演。

キャスト(1986年) 編集

夢の遊眠社 第35回公演(1988年) 編集

1988年4月 - 5月、東京のシアターアプル、および大阪の近鉄劇場にて公演。

キャスト(1988年) 編集

  • 老数学者・老ドクター - 段田安則
  • シュラ - 野田秀樹
  • マリア - 山下容里枝
  • 先生 - 上杉祥三
  • スフィンクス - 佐戸井けん太
  • 父 - 浅野和之
  • 母 - 向井薫
  • 右子・ガブリエル - 竹下明子
  • 左子・マーメイド - 円城寺あや
  • ユニコーン - 羽場裕一
  • ハービー - 上田信良
  • ゲーリューオーン - 遠山敏也

夢の遊眠社 第38回公演(1990年) 編集

リニューアルバージョンと称し、1990年3月 - 6月、JR東海エクスプレスシアターの協賛で全国10都市にて上演。

1990年8月 - 9月、エディンバラ国際芸術祭にて海外公演。

キャスト(1990年) 編集

  • 老数学者/ドクター - 野田秀樹
  • シュラ - 円城寺あや
  • マリア - 竹下明子
  • 先生 - 羽場裕一
  • スフィンクス - 佐戸井けん太
  • 父 - 田山涼成
  • 母 - 川俣しのぶ
  • 右子/ガブリエル - 山下容莉枝
  • 左子/マーメイド - 向井薫
  • ユニコーン - 浅野和之
  • ハーピー - 上田信良
  • ゲーリューオ―ン - 門間利夫

NODA MAP 第6回公演(1999年) 編集

1999年4月 - 5月、東京のシアターコクーン、および大阪の近鉄劇場にて公演[3]

キャスト(1999年) 編集

2014年版(日韓国際共同制作事業作) 編集

国際交流基金が、日韓国際共同制作事業として、東京芸術劇場および韓国の明洞芸術劇場との共催で2014年に上演[4]。韓国公演と日本公演が行われ、いずれも言語は韓国語のみでの上演だったが、韓国では9月20日&10月3日に英語字幕あり、9月27日&10月4日に日本語字幕あり、日本では日本語イヤホンガイド付で上演された[5]

日程(2014年) 編集

  • 2014年9月20日 - 10月5日、韓国ソウル)・明洞芸術劇場 ※当初は2014年9月12日からの予定だったが、主演のチュ・イニョンが急性虫垂炎で入院したため、19日に延期[6]、その後も容体を見て20日からに延期された。
  • 2014年10月24日 - 10月31日、日本(東京)・東京芸術劇場プレイハウス

キャスト(2014年) 編集

  • シュラ - チュ・イニョン
  • マリア - チョン・ソンミン
  • 老数学者、老ドクター - オ・ヨン
  • 先生 - イ・ヒョンフン
  • 母 - イ・ジュヨン
  • 父 - パク・ユニ
  • 右子、ガブリエル - イ・スミ
  • 左子、マーメイド - ソ・ジュヒ
  • スフィンクス - キム・ビョンチョル
  • ヤン・ドンタク
  • キム・ジョンホ
  • チョン・ホンソプ

劇団アトリエ 第17回公演(2015年) 編集

劇団アトリエにより、2015年6月12日 - 14日にかけて扇谷記念スタジオ シアターZOOにて上演[7]

キャスト(2015年) 編集

  • シュラ - 柴田知佳(劇団アトリエ)
  • マリア - びす子
  • 小山佳祐(劇団アトリエ)
  • 信山E紘希(座・れら)
  • 茎津湖乃美
  • 有田哲(劇団アトリエ)
  • 女池祥子
  • 山木眞綾
  • 伊達昌俊(劇団アトリエ)
  • 本吉夏姫(東区市民劇団オニオン座)
  • 遠藤洋平

スタッフ(2015年) 編集

  • 原作・脚本:萩尾望都
  • 脚本:野田秀樹
  • 演出・脚色:小佐部明広

クラアク芸術堂 第1回公演(2017年) 編集

前述の2015年公演団体の劇団アトリエが名称変更したクラアク芸術堂により、サンピアザ劇場企画公演プレミアムステージとして2017年8月31日 - 9月3日にかけて企画元の札幌・サンピアザ劇場にて上演[8]

キャスト(2017年) 編集

  • シュラ - 柴田知佳
  • マリア - 池江蘭
  • 先生 - 遠藤洋平
  • スフィンクス - 信山E紘希(クラアク芸術堂)
  • ハーピー - 縣梨恵(トランク機械シアター)
  • ユニコーン - 有田哲(クラアク芸術堂)
  • マーメイド - 丸山琴瀬(キャスティングオフィスエッグ)
  • ガブリエル - 山木眞綾(クラアク芸術堂)
  • 父 - 剣崎薫
  • 母 - 五十川由華(おかめの三角フラスコ)
  • 数学者 - 三島祐樹

スタッフ(2017年) 編集

  • 原作・脚本:萩尾望都
  • 脚本:野田秀樹
  • 演出・脚色:小佐部明広

2018年版 編集

桜井玲香藤間爽子のW主演で、2018年7月に上演[2]

日程(2018年) 編集

キャスト(2018年) 編集

スタッフ(2018年) 編集

  • 原作・脚本:萩尾望都
  • 脚本:野田秀樹
  • 演出:中屋敷法仁

映画 編集

1989年、当時ロンドン・インターナショナル・フィルム・スクールに在学中だった佐藤嗣麻子が、卒業制作で『SUZY&LUCY』というタイトルで映像化した[9]。佐藤にとっては初の監督作品。

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 萩尾は2009年のナポリ東洋大学ボローニャ大学ローマ日本文化会館での「戦後少女マンガ史」の講演で、「半神」のラストシーンについて「彼女は鏡の前で、自分の半分が完全に失われたことに気がつきます」と説明している[1]

出典 編集

  1. ^ 萩尾望都、聞き手・構成 矢内裕子『私の少女マンガ講義』新潮社、2021年、69頁。ISBN 9784101029818 
  2. ^ a b “萩尾望都原作の舞台「半神」を桜井玲香×藤間爽子で上演、演出は中屋敷法仁”. コミックナタリー (ナターシャ). (2018年5月1日). https://natalie.mu/comic/news/280396 2018年5月1日閲覧。 
  3. ^ NODA MAP第六回公演『半身』【公演】1999年4月【原作・脚本】萩尾望都【脚本・演出】野田秀樹【宣伝美術】平田好
  4. ^ 日韓国際共同制作 野田秀樹作品「半神」 ソウル・東京で公演
  5. ^ 今秋上演!『半神』が野田演出×韓国人キャストのもと新生!!
  6. ^ 野田秀樹氏の「半神」ソウル公演が延期に
  7. ^ 『半神』上演記録|劇団アトリエ - クラアク芸術堂
  8. ^ 『半神』上演記録 - クラアク芸術堂
  9. ^ 小学館文庫『半神』巻末の佐藤嗣麻子のエッセイ「南の国の鳥を待つ」参照。

外部リンク 編集