ドゥーネダインDúnedain、単数形: Dúnadan、ドゥーナダン)は、J・R・R・トールキン中つ国を舞台とした小説、『指輪物語』及び『シルマリルの物語』に登場する架空の民族。

概要 編集

シンダール語の「西方」(dún)と、「人間」(edain)で、「西方の人」を意味し、中つ国の西方に浮かぶ島の住人であるヌーメノール人と、ヌーメノールの滅亡から生きのこった、中つ国のその末裔を指す。 西方語ではこれを直訳して、「西方の人」とも呼ぶ。

同時代の一般的な人間に比べて格段に高い技術力を有するほか、肉体的にも優れていた。男性の平均身長は6フィート4インチ(193cm)ほどもあった。また寿命が非常に長く、資料によってまちまちではあるが、常人の3倍ないし5倍は生きたとされている。王族であるエルロスの子孫は特に長寿で400歳にもなった。存命の間は壮年期が長く続くが、いったん衰えが来ると一気に老け込んだ。ただし文明が爛熟する前のヌーメノール人は、寿命を悟ると衰える前に自ら眠るように世を去るのが常だった。

こうした長所はエダインの子孫に与えられた恩寵であった。ヌーメノールの没落後、かれらが中つ国で暮らすうちにこの祝福は徐々に取り消されていき、身長も寿命も縮んで並の人間に近づいていった。

ドゥーネダインの中には、時を越えた知覚力を発揮するものもいる。アラゴルンエルロンドと会話中に彼が中つ国を立つ日が迫っているのを悟り、ファラミアは「折れたる剣を求めよ」というお告げを夢に見て、それが兄ボロミアの旅立ちにつながった。

ヌーメノールのドゥーネダイン 編集

(ヌーメノール人の技術や歴史については、ヌーメノールを参照)

第二紀のこと。ヴァラールは、エルフとともにモルゴスと戦い第一紀の戦いを生き延びたエダインに対し、水没したべレリアンドの代わりとしてアマン中つ国の間にある島のヌーメノールを褒美として与えた。

中つ国の西方ヌーメノールへと渡ったエダインたちは、通常の人間より長い寿命を持ち、かの地で大いに力を増し、栄えた。しかしかれらはエルフの不死への嫉妬と中つ国の人間への傲慢、そしてサウロンの奸計によってアマンを侵略しようとし、イルーヴァタールによって世界は作り変えられヌーメノールは海へ沈んだ。

エレンディルに率いられ、ヌーメノールの滅亡を生き延びたドゥーネダインは、中つ国で北方王国アルノールと南方王国ゴンドールを築き、冥王と長きに渡り戦ったが、かれらの技と寿命は次第に衰えていった。

ゴンドールのドゥーネダイン 編集

ゴンドールは建国以来1000年ほどおおいに繁栄した。しかし第三紀1250年に北国人のもとへ大使として派遣された世継ぎたるヴァラカールが現地の女性と結婚したことが一部のドゥーネダインの反発を招いた。こうした結びつきはドゥーネダインの純血を薄れさせ、衰退につながると彼らは信じたからである。そのため王国南部では反乱が起こり、ヴァラカールの息子エルダカールは継承した王位を一時追われるまでにいたった。

懸念とは裏腹に、エルダカール王は早急に老化するようなことはなかった。しかし一連の同族の争いで多くのドゥーネダインの命が失われたため、ゴンドール国民における北国人の比率はいっそう高くなった。2050年に王統が絶えると一族の衰退には拍車がかかり、かつては長かった寿命もかなり常人に近づいた。

アルノールのドゥーネダイン 編集

北方王国は1000年を待たずに3つに分裂した。アルセダインでは王統が保たれたが、カルドランとルダウアではイシルドゥアの子孫は絶えてしまった。特にルダウアはドゥーネダインの人数が非常に少なく、国の実権は山岳人の手にあったのだが、1409年のアングマールの侵攻でその残る少数もまた殺されるか駆逐されるかした。カルドランのドゥーネダインは何とか持ちこたえたが、後の疫病がはびこった時代に全滅した。

1974年にアルセダインも滅亡し、ドゥーネダインは旧アルノール領から姿を消すこととなった。しかし、かれらの血統までが失われたわけではなかった。

北方のドゥーネダイン 編集

亡国のアルノール王族やその遺臣たちは、荒野をさすらう「野伏」となって冥王の配下と戦い続け、人々の生活を陰から守護した。しかし人々はかれらの素性を怪しみ、得体の知れない輩として蔑んだ。指輪戦争のときにドゥーネダインが南方での戦いの援護に出払うことで、バーリマン・バタバーのような一般人はようやくかれらのありがたみを悟ることになった。

ゴンドールではドゥーネダインの衰退が続く時代にあっても、北方の族長の寿命は依然として常人の2倍はあった。そして、危険に身をおく生活ながらも、族長の多くは天寿を全うすることができた。

ドゥーネダインの族長 編集

※ 以下、代・名・没年の順に族長について記載する。

1. アルナルス Aranarth 2106年
アルセダインの滅亡時に西へ逃れ、キーアダンの助けを求めた。しかし父王アルヴェドゥイを救うことはできず、かれが王位を継ぐこともなかった。
2. アラハイル Arahael 2177年
裂け谷で養育された。かれの例にならい、族長の息子はみな裂け谷で育てられることになる。
3. アラヌイア Aranuir 2247年
4. アラヴィア Aravir 2319年
5. アラゴルン1世 Aragorn I 2327年
狼に殺された。
6. アラグラス Araglas 2455年
7. アラハド1世 Arahad I 2523年
この時代、ひそかに霧ふり山脈中の要所を占拠していたオークが、公然と姿を現した。
8. アラゴスト Aragost 2588年
9. アラヴォルン Aravorn 2654年
10. アラハド2世 Arahad II 2719年
11. アラッスイル Arassuil 2784年
この時代、オークが再び数を増し、ドゥーネダインはエルロンドの息子たちとともに立ち向かった。ホビット庄も襲撃を受けている。
12. アラソルン1世 Arathorn I 2848年
13. アルゴヌイ Argonui 2912年
14. アラドール Arador 2930年
裂け谷の北の岩山にて、トロルに捕らえられて死亡。
15. アラソルン2世 Arathorn II 2933年
息子がまだ2歳のとき、エルロンドの息子たちとともにオーク征伐に向かった先で、目を射抜かれて死亡。一族のものとしては短命な60歳だった。
16. アラゴルン2世 Aragorn II 第四紀120年[1]
最後の族長にして、南北両王国の再統一者。

その他の北方のドゥーネダイン 編集

ディーアハイル Dírhael
初代族長アラナルスの子孫。娘に求婚したアラソルン2世が短命であることを予見し、許諾を渋った。
イヴォルウェン Ivorwen
ディーアハイルの妻で、夫同様に予見の力を備える。一族復興の希望(アラゴルン)の誕生を悟り、娘の結婚を認めた。
ギルライン Gilraen
ディーアハイルの娘で、「美しきギルライン」と呼ばれた。一族の一般的な女性よりも若い年齢でアラソルン2世と結婚する。両親と同じく予見の力を備えており、息子アラゴルンがアルウェンに心奪われたことを知ってたしなめた。
アラゴルンが旅に出て数年後、ギルラインは裂け谷を辞してエリアドールでひとり暮らすようになった。あるとき久しぶりに会いに来た息子に対して「わたしはドゥーネダインに望みを与えたが、自分のためには望みを取っておかなかった」というリンノド(短詩)を口にし、その年の冬に世を去った。
ハルバラド Halbarad
サルマンの没落後にアラゴルンを探してローハンに現れたドゥーナダン。アルウェンから預かった旗印を携え、一族30名に加えエルラダンとエルロヒアをも連れてきた。
アラゴルンに従って死者の道をくぐり、ペレンノール野の合戦に参戦して討ち死にした。

ドゥーネダインの族長の系譜 編集

※ かっこ付きの数字は、何代目の族長かを示している。

 
 
エレンディル
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
イシルドゥア
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アルノールの王たち
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アルヴェドゥイ
 
 
 
 
 
 
 
 
アラナルス(1)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アラハイル(2)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アラヌイア(3)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アラヴィア(4)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アラゴルン1世(5)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アラグラス(6)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アラハド1世(7)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アラゴスト(8)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アラヴォルン(9)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アラハド2世(10)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アラッスイル(11)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アラソルン1世(12)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アルゴヌイ(13)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アラドール(14)
 
ディーアハイル
 
イヴォルウェン
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アラソルン2世(15)
 
 
 
ギルライン
 
エルロンド
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アラゴルン2世(16)
 
 
 
 
アルウェン
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
エルダリオン
 
数人の娘

関連項目 編集

脚注 編集

  1. ^ 『指輪物語 追補編』の解説文にはアラゴルンは第15代族長と明記されている。にもかかわらず系譜の人数を数えると16名になる。系譜中の人物に「族長の息子ではあるが、族長の地位に就かなかった」者がいればつじつまが合うが、そのような記述はない。よってここでは第16代として記載する。