HUMAN LOST 人間失格

日本のアニメ映画作品

HUMAN LOST 人間失格』(ヒューマン ロスト にんげんしっかく)は、2019年11月29日に劇場公開された日本アニメーション映画[2]太宰治小説人間失格』を大胆に翻案し、SFダークヒーローものとしてアニメーション映画化した作品である[3]

HUMAN LOST 人間失格
監督 木崎文智
脚本 冲方丁
原案 太宰治
人間失格
出演者 宮野真守
花澤香菜
櫻井孝宏
福山潤
沢城みゆき
千菅春香
音楽 菅野祐悟
主題歌 m-flo
「HUMAN LOST feat. J. Balvin」
撮影 平林章(撮影監督)
制作会社 ポリゴン・ピクチュアズ
製作会社 MAGNET、スロウカーブ
配給 東宝映像事業部
公開 日本の旗2019年11月29日
上映時間 110分[1]
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
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監督は木崎文智、脚本は冲方丁、主演は宮野真守[2]

キャッチコピーは「昭和111年、僕は人間を失格しました。」。

あらすじ 編集

昭和111年の日本は、4大医療革命の遺伝子操作・再生医療・ナノマシン・万能特効薬により、GDPが世界一で医師を必要としない、無病長寿社会を実現していた。また、人間の寿命の限界を超えた120歳を迎える国民を祝福し、年金1億円が贈呈される人間合格式を100日後に控えていた。一方、上流階級が住む環状7号線内部のインサイドと、労働者や貧困層が住む郊外部のアウトサイドの二極化や、1日19時間にも及ぶ極端な長時間労働、道行く人々がガスマスクを装着するほどの大気汚染と、理想郷とされる社会の裏では問題点は山積していた。

6月7日未明、東京の高田馬場において臓器の治療に使われるナノマシンの暴走により、人間が自我を失った異形の生命体に変わり果てるロスト現象が発生する。しかし、健康保障機関SHELLが早期の鎮圧と隠蔽工作を行ったため、一般市民はロスト現象を知る由もなく、ニュースも爆発事故として扱う。

貧富格差やSHELLによる支配への不満を持つ暴走族の一員・大庭葉蔵は、絵画を描きつつも生きる意味を見いだせず、自堕落に毎日を過ごしていたが、親友の竹一の誘いで彼がかねてより計画していた、警察当局を撒きながらインサイドへの強行突破を試みるSHELL突貫作戦に参加する。しかし、その過程で竹一がロスト化して死亡したうえ、自分も同様の状態になって絶体絶命に追い込まれていたところ、SHELLの幹部である柊美子と出会う。

葉蔵は美子との関係を深める中、自分につきまとう謎の研究者・堀木正雄の陰謀や、無病長寿社会の闇に立ち向かう。

用語集 編集

SHELL(シェル)
日本において4大医療革命を成し遂げた国民健康保障機関。Sound Health Everlasting Long Lifeの略。本部は環状7号線内部のインサイドにあり、金色のドームで包まれている。国民の健康状態の管理を行っているが、独自の軍事組織も有しており、ロスト現象の存在を隠蔽している。
澁田機関ヒラメ
SHELLの中核を成す組織。管理本部・コールセンターの役割を果たしており、体内に異常が確認された場合は遠隔操作でナノマシンを動かし、治療を行う。
4大医療革命
SHELLが行った政策で、遺伝子操作・再生医療・ナノマシン・万能特効薬を用い、日本国民の平均寿命を120歳、最高寿命を180歳にまで伸ばした。体内に埋め込まれたナノマシンにより、SHELLのネットワークに接続されている限り、ケガや病気でも死なない。だが、脳内物質までナノマシンに操作されて強制的に幸せを感じさせられるうえ、労働者は1日に19時間も労働させられているため、不満を持つ市民は多い。
アウトサイド
環状7号線の外部にあたる地域で、葉蔵や竹一などが住む。住民はインサイドとの貧富格差やSHELLによる支配に不満を持っており、竹一はSHELL突貫作戦という暴走行為を幾度と行っている。大気汚染は酷く、ガスマスクをつけなければ外出すらできない。
インサイド
環状7号線内部にあたる地域。ここに住めるのは年齢が120歳を超えた人間合格式に参加し、年金1億円で生活する上流階級のみである。しかし、この地域も大気が汚染されているため、ガスマスクは必須である。
ロスト現象
体内のナノマシンが暴走してSHELLの管理を振り切ってしまい、人間が異形の生命体になり果てる現象。ロスト化した人間は元に戻れず、死んだも同然の状態となる。SHELLは早期の鎮圧と隠蔽工作を行っているため、一般市民には存在が知られていない。
SHELL突貫作戦
竹一が率いる暴走族が、バイク約20台と爆弾を搭載した霊柩車1台を用いて横浜市内から高速道路を経由し、インサイドに突入する作戦。その途上で警察当局やSHELLによる妨害に巻き込まれ、レインボーブリッジにたどり着いた葉蔵や竹一も傷を負ってロスト化してしまう。

声の出演 編集

スタッフ 編集

製作 編集

朝日新聞デジタル&Mのインタビューに答えた木崎によれば、本作の企画は2015年頃にスロウカーブのプロデューサーの尾畑聡明から送られてきた提案が始まりであり、クリーチャーが街を徘徊しているイラストが描かれていた企画書を見た木崎は、原典とSFの世界観がつながらなかったという[9]。また、かつてSFの世界観で描かれたことはなかった原典をSFアクションとして生まれ変わらせるという企画を無謀ながら挑戦し甲斐があると思ったほか、制作が大変になるとの予想についても本広や冲方、ポリゴン・ピクチュアズという制作陣を迎えたことから、何とかなるので挑戦してみようと思ったという[9]。ただ、当初の予定では本編のようにアクションを満載するつもりはなく、絵コンテのすべてを再現するのは困難だと現場から言われて削ったものの想定の倍以上を入れることになったほか、冲方の脚本についてもかなりの分量だったことから削っており、説明を要するSFの要素より太宰の表現した人間ドラマを主体にした脚本へ組み替える作業に苦労したという[9]。近未来でありながら昭和時代の延長線上にある世界を舞台とした理由については、昭和の空気感に近未来的な要素を混ぜることは決まっていたものの突飛な世界観にはせず、あくまでも自分たちが過ごした世界の行く末を表現したかったからであり、世界で見てもらうことが前提に進められた企画でもあったため、『Anime Expo 2019』での上映終了後に大拍手を浴びた際には、海外の人が喜ぶエンターテインメント、SFアクション作品にするという命題がクリアできていると実感したという[9]

好書好日のインタビューに答えた冲方によれば、企画については「何を考えているんだろう」と思ったうえで1年半くらい議論したうえ、プロットを何パターンも作る間に原典を何度も読み込み、現代的でどこかに答えがあるはずとの確信を得て、「タイトルの解釈」・「原典や作者にまつわる死の影」・「ダークヒーローの誕生シーン」といった3つのブレイクスルーを乗り越えたという[10]。テクノロジーの発達したユートピアともディストピアとも言える日本社会を舞台とした理由については、デジタルテクノロジーをSFの主要な題材に据えれば据えるほど描けなくなっていくことから違うテクノロジーを取り上げようと思ったためであり、無限に続く苦しみの中で一抹の希望が残る物語を作ろうと心がけた結果、原典で描かれているキャラクターの配置が完璧で現代的だったことから、元の人間関係をSFに移植するだけで成立することが明確になったという[10]。また、昭和初期風よりも平成や令和から想起される社会問題を風刺するディストピアを描くことこそが最も原典らしいだろうとの確信から、「年金」や「社会保障」など本来アニメでは除外される語句を多く盛り込んだ「視聴者に何かを発見してもらえる」作品であると思っているが、どんなスタッフの間でも企画は「いつ崩壊するか分からない」と言われていたという[10]

2019年11月29日にTOHOシネマズ新宿にて初日舞台挨拶に登壇した冲方によれば、脚本制作には約2年を費やしており、原典のSF化に際して話し合った結果、「人間全部失格」にしようと考えて特に葉蔵を描くことになったという[3]。また、同じく登壇した櫻井によれば、絵コンテ撮を見ながらのプレスコ形式で声をあてており、岩浪によるこだわりで生の芝居をそのままアニメに落とし込んだという[3]

メディア展開 編集

漫画:HUMAN LOST 人間失格
原作・原案など MAGNET/スロウカーブ(原作)
太宰治(原案)
作画 高城隆介
出版社 講談社
掲載誌 月刊アフタヌーン
発表号 2019年8月号 - 12月号
巻数 全1巻
小説:HUMAN LOST 人間失格 ノベライズ
著者 葵遼太
出版社 新潮社
レーベル 新潮文庫nex
発売日 2019年11月1日
小説:二・二六 HUMAN LOST 人間失格
著者 浅生鴨
出版社 新潮社
レーベル 新潮文庫nex
発売日 2019年12月1日
テンプレート - ノート

漫画 編集

映画と同タイトルで、講談社の『月刊アフタヌーン』にて2019年8月号から同年12月号まで連載され、単行本が同年11月22日に発売された。作画は高城隆介。全1巻。ISBN 978-4-06-517921-5

小説 編集

映画ノベライズ
HUMAN LOST 人間失格 ノベライズ』のタイトルで、2019年11月1日に新潮社新潮文庫nexより発売された。著者は葵遼太。全1巻。ISBN 978-4-10-180172-8
小説オリジナルストーリー
二・二六 HUMAN LOST 人間失格』のタイトルで、2019年12月1日に新潮社の新潮文庫nexより発売された。著者は浅生鴨。全1巻。ISBN 978-4-10-180177-3

脚注 編集

  1. ^ HUMAN LOST 人間失格:作品情報 - 映画.com
  2. ^ a b c d e “HUMAN LOST 人間失格:本広克行×冲方丁で太宰治の傑作をSFアニメに 声優に宮野真守”. MANTANWEB (MANTAN). (2019年3月23日). https://mantan-web.jp/article/20190322dog00m200056000c.html 2019年4月18日閲覧。 
  3. ^ a b c “宮野真守はヒロイン・花澤香菜を不幸にしがち?「HUMAN LOST 人間失格」舞台挨拶”. コミックナタリー (ナターシャ). (2019年11月29日). https://natalie.mu/comic/news/357484 2019年12月1日閲覧。 
  4. ^ “HUMAN LOST 人間失格:本広克行×冲方丁のSFアニメの声優に花澤香菜 不思議な力持つ女隊員に”. まんたんウェブ (MANTAN). (2019年5月10日). https://mantan-web.jp/article/20190509dog00m200076000c.html 2019年5月10日閲覧。 
  5. ^ “櫻井孝宏「HUMAN LOST 人間失格」出演、謎多き男・堀木正雄に”. 映画ナタリー (ナターシャ). (2019年6月7日). https://natalie.mu/eiga/news/334649 2019年6月11日閲覧。 
  6. ^ “HUMAN LOST 人間失格:SFアニメの声優に福山潤 主人公の唯一の友人・竹一に”. まんたんウェブ (MANTAN). (2019年5月17日). https://mantan-web.jp/article/20190517dog00m200030000c.html 2019年5月20日閲覧。 
  7. ^ a b “HUMAN LOST 人間失格:SFアニメの声優に沢城みゆき、千菅春香 主人公・葉藏を受け入れる女性キャラに”. まんたんウェブ (MANTAN). (2019年5月24日). https://mantan-web.jp/article/20190517dog00m200030000c.html 2019年5月24日閲覧。 
  8. ^ a b c “HUMAN LOST 人間失格:m-floが主題歌担当 グラミー歌手J.バルヴィンをフィーチャリング”. まんたんウェブ (MANTAN). (2019年7月6日). https://mantan-web.jp/article/20190705dog00m200029000c.html 2019年7月17日閲覧。 
  9. ^ a b c d “『バジリスク』の木﨑文智、6年ぶり監督作品『HUMAN LOST 人間失格』で見せた表現のこだわり”. 朝日新聞デジタル&M (朝日新聞デジタル). (2019年11月28日). https://www.asahi.com/and_M/20191128/7695323/ 2019年12月1日閲覧。 
  10. ^ a b c “太宰治の代表作がSFアニメに! 映画「HUMAN LOST 人間失格」で脚本・冲方丁さんがもくろむ「神なき神話」の真意とは”. 好書好日 (朝日新聞デジタル). (2019年11月28日). https://book.asahi.com/article/12914152 2019年12月1日閲覧。 

外部リンク 編集