新潟県公安条例事件

日本の裁判例

新潟県公安条例事件(にいがたけんこうあんじょうれいじけん)とは日本の判例[1]。本判決は、公安条例について初めて最高裁判所として判断を示したものである[2]

最高裁判所判例
事件名  昭和二四年新潟県条令第四号違反
事件番号 昭和26(あ)3188
1954年(昭和29年)11月24日
判例集 刑集第8巻11号1866頁
裁判要旨
地方公共団体の制定する公安条例が、行列進行または公衆の集団示威運動につき、単なる届出制を定めることは格別、一般的な許可制を定めてこれを事前に抑制することは、憲法の趣旨に反するが、公共の秩序を保持し、または公共の福祉が著しく侵されることを防止するため、特定の場所または方法につき、合理的かつ明確な基準の下に、これらの行動をなすにつき予じめ許可を受けしめ、又は届出をなさしめて、このような場合にはこれを禁止することができる旨の規定を設け、さらにまた、これらの行動について公共の安全に対し明らかな差迫つた危険を及ぼすことが予見されるときは、これを許可せずまたは禁止することができる旨の規定を設けても、これをもつて直ちに憲法の保障する国民の自由を不当に制限するものということはできない。
二 昭和二四年新潟県条例第四号は憲法第一二条、第二一条、第二八条および第九八条に違反しない。
三 裁判所が裁判するにあたり適用すべき条例の公布並びに施行日時については、特に必要ある場合のほかは、これを審理し、またはこれに対する判断を判示する必要はない。
四 地方公共団体の制定する条例の効力は、法令または条例に別段の定めある場合、若しくは条例の性質上、住民のみを対象とすること明らかな場合を除き、法律の範囲内において原則として属地的に生ずるものと解すべきである。
五 昭和二四年新潟県条例第四号(公安条例)は、新潟県の地域内においては、この地域に来れる何人に対してもその効力を及ぼすものであつて、他県の在住者といえども、同県内において右条例の罰則にあたる行為をした以上、その罪責を免れるものではない。
大法廷
裁判長 田中耕太郎
陪席裁判官 井上登栗山茂真野毅小谷勝重島保斎藤悠輔藤田八郎岩松三郎河村又介谷村唯一郎小林俊三本村善太郎入江俊郎霜山精一
意見
多数意見 田中耕太郎、井上登、栗山茂、真野毅、小谷勝重、島保、斎藤悠輔、岩松三郎、河村又介、谷村唯一郎、小林俊三、本村善太郎、入江俊郎、霜山精一
反対意見 藤田八郎
参照法条
 憲法21条,憲法28条,憲法12条,憲法第12条,憲法第21条,憲法第28条,憲法第98条,憲法92条,憲法94条,昭和24年新潟県条例第4号,昭和24年新潟県条例施行手続,刑訴法335条,地方自治法14条,地方自治法2条2項,地方自治法2条3項1号
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概要 編集

在日朝鮮民主青年同盟長野支部副委員長Xと日本共産党上越地区委員会書記Yは昭和24年(1949年4月8日午後3時頃に新潟県高田市国家地方警察新潟県中頸城地区警察署庁に数百人で押しかけ、前日に密造酒事件による酒税法違反で一斉に逮捕された約30人の釈放を求めて新潟県公安条例が規定した高田市公安委員会の許可を受けることなく大衆示威運動を行った[3]

昭和24年(1949年)12月6日新潟地裁でXは懲役4ヶ月、Yは懲役3ヶ月の実刑判決を受けた[1][3]。被告らは控訴するも、東京高裁は、昭和25年(1950年10月26日に控訴を棄却した[1][3]。被告らは「公安条例が集会の自由を規定する日本国憲法第21条に違反する」「Xは長野県在住で新潟県の公安条例は適用されない」を理由として上告した。

1954年11月24日に最高裁は以下のように判示して上告を棄却し、新潟県公安条例の合憲性及び有罪判決が確定した[1]

  • 集団示威運動について一般的な許可制を定めることは憲法の趣旨に反し、許されない。
  • 集団示威運動について合理的かつ明確な基準による許可制は許される。
  • 公共の安全に対する明らかな差し迫った危険(明白かつ現在の危険)があるときの不許可は許される。
  • 条例のこの効力は、法令又は条例に別段の定めある場合、若しくは条例の性質上住民のみを対象とすること明らかな場合は除き、条例の効力は原則として属地的に生ずるものと解すべきであり、公安条例は、例外規定はなく新潟県の地域内においては新潟県民以外に対してもその効力を及ぶ。

藤田八郎最高裁判事は、新潟県公安条例について「およそ問題となるべき行列行進又は公衆の集団示威運動のほとんどすべては徒歩又は車両で道路公園その他公衆の自由に交通することができる場所を行進し、又は占拠しようとするものであるので、本件条例の掲示のような場所方法による集団行動の全てを許可制にかかるとすることはとりもなおさず、この種の行動に対する一般的、抽象的な抑制に外ならない」「かかる行動の公安を害する恐れあるか否かの判定は公安委員会の極めて広範な自由裁量に委ねられている」として新潟県公安条例を違憲とする反対意見を出した。

脚注 編集

  1. ^ a b c d 憲法判例研究会 (2014), p. 123.
  2. ^ 芹沢, 市川 & 阪口 (2011), p. 183(市川正人執筆)
  3. ^ a b c 「公安条例(新潟県)は合憲 最高裁で上告棄却」『読売新聞読売新聞社、1954年11月24日。

参考文献 編集

  • 芹沢, 斉、市川, 正人阪口, 正二郎 編『憲法』 別冊法学セミナー《no.210》、日本評論社〈新基本法コンメンタール〉、2011年10月11日。ASIN 4535402469ISBN 978-4-535-40246-1NCID BB06904254OCLC 825133156国立国会図書館書誌ID:023160168 
  • 憲法判例研究会 編『憲法』(増補版)信山社〈判例プラクティス〉、2014年6月30日。ASIN 4797226366ISBN 978-4-7972-2636-2NCID BB15962761OCLC 1183152206国立国会図書館書誌ID:025522543 

関連項目 編集