グリコゲニン: glycogenin)は、グルコースからグリコーゲンへの変換に関与する酵素である。グリコゲニンはグルコース分子の重合のプライマーとして作用し、最初の数個の分子の重合を担う。その後の重合反応は他の酵素に引き継がれる。37 kDaのサブユニットからなるホモ二量体で、グリコシルトランスフェラーゼに分類される。

glycogenin glucosyltransferase
グリコゲニンの構造(ウサギ由来)[1]
識別子
EC番号 2.4.1.186
CAS登録番号 117590-73-5
データベース
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ExPASy NiceZyme view
KEGG KEGG entry
MetaCyc metabolic pathway
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PDB構造 RCSB PDB PDBj PDBe PDBsum
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この酵素は次の化学反応を触媒する。

UDP-α-D-グルコース + グリコゲニン is in equilibrium with UDP + α-D-グルコシルグリコゲニン

すなわち、この酵素の2つの基質はUDP-α-D-グルコースとグリコゲニンであり、2つの産物はUDPとα-D-グルコシルグリコゲニンである。

命名 編集

この酵素はグリコシルトランスフェラーゼファミリー、特にヘキソシルトランスフェラーゼ(hexosyltransferase)に属する。この酵素の系統名はUDP-α-D-グルコース:グリコゲニン α-D-グルコシルトランスフェラーゼ(UDP-alpha-D-glucose:glycogenin alpha-D-glucosyltransferase)である。他の慣用名には次のようなものがある。

  • グリコゲニン
  • プライミンググルコシルトランスフェラーゼ(priming glucosyltransferase)
  • UDP-グルコース:グリコゲニン グルコシルトランスフェラーゼ

グリコゲニンはグリコーゲン合成の開始を担い、グリコーゲンシンターゼが引き継ぐ。

発見 編集

グリコゲニンは1984年にWilliam Joseph Whelanによって発見された[2]

機能 編集

肝臓筋肉でのグリコーゲン合成はUDP-グルコースによって開始されるが、グリコーゲンの重合の主要な酵素であるグリコーゲンシンターゼは、少なくとも3つのグルコース残基の鎖が存在しているときにのみ、付加を行うことができる。グリコゲニンはグリコーゲン合成のプライマーとして作用し、グルコースの付加も行うことができる。この反応は自身へのグルコースの付加(自己触媒)によって行われ、UDP-グルコースのグルコースをチロシン194番残基のヒドロキシル基に結合させる。さらにグリコゲニンのグルコシルトランスフェラーゼ活性によって、UDP-グルコースに由来するグルコースを7つ付加することができる。十分なグルコース残基が付加されると、グルコース鎖の伸長はグリコーゲンシンターゼに引き継がれる。このときもグリコゲニンはグリコーゲン分子の還元端に共有結合的に結合したままである。

構造 編集

 
グリコーゲンの二次元断面図。コアタンパク質であるグリコゲニンはグルコース単位からなる枝に囲まれている。球状複合体には約3万単位のグルコースが含まれている[3]

アイソザイム 編集

ヒトでは、グリコゲニンには2つのアイソフォームが存在する。GYG1遺伝子にコードされるグリコゲニン1は筋肉で発現し、GYG2遺伝子にコードされるグリコゲニン2は肝臓と心筋で発現しているが、骨格筋では発現しない。グリコゲニン1の欠乏患者が見つかっており、筋細胞にグリコーゲンを貯蔵することができないため、筋力低下と心臓疾患が引き起こされる[4]

glycogenin 1
識別子
略号 GYG1
他の略号 GYG
Entrez英語版 2992
HUGO 4699
OMIM 603942
RefSeq NM_004130
UniProt P46976
他のデータ
EC番号
(KEGG)
2.4.1.186
遺伝子座 Chr. 3 q24-q25.1
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glycogenin 2
識別子
略号 GYG2
Entrez英語版 8908
HUGO 4700
OMIM 300198
RefSeq NM_003918
UniProt O15488
他のデータ
EC番号
(KEGG)
2.4.1.186
遺伝子座 Chr. X p22.3
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出典 編集

  1. ^ PDB: 1LL3​; “Crystal structure of the autocatalytic initiator of glycogen biosynthesis, glycogenin”. J. Mol. Biol. 319 (2): 463–77. (May 2002). doi:10.1016/S0022-2836(02)00305-4. PMID 12051921. 
  2. ^ Whelan WJ (September 1998). “Pride and prejudice: the discovery of the primer for glycogen synthesis”. Protein Sci. 7 (9): 2038–41. doi:10.1002/pro.5560070921. PMC 2144155. PMID 9761486. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2144155/. 
  3. ^ Katch, Victor L.; McArdle, William D.; Katch, Frank I. (2007). Exercise physiology: energy, nutrition, and human performance. Philadelphia: Lippincott Williams and Wilkins. pp. 12. ISBN 978-0-7817-4990-9 
  4. ^ “Glycogenin-1 deficiency and inactivated priming of glycogen synthesis”. N. Engl. J. Med. 362 (13): 1203–10. (April 2010). doi:10.1056/NEJMoa0900661. PMID 20357282. 

関連文献 編集

外部リンク 編集