四重極型質量分析計英語: quadrupole mass analyzer; quadrupole mass spectrometer, QMS)とは、質量分析計の一種。

四重極

4本の電極ロッド(四重極)に直流電圧交流電圧を与えることで、ある特定の質量(m/z値)のイオンだけがはじき飛ばされずに通過できる電場を形成させる。

原理 編集

 
四重極型質量分析器の概略図[1]
 
四重極を通過するイオンの運動

電場中のイオンの運動方程式は、 方向については次のように書ける。 方向についても同様である。

 

4本の円柱状電極に正と負の直流電圧 と高周波交流電圧 を組み合わせた電圧を印加して電場を作る。イオンは通常10~20Vの低加速電圧で加速されて四重極に導かれ、電場によって振動する。

 
 

これらを運動方程式に代入し、

 
 
 

を用いて書き換えるとマシュー方程式が得られる。

 

この微分方程式に0でない周期解が存在するとき、その周期解をマシュー関数という。

この解を与える条件について を横軸、 を縦軸にとった図で表現でき、 についての安定領域と についての安定領域が重なるような および のときだけイオンが四重極内を安定的に通過することができる。つまりこの振動は電圧と周波数に応じてある一定のm/z値をもつイオンのみ安定な振動をして、電極内を通過し検出器に到達することができる。しかしそれ以外の高m/zイオン群は振動が大きくなり負電極に衝突する。逆に低m/zイオン群は正電極に衝突し電極を通過することができない。 したがって、直流電圧と交流電圧の比を一定に保ちつつ、交流電圧を直線的に変化させることで、全イオンを通過させることができる。

質量範囲 編集

測定されるイオンの質量mは電極に与える交流電圧の大きさ とその周波数 および電極間の距離 で決まり、次の式で与えられる。

 

この式から、質量の大きいイオンを分析するには を大きくし、  を小さくすればよい。 しかし実際には は数mm以下にはできず、周波数 を小さくするとイオンが十分に振動できなくなる。 そのため、測定可能な質量範囲は交流電圧 で決まり、現在の装置では上限が3000程度である。

質量分解能 編集

質量分析計の質量分解能Rとは、識別できる質量差 で表される。

 

四重極型の質量分解能は、原理的には質量に比例し、通常 が0.5程度である。したがって質量範囲3000まで測定できる装置での最大質量分解能は6000程度となる。

脚注 編集

出典 編集

  1. ^ US 2939952  Apparatus For Separating Charged Particles Of Different Specific Charges Jun 1960; Paul et al.