近鉄7000系電車

近畿日本鉄道の通勤型電車

近鉄7000系電車(きんてつ7000けいでんしゃ)は、近畿日本鉄道(近鉄)の保有するけいはんな線用一般車両(通勤形電車)。

近鉄7000系電車
近鉄7000系(ワンマン・高速化改造後)
基本情報
運用者 近畿日本鉄道
製造所 近畿車輛
製造年 1984年 - 1989年
製造数 9編成54両
投入先 けいはんな線Osaka Metro中央線直通)
主要諸元
編成 6両編成
軌間 1,435 mm
電気方式 直流 750 V
第三軌条方式
最高運転速度 近鉄線内: 95 km/h
地下鉄線内: 70 km/h
起動加速度 3.0 km/h/s[2]
減速度(常用) 3.5 km/h/s[2]
減速度(非常) 4.0 km/h/s[2]
車両定員 (Tc1・Tc2)125(39)人
(M1・T・M2・M3)135(45)人
自重 (Tc1・Tc2)34.0 t
編成重量 207.0 t
編成長 108,400 mm (6両編成)
全長 18,900(中間車18,700) mm [1]
全幅 2,900 mm [1]
全高 3,745 mm [1]
車体 普通鋼 [3]
主電動機 MB-5011-A[3]
かご形三相誘導電動機
主電動機出力 140 kW×4[3]
駆動方式 WNドライブ
制御方式 VVVFインバータ制御
制御装置 奇数編成:三菱電機
未更新車:GTO素子
SIV-V564-M-3/4(試作機器)
または
MAP-144-75V03 (A·B)[3]
更新車:IGBT素子
MAP-142-75VD339
偶数編成:日立製作所
未更新車:GTO素子
VF-HR-104 (A·B)[3]
更新車:IGBT素子
VFI-HR2415J
制動装置 回生ブレーキ併用
全電気指令式電磁直通空気ブレーキHRDA
保安装置 WS-ATC
デッドマン装置
備考 電算記号:HL
都市型ワンマン運転に対応
第27回(1987年
ローレル賞受賞車両
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本稿では解説の便宜上、コスモスクエア長田側先頭車の車両番号+F(Formation=編成の略)を編成名として記述する(例:ク7101以下6両編成=7101F)。電算記号はHL(0番台)[4]

概要 編集

東大阪線(現・けいはんな線)の開業に向けて製造された車両で[3][5]Osaka Metro中央線(2018年3月までは大阪市営地下鉄)に乗り入れるため、集電方式は直流750V第三軌条方式となっている[3][6]。大手私鉄で第三軌条方式を採用した初の車両である。

愛称スーパー・エレクトロニック・コミューター[7]

1986年には通商産業省(当時)グッドデザイン商品(当時)に選定、1987年鉄道友の会ローレル賞を受賞した[3][6]鉄道車両がグッドデザイン商品に選定されたのはこれが初めてであった[8]

コスモスクエア・長田寄りからク7100(Tc)-モ7200(M)-サ7300(T)-モ7400(M)-モ7500(M)-ク7600(Tc) の6両編成を組成している[3][5]。将来は8両編成にも対応できる設計としたが[9]、2021年現在実現はしていない。2019年4月現在、9編成54両が東花園検車区東生駒車庫に配置されている[10]

車両概説 編集

車体 編集

普通鋼製で[3][5][注釈 1]、車両寸法は大阪市営地下鉄に順じ、車体長は先頭車18,900mm・中間車18,700mmと近鉄標準の20,720mmと比べ2mほど短いが、車体幅は2,900mmと近鉄の車両の中でも最も広く(近鉄標準は2,800mm)[3][5]、検査回送時に走行する他線区の車両限界を考慮して、側面とTc車前面は腰部から上部までが直線に傾斜しており、裾を1500Rの滑らかな曲線で大きく絞った独特なスタイルをしており[3]、断面上で広幅が最大となっている窓下の位置に座席を配置することで車内空間と立席定員数を確保している[3]

側窓は製造当初1段下降式を採用し、開口寸法は200mとなっている[9]

正面形状は連結を考慮しない非常用の貫通扉を装備したデザインとされ[3][5]、塗装はパールホワイトにソーラーオレンジとアクアブルーの帯という他の近鉄一般車と大きく異なったものとなっており[3][5]、側面帯には「◎KINTETSU」(◎は近鉄社紋)のロゴが入る。このカラーリングは東大阪線時代に開業した各駅の意匠にも使用されている。

大阪線五位堂検修車庫検査を受けるため、回送の際には編成を3両ずつに分割、集電靴とドアステップ(靴摺り)が取り外され、自走できないため死重を載せた電動貨車に牽引される[3]

なお、連結器大阪市交通局型の密着連結器を両Tc車前面と検査回送時に分割するサ7300形とモ7400形の間にそれぞれ装備している[6]ほか、モ7200形とサ7300形の間が近鉄タイプの密着連結器、その他は近鉄タイプの半永久タイプの連結器となっている[11]

車内 編集

客室は、座席はオレンジ色のモケット張りロングシートとし、袖仕切りには濃い茶色のレザー柄、床はブラウン系の敷物を敷いている。内装化粧板はメラミン樹脂積層アルミ板とし、天井は白色、側面は淡いベージュ色としている。天井は平天井としており、照明機器の灯具は安全性とハイグレード感を出すためにグローブ付きとした[9]

運転台は、横軸デスク型のツーハンドル式とし、左側にデッドマン機構を備えた力行・抑速制御用のマスター・コントローラー、右側にブレーキハンドルを備え、それぞれ逆L字形としているほか、勾配での発進時に使用する勾配起動スイッチを設けている[9]。主要機器の異常などを知らせるためのLED式のモニター表示器を設置している[2]

主要機器 編集

制御装置は、1C2M1群のGTO素子VVVFインバータ制御が採用され、1両に2台(編成内に6台)搭載する[12][注釈 2]。GTO素子の耐圧は2500 V・2000 Aで、それぞれのインバータ装置にゲート論理部を持ち、台車単位で制御する方式[注釈 3]となっている。このため、故障時には運転台から操作すれば故障した装置のみを開放できる。勾配区間での抑速ブレーキにも対応している[12]

制御装置のメーカーは、末尾が奇数の編成は三菱電機製、偶数の編成は日立製作所製と異なる[3][5]。具体には、モ7502またはモ7503にはSIV-V564-M-3と-4を含む、その他制御装置には、奇数編成の同じ電動車にはMAP-144-75V03Aと03Bを合わせて「MAP-144-75V03」と呼ぶ、偶数編成の同じ電動車にはVF-HR-104Aと104Bを合わせて「VF-HR-104」と呼ぶ。

同じ電動車の制御装置分布
取付側 奇数編成 偶数編成
モ7503の試作機器 多数未更新機器 7107Fの更新機器 未更新機器 更新機器
SIV-V564-M-3
1C2M1群×1台
MAP-144-75V03A
1C2M1群×1台
MAP-142-75VD339
1C2M1群×1台
VF-HR-104A
1C2M1群×1台
VFI-HR2415J
両側のうちの片側
1C2M2群×1台
SIV-V564-M-4
1C2M1群×1台
MAP-144-75V03B
1C2M1群×1台
MAP-142-75VD339
1C2M1群×1台
VF-HR-104B
1C2M1群×1台
背景色が赤の装置は MAP-144-75V03 の構成部分、背景色が緑の装置は VF-HR-104 の構成部分

主電動機は、三菱電機製かご形三相誘導電動機を採用して電動車1両に4基搭載、モーター出力は140 kWである[3]

制動装置は回生ブレーキ連動の全電気指令電磁直通ブレーキ日本エアブレーキ製HRDA)を採用した[注釈 4][12]。T車遅れ込め機能付き[注釈 5]とし非常制動回路は間接制御方式でフェイルセーフ化を図っている[11]

台車近畿車輛製KD-92形(筒形ゴムブッシュ軸箱案内方式)を採用し[1][14]、ホイールベース間隔は2,100 mm[14]集電装置はTC-19形を採用し、M車とTc車コスモスクエア側の台車に設置されている[6]

Tc車に空気圧縮機と補助電源装置として120 kVAのブラシレスサイリスタ発電装置(MG)を装備している[1][5]。なお、MGはデッドセクションなどで出力がなくなった場合は、冷房装置などの負荷を切り離し、他方から供給をする受給電装置を設けている[2]

冷房装置は、車両限界の制約から薄型とし[11]、両端屋根に設けた三菱電機製ユニットクーラーCU-78形(能力20,000 kcal/h×2)からダクトを通して冷風吹出口とラインフローファン(三菱電機「ラインデリア」)を併用して送風する[9]。乗務員室の冷房操作盤には先頭車の温度・湿度をデジタル表示し、きめ細やかな冷房操作が可能になっている[2]

車内放送装置には近鉄のワンマン運転に対応していない車両では初めて自動放送装置が搭載された。初期はテープ放送で、放送する地点を予めセットしておき、速度と戸閉信号で距離を換算して放送開始点を検出し、テープを回すシステムであった。戸閉警告放送はIC音声合成としている[2]

改造 編集

2006年3月27日のけいはんな線の開業に合わせて、2004年に増備用として7020系が登場したことから、サービスレベルを合わせるため、本系列も2004年から2006年にかけて車体更新が行われ[3]、天井および妻面の窓構造以外の各部仕様が7020系とほぼ同一に更新された。

外装 編集

  • 行先表示器のLED化(側面にも新設)
    • 2019年から7105F - 7107Fにおいて3色LEDからフルカラーLEDへの交換を実施[15]
  • 車体側面の社名ロゴを7020系と同一のデザイン(CIロゴ)に変更[3]
  • 車番を7020系と同じ書体(Helvetica)に変更
  • 前面貫通扉部分のワイパー新設
  • フロントガラス部分のワイパー交換
  • 側窓を一段下降窓から7020系同様の上下分割式(上部内折れ窓)に交換[16]

車内 編集

  • 内装材を7020系に準じたデザインに交換[3]
  • 座席モケットを本系列独自のデザインに交換(座席のバケットシート化は行われていない)
  • バリアフリー対応改造

主要機器 編集

主要機器は更新前をそのまま使用しているが、最高速度向上に伴う制御装置の一部部品交換やワンマン対応工事も行われた。

2023年6月時点、7106Fの一部、7107F、7108Fにおいて制御装置の換装が行われている[15][17]

また2022年より主幹制御器をワンハンドルマスターコントローラーに交換する工事が開始された(近鉄でのワンハンドルマスコンの採用はこれが初である)[17]

現況 編集

試作車 編集

 
乗務員扉の高さが低い先行試作車の7602

1984年7月にク7103-モ7503-モ7502-ク7602の4両が東大阪生駒電鉄の車両として先行試作され、完成部分の路線にて走行試験を行った。この先行試作車両は他車と比べて乗務員扉の高さが少し低いのが特徴とされている。試作車がこの番号となったのは、開通式をトップナンバー編成で行うこと、後述の通り2メーカーある制御装置各々の性能試験を行うためであった[16]

1986年の東大阪線開業時にこの4両は近鉄に編入され、後述の量産車と共に6両編成を組成した[11]

量産車 編集

1986年の東大阪線開業に合わせて製造され、先述の試作車を含めて6両編成8本48両(7101F - 7108F)が用意された[3][5]1989年に7110Fが増備されたが、制御装置は日立製のため、三菱製に割り当てる奇数番号の編成を飛ばしたことにより、第9編成は欠番とされた[3][18]。なお、7101F - 7105Fが軌道線、7106F - 7108F・7110Fが鉄道線所属とされている[6]

ラッピング車両 編集

以下の2編成が行われていた(現在はともに広告契約終了)。

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 近鉄の一般車両において普通鋼製車体のVVVF車は本系列や7020系を除外すると、1420系1421F(落成当時は1250系1251F)や5200系が存在する。
  2. ^ 1984年の開発当時、GTO素子電流容量の制約で1C2M制御となったが[11]、直後の1984年9月に大阪線用に新製された近鉄1250系(試作車、現在の1420系)で4500V・2000AのGTO素子が採用されて、1C4Mが実現している[13]
  3. ^ B.D.U.(Bogie Drive Unitの略)方式と呼称[11]
  4. ^ なお、近鉄では電気指令式ブレーキにKEBS(三菱電機製MBS)を基本的に採用しているため(増備形の7020系もKEBSを採用)、HRDAは本系列のみの採用となった。
  5. ^ 回生ブレーキによりT車の制動力も負担することで回生率を高める方式。回生ブレーキ力が低下した場合にはT車から不足分の空気制動を込めるようにしている[12]

出典 編集

関連項目 編集

参考文献 編集

  • 三好好三『近鉄電車 大軌デボ1形から「しまかぜ」「青の交響曲」まで100年余りの電車のすべて』JTBパブリッシングJTBキャンブックス〉、2016年。ISBN 978-4-533-11435-9 
  • 諸河久・山辺誠『日本の私鉄 近鉄2』保育社カラーブックス〉、1998年。ISBN 4-586-50905-8 
  • 赤土俊彦(東大阪生駒電鉄車両課長)・中川利雄(東大阪生駒電鉄監査役)「Super Electronic Commuter 東大阪生駒電鉄7000形」『鉄道ファン』No. 283、交友社、1984年11月、pp. 046-051。 
  • 三木理史「私鉄車両めぐり148 近畿日本鉄道」『鉄道ピクトリアル』No. 569臨時増刊号<特集>近畿日本鉄道、電気車研究会、1992年12月、pp. 251、259。 
  • 林基一「近畿日本鉄道現有車両プロフィール」『鉄道ピクトリアル』No. 954臨時増刊号【特集】近畿日本鉄道、電気車研究会、2018年12月、pp. 251-252。 
  • 柴田東吾「大手私鉄 通勤車両のリニューアル 近畿日本鉄道・京阪電気鉄道」『鉄道ファン』No. 718、交友社、2021年2月、pp. 064-066。 
  • 鉄道友の会『ローレル賞の車両'88』保育社カラーブックス〉、1988年。ISBN 4-586-50762-4 

外部リンク 編集