数学、特に代数幾何学および微分幾何学におけるドルボーコホモロジー (: Dolbeault cohomology)は複素多様体に対するドラームコホモロジーの類似対応物で、名称はピエール・ドルボー英語版に因む。複素多様体 M のドルボーコホモロジー群 Hp,q(M, C) は整数の対 p, q をパラメータに持ち、次数 (p, q)-の複素微分形式の空間の部分商として実現される。

コホモロジー群の構成 編集

次数 (p, q) の複素微分形式全体の成すベクトル束Ωp,q と書く。ドルボー作用素(定義は複素微分形式の項を参照せよ)は滑らかな切断上の微分作用素

 
として定義される。これは  を満たすから、適当なコホモロジーが付随する。具体的には商空間
 
としてコホモロジーが定義される。

ベクトル束のドルボーコホモロジー 編集

E を複素多様体 X 上の正則ベクトル束とすれば、同様に E の正則切断の成す層  細層分解が定義でき、そしてこれは  層係数コホモロジーを想起させる。

ドルボーの定理 編集

ドルボーの定理はドラームの定理の複素版[注釈 1]で、ドルボーコホモロジーが正則微分形式の層に関する層係数コホモロジーに同型であることを主張する。

定理 (Dolbeault)
複素多様体 M 上の正則 p-形式全体の成す層を Ωp と書けば、
 
が成り立つ。

対数的微分形式に対する同様の定理もある[1]

証明
 (p, q) 次の C-級複素微分形式全体の成す細層とすれば に関するポワンカレの補題により系列
 
は完全である。任意の長完全列と同様にこの列を短完全列に分解し、対応するコホモロジーの長完全列を作れば、細層の高次コホモロジーは消えるのだから、所期の結果を得る。

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注釈 編集

  1. ^ ドラームコホモロジーと対照的に、ドルボーコホモロジーは複素構造に近しく依るから、もはや位相不変量ではない。

出典 編集

参考文献 編集

  • Dolbeault, P. (1953). “Sur la cohomologie des variétés analytiques complexes”. C. R. Acad. Sci. Paris 236: 175–277. 
  • Wells, R.O. (1980). Differential Analysis on Complex Manifolds. Springer-Verlag. ISBN 0-387-90419-0 

外部リンク 編集