ウィンター(Winter, 2015年または2016年生まれ)は、ベルギーヘント近郊の研究牧場で育てられているメスのラマである。ウィンターは、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)についての研究で非常に重要な役割を果たしたことで有名となった[1]

テキサス大学オースティン校の構造ウイルス学ジェーソン・マクレナン英語版と大学院生のダニエル・ラップは2016年、当時生後9ヶ月だったウィンターに、安定化したSARSコロナウイルスMERSコロナウイルススパイクタンパク質を注入する実験を行った。それによって、ウィンターがコロナウイルスに対する抗体、またはそれより小さなナノボディを生産するのを期待してのことである。この実験によって彼らは「全てのコロナウイルスを中和できるような単一の抗体を単離する」ことを目指していた[1][2]

ラマを含むラクダ科の動物は、ヒトなどが生産するものよりもサイズの小さな抗体を生産する能力を持つ。また、ラマの抗体は遺伝的改変も容易である。これを利用して、ラマの産生する抗体から、ヒトの抗体の半分ほどのサイズでありながら安定した性質をもって抗体作用を発揮する、ナノボディと呼ばれるタンパク質が生産されている[2][3][4]

SARS-CoV-2の遺伝子配列が2020年1月に発表された後、すぐに科学者たちが始めたのは、これまでにウィンターを使った研究で単離されたSARSコロナウイルスに対するナノボディの中から、SARS-CoV-2にも結合してそれを中和するものを探索することであった。そしてそのうちのひとつ、VHH72と呼ばれるナノボディが、SARS-CoV-2に対して有効であることが判明した。現在ではこのナノボディをCOVID-19に対する治療薬とする開発が進んでいる。このウィンターを用いた研究で、マクレナンとラップは2020年のゴールデン・グース賞英語版(アメリカ合衆国政府からの資金提供によって行われた優れた基礎研究に対して授与される賞)を受賞している[3][1]

2021年時点でウィンターはベルギー・リンブルフ州のヘントにある、アーティストKoen Vanmechelenが運営する芸術文化施設LABIOMISTAで飼育されている[5]

出典 編集

  1. ^ a b c 2020 Golden Goose Award: A Llama Named Winter”. American Association for the Advancement of Science. 2021年8月12日閲覧。
  2. ^ a b Jillian Kramer(翻訳:村井裕美) (2020年5月24日). “コロナ予防救世主に「ラマ」が急浮上している訳 特殊な抗体はコロナ予防に使えるか”. 東洋経済オンライン. 2022年7月18日閲覧。
  3. ^ a b Andre Salle's (2021年3月9日). “Why the lovable llama might be a secret weapon against COVID-19”. Argonne National Laboratory. 2022年7月18日閲覧。
  4. ^ Kramer, Jillian (2020年5月6日). “Hoping Llamas Will Become Coronavirus Heroes”. 2022年7月18日閲覧。
  5. ^ Winter's Kilobytes × we (Wk×W) | LABIOMISTA” (英語). www.labiomista.be. 2021年11月18日閲覧。

関連資料 編集