六加行法(ろく-けぎょう-ほう, སྦྱོར་བའི་ཆོས་དྲུག། [sbyor ba'i chos drug])は、チベット仏教の入門修行[1]

加行(けぎょう)は仏道修行を実践する際の入門となる準備的な前行[2]

チベットでは、弥勒現観荘厳論』の実践的な秘訣としてとかれ、ツォンカパ『菩提道次第論』に沿った六段階として整理される[2]

以下の六段階からなる。

  1. 道場の浄化と尊像の安置 (གནས་ཁང་བྱི་དོར་བྱས་ལ་སྐུ་གསུང་ཐུགས་རྟེན་དགྲམ་པ། [gnas khang byi dor byas la sku gsung thugs rten dgram pa])
  2. 清浄なる供養 (མཆོད་པ་གཡོ་མེད་པར་བཙལ་ལ་བཀོད་པ་མཛེས་པར་བཤམ་པ། [mchod pa g.yo med par btsal la bkod pa mdzes par bsham pa])
  3. 正しい座法と帰依・発心 (ལུས་རྣམ་སྣང་ཆོས་བདུན་གྱི་སྒོ་ནས་སྐྱབས་འགྲོ་སེམས་བསྐྱེད་བྱ་བ། [lus rnam snang chos bdun gyi sgo nas skyabs 'gro sems bskyed bya ba])
  4. 聖衆の世界の観想 (ཚོགས་ཞིང་གསལ་གདབ་པ། [tshogs zhing gsal gdab pa])
  5. 七支分と曼荼羅供養 (བསགས་སྦྱང་གི་གནད་བསྡུས་པ་ཡན་ལག་བདུན་པ་མཎྜལ་དང་བཅས་པ་འབུལ་བ། [bsags sbyang gi gnad bsdus pa yan lag bdun pa maN+Dal dang bcas pa 'bul ba])
  6. 至心な祈願 (རྒྱུད་དང་འབྲེལ་ཞིང་གསོལ་བ་གདབ་པ། [rgyud dang 'brel zhing gsol ba gdab pa])

道場の浄化と尊像の安置[3] 編集

次の二段階からなる。

  1. 道場を清める:「道場」(=自身が日々の修行を実践する場所。寺院・修行場・自宅の仏間など)を清掃する。
  2. 道場に仏陀の身・口・意のよりどころ(仏像・仏画、経典、仏塔)を安置する。

清浄なる供養[4] 編集

「七種供養」(=七種類の供物(閼伽水・洗足水・華鬘焼香灯明塗香・飲食)と「奏楽」を象徴する法具(金剛鈴・金剛杵・鐃・ダマル)を供物として捧げる。

「七種供養」は、「七器」(=全く同型の金属の器7つ)に、作法に則した水をそそぐことで代替できる。

正しい座法と帰依・発心[5] 編集

  1. 座具を用意し、「毘盧遮那の七法」という作法に従って着座し、数息観(すそくかん)により、自身の精神を仏道修行にふさわしく落ち着いた状態に整える。着座にあたり、五体投地(両手・両膝・額を作法に従い地面につけ、「自身の身・口・意(しん・く・い)の全てをもって礼拝する」と観じつつ平伏する修行)を3回または7回・21回・108回行う。
  2. 帰依(三宝への帰依)と発心(衆生の救済の為に仏陀となること)を念じる。

聖衆の世界の観想[6] 編集

 自身の眼前に、「広大な方便の流れ」と「空性の見解の流れ」、「密教の流れ」の諸師、密教タントラの本尊・諸仏・諸菩薩・声聞・縁覚・空行母・護法尊などの無数の聖衆が鎮座するありさまを観想し、これらの集会(しゅうえ)に帰依し、真摯な祈願を行う。この「聖衆の集会」を図示したのがツォクシン(ཚོགས་ཞིང་ [tshogs zhing])というタイプの仏画である。

七支分と曼荼羅供養[7] 編集

‘’七支分’’(yan lag bdun)は、六加行の中心となる修行[8]で、礼拝・供養・懺悔・随喜・勧請・祈願・廻向の七種の修行から成る。

  1. 礼拝
  2. 供養:第4次第で観想した聖衆の集会に対し、(1)まず第3次第で仏前に供えた供物を捧げ、(2)ついで「観想を通じて心に現れた無量の供物」を捧げ、(3)曼荼羅供養を行い、(4)最後に「行の供養」を行う。
  3. 懺悔
  4. 随喜
  5. 勧請
  6. 祈願
  7. 廻向

至心な祈願[9] 編集

  1. 邪見を断つ祈願
  2. 正見を得る祈願
  3. 前2者を得るため外と内の障礙を除かしめる祈願

脚注 編集

注釈 編集

出典 編集

参考文献 編集

  • クンチョック・シタル、ソナム・ギャルツェン・ゴンタ、斎藤, 保高『実践 チベット仏教』1995年。ISBN 4-393-13272-6 

関連項目 編集