相互主義

相互主義(そうごしゅぎ、: principle of reciprocity)とは、以下のような内容の考え方をいう。

  1. 外交通商などにおいて、相手国の自国に対する待遇と同様の待遇を相手国に対して付与しようとする考え方。互恵主義[1]レシプロシティーとも[2]
  2. 外国人権利に関して、その外国人の本国が自国民に同等の権利を与えることを条件とする考え方[3]
  3. 保険用語として、保険事業の経営は相互組織の団体を保険者として行うことが望ましいとする考え方。

貿易政策における相互主義の歴史

ロバート・トレンズ (Robert Torrens) が1833年に発表した Letters on Commercial Policy において、貿易政策の原則として互恵主義を論じた[4]

1860年英仏通商条約(コブデン条約)において、自由貿易政策の互恵主義 (reciprocity) が採られた[5]

法学における相互主義

法学者で人権とは異なる「人類権的私権」を構想した梅謙次郎1893年(明治26年)の論考「外国人ノ権利」や「(講演)外国人ノ権利」(明治30年)によれば[6]、欧米の法制が次の四つに分類できる。

また、梅謙次郎は、韓国統監府顧問でもあり、まだ成文法化されていなかった韓国伝来の慣習法を編纂する必要を訴えた。なお日本民法を朝鮮に適用する構想ではなかった[7]

日本法における相互主義の規定

日本国国内法では、国家賠償法6条相互保証において、「賠償請求は日本人だけができるが、外国で日本人が外国政府に同様の請求ができる場合は、その国の外国人も国賠法上の請求ができる」とし、相互主義を明記している。ほか、民事訴訟法118条の外国判決の効力に関する条項においても、採用されている。

通商関係においては、通商航海条約における内国民待遇最恵国待遇において相互主義が採用される。

また,著作権の保護期間についても相互主義が採られている。著作権の保護期間における相互主義を参照。

外国人参政権における相互主義

EU加盟国における「相互主義」

EU加盟国においては、マーストリヒト条約で「欧州連合の市民」(EU市民)の概念を導入し、その権利を相互に認めEU加盟国の国籍を持つ外国人に欧州議会と地方自治体における参政権(選挙権)を付与しなければならないことを定めており、これは「EU市民」としてのアイデンティティーの形成を目的とする[8]。このため、各国は批准にあたりこれに対応する国内法の整備をしており、ドイツとフランスでは憲法を改正してEU加盟国の国籍者に限定して外国人参政権を与えられるようにした。

※EU加盟国以外の外国人に関してはこの限りではないことに注意。

この結果、ドイツにおけるトルコ人やバルト三国におけるロシア人など、EU市民とそれ以外の外国人の待遇の差として新たに問題化することがある。EUに先立ち1970年代から「北欧市民権」と呼ばれる形で相互に地方参政権を認めていた北欧諸国は、互恵国民とその他の外国人との待遇差が問題となり、互恵型から定住者一般に認める方向に移行した[8]

韓国の日本への「相互主義」の要求

日本国憲法は、15条1項で「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」、43条1項で「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」としており、現状で外国人の国政参政権は認められていない。

これに対し、国籍を取得せず(帰化しない)に滞在する資格を持つ特別永住者をはじめとする在日韓国人参政権要求運動にともない、韓国政府が2005年6月に盧武鉉政権下で「永住外国人に対する外国人地方参政権付与法案」を可決。以来、在日韓国人および韓国政府が相互主義を主張し、日本政府に対して外国人の参政権付与を要請している。

日本国内では、韓国政府の要請は、日韓間で非対称である点、ほか「相互主義」は元来EUで発案されたもので、EU諸国間に限定されているとして、韓国政府の主張する「相互主義」は成立しないといった見解がある。

一方、民主党特別永住者のみならず一般永住者に対しても付与すべきと主張して、大きな政治争点となった。また、従来、日本における外国人参政権付与対象者は「特別永住者」を予定していた。だが、民主党から「特別永住者」に加えて「一般永住者」も対象者に加える提言が発信されており、議論されている(日本における外国人参政権#対象参照)。

特別永住者の国籍は、「韓国人」「朝鮮人」が41万6309人(99%)台湾人が2892人(0.7%)であり、一般永住者の国籍は、「中国(台湾)」が14万2469人(29.0%)「ブラジル」が11万0267人(22.4%)「フィリピン」が7万5806人(15.4%)「韓国・朝鮮」が5万3106人(10.8%)である(平成20年度調査)。

韓国における外国人参政権付与

韓国が外国人参政権を付与したのは、日本での在日韓国人地方参政権獲得運動の進展が見られないため、その支援として参政権付与が検討されてきたとされる[9]。また、韓国における付与対象外国人有権者数は内国人有権者の0.05%であり、選挙結果に何も影響しないとの思惑もあった[9]

韓国の金大中大統領は1999年以降に、韓国の日本人も含む外国人参政権との「相互主義」を掲げて日本政府に実現を迫ったが、当時韓国では永住資格制度もまだ整っておらず(2002年から)時期尚早であり、また、日帝残滓である在日問題と国内問題を同一線上で捉えることへの反発など国民世論も収斂しておらず韓国国内で廃案となった。しかし2005年6月に盧武鉉政権下で「永住外国人に対する外国人地方参政権付与法案」が可決された。主な当事者である在韓華僑からの要求が表面化しない中で付与が決定されたが、在日韓国人支援の名分がなければ成立したかは疑問とされる[9]。現在、韓国政府は「相互主義」を掲げて在日韓国人に対する外国人地方参政権付与を再度日本政府に迫っている。

日韓の憲法上の差

日韓両国とも憲法1条で国民主権をうたっているが、大韓民国憲法では41条で国会議員を、67条で大統領をそれぞれ秘密選挙により選出するとしているのみで、地方参政権は118条において法律で定めると規定しているため柔軟な対応が可能であり、また憲法上は地方選挙については秘密投票を保障していない。憲法自体の改正も韓国ではこれまで9回行われている。一方、日本国憲法では国民主権を実現する上で15条において公務員の選出・罷免権を幅広い範囲にわたって国民固有の権利と明記し、地方参政権第93条でその地方公共団体の住民(国民)が直接これを選挙すると規定している。また、日本国憲法15条では秘密投票権も明記されており、外国人有権者の影響の検証はより困難になっている。

永住者数の格差

永住資格付与条件の格差

韓国では外国人参政権を極めて厳格な条件を満たしたものに限って、付与をみとめている。他方、日本の政党法案では、所得条件やキャリア条件などは一切付されていない。「相互主義」をとる場合、韓国と日本では制度差が生じる。どちらかの国が歩み寄る必要があり、もし日本が韓国と同様の要件を課した場合、当然のことながら高額所得者以外は永住権も参政権も付与されなくなる。

韓国における外国人参政権付与の基本要件は、永住資格(F-5)取得後3年以上の経過であるが、この永住資格取得には、高い収入条件(一般韓国国民の4倍[12][13])や博士号取得者などの複合要件を満たすことが必要で、韓国人の配偶者や子供以外の一般外国人には、取得は極めて困難である[12]。また、要件を満たしていても、当該外国人の思想信条が韓国の国益に合致しない場合は、法務部長官の許可を根拠に、永住資格が付与されないこともある[14]

要件には、200万米ドル以上の投資、先端技術分野の博士学位所持者かつ収入条件(韓国国民GNIの4倍)を満たしたもの、世界トップ500企業での経営幹部としてのキャリアを所持するもの、オリンピックで銅メダル以上の受賞者などがある。収入条件は2005年時点で年収63,320米ドル(633万円)以上であった[15]

その他の韓国における制限として、政党に加入することはできない[9]、政治資金の寄付禁止[9]、投票行為以外の選挙運動の禁止[9]などがある。

諸外国との比較

「相互主義」に対する見解

外国人の土地所有権と相互主義

日本における規制

明治法典から外国人土地法まで

明治時代の法学者、梅謙次郎は、外国人の土地所有権に関しては、条約締結国の国民にのみ国内法で土地所有権を承認するという構想を持っていた[18]

1910年(明治43年)の「外国人ノ土地所有権ニ関スル法律」(法律五一号)第一条では、「日本ニ住所若ハ居所ヲ有スル外国人又ハ日本ニ於テ登記ヲ受ケタル外国法人ハ其ノ本国ニ於テ帝国ノ臣民又ハ法人カ土地ノ所有権ヲ享有スル場合ニ限リ土地ノ所有権ヲ享有ス  但シ外国法人カ土地ノ所有権ヲ取得セシムトキハ内務大臣ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス」(第一項本文)、「前項ノ規定ハ勅令ヲ以テ指定シタル国ニ属スル外国人及外国法人ニノミ之ヲ適用ス」と規定された[19]。ただし、北海道、台湾、樺太および国防上必要なる地域は除外された(第二条)。

1925年(大正14年)に制定された外国人土地法では、日本人・日本法人による土地の権利の享有を制限している国に属する外国人・外国法人に対しては、日本における土地の権利の享有について、その外国人・外国法人が属する国が制限している内容と同様の制限を政令によってかけることができると定めている。また、第4条では、国防上必要な地区においては、政令によって外国人・外国法人の土地に関する権利の取得を禁止、または条件もしくは制限をつけることができると定めている。

終戦後、日本国憲法下においてこの法律に基づく政令はこれまで制定されたことはない[20]

韓国資本による対馬土地買収に対して

終戦後は長い間使われることのなかった外国人土地法であるが、韓国資本による活発な対馬の土地買収などが明らかになり、2008年平成20年)ごろから日本の領土を守るため行動する議員連盟などがこの法律に注目し、参議院議員山谷えり子加藤修一が、質問主意書にて政府見解を質した。法的効力の有効性は確認されたものの、鳩山由紀夫内閣2009年(平成21年)11月2010年(平成22年)6月、この法律の活用は検討していないとの答弁書を決定している[21][22][23]。一方、鳩山内閣を引き継いだ菅直人首相は2010年10月15日の参院予算委員会で、同法についての質問に対し「規制には政令が必要だが、現在は存在せず、事実上この法律も有名無実になっている」と答弁したうえで、今後同法の活用を検討することを示唆した[24]

中国資本による土地買収に対して

2011年5月13日に松本剛明外相は、同4月下旬に中国政府が都心一等地である港区南麻布の土地(約5,677平方m=約1,720坪)を一般競争入札で落札したことについて、「『接受国は、派遣国が必要な公館を接受国の法令に従って接受国の領域内で取得することを容易にし、派遣国が取得以外の方法で施設を入手することを助けなければならない』『接受国は、使節団の構成員のための適当な施設を入手することを助けなければならない』という外交関係に関するウィーン条約第21条の趣旨にのっとった」「反対をする理由は、条約の面、法律の面からない」という旨の答弁を、衆議院外務委員会において行った[25][26]

櫻井よしこは、自由民主党の小野寺五典議員が「外交関係に関するウィーン条約第11条には、使節団の人数は合理的、正常と認める範囲内になると規定されている」と指摘したことを挙げ、相互主義が成り立っていない不公正なもので、実態は片務主義であるとして論じている[27]産経新聞は「国家間の相互主義に照らして著しく不公平である」と主張している[28]

また、中国政府は領事館用地として名古屋市の国有地と新潟市の小学校跡地(市有地)取得にも動いている。名古屋では財務省が随意契約で売却をめざした。その後、買収交渉は尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件以来、地元で反対運動が起きて中断した[29]

中国資本は、この他、日本の水源地買収なども行っている。対策として所有者変更届け出を義務づける森林法改正案など2法案が議員立法で国会に提出され、現在審議中である[30]

アメリカ合衆国における規制

アメリカ合衆国は、外国政府の土地所有は相互主義を原則とする外交使節団法で判断されるため、中国政府には米国内で土地所有を認めていない[31]。また、米国では、外国政府や外資による投資が安全保障や公共の利益を阻害すると判断されれば、国が強制的に審査する制度もある。

脚注

  1. ^ 例えば自由貿易と互恵主義 熊谷次郎一橋大学社会科学古典資料センター年報, 1992-03-31。
  2. ^ 大辞泉、小学館。ほか、アラン・コーエン、デビッド・ブラッドフォード(高嶋薫、高嶋成豪訳)「影響力の法則」税務経理協会(2007)ほか、経営学の著作などで用いられる。
  3. ^ 大辞泉、大辞林
  4. ^ 河合康夫 ロバート・トレンズの互恵主義論の形成過程をめぐって (PDF)『武蔵大学論集』第 54 巻第 2 号,2006 年 11 月
  5. ^ 自由貿易と互恵主義 熊谷次郎
  6. ^ 大河純夫 外国人の私権と梅謙次郎立命館法学1997年5号(255号)
  7. ^ 同論文
  8. ^ a b 近藤敦 「第7章 永住市民権と地域的な市民権」『日・韓「共生社会」の展望―韓国で実現した外国人地方参政権』 田中宏金敬得編、新幹社2006年、82 「地域的な市民権」。ISBN 978-4884000448
  9. ^ a b c d e f 鄭印燮 「第4章 韓国における外国人参政権―その実現過程」『日・韓「共生社会」の展望―韓国で実現した外国人地方参政権』 田中宏金敬得編、新幹社2006年、44-56頁。ISBN 978-4884000448
  10. ^ 在韓日本人:平成20年の海外在留邦人数調査統計, 外務省.
  11. ^ 韓国:アジア初の外国人参政権 統一地方選で 2006年5月31日の韓国統一地方選挙の時点。毎日新聞2006年5月27日
  12. ^ a b 韓国入国管理局 永住資格
  13. ^ 지방선거…외국인 투표는 '화교'만 해라?(地方選挙…外国人投票は '華僑'ばかりしなさい?)2006年5月19日 PRESSian
  14. ^ 要件の詳細は韓国における外国人参政権も参照
  15. ^ 2005年「韓国の一人当たり国民総所得(GNI)は年収15,830米ドル(158万円。便宜上、一ドル=100円で換算)。収入条件はその4倍である年収63,320米ドル(633万円)が外国人に必要とされ、同年の日本の一人当たりGNIは、38,980米ドル(389万円)。1人あたりの国民総所得(GNI)の多い国 外務省
  16. ^ “永住外国人への地方参政権付与の法制化に反対する意見書” (プレスリリース), 長崎県議会, (2009年12月17日), http://www.pref.nagasaki.jp/gikai/2111teirei/tayori2111_ikensyo.html 2010年1月12日閲覧。 
  17. ^ 参政権行使は国籍取得が条件-特別永住者には特例帰化制度導入を”. 国家基本問題研究所. 2010年3月1日閲覧。 外国人参政権問題提言(平成22年2月改訂版)”. 国家基本問題研究所. 2010年3月1日閲覧。
  18. ^ 同論文
  19. ^ [1]
  20. ^ 第170回国会 国土交通委員会 第3号 2008年11月14日。
  21. ^ “韓国資本の対馬不動産購入 外国人土地法検討せず 政府答弁書”. 産経新聞. (2009年11月20日). http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091120/plc0911202227020-n1.htm 2009年12月2日閲覧。 [リンク切れ]
  22. ^ 参議院議員山谷えり子君提出永住外国人への地方参政権付与に関する質問に対する答弁書, , 日本政府 (参議院), (2010年6月4日), http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/174/touh/t174077.htm 2010年8月1日閲覧。 
  23. ^ 参議院議員加藤修一君提出外国人土地法等の規制強化と国民共有の財産である国土資源(土・緑・水)等の保全及び我が国の安全保障に関する質問に対する答弁書, , 日本政府 (参議院), (2010年3月2日), http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/174/touh/t174024.htm 2010年11月4日閲覧。 
  24. ^ 所有権制限の適否検討 外国人土地法で首相 共同通信 2010年10月15日
  25. ^ 中国大使館が都心一等地購入 外相「反対理由ない」
  26. ^ 第177回国会 外務委員会 第11号(平成23年5月13日)
  27. ^ 「相互主義が成り立たない中国に国土を買われ 『週刊ダイヤモンド』2011年5月28日号
  28. ^ [2]
  29. ^ 2011年6月14日産経新聞
  30. ^ 2011年6月14日産経新聞
  31. ^ 2011年6月14日産経新聞

関連項目