歌辞(かじ、カサ、朝鮮語: 가사)は歌詞とも書き、朝鮮の伝統的な歌謡の一形式で、李氏朝鮮時代に時調とともに流行した。時調が3つの章(詩行)に限られる短詩であるのに対して、歌辞は章の数に制限のない長詩である。

形式 編集

時調と同じく1つの章は4音符からなり、1音符は3音節ないし4音節から構成される。最後の章が3-5-4-3になる点も時調と同じであるが、時調が3章に限られているのに対して、歌辞では章数に制限がない[1]

歴史 編集

歌辞は高麗末期から朝鮮初期にかけて発生した[1]

現存する最古の歌辞は高麗末期の懶翁和尚(慧勤)による「西往歌」とも[2]、15世紀の丁克仁「賞春曲」ともいう[3]。「西往歌」については文字に記されたのが18世紀に入ってからであるため、高麗時代の作品と確実に言うことはできない[4]

16世紀の鄭澈によって歌辞は大成された。鄭澈の歌辞は『松江歌辞』に収録されて広く愛唱された[2]。「関東別曲」「思美人曲」などが知られる。また朴仁老朝鮮語版も優れた歌辞を作った人物として知られる[3]

壬辰の乱(文禄・慶長の役)以降、中央では歌辞は衰えていったが、慶尚道の上流家庭の女性の間で流行し、「内房歌辞」と呼ばれる[2]

紀行文もよくこの形式で書かれ、朝鮮燕行使の紀行や朝鮮通信使金仁謙の『日東壮遊歌』はこの形式で書かれている[2]

宗教的な歌辞も多く書かれ、儒教・仏教・道教・カトリック・東学の普及のために使われた[1]

王朝の終わりとともにこの歌形は消え、現代において作られることはほとんどない。

脚注 編集

  1. ^ a b c 国立国語院 編、三橋広夫・趙完済 訳「歌辞(カサ)」『韓国伝統文化事典』教育出版、2006年、348-350頁。ISBN 4316801031 
  2. ^ a b c d 金思燁「歌辞」『新版 韓国 朝鮮を知る事典』平凡社、2014年(原著1987年)、60-61頁。ISBN 9784582126471 
  3. ^ a b 尹学準朝鮮文学:李朝時代(1392~1910)の文学」『日本大百科全書小学館、1985年https://kotobank.jp/word/%E6%9C%9D%E9%AE%AE%E6%96%87%E5%AD%A6-98049 (コトバンク)
  4. ^ “서왕가(西往歌)”, 한국민족문화대백과사전, http://encykorea.aks.ac.kr/Contents/Item/E0027943 

関連項目 編集

外部リンク 編集