ボルンの式(ボルンのしき、: The Born Equation)は、イオン溶媒和ギブズ自由エネルギー英語版静電成分を示す式である。

ボルンの式は、溶媒を連続した誘電媒体と扱う(連続体溶媒和法と呼ばれる方法の1つ)。

マックス・ボルンが考案した[1][2]

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ここで

導出 編集

静電界分布に蓄えられるエネルギーUは次のように表される。

 

比誘電率εrの媒体中のイオンの電場の大きさは   であり、また体積要素   , であらわされるため、エネルギー  は次のように表される:

 

したがって、イオンが真空(εr =1)から誘電率εr の媒質に溶解する際のエネルギーは次のようになる:

 

ここでイオン半径r0結晶イオン半径riを用いたものをボルン式と呼び、実際の溶媒和エネルギーに近づけるために溶媒のさやの厚みrsを加えた溶媒和イオン半径(ri+rs)を用いたものを改良ボルン式と呼ぶ。

アルカリ金属イオンに対する溶媒和イオン半径を表1に示す。この値は溶媒のルイス酸・塩基性(ドナー数)に依存し、ドナー数の大きいものがカチオンに対するrsが大きくなる。ドナー数は溶媒和における共有結合性に関連しており、溶媒和の連続体とみなせない部分の一部を補正する値とみなせる[3]

ボルン式の溶媒和補正項 rs
溶媒 ドナー数 rs / Å εr
ベンゾニトリル 11.9 0.83 25.2
アセトニトリル 14.1 0.82 38.0
スルホラン 14.8 0.80 43.0
プロピレンカーボネート 15.1 0.82 65.1
プロピオニトリル 16.1 0.80 26.1
エチレンカーボネート 16.4 0.86 89.6 (40℃)
アセトン 17.0 0.74 20.7
18.0 0.72 78.5
ジメチルホルムアミド 26.6 0.69 36.7
ジメチルスルホキシド 29.8 0.68 46.4

脚注 編集

  1. ^ Born, M. (1920-02-01). “Volumen und Hydratationswärme der Ionen” (ドイツ語). Zeitschrift für Physik 1 (1): 45–48. doi:10.1007/BF01881023. ISSN 0044-3328. https://doi.org/10.1007/BF01881023. 
  2. ^ Atkins; De Paula (2006). Physical Chemistry (8th ed.). Oxford university press. p. 102. ISBN 0-7167-8759-8. https://archive.org/details/atkinsphysicalch00pwat/page/102 
  3. ^ 松浦二郎, 佐々木幸夫「非水溶媒中の電気化学」『電気化学および工業物理化学』第44巻第1号、電気化学会、1976年、9-16頁、doi:10.5796/kogyobutsurikagaku.44.9ISSN 0366-9297NAID 130007727166 

関連項目 編集

外部リンク 編集