口頭弁論(こうとうべんろん)は、日本における民事訴訟手続において、双方の当事者または訴訟代理人が、公開の法廷において、裁判官の面前で、争点に関して互いに意見や主張を述べて攻撃防御の主張を行う訴訟行為をいう。

概要 編集

原則と実務 編集

日本国憲法第82条1項が定める裁判の公開の原則を実効的なものとするため、民事訴訟法口頭主義を採用しており、同法第87条第1項本文は、判決で終局する争訟は口頭弁論を経なければならないと定める(必要的口頭弁論)。

決定で終結する事件は口頭弁論を開催するかどうかは裁判所の裁量(任意的口頭弁論)に任せられ、必ずしも口頭弁論は開かれない[注釈 1]

口頭弁論においては、理念的には、口頭主義の要請からその字義どおり口頭で弁論を行うことが想定されている。しかし、現実には複雑な争点について口頭のみで訴訟活動を行うことは困難であるため、口頭弁論期日に先立って準備書面を提出することで口頭弁論を準備することが定められている(民訴法罤161条第1項)。必要的口頭弁論の原則からは、準備書面の内容を口頭弁論期日において改めて陳述する必要があることになるが、実務的には準備書面の内容を逐一読み上げることはせず、当事者(代理人含む)が単に「陳述します」と一言述べることで陳述したものとして扱う運用が定着している。

口頭弁論期日を設けても、実際にはその日には他に何もせず裁判官による判決言渡しのみを行うこともある(民事訴訟法251条1項)。

口頭弁論期日だけの続行では審理が遅延するため、現在の民事訴訟法では、準備的口頭弁論弁論準備手続書面による準備手続を創設し、争点整理に活用することにした。弁論準備手続は旧民事訴訟法で明文規定がないまま実施されていた弁論兼和解を正式の準備手続として明確にした手続である。

最高裁判所における口頭弁論 編集

最高裁判所では民事訴訟法第319条により、上告棄却する際には、口頭弁論を経ないで棄却することができる。一方で、原審破棄をする場合は口頭弁論を開かなければならない。口頭弁論を経た上で上告を棄却することも可能だが、現在の最高裁判所は大量の上告案件を抱えており、小法廷では上告棄却をする際には口頭弁論を経ない手法を用いて、手間を減らす方針を取っている[1]

そのため、最高裁判所小法廷で口頭弁論を開くか開かないかで、判決の結果が事前に判明することになる[2]大法廷に回付される裁判は別である)。

口頭弁論の基本原則 編集

公開主義 編集

定義
  • 国民の傍聴し得る状態で審理・判決を行うという原則
趣旨
  • 裁判の公正確保、国民の信頼確保

双方審尋主義 編集

定義
  • 当事者の双方が、それぞれ主張を述べる機会を平等に保障されなければならないという建前
趣旨

直接主義 編集

定義
  • 弁論・証拠調べが、判決を行う裁判官によって行われねばならないという建前
趣旨
  • 弁論・証拠調べを直接見聞した裁判官の判決による、実体的真実発見

口頭主義 編集

定義
  • 弁論・証拠調べを口頭で行うべきとする建前
趣旨
  • 鮮烈な印象・適宜の釈明の機会の付与による、実体的真実発見。裁判官の心証形成

継続審理主義 編集

定義
  • ある事件の弁論・証拠調べを継続的に行った後、ほかの事件の審理に移るという審理方式
趣旨
  • 効率的かつ真実に合致した判決の実現


脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 民事保全事件においては、仮地位仮処分などの一定の類型においては、双方に対等の機会を与える見地から、裁判官の面前での審尋がなされることは稀ではない。

出典 編集

  1. ^ 長嶺超輝 2007, pp. 115–116.
  2. ^ 長嶺超輝 2007, p. 116.

参考文献 編集

  • 野村二郎『日本の裁判史を読む事典』自由国民社、2004年。ISBN 4426221129 
  • 長嶺超輝『サイコーですか?最高裁!』光文社、2007年。ISBN 4334975313 

関連項目 編集