オック語アルファベット

オック語で用いられるアルファベット

オック語アルファベットオック語: alfabet occitan)は、オック語の表記に用いられる字母である。複数の方式が存在するが、最も主流である古典式つづりのものはラテン文字26字にダイアクリティカルマーク付き文字12字を加えた38文字で構成される。以下、本記事では古典式つづりで用いられる文字について記す。

ラテン文字のうちKWYについてはオクシタニアの住民からは他言語用の文字であると認識されており、whiskywattKenyaといったオック語に徐々に取り入れられていった借用語にのみ用いられる。これらの文字も国際的に用いられるアルファベットの並び順に準拠するならばオック語アルファベットの中に含まれうる[1]

文字名

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標準発音は、ラングドック語での発音に準拠したものである。また、各地域での発音の欄において特記のないものについては標準発音と同一の発音となる。

文字 名称 IPA
(標準発音)
IPA
(各地域での発音)
A a a [ˈa]
B b be, be (n)auta [ˈbe, ˈbe ˈ(n)awtɔ] Auv. [ˈbə, ˈbə ˈ(n)awtɔ]
Niç. Va. [ˈbe, ˈbe ˈ(n)awta]
C c ce [ˈse] Auv. [ˈsə]
D d de [ˈde] Auv. [ˈdə]
E e e [ˈe] Auv. [ˈə]
F f èfa [ˈɛfɔ] Auv. Lim. [ˈefɔ]
Niç. Va. [ˈɛfa]
G g ge [ˈdʒe] Auv. [ˈdzə]
Lim. [ˈdze]
Gas. [ˈʒe]
H h acha [ˈatʃɔ] Auv. Lim. [ˈatsɔ]
Niç. Va. [ˈatʃa]
I i i [ˈi]
J j ji [ˈdʒi] Lim. [ˈdzi]
(K k) ca [ˈka]
L l èla [ˈɛlɔ] Auv. Lim. [ˈelɔ]
Niç. Va. [ˈɛla]
M m èma [ˈɛmɔ] Auv. Lim. [ˈemɔ]
Niç. Va. [ˈɛma]
N n èna [ˈɛnɔ] Auv. Lim. [ˈenɔ]
Niç. Va. [ˈɛna]
O o o (ò) [ˈu (ˈɔ)]
P p pe [ˈpe] Auv. [ˈpə]
Q q cu [ˈky] Auv. [ˈkjy]
R r èrra [ˈɛrɔ] Auv. Lim. [ˈerɔ]
Niç. [ˈɛʀa]
Va. [ˈɛra]
Pro. [ˈɛʀɔ]
S s èssa [ˈɛsɔ] Auv. Lim. [ˈesɔ]
Niç. Va. [ˈɛsa]
T t te [ˈte] Auv. [ˈtə]
U u u [ˈy]
V v ve, ve bassa
(Gas. ve, ve baisha)
[ˈbe, ˈbe ˈβasɔ] Auv. [ˈvə, ˈvə ˈbasɔ]
Lim. Pro. [ˈve, ˈve ˈbasɔ]
Niç. Va. [ˈve, ˈve ˈbasa]
Gas. [ˈbe, ˈbe ˈβaʃɔ]
(W w) ve dobla [ˈbe ˈðubːlɔ] Auv. [ˈvə, ˈvə ˈdublɔ]
Lim. Pro. [ˈve, ˈve ˈdublɔ]
Niç. Va. [ˈve, ˈve ˈdubla]
Gas. [ˈbe, ˈbe ˈðuβlɔ]
X x ixa [ˈitsɔ] Auv. Lim. Pro. Gas. [ˈiksɔ]
Niç. Va. [ˈiksa]
(Y y) i grèga [ˈi ˈɣɾɛɣɔ] Auv. Lim. [ˈi ˈɡɾeɡɔ]
Pro. [ˈi ˈɡɾɛɡɔ]
Niç. Va. [ˈi ˈɡɾɛɡa]
Z z izèda [iˈzɛðɔ] Auv. Lim. [iˈzedɔ]
Pro. [iˈzɛdɔ]
Niç. Va. [iˈzɛda]

これらの文字名は通常女性名詞として扱われる。一方で男性名詞扱いされる場合もあり、具体的には女性名詞扱いのbe nauta (B), ve bassa (V), ve dobla (W), i grèga (Y) といった名称が男性形のbe naut, ve bas, ve doble, i grècに変化した場合がある。

エリジオンは母音で始まる語の直前でよく用いられる。

ダイアクリティカルマーク

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オック語アルファベットでは、各文字の発音を変えるのにいくつかのダイアクリティカルマークが用いられている。

ダイアクリティカルマークは大文字でも必要である。例:Índia, Àustria, Sant Çubran, FÒRÇA, SOÏSSA, IN·HÈRN.

発音と綴りの対応について

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以下、オック語の標準発音とされるラングドック語、発音面で他の方言と異なる特徴の多いガスコーニュ語の発音をそれぞれ独立した列に示し、それ以外の方言については一括して示す事とする。また、特記のない方言での発音についてはラングドック語と同一の発音とする。

子音

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綴り ラングドック語 地域特有の発音
IPA 例外 ガスコーニュ語[2][3] それ以外
b 母音間にある場合
r, l, zのいずれかと隣接する場合
/β/ /b/ /b/ (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
上記以外 /b/
-b /p/ ∅, /n/, /m/ (p, b, mの前で) amb /p/ ∅ (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語)
bt /tt/ /t/ (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
c e, iの前で /s/ uの前で/kj/、iの前で/ʃ/ before i (オーヴェルニュ語)
上記以外 /k/
-c /k/ ∅ (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語)
ç a, o, uの前で /s/ uの前で/ʃ/(オーヴェルニュ語)
/s/ ∅ (リムーザン語オーヴェルニュ語)
rの後で∅(プロヴァンス語)
cc e, iの前で /ts/ /ks/ (/s/となる場合も) (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
iの前で/kʃ/(オーヴェルニュ語)
ch // /ts/ (オーヴェルニュ語リムーザン語)
uの前で//(オーヴェルニュ語)
-ch // ∅ (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語)
d 母音間にある場合
r, l, zのいずれかと隣接する場合
/ð/ /d/ /d/ (プロヴァンス語リムーザン語ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
上記以外 /d/ i, uの前で/dj/(オーヴェルニュ語)
-d /t/ ∅ (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語)
dd /dd/ /d/ (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
f /f/
g e, iの前で // /dz/ (リムーザン語オーヴェルニュ語)
iの前で//(オーヴェルニュ語)
母音間にある場合
r, l, zのいずれかと隣接する場合
/ɣ/ /ɡ/ /ɡ/ (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
上記以外 /ɡ/
-g /k/ // mièg, cluèg ∅ (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語)
gd /t/ /d/ (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
gu- 母音間にある場合
r, l, zのいずれかと隣接する場合
/ɣ/ 一部の語で/ɡw/ /ɡ/ (プロヴァンス語リムーザン語ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
上記以外 /ɡ/ iの前で/ɡj/(オーヴェルニュ語)
h 子音(特にl, r)の前で∅
それ以外は/h/
j // 地域により/ʒ/または/j/ /dz/ (リムーザン語オーヴェルニュ語)
i, uの前で//(オーヴェルニュ語))
k /k/ i, uの前で/kj/(オーヴェルニュ語)
l /l/ i, uの前で/lj/(オーヴェルニュ語)
-l /l/ /w/ lmèu (プロヴァンス語)
後ろから2番目の音節にアクセントがある場合∅(ほとんどの方言で)
ll /ll/ /l/ (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
lh /ʎ/ /j/ /j/ (プロヴァンス語)
-lh /l/ /j/ /w/ solelhsoleu (プロヴァンス語)
/j/ (リムーザン語オーヴェルニュ語ニサール語)
m m, b, pを除く子音の前で /n/ 子音の後で// (最後の母音の半鼻音化を伴いながら) (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
上記以外 /m/
-m /n/ /m/ (p, b, mの前で) amb /m/ // (最後の母音の半鼻音化を伴いながら) (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語ニサール語)
一人称複数形における活用形で// (ビバロ・アルピーネ語)
mm /mm/ /m/ (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
n p, b, mの前で /m/
c, qu-, g, gu-の前で /ŋ/
fの前で /ɱ/
上記以外 /n/ benlèu, bensai, tanbén, tanplan //(最後の母音の半鼻音化を伴いながら) (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
i, uの前で/nj/(オーヴェルニュ語)
-n 一部の語に限り/n/ 一部の語に限り//(リムーザン語オーヴェルニュ語)
nn /nn/ /n/ (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
-nd, -nt /n/ /n/または∅ // (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
/ⁿt/ (ニサール語ビバロ・アルピーネ語)
nh /ɲ/ /ɲ/
gn /nn/
-nh /n/ /ɲ/ // (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語ニサール語)
/ɲ/ (ビバロ・アルピーネ語)
p /p/ i, uの前で/pj/(オーヴェルニュ語)
-p /p/ ∅ (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語)
còp, tròp, capの3単語(いずれも意味は"coast")に限り/w/(ニサール語)
qu- /k/ 一部の語で/kw/ i, uの前で/kj/(オーヴェルニュ語)
r 語頭
n, lの後で
/r/ /ʀ/ (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
上記以外 /ɾ/
rr /r/ /ʀ/ (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
/ɾ/ (リムーザン語オーヴェルニュ語ニサール語)
-r 一部の語に限り/ɾ/ /ʀ/ (プロヴァンス語)
/ɾ/ (ビバロ・アルピーネ語)
-rm /ɾ/ /ʀ/ (プロヴァンス語ニサール語)
/ɾm/ (ビバロ・アルピーネ語)
-rn /ɾ/ /ʀ/ (プロヴァンス語)
/ʀp/ (ニサール語)
/ɾn/ (ビバロ・アルピーネ語)
s 母音間で /z/ i, uの前で/ʒ/(オーヴェルニュ語)
上記以外 /s/ i, uの前で/ʃ/(オーヴェルニュ語)
-s /s/ pas, pus, res, dinsなど一部の語に限り∅ 母音で始まる語の前で/z(プロヴァンス語ニサール語)
ss /s/ i, uの前で/ʃ/(オーヴェルニュ語)
sh /ʃ/
t /t/ i, uの前で/tj/(オーヴェルニュ語)
-t /t/ ∅ (-mentで終わる副詞および現在分詞) ∅ (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語)
母音で終わる過去分詞において∅(ビバロ・アルピーネ語)
tg, tj // 一部の語で// // (プロヴァンス語ニサール語ビバロ・アルピーネ語); i, uの前で (オーヴェルニュ語)
/dz/ (リムーザン語オーヴェルニュ語)
-th /t/
tl /ll/ /l/ (プロヴァンス語ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
/ⁿl/ (リムーザン語オーヴェルニュ語)
tm /mm/ /m/ (プロヴァンス語ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
/ⁿm/ (リムーザン語オーヴェルニュ語)
tn /nn/ /n/ (プロヴァンス語ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
/ⁿn/ (リムーザン語オーヴェルニュ語)
tz /ts/ /dz/ (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語)
/z/ (ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
-tz /ts/ /s/ (プロヴァンス語ニサール語ビバロ・アルピーネ語)
∅ (リムーザン語オーヴェルニュ語)
v 母音間にある場合
r, l, zのいずれかと隣接する場合
/β/ 地方により/w/ /v/ (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
上記以外 /b/
w /w/, /b/, /β/ /v/, /b/, /β/ (プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
x 子音の前で /s/
上記以外 /ts/ 母音の前に置かれた接頭辞ex-にて/ɡz/(プロヴァンス語リムーザン語オーヴェルニュ語ビバロ・アルピーネ語ニサール語)
i, uの前で/ɡʒ/(オーヴェルニュ語)
y /i/, /j/
z /z/ i, uの前で/ʒ/(オーヴェルニュ語)
-z /s/

母音

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綴り ラングドック語 地域特有の発音
IPA 例外 ガスコーニュ語[4][5] それ以外
a /a/ 高低アクセントの置かれる直前で/ɒ/(リムーザン語オーヴェルニュ語)
-a /ɔ/ /ɔまたは/ɛ/ 接尾辞-iaのみ∅(プロヴァンス語)
-as /ɔs/ /ɔ/ (プロヴァンス語)
/a/ (オーヴェルニュ語ニサール語)
// (リムーザン語)
動詞の二人称単数形:
/ɔs/ (プロヴァンス語)

脚注

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  1. ^ *Preconizacions del Conselh de la Lenga Occitana (PDF) (standard Occitan orthography).
  2. ^ 多田和子 編『ガスコン語会話練習帳』大学書林、1988年11月20日、v-vi頁。ISBN 978-4-475-01293-5 
  3. ^ 工藤進『ガスコーニュ語への旅』大学書林、1988年10月31日、84-103頁。 
  4. ^ 多田和子 編『ガスコン語会話練習帳』大学書林、1988年11月20日、v頁。ISBN 978-4-475-01293-5 
  5. ^ 工藤進『ガスコーニュ語への旅』大学書林、1988年10月31日、82-84頁。 

関連項目

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外部リンク

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