バックロードホーン型

バックロードホーン型(: Back-loaded horn speaker)は、スピーカーの一形式であり、スピーカーユニット後方から発生する低をホーンによって増幅する方式。真空管アンプの全盛時代には幅広く使われていた方式である。

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背景編集

トランジスタアンプやデジタルアンプに較べると真空管アンプは出力が小さい為、大きな音量を得ようとすると能率が高い(アンプ出力の単位あたりの音量が大きい)スピーカーが必要であった。しかし高能率なドライバー(スピーカーユニット)に対し、密閉型やバスレフ型の箱(エンクロージャ)を使用すると、中音域以上に対し相対的に低音域のレベルが不足してしまう。これを補う目的でバックロードホーン型のエンクロージャが用いられた。出力わずか数ワットの真空管アンプが一般的であった時代、バックロードホーン型スピーカーはその地位を確立した。

基本構成編集

 
バックロードホーン型の基本構成図

反応の良い軽量な振動板に強い駆動系(磁石)を持つ高能率フルレンジ・スピーカーユニットに、ホーンが内蔵された箱の組み合わせというのが基本である。ホーンといってもフロントロードホーン型のようになめらかで且つ短いホーンではなく、ユニットの後方に複雑に折りたたまれた形状のホーン部分が存在する構造となる。このホーン部分は全長1m - 3mもあり、ユニットのサイズと比べてかなり大型の箱(エンクロージャ)となる(スピーカーの見た目は開口部の大きいバスレフ型のようである)。この折りたたみ構造は長大なホーン部分を箱状に納めるためのものであるが、中高音を減衰させるためでもある(ユニット前面から再生される中高音への悪影響を防ぐ為)。ホーン部分の一部に吸音フェルト等を設置する事もある。

ホーン部分は、中高音に比べ相対的に低音のレベルが低くなってしまう高能率スピーカーユニットの欠点を補完するために、振動板後方に放射される音を用いて低音増強をしようとするものである。

特徴編集

高能率なドライバー(スピーカーユニット)を用いることが多く、その場合は出力数ワットのパワーアンプと組み合わせることが可能である。また高能率ドライバー使用と背圧の少ないエンクロージャ(箱)構造ゆえによく言われる長所は、アンプからの入力に対する反応が良く、微小な信号の再生に向いている、ダイナミックレンジが広い、といったことである。一方で微小な信号の再生能力に優れる事は、ノイズを再生しやすい事を意味する。またキャビネット構造に由来する音の癖(反射などによる特定周波数での音の共鳴)[1]もあり、これが欠点とされる。

上述の通り高能率フルレンジ・スピーカーユニットを取り付ける例が多いため、バックロードホーン型は低音の能率を優先する設計とする場合が多い(低音の能率よりも帯域を優先する設計にできない事もないが、そういう場合は、バスレフ型など他の方式のほうがメリットがあるため、バックロードホーン型にする意味が無い)。また、音響迷路効果に伴う低音の再生域限界があり、スピーカー前面の音と逆位相になる周波数以下の音は急峻な音量レベル低下となってほとんど出ない。そのためかなり大型のスピーカーであるにもかかわらず、80Hz以下の超低音も求められる現代の使用環境においてはサブウーファーを付加して低音を補うケースも多い。[2]

長いホーンを通るため低音が中高音より遅れて耳に到達することは原理的な欠点である。従って、ホーンの長さはどんなに低音を欲張りたくてもある程度までに抑えることが必須である。通常の設計ではホーン長3mあたりまでに抑制される。[3]

製品としてのバックロードホーン編集

この形式のスピーカーは箱の構造が複雑で製造コストが高くなる為、上述の通り真空管アンプ時代に流行したものの、アンプのソリッドステート化以降は製品数は非常に少ない。2016年現在販売されている製品としてはタンノイの「ウエストミンスター・ロイヤル/GR」[4]長谷弘工業 (ハセヒロオーディオ)の「 UMU-191M JAZZ Audio Fans Only [5] [1] 」及び「ウッド&コンクリート二重構造ホーン WCW-WE755A [6] [2] 」等がある。

過去に発売されていた日本メーカー製品では、1975年に日本ビクター(現・JVCケンウッド)が販売した「FB-5」[7]やデザイン面でも有名な「Technics SST-1」[8](1992年発売)が存在した。これ以外に、デスクトップスピーカーとしてオーディオテクニカの「AT-SP30BLH」[9](税別希望小売価格9,500円/2台1組)、パナソニックの「RP-SP90」(税別希望小売価格11,000円/2台1組)といった小型かつ安価な製品も販売されたことがある。

オーディオマニアでバックロードホーン型を好む者は、自作する例が多い。かつてオーディオ評論家の長岡鉄男が自著においてバックロードホーン方式の自作スピーカーの設計を多数発表し、メーカーのFOSTEXが自作マニア向けの単体スピーカーユニット[10]を発売した事から、日本では長岡の設計とFOSTEXのスピーカーユニットを用いる事例が少なくない。また組み立てキットとしては長谷弘工業(ハセヒロオーディオ)がMDF材を用いて滑らかにホーンが拡がる特許構造のエンクロージャーキットを開発・販売している。

上述の長所と欠点から、バックロードホーン愛好家からは多くのメリットがあるとして愛用されているが、オーディオマニアにとって好みが極端に分かれやすいことで知られるスピーカー形式の1つである。

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[ヘルプ]
  1. ^ 密閉型やバスレフ型は大量の吸音材により音の癖を抑える事が可能であるが、バックロードホーン型の場合はホーンの動作に悪影響があるため、吸音材の大量使用は難しい。
  2. ^ ちなみにサブウーファーはメインのスピーカーの低音を増量するために用いる要素と、メインのスピーカーで再生できないより低い帯域の低音を再生する要素があるが、一般的なバックロードホーン型スピーカーは50-80Hzあたりから上の低音の能率は高いため、後者の用途が主となり、使用するサブウーファーはそれに適したものが求められる
  3. ^ 音は1秒間に約340m進むので、ホーン長が3m以下であれば、音の遅れは約0.01秒未満となる。
  4. ^ 38cm同軸2ウェイユニットを用いフロントロードホーンと組み合わせたデュアルタイプ。希望小売価格は6,480,000円/2台。受注生産の高級機であり販売数は限られている
  5. ^ ジャズ評論家の寺島靖国がオーダーの際に「ジャズオーディオファンズオンリー」と命名したジャズ専用スピーカー。米国セントルイスのオーディオニルバーナ製20cmフルレンジユニット「Super8CastFreme」搭載。長谷弘工業特許のエクスポネンシャル・バックロードホーン構造で、複雑かつ滑らかな音道を実現したブックシェルフタイプ。希望小売価格は197,200円/2台、受注生産
  6. ^ ウエスタンエレクトリック社のフルレンジユニットWE755Aを復刻したサウンドベース製ユニットを搭載。内部にコンクリートで滑らかなバックロードホーン構造を形成し、外部にはウッド集成材を使った世界初のウッド&コンクリート二重構造エンクロージャーを採用。希望小売価格は432,000円/2台、受注生産
  7. ^ ラジオ技術 1975.
  8. ^ ピアニストの小川理子が勤務する松下電器産業(現・パナソニック)にて設計。ツインロードホーンと呼ばれホーンが途中で2つに分かれるのが特徴。プラスティック製の未来的なデザインによりニューヨーク近代美術館の永久展示品とされた
  9. ^ 28mmユニットを2つ用いた小型タイプ
  10. ^ FOSTEXのフルレンジスピーカーユニット「FE」シリーズは、当初開発目的はバックロードホーン向ではなかった。その目的で自作マニアに受け入れられた事から、FOSTEX自身もその後はバックロードホーンでの使用を目的としての開発・商品展開を行った。

参考文献編集

  • 「ビクターFB-5 バックロード・ホーン」、『ラジオ技術』第29巻第6号、ラジオ技術社、東京、1975年6月、 167-167頁。
  • 長岡鉄男「特集1すっかりわかるバックロードホーンSPシステム」、『電波科学』第514号、日本放送出版協会、1975年9月、 113-158頁。

関連項目編集

外部リンク編集

長谷弘工業 (ハセヒロオーディオ)