地獄
悪行を為した者の霊魂が死後に送られ罰を受けるとされる世界
地獄(じごく)は、宗教的死生観において、複数の霊界(死後の世界)のうち、悪行を為した者の霊魂が死後に送られ罰を受けるとされる世界。厳しい責め苦を受けるとされる。素朴な世界観では地面のはるか下に位置することが多い。
各宗教の地獄
主な宗教における地獄は、以下の通り。
- 仏教
- 詳細は「地獄 (仏教)」を参照
- 六道の最下層。閻魔の審判に基づいて様々な責め苦を受けるとされる世界。対比されるべきは、本来なら六道の最上層・天界のはずだが、実際には、成仏した者が行く六道のいずれでもない浄土(浄土は数多くあり、極楽はその一つ)と対比させられることが多い。
- ヒンドゥー教
- 聖典のひとつである『ヴィシュヌ・プラーナ』によれば、生前に行った行為に因って陥る地下世界が28か所あり、全体でナラカと呼ばれる[1]。責め苦の内容が各世界の名となっており、審判者となるヤマ神の存在など、仏教の地獄と共通する要素も多い[1]。
- キリスト教
- 詳細は「地獄 (キリスト教)」を参照
- 一般的に、死後の刑罰の場所または状態[2]、霊魂が神の怒りに服する場所[3]とされる。しかし、キリスト教の教派により、地獄の概念や解釈は多少異なる。
- 反語は「天国」である。
- イスラム教
- 「ジャハンナム」と呼ばれる。世界の終末に際しての審判において、不信心者や悪事を成した者が灼熱の責め苦を受けるとされる世界。
- 反語は「天国 (イスラーム)」である。
- 北欧神話
- 詳細は「ヘルヘイム」を参照
- 女神ヘルが支配する、名誉の戦死を遂げられなかった者が行く世界。対比されるのは名誉の戦死を遂げた者(エインヘリャル)が行くヴァルハラ。
- マヤ神話
詳細は「シバルバー」を参照
- フン・カメーとヴクブ・カメーを支配者とする冥界都市シバルバー(恐怖の場所の意)で、支配者二柱と10柱の神が2柱セットで人間の苦痛を与えるため現世にあらわれるとしている。
一方、地獄がない宗教としては、以下のような事例がある。
地獄と関連のある場所
- 現世
- 温泉、火山
- 地獄の口
- 熊野 - 古代日本では「死者の国」とされた。
- 泰山 ‐道教の聖地で、冥界とされる。
- 羅酆都、酆都、羅酆山 - 中国の死者の国
- プルートニオン - ギリシア神話における冥界の神プルートーの聖域。二酸化炭素濃度が高いなどの死の可能性のある地域が設定された。
- クルアハン (Cruachan) の城砦 - アイルランドにあるコナハト王国の首都だったとされる場所で、Oweynagat(猫の洞窟)が地獄の入り口とされている。
- 言い伝え
- 地獄側
比喩表現
宗教(主に仏教)上の地獄から派生して、非常に苦難な状況・境地・場所を地獄と例える。たとえば、「生き地獄」、「地獄の一丁目」など。
また、以下のような用法もある。
- 火山性ガスや温泉の蒸気熱などにより草木の生えない場所や、極めて高温の温泉が大量に湧出する源泉地帯。あるいは間欠泉などの一部の温泉の別名。例:「地獄温泉」、「地獄谷温泉」、「別府地獄めぐり」、「地獄釜(地獄蒸し)」、「雲仙地獄」
- 劇場において、舞台の下にある空間。奈落。
- 江戸時代において、格の低い売春婦。
- 銃・刃物といった人を死に至らしめるもの、麻薬・殺し・強盗といった人を狂気に陥れるもの、貧困・失業・汚物といった人に苦しい生活を強いるものが処理されることなく、吹き溜まり、そして蔓延るようになり、いつまでもその状態が続いている街や場所が呼ばれたりする。
- 非常な苦しみや試練が繰り返し続く状態や境遇。「試験地獄」(競争の激しい試験に合格するために大変な苦しみを味わうこと)や「今日の仕事は地獄だったよ」(その日の仕事の内容・状況が非常に苛酷であったこと)や「ヘル朝鮮」など。
脚注
- ^ a b 定方晟『インド宇宙論大全』春秋社 2021年 新装版第1刷、ISBN 978-4-393-13419-1 pp.65-70.
- ^ 『キリスト教大事典 改訂新版』469頁、教文館、昭和52年 改訂新版第四版
- ^ モスクワ府主教マカリイ1世著『正教定理神学』526頁 - 529頁