ダークロードとは、フィクションにおける敵役の首魁に特有の類型を指すアーキタイプである。このアーキタイプは、特にファンタジーというジャンルにおいて典型的である[1]。ダークロードの人物像は通例男性であり、権力への渇望や、悪魔反キリストとの関連で特徴づけられる[1]。 『エンサイクロペディア・オブ・ファンタジー』はダークロードの人物像によく見られるテーマとして、「かつて敗北しているが永遠に殺されたままではない」、「大地の破壊」など涜聖の儀式に従事する、などがあるとする。

ワーグナーの『ニーベルングの指環』に登場するアルベリヒ英語版がダークロードの原型である[1]。 文芸におけるダークロードの注目すべき例としてはこの他に、サウロン (『指輪物語』) 、モルゴス (『シルマリルの物語』) 、嵐の王イネルキー (『いばらの秘剣英語版』)[1]ヴォルデモート卿 (『ハリー・ポッター』)[2]などが挙げられる。映画においては、『スターウォーズ』シリーズのダースベイダーパルパティーン皇帝が通常「シスの暗黒卿(ダークロード)」と呼ばれている[3]

フィリップ・プルマンは、文学におけるダークロードというアーキタイプというものについて、「悪というのは通常一人の人間の形で化身し、影響力を及ぼすために高い身分を求める物である」と人々が信じていることが反映されたものであるが、これはハンナ・アーレントの「悪の陳腐さ」(『イエルサレムのアイヒマン』)という概念とは正反対の物であると批判的に述べている。

参考文献 編集

  1. ^ a b c d "Dark Lord" in The Encyclopedia of Fantasy (eds. John Clute & John Grant: First St. Martin's Griffin ed.: 1999), p. 250.
  2. ^ Alice Mills, "Archetypes and the Unconscious in Harry Potter and Diana Wynne Jones's Fire and Hemlock and Dogsbody, in Reading Harry Potter: Critical Essays. Contributions to the Study of Popular Culture, No. 78. Ed. Giselle Liza Anatol (Praeger: 2003), p. 8.
  3. ^ William Indick, Movies and the Mind: Theories of the Great Psychoanalysts Applied to Film (McFarland, 2004), p. 82.