ウィッチャーIV ツバメの塔

ウィッチャーIV ツバメの塔』(原題:Wieża Jaskółki)は、ポーランドのファンタジー作家アンドレイ・サプコフスキによる「ウィッチャー」サーガの長編作品第四弾である。ポーランドで、1997年に初版が発行された。日本では、早川書房より2019年1月に刊行された。

ウィッチャーIV ツバメの塔
著者アンドレイ・サプコフスキ
翻訳者川野靖子
ポーランド
ジャンルファンタジー
出版日2019年1月10日
出版社早川書房
前作ウィッチャーIII 炎の洗礼
次作ウィッチャーV 湖の貴婦人

あらすじ編集

エルフ歴、秋分の日。魔力が高まるとされるこの日の翌日、ペレプラト湿原に暮らす隠者ヴィソゴタは、顔に大きな傷を負った少女を見つけ匿う。手厚い治療と看病が功を奏し、瀕死の重体から立ち直った少女はシリを名乗り、自分の身に起こったことを語りだした。

―――盗賊団「ネズミ」は、ある時郵便局を乗っ取り拠点としていた。そこに旧知の商人ホットスパーンが訪れる。彼は、「ネズミ」に迫るニルフガードの殺し屋ボンハートについて警告を与えた上で、彼らに生き延びる道があることを示唆する。これを聞いたファルカ(シリ)は酷く憤り、翌日「ネズミ」たちの元を抜け出して、ホットスパーンの後を追う。しかし、二人旅はすぐに終わりを告げた。追いはぎに襲われ、ホットスパーンは命を落とした。その後シリは、ボンハートのいるジェラシーに向かった「ネズミ」たちの後を追って、ホットスパーンから譲り受けた黒馬ケルピーを走らせるが、既にボンハートは「ネズミ」たちを惨殺し終えた後だった。シリはボンハートに戦いを挑むも、あえなく敗北。目の前でかつての仲間たちの首が次々に落とされるのを見ているしかなかった。

その後、ボンハートはシリを殺すことなく、不思議な行動に出た。刀鍛冶エスターハージーにシリ用の特注の剣を用意させ、さらにはクレアモントに屋敷を構える富豪商人フーヴェナゲルの元を訪れた。真相はすぐに判明した。彼らの企みは、シリを利用した見世物、つまり殺人ショーを開催することだったのだ。カサデイ伯爵に雇われたシリの追っ手に対し、戦って勝てば連れ去ってもいいと宣言するボンハート。何人かの挑戦者が闘技場に降り立ったものの、ウィッチャー仕込みのシリの剣捌きの前にあっけなく敗れ去るばかりだった。こうしてシリの苦難の日々が始まる。

一方その頃、ゲラルトたちは、一時メーヴ女王率いるリヴィア軍の世話になるも、軍がマハカムに北進する方針と知るやこれを抜け出し、レジスの知り合いのドルイドがいるというカエド・ドゥへの旅を再開していた。その後、旅の最中に出会った養蜂家たちから、ドルイドはカエド・ドゥを抜け出したという噂を聞きつけたゲラルトたちは、リードブルーンに向かって転進。しかし、リードブルーンの長官ファルコ・アーテヴェルデに身柄を拘束されてしまう。

ファルコは、ナイチンゲールなる盗賊が率いる現地のハンザを抜け出したアングレームという少女からウィッチャーたち“四人”が命を狙われているという情報を聞きつけ、これを忠告すると共に、返り討ちにするよう依頼した。アングレームの不憫な姿にシリの面影を重ねたゲラルトは、アングレームの解放を条件に、これを承諾。しかし、気がかりなのは、なぜ情報が漏れていたかだった。しかも、“五人”ではなく、“四人”という誤った数字で。

初めゲラルトは、カヒルが裏切っているのではと疑った。カヒルは激怒し、二人は激しい殴り合いの喧嘩を繰り広げ、ミルヴァまで激昂させる結果となった。ゲラルトは思い直し、自分を良く知る魔法使いイェネファーの仕業に違いないと確信する。遠い地でシリに死が迫っていることを予感しながらも、ゲラルトは、和解したカヒル、アングレームを連れてナイチンゲールの討伐に向かう。一方、レジス、ミルヴァ、ダンディリオンの三人は、ドルイドを追うべく、トゥサンを目指した。

ベルハーヴェンの鉱山にて、ゲラルトたちはナイチンゲールの一味と協力関係にあるハーフエルフのシュヒルと出会う。シュヒルはゴドリンガーとフェン殺害の実行犯であり、シリを追う魔法使いヴィルゲフォルツの部下だった。アングレームの機転で、自分たちこそ賞金首ウィッチャーを討ち取ったのだと嘯くも、簡単に嘘は見破られ、ニルフガード兵まで現れたことで一転窮地に立たされた一行。しかし、そこを自由スロープスの一団が強襲。混乱の中、ゲラルトたちは大きく傷つきながらも、脱出に成功した。アングレームと別れたゲラルトとカヒルは、傷ついた体を癒しつつ、二人きりで必死の逃避行を続ける。そんな中、カヒルはシリへの強い思いを吐露し、ゲラルトと絆をより深めるのだった。

逃避行の末、単独行していたレジスと再会したゲラルトたち。レジスは既にドルイドの元に辿りついており、彼はドルイドのフラミニカから授かった予言を届けるため道を引き返してきたのだった。レジスは、ゲラルトに対し、武器を捨ててある洞窟を進むことを指示。そこでゲラルトの長年の悩みが解決すると言うのだ。反感を覚えつつも、ゲラルトはこれに従った。洞窟の中には、大量のバルベガジやエキノプス、ノッカーといった怪物が潜んでおり、ゲラルトは危うく殺されそうになる。そこに現れたのが、エルフの賢者アヴァラックだった。アヴァラックは、人間を見下した持論を展開しつつ、ゲラルトの救出作戦が一切無意味に終わることを予言。ゲラルトはこれを聞くに値しないと一蹴するが、予想外にもアヴァラックはゲラルトへの協力を申し出た。水晶を通し、おぼろげな未来の映像、そして仲間たちの危機を幻視したゲラルトは、ノッカーの背に乗り、超特急でドルイドたちのいるカエド・ミルクヴィドを目指すのだった。

ゲラルトが駆け付けた時、辺りは既に戦火に包まれていた。ナイチンゲールの軍団やニルフガード兵がトゥサンの国境を守る遍歴の騎士たちと戦闘を繰り広げており、ゲラルトもこれに巻き込まれる形となった。ミルヴァ、アングレームらと合流したのちも激戦が続いたが、戦況は巨大な木の化け物の登場で一変した。成す術なく枝に絡め取られ、自由を奪われるゲラルトたち。連れられた先では、<枝編み女(ウィッカー・ウーマン)>に閉じ込められ、丸焼きにされる寸前のナイチンゲールとシュヒルらの姿があった。レジスの友人であると分かったことで、ゲラルトたちは化け物から解放されたものの、シュヒルたちの処刑は止められず、シュヒルに奪われたウィッチャーメダル共々、貴重な情報源が失われる様を、ただ見ているしかないのだった。

ゲラルトたちの冒険と時同じくして―――ニルフガードの管財官“モリフクロウ”ことステファン・スケレンはサイオニックのケンナらからなる特殊部隊を編成してシリの捜索を継続。一方レダニアの諜報員ディクストラは中立国コヴィリに軍資金の援助を求めるなど、各国もそれぞれの思惑に従って水面下の動きを続ける。そんな中、モンテカルヴォから逃げ出したイェネファーは、スケリッジに漂着し、かつて恋仲にあった軍司令官クラフ・アン・クライトに匿われていた。シリの叔父でもあるクラフは、イェネファーのシリ捜索に全面的に協力する形で、イェネファーの要求に応えていく。しかし、情報収集用のメガスコープに必要な巨大な宝石は用意することができなかった。そこで、イェネファーはフラヤ寺院の女神像にはめ込まれたブリシンガメンなる宝石をモドロン・シグルドリファから譲り受け、計画を継続。サネッド島の<門>からヴィルゲフォルツが逃げ込んだ先が、かつてシリの両親パヴェッタとダニーが死んだとされるセドナ深淵であると突き止めたイェネファーは、クラフの志願兵と共にここに突貫する。しかし、謎の力の前に船はあえなく崩壊。かろうじて救助された二人の生存者に、イェネファーは含まれていなかった。その後、イェネファーは、ヴィルゲフォルツに捕えられ、魔法の器具によってゲラルトの情報を与えてしまうことになる。こうして、シュヒルがゲラルトの元に送り込まれたのだった。

一方、ステファン・スケレン配下のケンナは、シリ追跡の最中、部隊の中に姿の見えないスパイが紛れ込んでいることに勘付く。不意を突かれ小麦粉を浴びせられたスパイは、透明帽子を被った魔法使いリエンスだったと判明した。時同じくして、なんとボンハートがシリを連れて姿を現した。ボンハートは、一連の出来事からシリの正体を知り、その上でステファン・スケレンの思惑を探る目的で、彼の前に姿を現したのだった。役者が揃ったところで、リエンスはゼノグロスを用いてヴィルゲフォルツを呼び出す。ヴィルゲフォルツは膨大な報酬を約束し、ボンハートを買収、アーダル・エプ・デヒーらと通じて皇帝を裏切っていたステファン・スケレンもまた、ヴィルゲフォルツと与することとなった。しかし、ケンナが不意に超能力を送り込んだことから、コラス砂漠の事件以来失われていたシリの魔力が覚醒。シリは、護衛の兵士を殺害し、ケルピーを駆って逃走を開始した。ステファン・スケレンらの必死の妨害にあい、顔面に大きな傷を負ったシリだったが、ニルフガードの諜報部長ヴァティエル・ド・リドーと通じていたネラティン・セカらの助けもあって、遂に自由の身となる。こうして彼女は、命からがらペレプラト湿原まで辿りついたのだった―――

事の経緯を語り終え、身体の傷も癒えたシリだったが、周囲には危機が迫りつつあった。ステファン・スケレンの武装団が近くの村をうろつき、発見されるのは時間の問題という状況で、シリはヴィソゴタから聞いた“ツバメの塔”へと旅立つ決意をする。サネッド島の“カモメの塔”と対をなす存在だが、今は廃墟と化しているというその場所には、シリの魔力に反応する<門>が存在するはずであり、そこからサネッド島へ抜けられる可能性に賭けたのだ。“ツバメの塔”がある<百湖>に向かう道中、シリはダン・デレで追っ手4名を惨殺。しかし、リエンスやボンハートらも含んだ武装団は、着実に彼女の背後に肉薄していく。北端に塔があると言われているターン・ミラ湖で、武装団はついにシリの痕跡が目の前に迫っていることに気づいた。しかし、ただならぬ雰囲気に恐れをなしたケンナたちが武装団から離反し、ステファン・スケレン、リエンス、ボンハートら10名で追跡を続けることに。視界不明瞭な湖の氷上を、徒歩で進む一行。間もなく、シリの足跡が忽然と消えた。シリはスケート靴をはき、猛烈たる勢いで武装団に逆襲を開始する。何人もの団員が次々に負傷し、命を落とす中、リエンスもまた極寒の湖に落ちる。一方、単独行動に出ていたボンハートは、武装団から逃げ延びたシリに肉薄するも、何もなかったはずの丘に突如現れたツバメの塔に消えゆくシリをただ見ているしかなく、一人慟哭するのだった。

ツバメの塔の中には、見た目以上の広い空間が広がっていた。延々と続く扉と不思議な映像の波を超えた先、そこでシリを待っていたのは温かい春の風景だった。そして一人のエルフが、優しくシリに話しかけた。「どうしてこんなに時間がかかった? いったい何があった?」

登場人物編集

リヴィアのゲラルト
変異誘発剤の摂取により異能へと変異した怪物狩り、通称“ウィッチャー”。特徴的な白髪から、<白狼>の異名で知られる。シリを追ってニルフガードを目指す中、リヴィア軍と共闘し戦果に貢献したことから、正式にリヴィアの騎士に任命された。
シリ(シリラ)
シントラ女王キャランセの孫娘にして、“シントラの仔獅子”の名で知られる灰金色の髪の少女。<古き血脈>と呼ばれるエルフ族の血縁にあたり、強大な魔力の媒介たる<源流>である。ファルカを名乗り、「ネズミ」と行動を共にする。
ヴェンガーバーグのイェネファー
かつて強力な精霊ジンに囚われていたところをゲラルトに助けられたことをきっかけに、ゲラルトと恋仲になった女魔法使い。女魔法使いの組織に勧誘されるも、逃亡した。

ゲラルトの仲間たち編集

ダンディリオン
ゲラルトの友人にして、吟遊詩人。かつてゲラルトと共に冒険の旅に出たこともある。吟遊詩人としての腕は本物で、大衆にも名が知れている。
ミルヴァ
本名マリア・バリング。弓の名手。ブロキロンの木の精の協力者。ゲラルトの旅に同行する。
カヒル・マー・ディフリン・エプ・シラク
黒い羽根付き兜の騎士。ニルフガード皇帝の執事長の息子。
エミール・レジス・ロヘレック・タージフ=ゴドフロイ
理髪外科医にして上級吸血鬼。過去のとある事件から、人間の血を吸うことはやめている。
アングレーム
ナイチンゲールの元部下の女盗賊。処刑されかかっていたところを、ゲラルトに救われる。

女魔法使いの結社編集

トリス・メリゴールド
ゲラルト、イェネファー共通の友人である女魔法使い。フィリパが結成した結社のメンバー。
フィリパ・エイルハート
レダニアのヴィジミル王に仕える女魔法使い。女魔法使いたちからなる新しい結社のトップ。
シーラ・ド・タンカーヴィレ
コヴィリの女魔法使い。フィリパが結成した結社のメンバー。
アシーレ・ヴァル・アナヒッド
ニルフガード帝国の女魔法使い。フィリパが結成した結社のメンバー。
フリンギラ・ヴィゴ
ニルフガード帝国の女魔法使い。フィリパが結成した結社のメンバー。
カルシア・ヴァン・カンテン
ヴァティエル・ド・リドーの愛人。アシーレと通じている。別名カンタレラ。

「ネズミ」の関係者編集

ギゼルハー
「ネズミ」の構成員。
ケイレイ
「ネズミ」の構成員。
イスクラ=アエネウェディン
「ネズミ」の構成員。
ミスル
「ネズミ」の構成員。
リーフ
「ネズミ」の構成員。
アッセ
「ネズミ」の構成員。
ホットスパーン
「ネズミ」の旧知の商人。

ニルフガード帝国編集

エムヒル・ヴァル・エムレイス
ニルフガード皇帝。<白炎>の渾名で知られる。
ヴァティエル・ド・リドー
ニルフガード帝国の軍諜報部長。
ステファン・スケレン
ニルフガード帝国特任管財官。別名モリフクロウ。
レオ・ボンハート
ニルフガードの雇われ殺し屋。
ジョアンナ・セルボーン
サイオニック、スケレンの武装団のメンバー。別名ケンナ。
ダクレ・シリファント
スケレンの武装団のリーダー。
ネラティン・セカ
スケレンの武装団のメンバー。ダクレの補佐。
クロエ・スティッツ
スケレンの武装団のメンバー。女盗賊。
シプリアン・フリップ
スケレンの武装団のメンバー。
オラ・ハーシェイム
ステファン・スケレンの部下。
バート・ブリグデン
ステファン・スケレンの部下。
ボリース・ムン
ステファン・スケレンの部下。追跡屋。

ヴィルゲフォルツ一派編集

ヴィルゲフォルツ
シリを追う魔法使い。サネッド島の反乱以降、姿を見せていない。
シュヒル
ヴィルゲフォルツの部下のハーフエルフ。ゴドリンガーとフェン殺害の実行犯。
リエンス
ヴィルゲフォルツの部下で、シリを追う魔法使い。イェネファーにつけられた顔の火傷が特徴。
ホーマー・ストラッゲン
盗賊団の首領。別名ナイチンゲール。

その他編集

エステラド・シッセン
コヴィリの国王。
ズレイカ
エステラド王の王妃。
メーヴ
ライリアとリヴィアの女王。
シギスムンド・ディクストラ
レダニア国の諜報部長。背丈は2m近く、体重は200kg近くある巨漢。
ヴィセゲルド元帥
シントラ軍の司令官。
アンナ・ヘンリエッタ
トゥサン公国の公爵夫人。
クラフ・アン・クライト
スケリッジの司令官(ヤール)。
ネンネケ
メリテレ寺院の巫女頭。
シグルドリファ
フラヤ寺院の女司祭。
アヴァラック
正体不明のエルフの賢者(アエン・セヴェルネ)。本名は、クレヴァン・エスペイン・エプ・カオマン・マカ。
ヴィソゴタ
ペレプラト湿原の隠者。瀕死のシリを救う。

<ウィッチャー>の世界編集

脚注編集

[脚注の使い方]

関連項目編集