不定代名詞

言語学の品詞

不定代名詞(ふていだいめいし)とは、指示するものが不定の代名詞をいう。多くの言語では疑問詞と密接な関係をもつ[1]

言語例 編集

日本語では特に不定代名詞を立てないことが多いが、「だれか・なにか」「だれも・なにも」といった疑問詞をもとにした不定の表現が可能である。

中国語では疑問代名詞と不定代名詞は同じ形をしていて文脈で区別される。たとえば“什么”「何」は、“我想吃点儿什么”では「何か食べたい」、“什么都……”の形では「何でも」の意味になる[2]

サンスクリットでは疑問代名詞kaḥ「誰」、kim「何」の後ろにapi, cana, cidなどの助辞を加えることで不定の意味を表す[3]

古代ギリシア語では疑問代名詞と不定代名詞は基本的に同じ形をしていてアクセントのみが異なる。疑問代名詞τίς「誰」が自分のアクセントを持つのに対して、不定代名詞τὶς「ある者」は後倚辞である。英語のwhoeverにあたるὁστὶςは実際には上のτὶς関係代名詞ὁςがついた形で、不定関係代名詞と呼ばれる[4]

ラテン語でも疑問代名詞quis「誰」は、アクセントをもたない形でそのまま不定代名詞「誰か」の意味を持つことができたが[5]、aliquis「誰か」、quidam「ある者」、nescio quis「誰かしら」などの異なるニュアンスを持つさまざまな不定代名詞専用の形が発達した[6]

英語にも疑問代名詞をもとにしたwhoever, whateverのような語があるが、英語の文法で不定代名詞と言ったばあいは通常one, some, any, each, allあるいはsomeone, nobody, anythingのような語を指す[7]。歴史的に古英語では疑問詞のhwæt「何」は不定の「何か」の意味でも使われていたのだが、現代の英語からはこの用法は消えている。

ロシア語の文法では疑問代名詞кто「誰」、что「何」に接辞を加えたнекто「ある人」、кто-то「誰か」、кто-нибудь「誰か」などを不定代名詞という。каждый(英語のeach)、весь(英語のall)などは(定語(連体修飾語)になる代名詞という意味で)定代名詞 (ru:определительные местоименияと呼ばれる。また否定の意味をもつникто(英語のnobody)などは否定代名詞と呼ぶ[8]

脚注 編集

  1. ^ 「不定代名詞」『言語学大辞典』 第6巻・術語篇、三省堂、1996年、1150頁。ISBN 4385152187 
  2. ^ 呂叔湘主編 編「什么」『现代汉语八百词』商务印书馆、1980年、427-429頁。 
  3. ^ Colin P. Masica (1991). The Indo Aryan Languages. Cambridge University Press. pp. 253-255. ISBN 0521234204 
  4. ^ 田中美知太郎松平千秋『ギリシア語入門 改訂版』岩波全書、1962年、50-51,105頁。 
  5. ^ ただし疑問代名詞と異なって女性単数と中性複数でquaの形を取ることがあった
  6. ^ 泉井久之助『ラテン広文典』白水社、1952年、284-289頁。 
  7. ^ たとえば『シカゴ・マニュアル・オブ・スタイル』の「indefinite pronouns」の項
  8. ^ 井桁貞敏『標準ロシア語文法』三省堂、1961年、59-63頁。