パリ原則 (図書目録)

図書館の目録規則に関する原則

パリ原則(パリげんそく、Paris Principles, The Statement of Principles)とは、1961年に国際図書館連盟がパリで開いた国際会議において採択された、主として標目の選定と形の決定に関する原則である[1][2][3]。覚書という形でまとめられた[1]。なお、「標目と記入語の選定と形式に関する基本原則」「国際目録原則覚書」「原則覚書」とも記される[4][5][6][註 1]

沿革

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前史

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国際図書館連盟のロゴ

1927年に発足した国際図書館連盟は、目録法の標準化を目指した活動を行った[7]。これは第二次世界大戦によって中断したものの、1950年代になって本格的に再開した[7]

会議での採択

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1961年、国際図書館連盟はパリで「目録原則国際会議」を開催した[1][8][6]。会議の目的は、標目に関する原則を統一することであった[9]。図書の記述はまちまちであっても、それを集積して総合目録などを作る際に記入の集中性と排他性が確保されることが目指されたという[9]。議案の骨子には、『アメリカ図書館協会著者書名目録規則 2版』の簡素化を目的としてシーモア・ルベルキー英語版が1960年に作成した試案『目録規則コード』が用いられた[10][11][12]。会議の結果、12箇条の原則(パリ原則)が参加国53か国と22の国際機関によって採択決議された[11]

後世への影響

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会議に参加した国々は、パリ原則に基づいてそれぞれの目録規則を改定した[11]。また、目録規則を持たない国も、パリ原則に従った規則を新しく制定することになった[11]。パリ原則に従った著者基本記入制を堅持する規則として制定されたものとしては、例えば『英米目録規則 1967年版』や『日本目録規則 1965年版』が挙げられる[11][13]。しかし、各国による解釈の違いが次第に明らかとなり、これらを調整するために1969年以来、国際標準書誌記述 (ISBD) が討議されるようになった[14]

また、コンピュータ技術とそれを利用したネットワーク技術の発展に伴い、物理的媒体をもつ情報資源を対象とするパリ原則の矛盾や不備も指摘されるようになった[15]。これを受けて1997年に「書誌レコードの機能要件 (FRBR)」がまとめられたほか、2003年に国際図書館連盟の専門家会議がパリ原則に代わる新たな原則として「国際目録法に関する原則」を提案した[15]。これは2009年に「国際目録原則覚書」としてまとめられた[15][3]

内容

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パリ原則は以下の12項目からなる[1]

  1. 覚書の対象
  2. 目録の機能
  3. 目録の構成
  4. 記入の種類
  5. 複数の記入の使用
  6. 各記入の機能
  7. 統一標目の選択
  8. 1人の個人著者
  9. 団体のもとの記入
  10. 多数著者の著作
  11. タイトルのもとに記入される著作
  12. 個人名の記入語

評価

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デビッド・ボーデンとリン・ロビンソンは2012年の資料(2019年日本語訳)にて「現在の図書館目録規則の大半は、大きな影響力を持ったパリ原則に由来している」と述べている[16]。また、柴田正美と高畑悦子は、パリ原則について以下のように述べている[4][14]

パリ原則で重要なことは3つある。一つは、ドイツ系目録規則において存在しなかった団体著者の概念が、団体著者標目を立てる必要のある出版物の増加により、満場一致で承認されたことである。第2は、タイトル記入の自然配列という原則である。3つめは、これらの原則を踏まえて各国の目録規則の制定・改定作業の推進が合意されたことである[4][14]

また、『図書館情報学用語辞典 第5版』でも以下のように記されている[1]

著者性に基づく基本記入が確認され、ドイツ系目録規則の側が広範な団体名のもとの記入を認めたことと、英米系の目録規則の側がある種の団体名にかかわる地名のもとの記入を放棄したことで、目録規則の国際的統一が大きく前進した[1]

脚注

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注釈

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  1. ^ 日本図書館協会の『情報資源組織論 三訂版』には「この会議で採択された『標目と記入語の選定と形式に関する基本原則』を『パリ原則』と呼んでいる」と記されているが、樹村房の『情報資源組織論 三訂』には「『パリ原則』と通称される『国際目録原則覚書』」と記されている[4][5]。また、リチャード・ルービンの『図書館情報学概論』には「この会議では、『原則覚書』(または『パリ原則』)が宣言され」という記述がある[6]

出典

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  1. ^ a b c d e f 日本図書館情報学会用語辞典編集委員会 2020, p. 202.
  2. ^ 上田、倉田 2017, p. 144.
  3. ^ a b 上田、倉田 2017, p. 146.
  4. ^ a b c d 柴田、高畑 2020, p. 95.
  5. ^ a b 田窪 2020, p. 55.
  6. ^ a b c ルービン 2014, p. 110.
  7. ^ a b 田窪 2020, p. 177.
  8. ^ ルービン 2014, p. 109.
  9. ^ a b 丸山 1993, p. 97.
  10. ^ 鮎澤 1995, p. 128.
  11. ^ a b c d e 鮎澤 1995, p. 129.
  12. ^ 澁川 1985, p. 181.
  13. ^ 丸山 1993, p. 104.
  14. ^ a b c 柴田、高畑 2020, p. 96.
  15. ^ a b c 柴田、高畑 2020, p. 106.
  16. ^ ボーデン、ロビンソン 2019, p. 126.

参考文献

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  • 上田修一、倉田敬子 編『図書館情報学 第二版』勁草書房、2017年。ISBN 978-4-326-00043-2 
  • 鮎澤修『分類と目録 図書館員選書20』日本図書館協会、1995年。 
  • 柴田正美、高畑悦子『情報資源組織論 三訂版』日本図書館協会、2020年。ISBN 978-4-8204-1915-0 
  • 澁川雅俊『目録の歴史 図書館・情報学シリーズ9』勁草書房、1985年。ISBN 4-326-04808-5 
  • 日本図書館情報学会用語辞典編集委員会(編)「パリ原則」『図書館情報学用語辞典 第5版』、丸善出版、2020年、202頁、ISBN 978-4-621-30534-8 
  • デビッド・ボーデン、リン・ロビンソン『図書館情報学概論』勁草書房、2019年。ISBN 978-4-326-00046-3 
  • 丸山昭二郎 編『講座 図書館の理論と実際 3』雄山閣、1993年。ISBN 4-639-01168-7 
  • リチャード・ルービン 著、根本彰 訳『図書館情報学概論』東京大学出版会、2014年。ISBN 978-4-13-001007-8