ハプトグロビン: haptoglobin、略称: Hp)は、ヒトではHP遺伝子によってコードされるタンパク質である[5][6]血漿中でハプトグロビンは赤血球から放出された遊離ヘモグロビンに高い親和性で結合し、その有害な酸化活性を阻害する[7]。一方類似した機能を持つヘモペキシンは遊離ヘムに対して結合する[8]。ハプトグロビン-ヘモグロビン複合体はその後、細網内皮系(主に脾臓)によって除去される。

HP
PDBに登録されている構造
PDBオルソログ検索: RCSB PDBe PDBj
識別子
記号HP, BP, HP2ALPHA2, HPA1S, haptoglobin
外部IDOMIM: 140100 MGI: 96211 HomoloGene: 121756 GeneCards: HP
遺伝子の位置 (ヒト)
16番染色体 (ヒト)
染色体16番染色体 (ヒト)[1]
16番染色体 (ヒト)
HP遺伝子の位置
HP遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点72,054,505 bp[1]
終点72,061,055 bp[1]
RNA発現パターン
PBB GE HP 206697 s at fs.png
さらなる参照発現データ
オルソログ
ヒトマウス
Entrez
Ensembl
UniProt
RefSeq
(mRNA)

NM_001126102
NM_005143
NM_001318138

NM_017370
NM_001329965

RefSeq
(タンパク質)

NP_001119574
NP_001305067
NP_005134

NP_001316894
NP_059066

場所
(UCSC)
Chr 16: 72.05 – 72.06 MbChr 16: 109.58 – 109.58 Mb
PubMed検索[3][4]
ウィキデータ
閲覧/編集 ヒト閲覧/編集 マウス
α,β-ヘモグロビン/ハプトグロビン六量体複合体。2つのα,β-ヘモグロビン二量体は、一方は空間充填モデル(黄/橙)、もう一方はリボンモデル(紫/青)で描かれている。それぞれにハプトグロビン分子が結合している。2つのハプトグロビン分子はどちらも桃色、一方は空間充填モデル、もう一方はリボンモデルで描かれている。

臨床現場では、ハプトグロビンアッセイは血管内溶血性貧血のスクリーニングとモニタリングに利用される。血管内溶血英語版では、遊離ヘモグロビンが血液循環へ放出され、そこにハプトグロビンが結合する。これによってはハプトグロビン値の低下が引き起こされる。

機能編集

損傷した赤血球から血漿中へ放出されたヘモグロビンは有害な影響を与える。HP遺伝子はプレプロタンパク質をコードしており、α鎖とβ鎖へプロセシングされた後、四量体として結合することでハプトグロビンが形成される。ハプトグロビンは血漿中の遊離ヘモグロビンと結合し、分解酵素がヘモグロビンへアクセスすることができるようにするとともに、腎臓を介したの喪失を防ぎ、ヘモグロビンによる損傷から腎臓を保護する[9]

ハプトグロビンが標的とする細胞表面受容体は単球/マクロファージスカベンジャー受容体英語版CD163英語版である[7]。ヘモグロビン-ハプトグロビン複合体がCD163に結合すると、複合体は細胞内へ取り込まれてグロビンとヘムの代謝が行われ、続いて抗酸化経路と鉄代謝経路の適応的変化とマクロファージ極性化英語版が引き起こされる[7]

赤血球から放出されるヘモグロビンがハプトグロビンの生理的範囲内である場合、ヘモグロビンの有害な影響は防止される。しかし、高度の溶血や慢性的な溶血条件下ではハプトグロビンは枯渇し、ヘモグロビンが組織へ移動して酸化的条件にさらされる可能性がある。そうした状況では、ヘムはフェリ(Fe3+結合型の)ヘモグロビンから遊離する。遊離ヘムは過酸化反応を促進し、炎症カスケードを活性化することで組織損傷を加速する。ヘモペキシンは他の血漿糖タンパク質で、ヘモグロビンと同様にヘムと高い親和性で結合することができる。ヘモペキシンはヘムを不活性な無害な形態で隔離し、異化排出のために肝臓へ輸送する[7]

合成編集

ハプトグロビンは主に肝細胞で産生されるが、皮膚腎臓など他の組織でも産生される。さらに、ヒトとマウス、そしてウシではハプトグロビン遺伝子は脂肪組織でも発現していることが示されている[10][11]

構造編集

ハプトグロビンは、もっとも単純な形では、2つのα鎖と2つのβ鎖から構成され、これらはジスルフィド結合で連結されている。両鎖は共通の前駆体タンパク質に由来し、タンパク質合成の過程で分解切断される。

ヒトのハプトグロビンには2つのアレルが存在し、Hp1Hp2と呼ばれる。後者はHp1遺伝子の部分的な重複によって生じたものである。そのため、ヒトではHp1-1、Hp2-1、Hp2-2という3つの遺伝子型が存在することとなる。遺伝子型によってハプトグロビンのヘモグロビンへの結合親和性は異なることが示されており、Hp2-2が最も弱い[12]

臨床的意義編集

ハプトグロビン遺伝子またはその調節領域の変異は無ハプトグロビン血症(ahaptoglobinemia)または低ハプトグロビン血症(hypohaptoglobinemia)を引き起こす。また、この遺伝子は糖尿病性腎症[13]1型糖尿病における虚血性心疾患の発生[14]クローン病[15]、炎症性疾患、原発性硬化性胆管炎、特発性パーキンソン病に対する感受性[16]熱帯熱マラリアの発生数の低下[17]とも関係している。

細網内皮系によってハプトグロビン-ヘモグロビン複合体は体内から除去されるため[8]、血管内溶血や重度の血管外溶血の場合にハプトグロビン値が低下する。遊離ヘモグロビンに結合する過程で、ハプトグロビンはヘモグロビンの内部に鉄を隔離し、鉄を利用する生物が宿主の溶血を引き起こすことで利益を得ることがないようにしている。そのため、ハプトグロビンは急性期タンパク質英語版へと進化してきたと考えられている。ハプトグロビンは腎臓出血に対する保護効果を有する[18][19]

一部の研究では、特定のハプトグロビンの遺伝子型と統合失調症の発症リスクとの関係が示されている[20]

出典編集

  1. ^ a b c GRCh38: Ensembl release 89: ENSG00000257017 - Ensembl, May 2017
  2. ^ a b c GRCm38: Ensembl release 89: ENSMUSG00000031722 - Ensembl, May 2017
  3. ^ Human PubMed Reference:
  4. ^ Mouse PubMed Reference:
  5. ^ “Biological functions of haptoglobin--new pieces to an old puzzle”. European Journal of Clinical Chemistry and Clinical Biochemistry 35 (9): 647–54. (September 1997). PMID 9352226. 
  6. ^ “Haptoglobin: function and polymorphism”. Clinical Laboratory 46 (11-12): 547–52. (2000). PMID 11109501. 
  7. ^ a b c d “Haptoglobin, hemopexin, and related defense pathways-basic science, clinical perspectives, and drug development”. Frontiers in Physiology (Frontiers Media SA) 5: 415. (2014-10-28). doi:10.3389/fphys.2014.00415. PMC: 4211382. PMID 25389409. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4211382/. 
  8. ^ a b Intravascular hemolysis”. eClinpath. 2019年5月8日閲覧。
  9. ^ Entrez Gene: HP”. 2020年9月19日閲覧。
  10. ^ “Adipokines: inflammation and the pleiotropic role of white adipose tissue”. Br. J. Nutr. 92 (3): 347–55. (September 2004). doi:10.1079/BJN20041213. PMID 15469638. 
  11. ^ “Bovine haptoglobin as an adipokine: Serum concentrations and tissue expression in dairy cows receiving a conjugated linoleic acids supplement throughout lactation”. Vet Immunol Immunopathol 146 (3–4): 201–11. (May 2012). doi:10.1016/j.vetimm.2012.03.011. PMID 22498004. 
  12. ^ Tamara, Sem; Franc, Vojtech; Heck, Albert J. R. (07 07, 2020). “A wealth of genotype-specific proteoforms fine-tunes hemoglobin scavenging by haptoglobin”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 117 (27): 15554–15564. doi:10.1073/pnas.2002483117. ISSN 1091-6490. PMC: 7355005. PMID 32561649. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32561649. 
  13. ^ “In vivo and in vitro studies establishing haptoglobin as a major susceptibility gene for diabetic vascular disease”. Vasc Health Risk Manag 1 (1): 19–28. (2005). doi:10.2147/vhrm.1.1.19.58930. PMC: 1993923. PMID 17319095. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1993923/. 
  14. ^ “Haptoglobin phenotypes in health and disorders”. Am. J. Clin. Pathol. 121 Suppl: S97–104. (June 2004). doi:10.1309/8GLX5798Y5XHQ0VW. PMID 15298155. 
  15. ^ “Haptoglobin polymorphisms are associated with Crohn's disease, disease behavior, and extraintestinal manifestations in Hungarian patients”. Dig. Dis. Sci. 52 (5): 1279–84. (May 2007). doi:10.1007/s10620-006-9615-1. PMID 17357835. 
  16. ^ “The functional polymorphism of the hemoglobin-binding protein haptoglobin influences susceptibility to idiopathic Parkinson's disease”. American Journal of Medical Genetics 147B (2): 216–22. (March 2008). doi:10.1002/ajmg.b.30593. PMID 17918239. 
  17. ^ “Iron metabolism and malaria”. Food Nutr Bull 28 (4 Suppl): S524–39. (December 2007). doi:10.1177/15648265070284S406. PMID 18297891. 
  18. ^ Pintera J (1968). “The protective influence of haptoglobin on hemoglobinuric kidney. I. Biochemical and macroscopic observations”. Folia Haematol. Int. Mag. Klin. Morphol. Blutforsch. 90 (1): 82–91. PMID 4176393. 
  19. ^ “[Pathogenesis of kidney hemolysis]” (German). Bruns Beitr Klin Chir 217 (7): 661–5. (December 1969). PMID 5404273. 
  20. ^ Gene Overview of All Published Schizophrenia-Association Studies for HP Archived 21 February 2009 at the Wayback Machine. - SzGene database at Schizophrenia Research Forum.

関連文献編集

関連項目編集

外部リンク編集